NanotechJapan Bulletin

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<第77回>
高スループット微細加工を実現した電子ビーム加工装置の開発
株式会社エリオニクス 七野 実氏,伊藤 高臣氏,永井 佐利氏,弓削 昌豊氏に聞く

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(左)表彰式の七野氏(右)と川合nano tech実行委員会委員長
(右)左から弓削氏,伊藤氏,永井氏

 

 nano tech 2020第19回国際ナノテクノロジー総合展が2020年1月29日~31日に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催され,その最終日に表彰式が行われた.世界から出展された358企業・団体の中から,その出展製品の先進性,独創性,将来の商品性,市場性等の評価基準で審査して13出展者が選出され,各種賞が授与された.この度,その受賞者のなかのナノファブリケーション賞を受賞した株式会社エリオニクスの製品を取材した.なお,表彰式における受賞理由は「50kVという低加速電圧ながら,高スループットの微細加工を実現した電子ビーム加工装置を開発,8インチのウェハー加工をわずか1日以内でできる高い生産性を賞す」であった.

 新型コロナウイルスの流行下であり,Webによる遠隔会議で,株式会社エリオニクスの代表取締役社長 七野 実(しちの みのる)氏,新製品開発戦略室 取締役室長 伊藤 高臣(いとう たかおみ)氏,営業本部 第一営業部 部長 弓削 昌豊(ゆげ まさとよ)氏,および開発技術部 開発室 室長 永井 佐利(ながい さとし)氏に受賞製品およびその実現に至る経緯,事業戦略等についてお話を伺った.

 

1.時代をリードする創造企業株式会社エリオニクスとは [1]

 nano tech 2020でナノファブリケーション賞を受賞した株式会社エリオニクス(以下,エリオニクス)が野心的新電子ビーム加工装置開発に至る背景として,同社の発展の経緯を先ず伺った.

 

1.1 エリオニクスとは

 電子・イオン・X線を利用した超微細加工・観察・計測機器を開発・製造・販売する会社で,社名ELIONIXはElectron,Ion and X-Ray Technologyから作られた.1975年に日本電子株式会社をスピンアウトしたメンバーで設立された.本社は東京都八王子市にある.現在の従業員数100余名のファブレス企業である.

 

1.2 エリオニクスのビジネスモデル

 図1にビジネスモデルを示す.図中央のエリオニクスは,開発技術部で装置の企画・設計を行い,図左に示す外部企業に製造を発注する.多摩地区の中小企業に機械加工,板金加工,組立配線を依頼し,特殊部品(電子光学系,高電圧部品,電子銃等)は大企業に発注,また,材料・部品を多くの商社に発注し納品してもらっている.エリオニクスの生産部では,これら納品された部材を用いて,ナノテクシステムセンター(本社から車で10分)のクリンルーム内で,組立・総合調整・検査をして,ユーザへの納品および納品後のサービスを行う.図右はエリオニクスが対象とする主なユーザを示している.大学・公的研究機関・大企業の研究開発部門で,最近では生産部門へも入りだした.

 

図1 エリオニクスのビジネスモデル

 

1.3 エリオニクスの製品カテゴリー

 図2に,エリオニクスがどんな製品を作っているかを示す.図左の「描く」は電子線描画装置で,同社の主力製品であり,後で開発経緯等詳しく説明する.図中央の「削る・つける」は,図左の電子ビーム描画装置で描いたパターンに従ってエッチングする装置とイオン成膜で,「描く」と合わせてナノオーダの微細加工を行うことが出来る.「観る・測る」では,超微小押し込み硬さ試験機,表面力測定装置,三次元粗さ解析走査電子顕微鏡などがある.表面力測定装置は分子間力を測定するもので,従来は水滴の接触角度から測っていたものを,簡単に定量的にデータ化できるので,最近需要が増えているとのことである.三次元粗さ解析走査電子顕微鏡は,従来の走査電子顕微鏡では,2次電子検出器が1カ所であったのを4カ所に設け,電子線を照射した表面の傾斜に依存する4つの2次電子信号量を計算処理して表面形状を明らかにするもので,初めての装置である.

 

図2 エリオニクスが事業展開している製品分野

 

1.4 エリオニクスの経営理念・開発方針と事業展開

 エリオニクスは経営理念として,「時代をリードする創造企業を目指し,科学技術の進歩に貢献する」を掲げており,開発方針として「①他の追随を許さぬ性能,②性能が同等なら圧倒的な低価格,③まだ世にない新製品」を挙げ,並の製品はエリオニクスが作る意味がないと言い切っている.基本姿勢はChallenge and SpeedとCustomer Satisfactionの2つのCSである.

 こうした姿勢は,エリオニクスの事業展開の経緯に反映され,今日に至っている.創業以来の時代の変遷の中での事業戦略の変遷を以下に辿ってみる.

◆創業期(1975年~):オイルショックの不況から立ち直って,日本の半導体産業が成長しDRAMでは世界市場を制するにいたる時代である.エリオニクスは電子線・イオン・X線の発生および制御をコア技術として,大手電気メーカ(半導体部門),国公立の研究機関(特に電電公社)を顧客層として,LSI製造用のマスク描画装置OEM,レジスト評価などニーズに応えた.進展する半導体研究開発の支援の時代と云える.

◆バブル崩壊~2015年:バブル崩壊で始まりリーマンショックもあった.半導体産業はファブレス企業,ファンドリ企業に専業化し,日本の半導体デバイス産業の衰退,台湾・韓国企業勃興が目立った.21世紀に入って,ナノテクノロジーの研究開発が世界中で盛んになった.エリオニクスは,電子線・イオン・X線応用分野で,超高精度・高安定化,物理・電気・機械・ソフトウエアの総合技術をコア技術として,夙にナノテクノロジー分野に挑戦した.第2創業期と呼んでいる.この時代の顧客層は,大学・国公立の研究機関,民間企業の研究開発部門であり,電子ビーム描画装置について海外への進出を果たしている.1991 年東アジア,2005年北アメリカ,2012年ヨーロッパへと徐々に事業を拡大した.

 海外進出では,人材の強化(海外営業経験者のスカウト),信頼できる販売代理店の確保や,サポートエンジニアの補充.強化が必要であり,その国のトップクラスの大学・企業から受注活動を行い,実績と信頼を積み重ねることにより他の大学・企業に拡販する戦略をとっている.「ユーザをエリオニクスのファンにする.最高の顧客満足を提供する世界ブランドの企業を目指す.」と七野氏は語った.これまでの電子ビーム描画装置の販売台数はOEMを含めて約400台であり,そのうち約90台が海外であるという.

 こうしたエリオニクスの活動は,世の中からも評価されており,次のような賞をもらっている.

・2005年:nano tech2005 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議 ナノテック大賞 日刊工業新聞社賞 受賞
・2006年:経済産業省の「明日の日本を支える元気なモノ作り中小企業300社」に選定
・2008年:東京工業会議所から「第6回 勇気ある経営大賞」を受賞
・2014年:経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選定

◆現在(2016~):社会背景としては,米中貿易戦争/ハイテク覇権争い,新型コロナウイルスによる社会・経済の停滞がある.エリオニクスではナノテクノロジーの普及に伴う顧客ニーズに対応して超高速描画技術の開拓を進め,生産用描画装置を発売するなど,これまでの研究開発支援から事業化支援へと事業の拡大を図っている.また,2018年中国への現地法人を設立した.第3創業期として,売上高30億円を目指そうとしている.

 

2.電子ビーム加工装置開発にいたる経緯

2.1 電子線描画装置の開拓経緯

 電子線描画装置はエリオニクスの主力製品として,創業期から製品開発が追求されてきた.前述の開発および事業展開の方針と基本姿勢に従い,時代の流れと環境変化の中で,自らのコアコンピタンスに磨きをかけて開発と事業展開を行ってきた.その延長上に今進めつつある電子ビーム加工装置による事業展開がある.

 図3にエリオニクスにおける電子線描画装置開発の経緯を示す.創業期においては発展する国内LSIメーカの開発競争のなかでのマスク描画のニーズに対応して,電子顕微鏡にパターンジェネレータを付けた最初の電子線描画装置ELS-3300を製品化した.1992年製品化のELS-3700ではラブロク(LaB6:六硼化ランタン)を光源とする熱電子銃を初めて使い,長時間安定に動作するので,当時ナノテクノロジー研究が始まりだした大学・公的研究機関に顧客が広まった.社内で独自に高精度化を追求し超高精度電子線描画装置と名付けているELS-7000シリーズでは,2003年に製品化したELS-7000で世界初の電子線加速電圧100 kVを用い加工線幅8nmを実現した.21世紀冒頭から始まったグローバルなナノテクノロジーブームとマッチングしている.2010年には更に微細化を追求し,超高精細高精度電子線描画装置ELS-F125では世界で初の加速電圧125kVで加工線幅4nmを実現した.

 

図3 電子線描画装置の開拓の経緯(エリオニクス提供資料を基に作成)

 

 2016年,エリオニクスは製品開発の展開方向を新しい方向に舵を切った.その結果が超高スループット電子ビーム加工装置ELF-10000である.これ以上微細化を続けても,たとえばレジスト開発など総合的プロセス環境が整はないと利用者の役に立たないこと,また,電子線描画装置の利用者からスループットの向上の要求が多いことなどの理由と,ナノテクノロジー普及に伴う適用分野の広がりを考えてのことである.

 

2.2 超高スルーップト電子ビーム加工装置とナノインプリント技術との組み合わせ

(1)NEDO戦略的基盤技術高度化支援事業(プロジェクト委託型)への応募 [2]

 超高スループット電子ビーム加工装置の開発を目指すエリオニクスとナノインプリント研究を先導する国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)との協力関係は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の戦略的基盤技術高度化支援事業(プロジェクト委託型)への2015(平成27)年度の応募で始まった.2回不採用が続いた後,3回目の応募で採用となり,2016(平成28)年度~2018(平成30)年度の3年間の共同研究が行われた.エリオニクスが代表提案者,産総研が橋渡し研究機関であり,提案テーマ名は「ウェハーサイズ3次元ナノインプリントモールド用超高速電子ビーム加工装置の研究開発」であった.

 

(2)ナノインプリントにかける期待と課題

 ナノインプリントとはnmスケールのパターンを持つモールド(凸型)を,樹脂に押し付けた状態で樹脂を熱またはUV光照射で硬化させ,凹型のパターンを転写する製造技術である.単純な仕組みでナノスケールの加工ができる.従来の光リソグラフィー技術で微細加工するのに比べて大幅なコスト低減が期待できることで注目を集めている.特に,LSI製造における光リソグラフィー用縮小投影露光装置のステッパーの高精細を追求してきたキヤノン株式会社が,光リソグラフィーによる微細化の限界に近づいた今,EUVに進まず,ナノインプリントに転向し,2017年東芝が先端メモリの開発にそのナノインプリント技術を導入している.

 このようにナノインプリントは注目度が高いわりに,現状なかなか市場が広がらないでいる.その最大の原因は,モールドが極めて高価で,3cm角で1000万円以上することである.その理由は,モールドの製造に先端LSI用のフォトマスク製造装置(1台40億円)が必要であることである.

 

(3)NEDOプロジェクトの課題と目標

 このNEDOプロジェクトは上記課題を解決し,LSIやMEMSを経済的で手軽につくるナノインプリントの市場創出に道を拓くことを狙いとしている.

 図4にエリオニクスと産総研の研究内容分担を示す.エリオニクスは,超微細加工能力が高いが生産性の低い電子ビーム描画装置を高スループット化し,ナノインプリントモールド用超高速電子ビーム加工装置(UHSEB:Ultra High Speed Electron Beam)を開発する.産総研は,ナノ構造を低コストで一括作製できるナノインプリント技術を有しており,大面積(8インチウェハー寸法)の微細で高品質なインプリントが可能なモールド(型)技術を実現する.両技術を融合することで従来比1万倍の高生産性ナノパターン形成の実現を目論むものである.

 

図4 NEDOプロジェクトに於ける研究開発の内容

 

 図5に目標実現の内訳を示す.破線で囲む薄いオレンジ色の領域は従来の電子線描画装置(スポット型電子線(EB)描画および可変成形型EB描画)の加工寸法と加工時間の領域を示している.これに対して,プロジェクトで開発するUHSEBではパターン寸法は100nm付近とし最先端を狙わないが,40倍の高スループット化を図る.このUHSEBとナノインプリント技術を組み合わせた生産段階のスループトは更に250倍高くなる.これは,EB描画装置で8インチウェハー1枚を描画する時間に,UHSEB作成モールドで250枚のパターンが作製されることを意味する.UHSEBの高スループット効果と合わせると1万倍のスループットの向上が見込まれることになる.

 図5にはレーザ描画のパターン寸法と加工時間の領域が示してある.レーザ加工より1桁微細な加工技術の新しい領域が拓けることになる.

 

図5 NEDOプロジェクトの狙い

 

3.超高スループット電子ビーム加工装置 ELF-10000

3.1 ELF-10000の特徴と目標達成に向けた諸施策 [3][4]

 NEDOプロジェクト終了後,エリオニクスは開発したUHSEBを製品化して超高スループット電子ビーム加工装置ELF-10000の商品名で発売している.この装置により8インチサイズのウェハー全面の加工が24時間以内で可能となり,ナノインプリント用のモールドの作製もハイコストパーフォーマンスで実現できる.図6にその外観を,表1にその主な仕様を示す.

 

図6  ELF-10000の装置外観

 

表1  ELF-10000の主な仕様

 

 本装置の目標である超高スループットを実現するための技術的課題とその解決手段を表2に示す[5].ビーム露光時間の短縮では,電子銃及び光学系の改善で実効電流100倍の1µAへの改善を行った.ステージ移動時間の短縮では,大面積偏向器(描画フィールドサイズ10mm□,面積100倍)を導入した.この際,偏向レンズから描画試料面までの距離(ワーキングディスタンス)を拡大する必要があり,ワーキングディスタンスが長くなると外乱磁場の影響を受けやすくなるので,シミュレーションにより外乱磁場の侵入が抑えられるよう設計した.ところが当初の設計では外乱磁場により大きくビームが揺れてしまった.実機で磁場の侵入しやすいポイントを一つ一つ特定し,磁場シールド形状を検討・再設計してビーム揺れを抑えることができ,ステージ移動回数の1/100低減が実現した.スキャンオーバーヘッド時間の短縮では,偏向システムのクロック周波数を4倍の400MHzとした.更に,ファイル転送時間の短縮を図っている.

 

表2 装置開発の技術的課題とその対策

 

 図7は大電流化とクロック高速化による描画時間短縮と描画画質の向上について解説するもので,三角形のパターン描画を例としている.赤い小円は電子ビーム照射位置である.左上の三角は改良前,右上の三角はビーム電流だけを4倍にした場合で,全面積を描画する時間は1/4になるが形状が多少崩れる.右下の三角形は電流を4倍にするのに加えてクロック周波数も4倍高めた場合で,照射の空間間隔は変わらず,時間間隔を1/4にできるので,描画形状は変わらずに描画時間を1/4に短縮できる.

 

図7 大電流化とクロック高速化による描画時間短縮と描画画質の向上の解説

 

 産総研では,ウェハーサイズのナノインプリント製造プロセスの課題が追求された.その一例としてパターン密度が場所により異なることにより工程途中で発生する残膜(図4のナノインプリントの説明参照)厚が不均一になり,その除去が難しい問題があった.産総研は設計パターンに応じて単位面積当たりの樹脂の容積が均一になるようにモールドパターンの深さを2種類設けてパターン密度に応じて使い分けることを考案した.[5][6]

 

3.2 ELF-10000の評価と応用分野・市場拡大への期待

 表3はELF-10000と他の描画装置との性能を比較している.最小加工寸法では新装置は最先端からやや下がったところに設定してあるが,8インチウェハー描画時間(スループットに相当)および装置価格を勘案したコストパーフォーマンス(定義は表欄外に記載)では桁違いに優位である.

 

表3 ELF-10000と他の描画装置(スポット型,可変成形型,レーザー直描)の性能比較

 

 描画の均一性については,特に新規開発の大面積偏向による10mmフィールド内を評価した.200nmライン&スペースのパターンをビーム電流10nAで描画し,四隅と中央の5箇所における線幅を調べ,±10nm以内の線幅の面内均一性を確かめた.

 次に,高スループット加工の性能評価を8インチウェハーで行った結果を図8に示す.図中央に示すミクロンパターンと図右に並べたナノパターン(線幅300nm)を纏めたブロックを,図左部に示すように8インチウェハー全面にアレイ状に敷き詰めたパターン描画を行った.描画時間は,4時間14分であった.従来装置での描画時間の見込みは1318時間であり,ELF-10000の超高スループット性が確認された.

 

 

図8 8インチウェハー全面への超高スループット描画実験

 

 図9に超高スループット電子ビーム加工装置ELF-10000の予想される市場分野と規模予測を示す.左に伸びる①の矢印はASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの多品種少量生産用,真ん中に伸びる②の矢印は,上の四角内に書かれた応用分野に向けた研究開発用としているが,ナノインプリントを介さないで直接生産に適用する場合もあると考えられる.右の太い矢印③は大面積ナノインプリントリソグラフィによる量産を示すものでELF-10000はそのモールドを作る.量産市場は四角内に例を示すように多様である.即ち多品種多量生産の大きな市場が予想される.図10にその応用分野に向けた試作例を示す.

 

図9  ELF-10000の市場分野と規模予測

 

図10  ELF-10000で加工した応用例

 

 図10(a)は,回折光学素子(DOE)用回折格子のブレーズドパターンをELF-10000で加工した例である.DOEは光の回折現象によってレーザ光を制御する素子であり,スマホートフォンのレンズにも用いられている.図10(b)は,DFBレーザ(Distributed Feed Back laser:分布帰還型レーザ)の活性層とクラッド層の境界面に配置する回折格子のライン&スペースパターンである.回折格子による反射によりレーザの発振縦モードが単一化し,波長安定性が高く,線幅が狭い特徴をもつレーザである.5Gに使われ,市場が拡大しているとのことである.図10(c)は,SAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)デバイスの対向する左右の櫛形電極の歯が重なりあっている状況を示している.SAWデバイスはスマートフォンなどの無線通信機器で周波数フィルタ等に使われている.図10(d)はバイオデバイスへの適用例で,ドット径300nmのディンプル(窪み)を配列したマイクロリアクターチップの加工例である.

 近年メタマテリアルカラーが注目され,モルフォ蝶の構造色の原理を模したトヨタ自動車レクサスの青のボディーカラーを構造色で実現した例の報告もある.図11は構造色パターンをSi基板上に描画することで描いた絵画の例である.構造色パターンサイズやギャップに応じて発色が変化することを活用している.

 

図11 電子ビーム加工装置を用いSi基板上に構造色パターンで描いた絵画

 

 現在,NEDOプロジェクトで製作した装置は産総研に設置されている.産総研は要素技術の研究開発のみならず,開発技術の応用展開にも力を入れており,上記のアプリケーション用パターン作製とその応用先の模索は産総研の協力を得ながら進めている.

 

4.おわりに

 エリオニクスは電子線描画というコア技術を基に,常にチャレンジ精神で新製品を追求し,創業期には国内半導体産業が進展する開発部門を顧客とし,ナノテクノロジーの重要性が認識し始めた20世紀末から世界的にその研究が普及する21世紀初めにかけては,大学や公的研究機関に顧客の対象をひろげ,Customer Satisfactionの基本姿勢で顧客の研究開発に貢献してきた.そして今,ナノテクノロジー応用分野が広がり社会への貢献が多岐にわたる時代を迎え,エリオニクスはこれまでの微細化の追求から,高スループット化に方向を転換し,電子ビーム加工装置という新しい技術分野を切り拓こうとしている.研究開発だけでなく,生産を意識した事業展開である.ナノインプリントとの結びつきは,LSIの新量産方式を提案するものであり,新しい市場展開が期待されている.

 エリオニクスの経営理念「時代をリードする創造企業を目指し,科学技術の進歩に貢献する」に基づく事業活動が,顧客の新製品の創出につながり,新しい社会の実現に貢献するという筋道を実感する取材であった.

 

参考文献

[1] 株式会社エリオニクスホームページ,会社概要,https://www.elionix.co.jp/company/index.html#wc_anc00004
[2] 「ナノインプリント大面積モールドで大幅コストダウン」産学官連携ジャーナル,2019年12月号,https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2019/12/articles/1912-06/1912-06_article.html
[3] 株式会社エリオニクスホームページ,製品一覧,微細加工装置一覧,https://www.elionix.co.jp/products/elf_10000.html.html
[4] Sung-Won YOUN , Kenta SUZUKI , Hiroshi HIROSHIMA , Takashi NIIZEKI , Satoshi NAGAI , Takaomi ITO, and Tetsuyuki OKABAYASHI, "Development of Ultra High Speed Electron Beam Writing System and Nanoimprint Technologies", The 10th Japan-China-Korea Joint Conference on MEMS/NEMS 2019, Abstract
[5] 尹 成圓,鈴木 健太,廣島 洋,新関 嵩,永井 佐利,伊藤 高臣,岡林 徹行,「超高速電子ビーム描画装置及び高精度ナノインプリント技術の開発」,精密工学会学術講演会講演論文集 2019年度精密工学会秋季大会 2019/09/04 - 2019/09/06,https://www.jstage.jst.go.jp/article/pscjspe/2019A/0/2019A_214/_article/-char/ja/
[6] 新聞発表(日本経済新聞) 2019.1,NEDO戦略的基盤技術高度化支援事業(プロジェクト委託型)「半導体微細加工 コスト減 高速描画装置を開発」,https://www.elionix.co.jp/topics/index.html

本文中の図表は,図3を除いて,全てエリオニクスから提供された.
 

 (向井 久和)


 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.