NanotechJapan Bulletin

 メニュー
      


<第79回>
金属やセラミック,樹脂などありとあらゆる素材の表面に厚さ最小数nmのめっきを施す最先端技術を開発
清川メッキ工業株式会社 清川 肇氏,児玉 清人氏,福岡 清人氏に聞く

LifeAndGreen.jpg

 

(左から)児玉 清人氏,清川 肇氏,福岡 清人氏

 

 “ナノテクノロジー”をテーマとする世界最大級の展示会である“第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)”が,2020年1月29日から31日までの3日間,例年通り東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された.世界の358企業・団体(国内224,海外134)から出展があり,その中から,最終日に優れた展示に対する表彰式が行われ,nano tech大賞 日刊工業新聞社賞に清川メッキ工業株式会社が選ばれた.受賞理由は「金属やセラミック,樹脂などありとあらゆる素材の表面に厚さ最小数nmのめっきを施す最先端技術を開発した点を賞す.」である[1].そこで,その技術がどのようにして開発され,その技術内容がどのようなものであるかを,清川メッキ工業株式会社 代表取締役社長 清川 肇(きよかわ はじめ)氏に伺った.取材には,同社 技術部 課長 児玉 清人(こだま きよと)氏,同社 技術部 係長 福岡 清人(ふくおか きよと)氏が同席された.なお,nano tech 2020の直後からの新型コロナウィルス感染症の流行により,お話はWebを利用したリモート取材により伺った.

 

1.清川メッキ工業株式会社 概要:創業,経営理念,そして今 [2]

 創業者の清川 忠氏(図1)は農林学校出身であるが,少年時代硫酸銅(CuSO4)溶液中での銅(Cu)めっきの面白さが忘れ切れず,多くのめっき企業で修業をしたのち,1963年24歳の時自分の会社を設立した.以来,清川メッキ工業株式会社(以下,清川メッキ工業)の企業理念“自由なる創意の結果が,大いなる未来を拓く”を貫き,創立57周年の現在,社員数285人(2020年度,平均年例36歳,グループ全体313名,従業員は総て福井県民),資本金4000万円,売上高54億円(2018年4月期)の企業に成長している.代表取締役会長は清川 忠氏(80歳),代表取締役社長はこの度の取材に応じて頂いた清川 肇氏(56歳,2010年就任)である.

 

図1 創業者で会長の清川 忠氏(80歳).今も帰りは会社の戸締りをして帰る.

 

 現在の事業内容は,多方面に展開されているが,中でもトピックス的なものとして,①通信分野では「電子部品1,000億個/年のめっき専業日本一の加工実績」を持つこと,②医療・エネルギー分野では「チタン材など様々な材料新分野への進出」していること,③自動車分野では「半導体ウエハ数万枚/年の加工実績」を持ち,④研究開発では,いろいろな形状の“チリ”のような微細粉体にもめっき可能な,ナノめっき技術開発等があげられる.

 次章以下に清川メッキ工業の独自技術の開発経緯とその内容を紹介する.これ等は,同社の特徴でもある長年の試行錯誤・実践により築き上げられたノウハウの上に成り立っている.

 

2.バレルめっき [3]:電子部品の接合めっき技術

 図2に示すように携帯電話を始めとする電子機器の小型化には,目を見張るものがある.こうした小型・軽量化の実現は,図中にチップサイズの変化で示すように,内部で働く電子部品の小型化があってこそ成しえたものである.だがそれは,電子部品に耐食性や抵抗性といった機能を付与したり,部品を接合したりするのに不可欠なめっきにも,幾多の難問を投げかけた.製品があまりに軽すぎて,めっき液中で浮いてしまったり,電気的通電がうまく取れなかったりすることである.

 

 

図2 通信機器の小型/高機能化とチップ部品の変化:
携帯電話機誕生の約39年前は3.2×1.6mmサイズ(3216サイズと表現)が2015年には0201サイズへ

 

 清川メッキ工業では,この問題に対しバレルめっきで対処することにした.バレルを用いた電気めっき工法のプロセス(図3)は,以下の通りである.

①バレル(めっきする器)に電子部品とダミー(NiめっきしたFe粒子)を投入.電子部品がめっき液に浮かぬよう,独自に工夫・選定した界面活性剤がめっき液に注入されている.
②バレルをめっき槽に投入し,バレルを回転する.電子部品とダミーの混合物は,電気的には一つの金属の塊として挙動する.
③そこで図のように直流電流を通電すると,陽極のニッケル電極からニッケルイオン(Ni2+)が溶出し,一方製品とダミーの混合物の上面境界部に存在する電子部品の電極部では,Ni2+が還元されてNi金属として析出(めっき)する.めっきされた電子部品はバレルの回転によりバレルの下方に移動した後また上面境界部に移動しその時再びめっきされる.これが繰り返され所望の均一な厚さのNiめっき層が形成される.

 

図3 バレルを用いた電気めっき工法

 

 「0402」(0.4mm×0.2mm)サイズという極小チップにも対応可能な技術を開発するまでに,5年の歳月を要したが,有用な多くのノウハウ技術で均質な製品を生産している.現在,電子部品1,000億個/年の加工実績を持ち,めっき専業で国内トップシェアである.

 

3.粉体めっき技術

3.1 電池用粉体材料開発:決してあきらめない開発を通して数々の新技術を生む

 清川 肇氏は福井大学工学部の大学院修了後,大手電機メーカーに就職し当時全盛であったDRAMに関わるCVD(Chemical Vapor Deposition,化学蒸着)やPVD(Physical Vapor Deposition,物理蒸着)の開発に従事,その後1991年に清川メッキ工業に入社した.同社は創立後29年目であり大きく成長しており,新しいラインを導入し新製品製造を開始した時であった.清川 肇氏はこれを担当した.新製品・新ラインであったため多くの不良が発生しその原因究明のため母校福井大学の恩師を頼り分析・解析設備を使わせてもらい,素材が悪いのかめっき技術が悪いのかを明らかにした.その客観的データをもとに顧客と話し合うことにより,顧客と良好な関係を築くとともに問題解決を迅速に進めることができた.

 その後,恩師から社会人博士コースを勧められた.研究テーマは,当時主流であったニッケルカドミウム電池に代えてニッケル水素電池を実用化するため,電池の活物質粉体をめっきで機能アップすることが選ばれた.

 ニッケル水素電池では正極にNi(OH)2,負極にLaNi5が用いられていて,その正常時の充放電反応は(式1)(式2)である.過充電時には,正極でOH-イオンから酸素ガスO2が(式3),過放電時にはH2OからH2ガスが発生し(式5),電池が膨張・爆発する危険性がある.そこで正極で発生したO2,H2ガスを負極で元のOH-イオン,H2Oに戻さねばならない(式4,式6)[4].従来は,ガスを吸い寄せ通しやすくする性質のあるPTFEをLaNi5粉に混ぜていたが,清川氏は恩師と共に,さらにガスを早く吸いこませLaNi5に送り込むために,LaNi5粉の表面にNi-PTFEの複合めっきすることを提案した.

正常の充電放電時(→充電,←放電)

正極:Ni(OH)2 + OH- ⇄ NiOOH + H2O + e- (式1)
負極:1/6LaNi5 + H2O + e- ⇄ 1/6LaNi5H + OH- (式2)

過充電時

正極:OH- → 1/4O2 + 1/2H2O + e- (式3)
負極:1/4O2 + 1/2H2O + e- → OH- (式4)

過放電時

正極:H2O + e- → 1/2H2 + OH- (式5)
負極:1/2H2 + OH- → H2O + e- (式6)

 当時使われていた径100μmのLaNi5は先述のバレルメッキではできない.いろいろ工夫し3年かけてやっと出来上がり,電池メーカーに持って行ったが遅い,業界では既に径30μmの時代になっていた.また,3年かけてめっきした30μm LaNi5が出来上ったがこれも遅い,時代は5μmになっていた.さらに3年かけて5μmを完成させた.複合めっきをすることで,アルカリ水溶液中でのLaNi5成分の溶出を減らし(図4右),高率放電時の容量維持率も向上し(図4左),電池の寿命が向上した.しかし,時は既にリチウムイオン電池の時代になっており,本技術は実用化されるには至らなかった.

 

 

図4 複合めっきの効果

 

 そこで別の用途を模索し展示会に出品した.サイズは小さい方は1μmの粉まで(図5),形状は球形は勿論,不定形状から繊維状,鱗片状,樹枝状までめっきでき(図6左),かつめっき膜の付着状況は良好である(図6右).多くの引き合いがあった.そして,この技術は次節に述べる“導電性微粒子の製造技術”へと発展した.

 

 

図5 粒子径の比較

 

 

図6 粉体めっき:チリにもめっきできる

 

3.2 導電性微粒子の製造技術開発 [5]:全国発明賞受賞につながる成果

 ところが上記粉体めっきの展示会出展に関し,某大手メーカーから,5μmの粉にめっきしているのはわが社の特許を侵害しているとの警告を受けた.相手の特許を調べた.内容は,滴下法による無電解めっきの特許である.清川メッキ工業は電気めっきであり違反はない.

 ところで無電解めっきの滴下法には長時間を要するという大きな欠点がある.即ち,従来の滴下法による無電解めっき(図7上)では,

①被めっき材の粉体が入っているめっき液にSnCl2を加え吸着させ,
②水洗する,
③次に,PdCl2を加えSnCl2と置換し被めっき材料表面に触媒のPdを被覆させ,
④水洗する,
⑤さらにその後,金属塩と還元剤を少しずつ滴下して粉体表面にめっき膜を形成,
⑥最後にまた,水洗する.

以上6工程からなり,特に還元剤の滴下には長時間を要する.

そこで,これを飛躍的に改善する方法を開発した(図7下).そのプロセスは,

①金属塩と還元剤が既に添加されているめっき液を調整する,
②次にPdCl2液を注入撹拌し,
③最後に水洗する,

の3工程である.通常なら②の工程で急速にPdCl2液を注入すれば容器の内面に金属膜が被着してしまうが,比表面積の大きな粉の場合は粉の表面にきっちりとめっきされる.このことが本開発での発見である.この発見は大きな効果を持つが,ノウハウの要素が大である.清川メッキ工業はこのようなノウハウに近いものは特許にしない主義だが,自社の開発を明確化するために特許出願した.

 

 

図7 無電解粉体めっき製造方法:従来法と本発明との比較

 

 ところが,この特許[5]が近畿発明賞 特許庁長官奨励賞(2012年),次いで全国発明表彰 発明賞(2014年),さらには文部科学大臣表彰 科学技術賞(2016年)の受賞につながった(受賞者は清川 肇,福岡 清人の両氏).品質面では,従来技術に対して欠陥の無いめっき皮膜を得ることができ,分散性も向上させることが可能となったこと(図8),コスト面では工程を1/2に短縮し生産時間を80%短縮,貴金属であるPd使用量を1/10に削減することが可能となったことが評価されたものである.

 当初の開発テーマを貫いたことが,導電性微粒子のめっきとして「結実」したのである.

 

 

図8 めっき被膜の違い:従来法と本発明との比較

 

3.3 超撥水めっき技術(複合めっき技術) [6]

 発想は,蓮の葉の撥水機構を倣ったものである(図9上).図の右下に示すようにその構造及び造り方は,基板の上にNiめっきをするがその時にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン,polytetrafluoroethylene)粒子を取り込むようにし,かつPTFE粒子の一部が表面に突き出した態様にする複合めっきである.PTFEはメッキ液に混じらないが,PTFEをミセル化して混じるように工夫した.用いるPTFEも“CF3-(CF2)n-CF3”のnの小さいものを用いCF3の濃度を高くするようにした.こうして作製しためっき膜は接触角170度の超撥水性を示す(図9左下).

 

 

図9 超撥水めっきの構造と撥水効果

 

 図10は金属製の笊にこのめっきを施すと,笊からこぼれることなく水を救い上げることができることを示すデモンストレーションである.超撥水めっきそのものの用途としては,底にこのめっき膜を着けた電気アイロンが実用化されている.熱くなるとすべりが約3倍軽くなり,かけ面も約30倍硬くなって,すべりの良さが長持すると好評である.またこの超撥水膜は医療機器にも展開しており,外科医療機器では,撥水性でふき取り性がよいことに加え,生体適合性や耐久性および滅菌性等の付与も工夫し,2011年アメリカ,2013年ヨーロッパ,2015年日本,2018年中国,2021年その他のアジア諸国と,この10年間に世界中に販路が拡大しているとのことである.

 

 

図10 超撥水めっきを施した金属製の笊で水をすくい上げる

 

 さらにこの複合めっきは,PTFEの代わりに下記のような材料を用いることで各種特性の膜を創生でき世に送り出している.

(1)ダイヤモンド(高硬度,耐摩耗性):歯科用ドリル刃,工具用やすり,地下鉄車両歯車
(2)炭化ケイ素(SiC,高硬度,耐摩耗性):油圧ポンプ部品,ロボット用部品,製糸用ロールガイド
(3)窒化ボロン(hBN,自己潤滑性):紡織用サブドラム,射出成形機械部品(スクリュー,ダイス,カートリッジ,アダプタ)

 

4.半導体めっき:量産までに10年以上かかった自動車分野へのめっき技術

 清川メッキ工業は,2000年頃から半導体ウエハめっきを始め,商社と合弁会社を作り携帯やIT関連の半導体ウエハのめっきを行った.その頃から自動車関連のパワーデバイスの試作の注文も受けていた.あるとき,車メーカーがめっき工程の生産ができないとの情報を得て,車メーカー専用の装置を作ってメーカーの要求に対応しようとパートナーの商社に提案したが,商社は車メーカー対応はリスクが高いとの理由でこの計画から下りた.そこで清川メッキ工業は単独で車メーカーに対応することになった.対応するパワーデバイスはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)とダイオードの2品種で,従来はパワー半導体チップをワイヤーボンディングで実装していたが,近年の高耐圧/高電流化に伴いチップ自身が熱を持つようになり,ワイヤーボンディング実装では放熱性が課題となっていた.そこで放熱性を高めるために,近年の実装方法としてパワー半導体チップを銅板を用いて両面から冷却させ,銅板とパワー半導体チップを面実装する方法に切り替わっている.パワー半導体チップへのめっきは銅板とパワー半導体チップを半田接続する為のバリアメタル(UBM:Under Barrier Metal)として機能し,めっき仕様としてはNiP/置換Au(Ni=4~5μm,置換Au ~0.05μm)が一般的に用いられている.

 2007年に専用機を導入し開発を顧客と共に,10年以上続けた.Al,Cu等の配線への対応が可能になり,生産を開始した(図11).自動車業界では,ビジネスの垂直立ち上がりが常である.ウエハ1000枚の需要が一気に3000枚に増大する.試作の長年の経験がものを言い,不良率は極めて低く,毎年ラインの増強を図り,会社の柱となる事業に成長している.

 

 

図11 自動車用パワーデバイス量産ライン

 

 技術的には,電解プロセスではリソグラフィに高価な装置が必要で,工程も長い,一方無電解プロセスは設備が少なくて済み,処理時間が短いので無電解プロセスを採用している(図12).但し,無電解めっきでは前処理が極めて重要である.チップ上のAl電極は,依頼企業によって不純物が入っていたり,蒸着装置の違いによるAl電極の結晶性の違い等があり,これがめっきの質に影響するので依頼企業ごとの調整が必要である[7].しかし,清川メッキ工業は10年以上の経験から,お客様の要求にはすぐ対応可能である.清川肇氏の大手電機メーカーでの半導体研究開発の経験も役立っているとのことである.図13はAl電極に対する前処理を含む無電解めっきのフローの例である.

 

 

図12 半導体への接合めっき:電解UBMと無電解UBMの違い(UBM:Under Barrier Metal)

 

 

図13 無電解UBMプロセスの詳細

 

5.おわりに

 清川メッキ工業が人を大切にしていることを強く感じた取材であった.創業間もない頃,創業者清川忠氏が「どこに頼んでも,無理だと断られた」ある部品メーカーの依頼を引き受け,2輪車のアルミニウム合金部品にメッキする未知の案件を解決した.以来,外に対してはもちろん,社内でも“「できない」とは言わない”社風が確立された.新しい課題に出くわしその解決技術を見出すのは担当者の創意に他ならない.創意は多くの経験で身についたノウハウを背景にして生み出される.こうして今,同社が誇る諸技術が築かれた.同社ではこのような多くのノウハウを身につけた熟練人材の育成・確保を大切にしている.しかし,人は加齢と共に視力が落ちる.こうした人を集め,身に着いている分析などの技術ノウハウを活かせる水耕栽培を事業化し,活躍の場を提供しているとの話を聞くに及んで感銘した(図14).多くの経験・ノウハウを身に着けた人中心の企業経営が,誰も手掛けない未知の課題を解決して,世の中をますます住み良くしてくれることを期待する.

 

 

図14 水耕栽培に励む高齢者の方々

 

参考文献

[1] nano tech大賞2020,https://www.nanotechexpo.jp/2020/main/award2020.html
[2] 清川メッキ工業ホームページ;https://www.kiyokawa.co.jp/
https://www.kiyokawa.co.jp/technology/technology.asp?hed=219&tk=0
[3] 清川メッキ工業,「バレルめっき」;https://www.kiyokawa.co.jp/technology/technology.asp?hed=149&tk=0
[4]石 川 博, 境 哲 男,「水素吸蔵合金 を用いた二次電池の開発」,鉄と鋼 第75年(1989)第11号,pp.203-209;
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tetsutohagane1955/75/11/75_11_2003/_pdf
[5] 清川メッキ株式会社,「導電性微粒子の製造方法」,特許第3871653号(出願2003.04.18)
[6] 清川メッキ工業,「無電解撥水めっき」; https://www.kiyokawa.co.jp/technology/technology.asp?hed=43&cd=13
[7] 清川メッキ工業,「無電解UBMめっき技術」; https://www.kiyokawa.co.jp/technology/technology.asp?hed=152&tk=0


(図表はすべて,清川メッキ工業株式会社から提供された)
 

 (真辺 俊勝)


 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.