NanotechJapan Bulletin

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<第80回>
バイオマスナノファイバー“BiNFi-s®”技術の応用展開
~「BiNFi-s シルク」,「BiNFi-s CMF」,「BiNFi-s /銀ナノ粒子複合体」の開発~

株式会社スギノマシン 副社長執行役員 経営企画本部長 杉野 岳氏,経営企画本部 新規開発部 小倉 孝太氏に聞く

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アイコンとロゴを手にした杉野 岳氏(左),BiNFi-s®サンプルを前に小倉 孝太 氏

 

 産業機械メーカの株式会社スギノマシン(以下スギノマシン)は,森林資源である木材からのパルプに加え,海洋資源であるカニやエビなどの甲殻類からのキチン・キトサンを原料として,水と原料のみを用いる環境に優しいウォータージェット法によるバイオマスナノファイバーBiNFi-s®の製造と応用技術を,2018年2月14日~16日に東京ビッグサイトで開催された第17回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2018)に展示し,注目を浴びると共に,nano tech大賞2018のグリーンナノテクノロジー賞を受賞した[1].その時の受賞理由は「独自開発したセルロースナノファイバー抽出技術と疎水化技術を組み合わせた粉末を開発した.様々な母材に均一分散して強度を大幅に向上させることができる.従来は複合化が難しかった熱可塑性樹脂やゴムにも適用できる.機械メーカの新たな事業展開を賞す.」であった.その内容は本NanotechJapan Bulletinに紹介されている[2].それから約3年経った2020年12月9日~11日に,同じく東京ビッグサイトで開催された第20回nano tech 2021にスギノマシンは,機能を向上した “BiNFi-s®”とその応用展開を展示すると共に,更に蚕の糸を原料とする全く新しい“シルクナノファイバー”,補強効果の大きい新仕様の“セルロースマイクロファイバー”,及び抗菌・消臭機能の大きい“セルロース/銀ナノ粒子複合体”等を展示し,関心を引いた.そこで再び,これら新しい製品の技術内容と今後の展開についてお伺いすべく,スギノマシン 副社長執行役員 経営企画本部長 杉野 岳(すぎの がく)氏,経営企画本部 新規開発部 開発プロジェクトグループ小倉 孝太(おぐら こうた)氏を取材した.なお,お話は昨年初頭からの新型コロナウィルス感染症蔓延のため,Webを利用したリモート取材により伺った.

 

1.株式会社スギノマシンの概要 [3]

1.1 スギノマシンの創業と現状

 1936年に杉野 林平氏がチューブクリーナ専門製作工場を大阪市に建設し創業,社名は杉野クリーナー製作所とした.クリーニングの対象は,蒸気機関車,軍艦や発電所のボイラ用熱交換器などであった.そのため太平洋戦争中は軍需工場に指定され,空襲の激化で危険となった大阪から1945年に富山県魚津市に疎開した.1956年に株式会社に改組し,1971年に社名をスギノマシンとした.2021年に創業85周年を迎えた.現在の代表取締役社長は6代目の杉野 良暁氏である.

 事業内容は,高圧ジェット洗浄装置,超高圧水切断装置,原子力発電保守用機器並びに廃炉機器,湿式・乾式微粒化装置,マシニングセンタ,ドリリングユニット,特殊工具,産業用ロボット,バイオマスナノファイバー等の開発・設計,製造,販売等である.

 研究開発・生産拠点の90%は富山に集積しているが,海外9カ国に現地法人があり,販売の6割は海外である.売上高349億円(グループ全体,2020年3月期),資本金23億2,467万5,000円,従業員数1,500名(グループ全体)の業容である

 

1.2 スギノマシンの経営姿勢:デザイン経営・超技術でグローカルニッチリーダー

 創業者は蒸気機関などのボイラ配管の缶石除去の困難にこたえようと独自のチューブクリーナを開発し,製造・販売した.これを基に,顧客のニーズに応える中で,匠の技たる6つの超技術を築き上げた(図1).その内の1つ,素材を細かく「砕く(くだく)」技術で開発した装置を製造・販売する一方,「解す(ほぐす)」技術として,自然素材に適用したバイオマスナノファイバーを開発し,nano tech大賞2018 グリーンナノテクノロジー賞を受賞した.その経過や経営理念は本誌に紹介されている[2]が,この度新たに,経営姿勢として以下に述べるデザイン経営についてお伺いすることができた.

 

図1 6つの超技術

 

 2016年の創業80周年にあたり,杉野岳氏がリーダーとなってCI(コーポレートアイデンティティ)ブラッシュアッププロジェクトを行い,ビジョンやロゴ,社服,商品デザインなどを刷新した.今後,50年,100年とグローバル市場で生き残っていくには,これまでのようにトップのカリスマ性により運営される会社ではなく,創業以来受け継がれてきた良さを残しつつ,組織的な運営ができる会社に変えていく必要があるとの問題意識からである.会社を振り返ると3つの基礎がある.

 

1)創業の精神:「自ら考え,自ら造り,自ら販売・サービスする」

 これは,創業者の理念であるが,元々は1936年に創業した時,すべて自分でやらねばならなかったという,「必要に迫られた」状況が生み出したものでもある.

 

2)スローガン:「ホントにすごい!超技術」

 自分で売るから顧客からのフィードバックを直接受ける.どういうニーズがあり,客が何に困っているかを掴める.営業が工場に問題を持ち込む.設計者が営業と一緒に客のところに行く.それで生まれたのが,図1に示すスギノマシンの6つの超技術:切る・削る・洗う・磨く・砕く・解す(ほぐす),である.

 

3)ビジョン(企業理念):「グローカルニッチリーダー」

 この技術をシーズにして客のニーズに応える.「どうしてもこの工程・この作業はスギノマシンの商品でないとできない」というところで付加価値の高いものを買って貰えた.お陰で,高利益体質となり,85年間,赤字になったことはない.しかしスギノでなければならないというものは多くない.ニッチな市場になるので,ニッチな製品を増やして来た.B to Bの事業で,従業員約1500名,売上約350億円の企業だが,顧客数は多く常時5000社と取引がある.機械や電機,化学工業だけでなく,農業,鉱山,宇宙,深海,花卉,服飾,化粧品等,広い業界を対象に事業を行っている.また,地理的エリアも広く,海外9カ国に10の現地法人・支店,40カ国以上に代理店がある.売り上げの半分以上は海外である.一方,生産は90%が国内,その80%は富山で行っている.世界市場(グローバル)に向け,スギノでなければできないニッチな製品を地方(ローカル)でつくる,グローカルニッチリーダーであり続けることが,スギノの生きる道なのだ.

 

 ブラッシュアッププロジェクトの中で,デザイン経営[4]を考えた.ここで言う「デザイン」とは,形状や色などの見た目を整える話では無く,非言語で,会社のありたい姿・あるべき姿を社内外に伝える事や,商品の安全性や操作性を向上させること,社員に働きやすい環境を提供することなどである.

 その中核として定めたのが,下記のアイコンとロゴである.

 

 

社内には10カ国以上の国籍の人がいる.その人達に会社の理念を,アイコンやロゴ,商品デザインなどで伝える.SUGiNOの「i」は逆さにしてびっくりマークにしている.「」の意味するところ,それは「常に一歩先の技術=『超技術』を追い求め,お客様の期待を超える驚きと感動を提供し続ける」という事であり,スギノマシンが85年間培い,また今後50年,100年と続けたいあるべき姿・ありたい姿なのである.

 スギノマシンの持つ超技術,尖った技術の一つ「解す技術」で,水と原料のみで,直径約20nm,長さ数μmのクリーンなナノファイバー素材「BiNFi-s」を生み出す.このビジネスは,スギノマシンにとっては新しい事業であるが,関係者が上記の意を帯し,組織的な運営をし,スギノマシンの技術を欲する顧客と深く連携し,実用化に向けて邁進している.

 

2.バイオマスナノファイバー“BiNFi-s®”技術と事業の概要 [5][6][7][8]

 スギノマシンの持つ超技術の一つ「解す(ほぐす)技術により,自然素材を原料とするナノファイバー素材BiNFi-s®ビンフィス,Biomass Nano Fiber made by SUGINO)が生み出され,原料は前報の木材と魚介類から[2],本項第3章の蚕などに展開され,技術の適用は金属ナノ粒子に及んでいる.

 

2.1 バイオマスナノファイバー“BiNFi-s®”とは?

 植物の主成分であるセルロースは地球上で最も多く存在する高分子である.カニ殻やエビ殻等の主成分であるキチンは2番目に多く存在する高分子である.これを脱アセチル化するとキトサンが得られる.これらは,繊維径3~4nmのナノファイバー(NF)の集合体として存在する.セルロースナノファイバー(CNF)やキチンNF,キトサンNFは,共に軽量(比重1.4で鋼鉄の1/5),引張強度(3GPaで鉄鋼の5倍),低線熱膨張(0.1ppm/Kで石英ガラス相当)といった優れた特性を持っている[9].キチンNFやキトサンNFはこれにプラスして,生体適合性や抗菌性,食品としての機能性も合わせ持つため,医療・医薬業界ではCNF以上に期待されている.

 スギノマシンでは,主要技術であるウォータージェット技術を用いて,これ等セルロース,キチン,キトサン原料を効率的に解繊・均一分散させることでNFを得る手法を開発し,大量製造に成功している.得られたこれらNFがバイオマスナノファイバー「BiNFi-s(ビンフィス,Biomass Nano Fiber made by SUGINO)」である.

 

2.2 ウォータージェット法によるバイオマスの微細化技術

 CNF,キチンNF,キトサンNFは,自然界に存在する状態ではNF同士が分子間水素結合を形成し絡み合っているため,それらを解繊しNFを得ることは容易ではない.そのため解繊方法として,化学処理や機械的方法,それらを組み合わせた方法など数多く試みられている.

 スギノマシンは,原点であるチューブクリーナから生まれたコア技術の一つである高圧水技術“ウォータージェット”技術を持っており,スターバースト®(コンタミレス湿式微粒化装置)を開発した[10].それを応用し,水と原料のみを用いて高効率にCNFやキチンNF,キトサンNFを製造する方法 “ウォータージェット法(WJ法)を開発した.

 図2は,ウォータージェット法の模式図である[2].微細化プロセスは以下の通りである.①微細化対象物を水に分散させたスラリー状原料を原料タンクに投入し,②スラリー状原料をタンクから給液ポンプを用いて2本の増圧機に送り込み,③スラリー状原料を最大245MPaまで加圧する.④加圧されたスラリー状原料は,微細化チャンバーと呼ばれる衝突室で向かい合った二つのダイヤモンドノズルから噴射される.⑤噴射後のスラリー状原料は,超高速の微細化対象物を含んだウォータージェットとなり,⑥チャンバー中で対象物同士が衝突する.⑦すると,i)高速によるせん断力,ii)対象物同士の衝突力,さらにiii)衝突噴流中のキャビテーション気泡の破裂による衝撃力により,微細化(解繊してナノファイバー化)が行われる.⑧噴射後のスラリーは,噴射圧力に比例して温度上昇を伴うため(100MPaで約25℃の上昇),熱交換器を通すことで,冷却してから回収する.⑨1回の処理で目的の微細状態にならない場合は,出口配管を原料タンクに連結し,目的の微細状態になるまで数回処理を繰り返す.

 

図2 ウォータージェットを利用したCNF製造装置(スターバースト®)の模式図

 

 本法の特徴は下記の通りである.

①水と原料のみでCNF化が可能なため,環境・人体に優しい.
②セラミックビーズのような粉砕媒体を使用していないため,コンタミネーションが極めて少ない.
③エネルギー密度が高いため,短時間・高効率でCNF化が可能である.
④連続処理が可能であり,装置のスケールアップ・ナンバリングアップで大量製造も容易である.2018年時点に比べ,高濃度・高粘度な原料の処理も可能にし,より大量生産可能な装置に進化させ,微粉末素材の製造コスト低減に貢献するようになった.
⑤過度の力を用いた強引な微細化でないため,原料の重合度や結晶化度等を維持できる.
⑥噴射圧力や衝突回数を制御することで,得られるCNFの物性を制御できる.

 

2.3 バイオマスナノファイバー“BiNFi-s®”の事業化 [11]

 以上述べたように,ウォータージェット法は,環境にも人体にも優しく,比較的低コストでバイオマスナノファイバーを製造できるので,スギノマシンは最大濃度10wt%の水分散液の状態で1日に1t処理可能な製造プラントを建設しこの方法で製造したNFを「BiNFi-s®(ビンフィス)」の商品名で販売している.品種は,セルロース,CMC(カルボキシメチルセルロ-ス),キチン,キトサン,それに最近加わったシルクを原料とし,繊維長と濃度を異にした23品種をラインアップしている(表1).表にはないが,径を太くした後述するセルロースマイクロファイバーCMFもある.

 

表1  BiNFi-s®のラインアップ

 

 スギノマシンは,これ等をトライアルセットにして顧客に提供し,新規用途開発の要望に応えている.また,各種バイオ素材からのNF化や,上記ラインアップ品の新しい応用を試みる顧客向けの受託加工も行っている.更に,ホームページにテクニカルリポート[11]を掲載し関連する技術情報を発信すると共に,Webセミナーも開催している.

 

2.4 “BiNFi-s®”の特性と用途 [11]

 これらBiNFi-s®の特性は多彩で,補強性,保水性,増粘性,分散・乳化安定性がある.更にこれまで試されている用途としては,分散剤,乳化剤,補強材(フィラー),環境浄化剤,細胞培養基材,化粧品用添加剤,食品用添加剤等がある.これらBiNFi-s®の生体への安全性については,常にデータを取得し安全であることを確認している.

 2018年の前報以後,仕様範囲を拡大し,新たな原料の利用も可能になった.顧客からの要望に応えての技術改良の結果,新製品が生まれ,新たな応用も可能となった.次章に開発された新技術・新製品について紹介する.

 

3.“BiNFi-s®”技術の新しい応用製品

3.1 「BiNFi-s シルク」: シルクの特性を活用できるナノファイバー素材 [11]

1)概要

 絹織物の原料として知られるシルクは,蚕(カイコ)の繭から作られる天然素材で,「セリシン(水溶性)」と「フィブロイン(不水溶性)」という2つのたんぱく質から成り,それらがミクロフィブリルを形成し,更にミクロフィブリルが寄せ集まってフィブリルを構成している繊維状物質である(図3).このシルク粒子は強固な結晶構造のため,1μm以下のサイズへの微細化が困難で,均一な分散や塗布に課題があった.この課題を,先述のスギノマシン独自のウォータージェット(WJ)技術で解繊しナノファイバー(NF)化(直径約100nm,長さ数μm)したものが,ここで紹介するシルクナノファイバー「BiNFi-s(ビンフィス)シルク(以下BNシルク)であり,既出の表1に示す「BiNFi-sシリーズ」にラインアップされている.その外観と電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)像を図4に示す.なお,原料のシルクを効率よくナノファイバー化する製造方法については,富山県産業技術研究開発センターと共同研究で開発された[12].

 

図3 シルクの構造

 

図4 繭(上左)とBiNFi-s(ビンフィス)シルクの外観(上右)およびそのFE-SEM像

 

 BiNFi-sシルクは,他のバイオマス由来のナノファイバーと同様に,チキソ性や増粘性,粒子の分散安定性といった特長を有する.また,セリシンは保湿,細胞活性があり,フィブロインは生体親和性が高い,また紫外線カット機能もある.

 以下,BiNFi-sシルクの応用事例としてW/O(油中水滴)型の乳化特性,UVカット能,化粧品への添加効果,および BiNFi-sシルクの安全性について紹介する.

 

2)BiNFi-sシルクによるオイルの乳化(オイルゲル化)

 BiNFi-sシルクは,バイオマス由来のナノファイバーと同様に比表面積が大きいという性質を活かし,油剤に対し乳化を可能にする.図5のフローの様に,BiNFi-sシルクと多価アルコールの混合物に油剤を添加することで,W/O(油中水滴)型の乳化物が作製できる.これらは,汎用的なプロペラ撹拌やホモミキサーを用いればよく,加温を必要としない.加えて油剤の選択域が広く,炭化水素系,シリコーンオイル,ワックス系などの油剤に対しても,安定的に乳化が可能である.油剤の割合を80wt%にしたW/O型乳化物を図6に示す.これらはいずれも,1ヶ月間室温で静置した後も分離せずに安定な状態を保持する.

 

図5 W/O乳化物作製フロー

 

図6 BiNFi-sシルクによるW/O型乳化物
(左からシリコーンオイル,流動パラフィン,スクワラン,オリーブ油,ホホバ油)

 

3)BFシルクのUVカット能力

 図7は,ポリビニルアルコール(PVA)を基材に使用したBiNFi-sシルク添加フィルムと,同濃度のシルク粒子を添加したフィルムのUVカット効率を比較した結果である.表面積が大きなBiNFi-sシルクは,同濃度のシルク粒子と比較して,UVカット効率が高いことが分かる.また,BiNFi-sシルクは粘性を持つため,スムーズに塗り広げることができ,UVカット材の酸化チタンや酸化亜鉛のような粒子との共存も可能である.図8は,BiNFi-sシルクと濃度違いの酸化チタンの複合分散液のUVカット能を比較した結果である.いずれのUVカット能も紫外線領域(400nm以下)をカバーしている.

 

図7 BiNFi-sシルクフィルムのUVカット能

 

図8 BiNFi-sシルク+酸化チタン分散液のUVカット能

 

4)化粧品乳液への添加効果

 BiNFi-sシルクを0.5wt.%配合した乳液では,未添加乳液と比較して,保湿効果が持続する(図9).また,触感改良材として,増粘性やチキソトロピー性を付与できる(図10).

 

図9 BiNFi-sシルク配合(0.5wt.%)による保湿効果

 

図10 BiNFi-sシルク配合による粘度向上

 

5)BiNFi-sシルクの安全性

 BiNFi-sシルクの安全性は,動物実験代替法及びパッチテストで評価している.BiNFi-sシルクの遺伝毒性,皮膚刺激性,眼刺激性はいずれも陰性であった(表2).

 

表2 BiNFi-sシルクの動物実験代替法による安全性評価

 

 

3.2 「BiNFi-s CMF」:補強(フィラー)効果を一層高めるセルロースマイクロファイバー [11][13]

1)開発の背景

 “BiNFi-s ドライパウダー(セルロースナノファイバー乾燥粉末体,以下BFDP)を1wt%程度添加することで,PP(ポリプロピレン)に対して伸び,引張り応力,弾性率の向上が認められた(図11).しかし,樹脂に対して高濃度添加,例えば10wt%以上のBFDPを添加して複合化しても,弾性率や引張強度が大きく向上することはなかった.このことは2018年の報告[2]で,取り上げたことである.その後研究を進めていく中で,補強効果を出すにはナノサイズの繊維ではなく,一回り太いマイクロサイズの繊維の存在が重要であることが分かってきた.そこで開発されたのが,以下紹介するセルロースマイクロファイバーBiNFi-s CMFである.

 

図11 BFDP/PP複合体の応力-ひずみ曲線
(破断伸びが向上し他のセルロース系フィラーでは見られない特徴を持つが,
弾性率および最大応力の大幅な向上が見られない.富山県立大学との共同研究)

 

2)新規開発品のBiNFi-s CMF(以下CMF)

 ただし,太くするとはいっても一般の市場で販売されている20μm以上のセルロース繊維では補強効果が乏しい.開発品は,平均径が数マイクロメートルサイズの繊維で,その表面にはナノ化された繊維構造が枝分かれして存在しているものである(図12下右).この構造は,スギノマシンのWJ法のプロセス条件を変えるだけでコントロールして作り出すことができる.

 これをCMF乾燥体にし(図12上左),更に30wt%CMF/PPマスターバッチに仕上げた(図12上右).

 

図12 CMF乾燥体,CMF/PPマスターバッチ,CMF乾燥体のSEM像

 

3)CMFの補強効果および線熱膨張低減効果

 BFDPをPPに入れても1.1倍くらいにしか強くならならなかったのに対し,図13に示すようにPPにCMFを20wt%添加することで,添加前に対して引張り応力で約14%の向上,引張弾性率で63%の増加が見られる.また,30wt%の高濃度添加においても変異(ひずみ)は6%程度維持していることから,硬くてもろい材料ではなく,靱性を有する材料の開発が進む可能性が示唆される.ポリアミド6に対してもPPと同様の効果が認められる.

 

図13 CMF添加濃度による応力-ひずみ線

 

 また,図14に示すように線熱膨張率(CTE)が,CMFの添加量増大に伴って減少しているのも大きな特徴である.

 

図14  CMF添加濃度による線膨張率の変化

 

4)CMFの持つ新規性・優位性

 以上のこと等から,CMFの持つ新規性・優位性は,以下である.

①従来のCNF(セルロースナノファイバー)と比較して,樹脂に添加した時の補強効果が高く,添加により優れた引張強度,弾性率,低線熱膨張率を示す.
②表面がナノ化されているため,アンカー効果によるマトリックス樹脂との接着性を高め,補強性を向上させる.
③現在市場で販売されている乾燥状態のセルロース繊維は20~30μm程度の繊維径が主流であり,数マイクロメートルサイズのセルロース繊維は上市されておらず,新規性が高いフィラー素材である.
④バイオマス由来のサスティナブル(持続可能な)材料であり,環境にやさしく,サーマルリサイクル性を有している.

補強および線熱膨張低減効果の高いフィラーという市場ニーズへの対応と,社会的ニーズである環境に配慮した植物由来の次世代フィラーを実現した新素材と言える.

 

3.3 大きい抗菌・消臭機能を持つ「BiNFi-s /銀ナノ粒子複合体」:[11][14][15]

1)はじめに

 銀(Ag)や金(Au),白金(Pt)に代表される貴金属のナノ粒子は,金属が本来持つ触媒活性など優れた特性を高効率で活用できることや,ナノ粒子特有の表面プラズモン共鳴による発色などユニークな特性を有していることから,さまざまな業界で製造・利用の研究開発・実用化が進んでいる.しかしながら,金属ナノ粒子は,その表面自由エネルギーの高さから自己凝集が激しく,ナノサイズで存在することは難しかった.そうした中,岡山県工業技術センターは,ウォータージェット技術を利用したスギノマシン製湿式微粒化装置「スターバースト®」でCNFと金属塩水溶液の混合液を処理するだけで,CNF上に金属ナノ粒子が均一に分散したCNF/金属ナノ粒子複合体の製造が可能な手法を開発した[15].

 スギノマシンでは,同センターと共同で,CNF/金属ナノ粒子の高効率製造手法,および得られたCNF/金属ナノ粒子の応用用途の開発を進めた.「スターバースト®」納入先と緊密な連携の下になされた協創の好例である.

 

2)CNF/Agナノ粒子複合体の製造

 CNF/Agナノ粒子複合体の製造では,まず,セルロースとAgが1:1(重量比)となるように,CNF水分散液と硝酸銀水溶液を混合し,攪拌する.その後,スギノマシン製湿式微粒化装置「スターバースト®」により,100MPaで複数回衝突させる.すると,CNF中の還元末端でAgが還元され,Agナノ粒子としてCNFに担持される.得られた複合化物を洗浄し,未反応の硝酸銀を取り除くことで,CNF/Ag ナノ粒子複合体を製造できる.通常,パルプと硝酸銀水溶液を混合するだけでは,Agは還元されず,Agは生成されない.しかしながら,下記の4点が要因となり,CNF上へAgナノ粒子が析出したと考えられる.

A)高い比表面積を有したCNFを用いて,スターバーストというマイクロ空間を利用することで,CNF中の還元末端とAgの反応効率が爆発的に向上したこと(反応の高効率化).
B)CNF水分散液中には,CNF製造工程で発生した還元末端を有する低分子糖が多数存在していること(還元作用物質の増加).
C)混合液のスターバースト処理により,さらに低分子糖の量およびCNFの比表面積が増えたこと(還元作用物質およびCNF 還元末端の更なる増加).
D)高圧による高エネルギー状態により,還元反応が促進されたこと(外的反応エネルギーの付与).

 得られたCNF/Ag複合体の外観と乾燥後のFE-SEM像を図15に示す.CNF上に2~20nm程度の極微小のナノ粒子が分散した状態で担持されている様子が観察できる.また,Agナノ粒子はその表面エネルギーの高さから自己凝集が激しく,ナノ粒子として存在するには保護剤を添加する必要があったが,本CNF/Agナノ粒子複合体は,Ag析出のための還元反応がCNF近傍のみで起きていることや,析出したAgナノ粒子はCNFに強固に担持されていることから,保護剤なしでも凝集することなく極微小なAg ナノ粒子として存在している.保護剤が入っていないことは,不純物が入っていないことを意味し,メリットでもある.

 

図15 CNF/Ag複合体の外観と乾燥後のFE-SEM像

 

3)抗菌・抗カビ性および消臭性

 Agナノ粒子の大きな応用用途に抗菌・抗カビがある.一例として,石膏状小胞子菌であるMicrosporum gypseumを寒天培地上にスポットし,その上にCNFシートおよびCNF/Agナノ粒子複合体シートを静置し,37℃で6日間放置した結果を図16に示す.CNFシートの周辺にはカビが増殖しているのに対し,CNF/Agナノ粒子複合体シート周辺にはAgナノ粒子の抗カビ作用によりカビの繁殖が抑制されている様子がはっきりと観察できる.

 

図16 CNF/Ag複合体の抗カビ性(Microsporum gypseumの増殖抑制作用)

 

4)消臭性

 Agナノ粒子のもう一つの大きな応用用途に消臭がある.一例として,CNF/Agナノ粒子複合体を凍結乾燥することで得た多孔質体を用いた,アンモニアの消臭試験を次の手順で行った.10Lテドラーバッグの中に,CNF/Agナノ粒子多孔質体を約0.1g投入し,そこにアンモニアガスを20ppmになるように充塡した.その後,0h,6h,24hでテドラーバッグ内のガスをサンプリングし,ガス検知管により,アンモニア濃度を定量した.ブランクとして,テドラーバッグの中にアンモニアガスのみを充塡した場合も行った.その結果を表3に示す.CNF/Agナノ粒子複合体を投入したものは,6hでアンモニア濃度は2ppmまで低下し,Agによりアンモニアは分解され,ほぼ消臭できている.

 

表3 CNF/Ag複合体によるアンモニアガスの消臭試験結果

 

5)サンプル提供

 CNF/金属ナノ粒子の開発領域が今後も拡がりを見せる中,スギノマシンはまず,4種類のCNF/Agナノ粒子複合体の有償サンプル提供をしている.サンプル提供品の概要を表4に示す.

 

表4 BiNFi-sセルロース/Agナノ粒子複合体ラインアップ

 

4.おわりに

 スギノマシンは,独自のWJ法で特徴のあるバイオマスナノファイバー「BiNFi-s」シリーズを開発し,nano tech 2018でグリーンナノテクノロジー賞を受賞した.同社は,製造販売するだけでなく,それに関連する技術情報をテクニカルレポートの形でホームページ上に公開し,更にWebセミナーも開催し,ユーザの発掘と連携強化に努めている.「BiNFi-s」シリーズの安全性に関するデータ取得とその公開も積極的に行っている.さらにユーザの望む素材のナノファイバー化テストや販売した「BiNFi-s」応用のための受託加工も行い,ユーザの目標達成に尽力している.BiNFi-sシルクが富山県産業技術開発センターと,「BiNFi-s CMF」が富山県立大学と,BiNFi-s /銀ナノ粒子複合体が岡山県工業技術センターとの連携の下に開発されたのもその良い例である.これらは,まさに第1章で述べた『①自ら考え,自ら造り,自ら販売・サービスし,②顧客と連携の下超技術の開発を成し遂げ,③グローカルニッチリーダーを目指す』を有言実行しており感銘した.

 一方,実用化を促進するためには,より良いものをより安くしなければならない.2018年以降特に進展させたことは,良質のナノファイバーを低コストで作れるようにしたことである.具体的には,生産性向上を目指して原料セルローススラリーの濃度を向上してもWJが稼動できるようにしたこと,及びより良い解繊を目指して衝突角度等を工夫・最適化したとのことである.普及促進が期待できる.

 これらが稔り,私たちの身の回りで「BiNFi-s」の普及・利用が進み,クリーンで豊かな社会の到来を待ち望んでいる.

 

参考文献

[1] nano tech大賞2018,
https://www.sugino.com/soshiki/1/news180219.html
[2] 「ウォータージェット法で作製したバイオマスナノファイバー "BiNFi-s®" の展開 ~独自開発したセルロースナノファイバー抽出技術と疎水化技術を組み合わせた粉末製造法の開発~」,NanotechJapan Bulletin Vol. 11, No. 3, 2018;企画特集「10-9 INNOVATION の最先端」<第 63 回>,
https://www.nanonet.go.jp/magazine/content/files/mag_pdf/Nano_Inov_pdf/nanoInnov-63.pdf
[3] スギノマシンHP,
https://www.sugino.com/
https://www.sugino.com/site/biomass-nanofiber/guidance.html#link01
[4] 経済産業省・特許庁,『「デザイン経営」宣言』,
https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf
[5] 小倉孝太,「セルロース・キチン・キトサンナノファ イバーが持つ魅力」,製剤機械技術学会誌,Vol.26, No.3,pp.251-256(2017)
[6] 小倉孝太,「セルロース・キチン・キトサンナノファイバーが持つ魅力(2)」,製剤機械技術学会誌,Vol.26,No.4,pp.338-344(2017)
[7] 小倉孝太,「素材産業でナノテクノロジーが未来を拓く セルロースナノファイバーの実用化と事例」,化学装置,Vol.60,No.3,pp.29-31(2018)
[8] 小倉孝太,「ウォータージェット法によるセルロースナノファイバー」,化学装置, No.81,pp.7-10(2017)
[9] 矢野浩之,「セルロースナノファイバーを用いた軽量・高強度材料」,
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/labm/wp-content/uploads/2012/09/1_pdfsam_KyotoJST090908.pdf
[10] 富山県,株式会社スギノマシン,「原料の湿式微粒化方法及び湿式微粒化装置」,特開2018-58047(出願日2016.10.7)
[11] スギノマシン,「BiNFi-sカタログ・技術資料」,
https://www.sugino.com/site/biomass-nanofiber/download-guide-binfis.html
[12] 富山県,スギノマシン,「シルクナノファイバーの製造方法,複合材料,およびシルクナノファイバーフィルム」,特開2018-119035(出願日2017.1.24)
[13] 森本裕輝,「セルロースナノファイバー/マイクロファイバー複合樹脂の基礎物性」,プラスチックス,2020.7,pp.5-8
[14] 小倉孝太,「ウォータージェットによるセルロースナノファイバー/金属ナノ粒子複合体の製造・開発」,粉体技術,Vol.11, No.9, pp.29-32(2019)
[15] Eiji Fujii, Mitsuaki Furutani : “Fabrication of Silver Nanoparticles Using High-Pressure Wet-Type Jet Mill”, Mater. Transactions, 59, pp.1483‐1486(2018)

本文中の図表は,全て株式会社スギノマシンより提供されたものである.

(真辺 俊勝)


 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.