NanotechJapan Bulletin

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<第82回>
磨きあげた光学技術と遠心沈降式粒子径分布測定の復活でナノ材料分析評価のニーズに応える
~ラマンイメージング・遠心式ナノ粒子解析・蛍光分光測定~

株式会社 堀場製作所 立脇 康弘,樋口 誠司,三村 享,森 哲也の各氏に聞く

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(左から)立脇 康弘氏,樋口 誠司氏,三村 享氏,森 哲也氏

 

 物質・材料のイノベーションは「はかる(測る)」ことから始まる.ナノスケールでの計測・観察が可能になってナノテクノロジーは生まれた.「はかる」ことは,2021年に第20回となった国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech展)の主要課題の一つであった.第19回から展示をゾーンに分け,ナノアナリティクスゾーンが設けられた.優れた展示に贈られるnano tech大賞にはナノアナリティクス賞が設けられ,株式会社 堀場製作所が受賞した.受賞テーマは「最先端材料の研究開発から品質管理までカバーする分析評価装置のラインアップ」で,受賞理由に挙げられた「粒子径分布測定に画像解析導入,蛍光分光の吸光度同時測定」の内容は,2020年11月の本誌で紹介した[1].ユーザーのニーズを聴き,新しいものに挑戦を続ける同社は,コロナ禍の中,実展示とオンラインとのハイブリッド方式で2020年12月に開催されたnano tech 2021 [2]には,新製品として,高速かつ高い共焦点性を兼ね備えたラマンイメージング装置“LabRAM Soleil”,遠心分離+新技術でナノ粒子径分布を高分解能で測定,幅広い試料濃度に対応する遠心式ナノ粒子解析装置“Partica CENTRIFUGE”を出展した.そこで,出展された新製品,大賞受賞対象製品のその後の進展,等について,株式会社 堀場製作所のマーケティングコミュニケーション部 三村 享(みむら すすむ),開発本部 立脇 康弘(たてわき やすひろ),同 樋口 誠司(ひぐち せいじ),同 森 哲也(もり てつや)の諸氏に,Web会議でお話を伺った(題目,写真の並びは五十音順).

 

1.ベンチャー精神でグローバルに挑戦し「はかる」技術で価値を築く

1.1 はかる技術で会社を興し,おもしろおかしく働き事業を展開 [3]

 堀場製作所は,堀場 雅夫氏が,1945年の太平洋戦争終戦により大学では打ち切られた研究を続けるために学生の身で創業した「堀場無線研究所」に始まる.1950年に国産初のガラス電極式pHメーターを完成させ,この製品を基に1953年に「株式会社堀場製作所」を設立した.ここで生まれた液体計測技術は堀場製作所のコア技術の一つとなって行く.1964年には,後に2代目社長となる大浦政弘氏の強い熱意のもとに自動車エンジン排ガス測定装置「MEXA(メクサ)」が開発され,ガス計測技術が培われた.

 現在堀場製作所は,液体計測技術,NDIR(非分散赤外線吸収法)を中心としたガス計測技術,蛍光X線による元素分析技術,流体の計測・制御技術,および分光分析技術の5つをコア技術としている.この間に,堀場 雅夫氏は,「創造的なアイデアで成果を上げることができたのは,おもしろおかしく働いているときだった」と気づき,従業員が「おもしろおかしく」働ける会社をめざすようになった.そして創立25周年の1978年に「おもしろおかしく」を社是に制定した(図1).

 

図1 堀場製作所の社是

 

 エンジン排ガス測定装置は世界ブランドとなり,当時高まった自動車排ガスによる環境汚染という社会問題への対応に役立った.「はかることから すべてがはじまる」ので,堀場製作所は,コア技術を基に,はかる技術で社会課題解決をサポートする.低炭素社会,スマート社会,安心・安全・快適な社会,健康長寿な社会に向け,エネルギー,物質・材料,ライフサイエンスの分野に,5つの事業セグメント:自動車・環境プロセス・半導体・科学・医用のシステム機器を提供する(図2).本稿で紹介する装置は科学システム機器に含まれる.事業はグローバルに展開しており,従業員8,200名,売上2,000億円の中で,日本国内の比率は従業員で38%,売上で31%となっている.

 

図2 場製作所の5つの事業セグメント

 

1.2 グローバル展開・連携で技術を高度化 [3]

 堀場製作所は,自動車排ガス分野を中心に海外展開を行い,1970年に米国にオルソン・ラボラトリーズ社との合併会社「オルソン・ホリバ」を設立し,海外展開を本格的にスタートさせた.引き続き,分光器等の事業も海外に展開した.さらに,自社で持ち合わせていない技術やそれに付随する市場を,買収によって拡大,高度化,発展させた.

 1997年には,回折格子や固体発光分析計など光学分光分野で世界トップ企業のフランス分析機器メーカー, Jobin Yvon社(現HORIBA France)を買収した[4].その狙いは,分光分野における世界トップクラスの技術力の取り込みであるが,堀場製作所が保有する赤外線・X線に加えて,同社が保有する紫外線から可視光領域の技術を取り込むことにより,広い波長領域をカバーするよう技術を補完することでもあった.同社は高い回折格子(グレーティング)技術をもち,宇宙用特殊仕様の回折格子をNASAに納入した実績もある.

 また,米国の会社を買収して,蛍光分光分析をコアとするHORIBA Instruments Incorporatedを設立した.日本の堀場製作所はX線・赤外・粒子径等のコア技術を持つ.堀場製作所は,世界に分散していた技術を日・仏・米主要開発拠点で融合して新製品を生み出している(図3).

 

 図3 欧・日・米にまたがる3つの主要開発拠点

 

2.nano tech 2021への出展・新製品

 堀場製作所は,毎回nano tech展に出展してきた.展示会の性格上,材料の分析・評価装置が中心になる.堀場製作所における材料分析・評価装置の代表的なラインアップを図4に示した.第19回nano tech展では,分光分析(枠内の下段左)の蛍光吸光分光装置のDuetta,右上の粒子計測にあるレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置のPartica LA-960V2の新技術・新製品がnano tech 2020大賞の対象となり,前報 [1]で紹介した.

 

図4 材料分析評価装置のラインアップ

 

 第20回のnano tech 2021のHPに,堀場製作所は,新製品として,高速で高い共焦点性を備えたラマンイメージング装置「LabRAM Soleil」と幅広い試料濃度に対応する遠心式ナノ粒子解析装置「Partica CENTRIFUGE」を挙げ,会場ではそれぞれのセミナーを行った.前者は2020年8月に国内販売開始のプレスリリースを行い[5],後者は2020年11月9日に同様のプレスリリースを行なった[6]ものである.Partica CENTRIFUGEは,従来のレーザ回折では困難であった高濃度で不規則形状の粒子径測定を可能にして粒子径測定の適用範囲を広げた.一度は古い技術となってしまっていた遠心沈降法を新技術で復活・高度化させることにより,高濃度で不規則形状の粒子径測定のニーズに応えることに成功した(第4章で詳細説明).

 もう一つのnano tech 2020の大賞受賞製品である蛍光吸光分光分析装置Duettaに関連した進展は,2020年4月に米国で先行して公開[7]された蛍光分光測定装置Fluorolog-QMである.

 次章以降にnano tech 2021に展示された2つの新製品とともに,その内容を紹介する.

 

3.高速かつユーザビリティを高めたラマンイメージング装置

3.1 ラマン分光装置の原理・製品系列 [8]

 顕微レーザーラマン分光測定装置,ラマンイメージング装置を図5に示した.光を物質に照射すると,光は物質を構成する分子で散乱され,透過する.散乱光の一部は物質と相互作用することで入射光と異なる波長を持つラマン散乱光が発生する(図6左).入射光とラマン散乱光との波長差は,物質が持つ分子振動のエネルギー分に相当するため,ラマン散乱光を分光・分析して,応力,温度,電気特性,配向・結晶性などの様々な物性を調べることができる.ラマン散乱光のスペクトル:ラマンスペクトルは,一般に,横軸に波長差:ラマンシフトをとり,縦軸に強度を取る.波長差はエネルギーに対応し,波数(単位:cm1)で表示する.例えば,ポリエチレンのラマンスペクトルを測定すると,多数のピークが見られ,それぞれが異なる分子振動に同定されている(図6中).また,得られたラマンスペクトルから組成,結晶性などが求められる(図6右).

 

図5 顕微レーザーラマン分光測定装置(左:LabRAM HR Evolution),ラマンイメージング装置(右:LabRAM Soleil)

 

図6 ラマン分光の原理(左),ポリエチレンのラマンスペクトル(中),スペクトルから得られる情報(右)

 

 ラマン分光特性を測定するラマン分光装置は,光源と分光器,検出器から構成される.単色化した入射光を照射し,散乱光を分光してスペクトルを取る.堀場製作所は,図7に示すラマン分光装置のラインアップを提供する.ラマン分光装置と顕微鏡を組み合わせると,顕微ラマン分光装置が構成され[9],サブミクロンオーダーの空間分解能で物性分布のイメージングができる.透過ラマン装置では,試料を透過したラマン散乱光を測定し,マクロで平均的なスペクトルを測定できる.プロセスラマン装置は,ファイバープローブにより遠隔測定を可能にし,化学プラントなどの製造工程におけるIn-Line測定に特化する.原子間力顕微鏡(AFM)と組み合わせたAFMラマン装置は,走査プローブ顕微鏡(SPM)により,機械的,電気的などの物性とラマンイメージングとを対応づける.堀場製作所は,顕微ラマン分光装置としてコンパクトなラマン顕微鏡XploRA PLUS,拡張性および波数分解能を強化した顕微レーザーラマン分光測定装置LabRAM HR Evolution等を提供してきた.この顕微ラマン分光装置製品系列に図の該当欄右下の,高速かつ高い共焦点性を兼ね備えたラマンイメージング装置LabRAM Soleilが加わった.

 

図7 ラマン分光装置のラインアップ

 

3.2 新しいラマンイメージング装置LabRAM Soleil [10]

 ラマン分光は,分子構造・結晶性分析に用いられ,分析精度を高めるには綺麗なスペクトルをとらねばならない.このため,高い波数分解能が要求された.用途がアカデミックからインダストリーに広がり,製造現場での品質管理にも使用されるようになった.異物の混入や状態組成情報の分布など,イメージングでとらえることが多く,操作性についても求められるようになり,より簡単に測定ができるよう使い勝手の良い装置が求められるようになった.新しいラマンイメージング装置LabRAM Soleilはこのようなニーズに応えるものである.

 顕微ラマン分光では,試料の一点にレーザ光を照射し,その点からのラマン散乱光を分光器で検出する.レーザ光の照射点を変えて分子構造のマップを作成する.レーザ照射点からの散乱光を効率よく集光するよう分光器の焦点を,レーザ光の光学系の焦点と一致させる共焦点光学系を構成する.これにより高い空間分解能が得られ,焦点位置を変えることによって深さを変えてのイメージングができる.新しく開発したラマンイメージング装置で分析することで,食品の包装などに使われる多層ポリマーフィルムに内在するような異物を測定した.ここでは,埋没している水を検出した結果を紹介する(図8).

 

図8 多層ポリマーフィルムの分析

 

 通常,広い領域でかつ空間分解能の高いイメージングを実現するためには,多くの点を測定する必要があるため,測定に時間を要する.本装置には,さらに高速・共焦点イメージングを可能とする新機能としてQScanTMおよびSmartSamplingTMを開発・搭載した.

 まず初めに,QScanについて紹介する.イメージングにおいてレーザの照射点を変えるのに,通常は試料を動かして測定するのに対し,レーザ光を共焦点性を保持しながらスキャンするようにし,高速化した.本機能は,光学像全域のイメージングができ,100倍の倍率で全域ラマンイメージングができる.この結果,図8のような多層ポリマーフィルムの3次元イメージを5時間で取得できた.また,動かすことのできない試料に対してもこの機能は有効であり,細胞などの固定されていないものの測定に適している(図9左).ステージを動かさず電極などに電圧をかけながらラマンイメージングできるので,半導体デバイス動作状態でのIn-Situイメージングが可能になる.光学像,電圧を印加しない時のラマンイメージ,電界発光(EL),光電子発光(PL)のイメージを取得した結果を紹介する(図9右).

 

図9 マウス肝細胞のラマンイメージング(左)と半導体デバイスのIn-Situイメージング(右)

 

 次に,SmartSamplingについて紹介する.本機能では,新しいイメージングアルゴリズムを採用し,通常だと試料の端からイメージを完成させてゆくが,低解像度のイメージを短時間で作り,着目する点を選んでイメージを高解像度にする(図10左).概念として,通常,イメージング画像全体を完成させるためには,測定時間に対して,イメージングの完成度は直線的に変化する(青線)が,SmartSamplingを使うことで完成度の高いイメージの取得を短い時間で実現することができる(赤線)ため,ラマンイメージングが約100倍,高速化された(図10右).

 

図10 新しいイメージングアルゴリズムの概念(左)とサージカルマスク中の各繊維の成分評価(右)

 

 さらに,オートメーション機能でワークフローの高速化・簡易化を実現した.レーザ光軸自動調整,対物レンズ自動認識機能(対物レンズを替えるとそれに合った光量に調整されるなど),測定条件ワンクリック呼び出し機能を盛り込んだ.装置デザインはコンパクトで1m四方に収まり(80×90cm),その中で4つのレーザを搭載することができ,4枚のグレーティングが自動切り替え可能,25種類の減光フィルタ切替といった機能が搭載されている(図11).

 

図11 ラマンイメージング装置LabRAMSoleilの構成

 

 これに加えて,EasyImagingと呼ばれる機能を搭載し,ラマンイメージを取得するための工程(光学像取り込み,測定位置および測定条件の設定,イメージングなど)の一連の作業が容易に実現可能で,簡単にラマンのイメージング測定が可能となった(図12).

 

図12 イメージングのナビゲーションステップとモニター画面

 

4.遠心沈降式の復活で幅広い試料濃度に対応する遠心式ナノ粒子解析装置 [11]

4.1 粒度分布計草分けの遠心沈降式の復活

 ナノ粒子の機能は,サイズや物性によって決まるから,粒子計測はナノ材料を応用する上で不可欠な技術である.堀場製作所は,“半導体製造プロセスにおける研磨剤やスラリー状電池材料などの開発,品質管理に貢献する遠心式ナノ粒子解析装置「Partica CENTRIFUGE」を発売”し[6],nano tech 2021に新製品として出展した(図13).森氏が東京のオフィスから,立脇氏は京都の開発現場から遠心沈降式復活の経緯や製品の特徴を語った.

 

図13 遠心式ナノ粒子解析装置Partica CENTRIFUGE

 

 図14にHORIBA粒度分布計の系譜を示した.粒度分布計は古くは篩(ふるい)や,粒子を自然沈降させ,粒子の沈降速度から粒度を計測する方式がまず用いられた.粒子径が小さくなると重力だけでは沈降に時間がかかるので遠心力で沈降させるようにし,1980年に遠心沈降式粒度分布計CAPAシリーズを発売した[12].一方,1980年代後半にレーザ光の粒子による散乱パターンから粒子径を求めるレーザ回折/散乱式粒度分布計が生まれた.1988年にレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-500が発売されると,CAPAシリーズは短時間でワイドレンジ測定可能なLAシリーズに置き換えられて行った.LAシリーズは機能拡大,性能向上を続け,最新モデルPartica LA-960V2には画像解析ユニットまで搭載されるようになった[1].しかし,遠心式の方が原理的に粒子径の分解能が高いため,一部の分野では使われ続けた.

 

 

 

図14 HORIBA粒度分布計の系譜

 

 一方,カーボンナノチューブ(CNT)は紐状なのに,レーザ回折レベルでは真球粒子の光散乱の式で計算しているため,結果の解釈が難しいことがあった.また,半導体製造プロセスにおける化学機械研磨(CMP)ではスラリーの高精度管理,±1nmレベルの管理が求められ,品質管理に用いるため高い再現性と安全性が要求された.また電池材料では高濃度のスラリーの測定が求められるようになった.このような背景から,遠心式ナノ粒子解析装置Partica CENTRIFUGEを開発・上市し,nano tech 2021に出展した.ナノ領域の粒子径分布を高分解能で測定することができ,測定レンジ全域で高い信頼性が得られるため,最先端材料の開発,品質管理に威力を発揮する.30年の間に関連技術も進歩し,これまでにない高分解能を持ちつつ,環境温度に左右されない安定性,簡単操作という特徴も併せ持つ.

 

4.2 遠心沈降式粒子径分布測定の原理

 粒子は溶媒中を,溶媒粘度による抵抗力,溶媒密度×粒子体積×g(g:重力加速度)で決まる浮力に逆らって沈降する.小さい粒子だと自然沈降では時間がかかるので遠心力(溶媒密度×粒子体積×遠心加速度[図の30,000g])で沈降させる.粒子は3者のバランスで決まる速度で沈降するため,沈降速度を測定・分析して粒子密度から,粒子体積を求めることができる(図15).粒子の沈降速度は,沈降開始点から離れた場所に設けた光源からの光をフォトダイオードで検出して粒子の通過を確認し,粒子の通過時間から粒子径分布を求める.このようにシンプルな原理のため信頼性の高い結果が得られる.

 

図15 遠心沈降式粒子径分布測定の原理

 

 遠心沈降式粒子径分布測定には2つの方法がある(図16).高濃度試料では,試料を粒子径毎に分離(ライン化)して測定するラインスタート法が用いられる.ラインが通過するごとに吸光度が増加し,それまでの時間を計測するので高濃度でも測定できる.希薄な試料は,一様に分散した状態から重い粒子が先に落ちていくので吸光度が徐々に低下していくのを測定・解析する.これを一様沈降法と呼び,粒子によって濁った液から粒子の沈降によって徐々に透明になっていく様子を測定する.吸光度から,残留している粒子の存在がわかるので粒径分布の全体像を得やすい.Partica CENTRIFUGEはこれら両方の測定方法で測定が可能である.

 

図16 遠心沈降式粒子径分布測定方法;(左)ラインスタート法,(右)一様沈降法

 

4.3 遠心式ナノ粒子解析装置の開発

 顧客からの相談事項としてよくあるのは,粒子径分布形状の精密測定,僅かな異物や凝集物の確認,複雑な形状の粒子の測定,希釈せず原液のままの測定,などである.遠心沈降式粒子径分布測定では粒子径を分けながら測るので,これらのニーズに応えられる.CAPAシリーズの時代からは光学技術や,信号処理技術など関連技術は進歩している.

 まず,新しい遠心沈降式装置における遠心機構の回転数,遠心力は,1980年代から高め,18,000rpm,30,000×gとし,加速回転運動により,低速回転で大きい粒子,高速回転で小さい粒子を測れるようにした.電子機器,遠心機の国際安全規格に適合するよう設計し,試料の自動注入機構を設けて回転前に試料をセットする安全操作を可能にした(図17).遠心機は駆動中に約マッハ0.5の高速回転をしているため空気摩擦によって発熱する.結果として装置と試料の温度上昇が起こり,溶媒粘度が変化して測定結果に影響が出る.これを防ぐために,冷凍機を搭載して試料温度を一定で測定できるようにした.試料を入れるセルには正方形断面のキュベットタイプのセルを使用し,取り外しが容易で綿棒で簡単に洗うことができる.また,通常用いられるガラスやプラスチックのキュベットセルでは遠心力で破壊されるため,金属を用いたセルを新たに開発した.ラインスタート法に用いる密度勾配液を作成する密度勾配フラクショネータも用意し,1980年代のCAPAシリーズからは,性能はもとより,安全性と使い勝手を大きく進歩させた.

 

図17 遠心式ナノ粒子解析装置にキュベットセルを装着し,回転前に試料を注入

 

4.4 遠心式ナノ粒子解析装置の特徴を示す測定例

 遠心式ナノ粒子解析装置は粒子径の異なる粒子を分けながら測定するので粒子径の分解能が高い.4種のシリカ粒子(粒子径0.48µm/0.73µm/0.99µm/1.57µm)の混合試料の測定はこれまで,レーザ回折/散乱法などの光散乱を用いた手法で分析すると,粒子径ごとに分解することが難しかった.これに対し遠心沈降式のPartica CENTRIFUGEで測定すると,4つのピーク同時に検出され,4種のシリカの粒子径分布を精密に分析できた(図18).

 

図18 遠心沈降法で測定した4種のシリカ粒子分散液の粒子径分布

 

 カーボンナノチューブ(CNT)は溶液中に分散させて使用することが多いが,元々紐形状であり,溶液中では絡み合っていることが多い.散乱光を用いる手法で測定をすると,真球と仮定しての解析結果のため,結果の解釈が困難な場合がある.これに対し,遠心沈降式ではフィッティングを用いる演算に頼らずに粒度分布を求めるので複雑な形状の粒子の測定にも適している.CNTの測定ではバンドル状態と解砕物を分けて分析できた.粒径0.3μm程度の解砕(解繊)物が多数存在し,10μmを超える大きなバンドル状CNTが少数存在していた(図19).

 

図19 遠心沈降法によるCNTの粒径分布測定

 

 インクジェットプリンタ用黒色顔料は希釈すると状態が変わるため原液そのままで測りたいとの要望があった.Partica CENTRIFUGEは分級しながら測るためこれに応えられた.また,この顔料にわずかに混入する異物や凝集物があるか確認したいという要望があるが,一定速の回転運転の場合,測定レンジが狭いため,小さい粒子と大きな粒子はそれぞれに適した回転数で別々に測らないといけない.しかし,Partica CENTRIFUGEは加速中の低速回転状態からデータも取得しているため,一度にワイドレンジの測定ができ,0.1μmの顔料のほかに数μmの異物の存在が見出された.大きい異物は加速運転時,顔料の一次粒子は最高速回転で捉えられた(図20).

 

図20 インクジェットプリンタ用黒色顔料測定例

 

 電池の正極に塗工するスラリーを,原材料のNCM(ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム:活物質),カーボン(導電材),PVDF(ポリビニリデン:バインダー),NMP(N-メチル- ピロリドン:溶媒)を混錬(フィルミックス:プライミクス社)する前後での比較測定を行った.混練前は,大きく二山になっており,カーボン自身が凝集を起こしていたが,混練後はカーボンの凝集は解かれ,100nm付近に残存しているものを除けば,NCM(活物質)に付着し,スラリー状電池材料として最適な状態になっていると考えられる.(図21).

 

図21 電池材料の粒度分析

 

4.5 世界トップレベルの粒子計測に向けて

 遠心式ナノ粒子解析装置Partica CENTRIFUGEの開発には,国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)のナノチューブ実用化研究センターからの要望もあった.同センターの副研究センター長の岡崎 俊也氏は,カーボンナノチューブ(CNT)生産管理を目的とした,評価法開発を行っている.

 このような背景から,産総研と堀場製作所は,両者がもつ深い知見と独自の技術を融合することにより,今までにない高い次元で信頼性・簡便性・汎用性を兼ね備えた粒子計測システムの実用化に取り組もうと,産総研計量標準総合センター(茨城県つくば市)内に「堀場製作所-産総研 粒子計測連携研究ラボ」(連携研究ラボ)を設立し,2021年2月1日より本稼働を開始した[13].「世界トップレベルの粒子計測を可能とするシステムの実用化をめざす」とし,連携研究ラボを通じたシナジー効果の発現と若手イノベーション人材の育成にも努めるとしている.「環境規制強化に対応する粒子計測システム開発」および「ナノ材料特性の解析・評価システム開発」に取り組む.後者では,堀場製作所がもつナノ粒子解析装置を用いて実測データを積み上げ,カーボンナノチューブやセルロースナノファイバーといった先端材料における効果的な解析・評価を行うシステムの開発に取り組むという.

 

5.遠赤外にも対応する高感度・高分解能フラグシップ蛍光分光測定装置 [14]

5.1 蛍光分光分析装置のルーツ

 蛍光は,物質が光の照射を受けたことによって放射する,照射光と異なる波長の光である.物質内の電子は,照射光のエネルギーを吸収して励起され,励起状態から時間をかけて平衡状態に戻る際に余分なエネルギーを光として放出する.電子のエネルギー状態や平衡に戻る時間(蛍光寿命)は物質固有のものであるため,蛍光スペクトルや蛍光寿命を測定して物質の分析ができる.光の吸収も物質固有のため,物質の分析に用いられる.蛍光分光,蛍光寿命を測定する装置が多数提供される中で,蛍光とは異なる現象である吸光度を合わせて測定できるようにした堀場製作所の蛍光吸光分光装置Duettaは2020ナノテク大賞の対象となった.その後,従来のフラグシップであった蛍光分光測定装置Fluorolog-3の後継機種として遠赤外にも対応する高感度・高分解能フラグシップ蛍光分光測定装置Fluorolog-QMを開発・上市した(図22左).

 

図22 蛍光分光測定装置
左:Fluorolog-QM 右:Fluorolog-3

 

 蛍光分光装置は,古くから多数のメーカーがそれぞれの独自製品を開発し,それらが現在のHORIBAグループの蛍光分光装置のルーツとなっている(図23).

 

図23  HORIBA蛍光分光装置のルーツ

 

 HORIBAグループでの最初の蛍光分光装置は1953年に開発された.イギリスのIBHは大学の先生の蛍光寿命測定の技術を製品化した.アメリカのSLMはフォトンカウンティングにより高感度分析を可能にした.SPEXとPTIはアメリカで,トップシェアを競い合った蛍光分光装置の会社である.これらの会社は堀場製作所の傘下に入り,それぞれが独自に開発・保有していた様々な技術を活用して,堀場製作所の蛍光分光製品(HORIBA FLUORESCENCE)を世に提供する.

 

5.2 蛍光分光製品のラインアップ

 蛍光分光製品には,蛍光分光を主とするものと,蛍光寿命測定を主とするものがあり,その両機能を組み合わせた,ハイブリッド装置がある.また,試料を拡大して観察する顕微システムがある.それぞれの分類の中には,性能,測定目的,構成等の異なる多数の装置があり,図24のような蛍光分光製品ラインアップとなっている.吸光・蛍光をともに測定できるDuettaは,蛍光分光装置の左列中央に,高速を特徴として掲載されている.

 

図24  HORIBA蛍光分光製品ラインアップ

 

 その下のFluorolog-QMが本稿の対象で,2020年4月20日にアメリカで新聞発表を行った[7]新製品で,フラグシップ装置と銘打っている.蛍光分析の多くの機能を備え,最高水準の性能で蛍光分光分析ができ,部品を組み替えることで広範囲の蛍光の研究を可能にする装置を,フラッグシップ装置として20年ほど前からFluorolog-3(図22右)を提供していた[15].今回の装置はその第4世代にあたるが,PTIのフラグシップ機種にQuanta Masterがあり,その技術を利用したのでFluorolog QMと名付けた.

 

5.3 フラグシップ蛍光分光測定装置Fluorolog-QMの開発 [16]

 蛍光分光測定装置には,微弱な蛍光を検出できる高感度,近接したエネルギー準位を区別できる高分解能,様々な遷移エネルギーに対応する広波長帯域,が求められる.Fluorolog-QMは,HORIBAグループ各社の技術を結集してこれに応えた.

 Fluorolog-QMの特徴のひとつは,レンズを用いずに分光系を全てミラーで構成したことにある.これにより深紫外(波長180nm)から近赤外(5,500nm)まで正確に焦点を結べる.光源にはPTIの技術を使った(図25).光源のXeランプの光は楕円鏡で集光し,もう一つの焦点に置かれた試料に照射する.これにより励起光の強度を高められ,強度の低い波長帯の光も励起光に利用できることになる.励起光が強ければ蛍光強度も上がるので高感度にもなる.光学系の設計にHORIBAグループの持つ光学技術を駆使して高分解能を達成した(図26).感度は堀場製作所製品では最高の35,000以上のSN比を達成した.また,蛍光測定では,励起光の反射を一緒に測ることになり,これが迷光となって蛍光に重なって,蛍光を隠してしまう.このため,Fluorolog-QMではダブルグレーティング,かつ長い焦点距離の分光器により迷光を除去するようにした.この結果,波長349nmの励起光を用いたとき,迷光の裾が伸びる350nm以上の波長域で蛍光を高分解能で検出できた(図27).さらに,各種波長に対応する高感度検出器を用い,蛍光測定波長域を5,500nmまで拡大した.多くの蛍光測定装置の波長域が800nmまでであるのに対し,希土類添加ガラスで1,500nmまでの測定ができた(図28).

 

図25 楕円鏡を利用した光源

 

図26 高分解能蛍光測定例

 

図27 迷光除去蛍光測定例

 

図28 近赤外までの蛍光測定例

 

 ところで,一般の蛍光分光装置は卓上型で,蛍光分析だけ,あるいは蛍光寿命だけ,内部の光源を波長の違ったものに取り替えたりせずに,そのまま使って測定することが多い.しかし,アカデミックなユーザーなど深掘りする場合は,蛍光分析と蛍光寿命測定を同時に行なったり.光源や検出器を組み替えて波長範囲を広げたりする.Fluorolog-QMは蛍光寿命測定機能もつけ備え,光学系の構成要素を様々に組み合わせて使えるようにしている.図29は,励起光源3式(うち1式はレーザ),検出器3式,分光器2式(励起側:ダブルグレーティング/発光側:シングルグレーティング)で構成した例である.190~5500nmの広い発光波長範囲に対応し,発光寿命・りん光スペクトル・積分球・偏光・温調などの機能を拡張できる.

 

図29 蛍光分光測定装置Fluorolog-QMの構成例

 

 本装置の特徴は,高感度,高分解能,広波長域,柔軟性(装置構成,測定の自由度)にある.発光材料の開発では新たに合成した材料が光るかどうか,まず確かめる.この装置は,感度が高いため,新規化合物が光るかどうか見極めるのに使える.長距離光伝送の中継器には希土類元素を添加した光ファイバ増幅器が用いられるが,希土類の発光物質の狭い発光スペクトルを捉えられ,光ファイバに入っている希土類元素の定性分析ができた.

 

おわりに

 2020年の第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)は,WHOが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はパンデミックとの認識を表明する前に開かれた.例年通りnano tech大賞が贈られ,そのいくつかをNanotechJapan Bulletinで紹介した.2021年の第20回(nano tech 2021)は,東京オリンピック2020の延期に伴う会場都合により,2020年12月に前倒しして実展示とオンラインとのハイブリッド開催となり,nano tech大賞の選定,贈呈は見送られた.そこで,nano tech 2020以前のnano tech大賞受賞者が,その後どのように製品や技術を発展させて,新製品をnano tech 2021に展示したか伺うこととした.堀場製作所は,新しいこと,人のやれないことに挑戦して,「おもしろおかしく」働いて創造的成果をあげようようとの社是のもとに,新製品の開発を進めていた.ユーザーニーズに応え,従来技術を見直し,技術高度化のために提携した海外企業と連携しての開発であった.ユーザーとの連携開発は,「世界トップレベルの粒子計測を可能とするシステムの実用化をめざす」,産総研との連携ラボの設立にもつながった.ユーザーの声を聞き,ユーザーとともに,社内各所の技術を活用して,優れたナノ材料分析評価装置が,次々に生み出されることを期待したい.

 

参考文献

[1] “ベンチャー創業75年,光学技術を磨いて独自の材料分析評価装置開発~粒子径分布測定に画像解析導入,蛍光分光の吸光度同時測定~”,NanotechJapan Bulletin Vol. 13, No. 5, 2020,2020年10月30日発行 https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/10-9-innovation/75.html
[2] “第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)開催報告”,NanotechJapan Bulletin Vol.14, No.2, 2020年4月24日発行,https://www.nanonet.go.jp/magazine/Reports/nanotech2020.html
[3] HORIBAについて https://www.horiba.com/jpn/company/about-horiba/home/
HORIBA Report 2020-2021
https://www.horiba.com/uploads/media/20210518_HR_jp_07.pdf
HORIBA Report 2019-2020
https://www.horiba.com/uploads/media/20200521_HR_jp_08.pdf
[4] “分光器など光学分光分野で世界トップ企業 仏国 分析機器メーカー インスツルメンツ社(旧ジョバンイボン社)を買収”, 堀場製作所Press Release 1997年9月16日  https://www.horiba.com/jp/scientific/news-events/latest-news/article/4813/
[5] ラマンイメージング装置「LabRAM Soleil」の国内販売を開始,堀場製作所Press Release,2020年8月27日
https://www.horiba.com/jp/scientific/news-events/latest-news/article/labram-soleil-61383/
[6] “半導体や二次電池などの材料開発,品質管理に貢献する遠心式ナノ粒子解析装置「Partica CENTRIFUGE」を発売”,堀場製作所Press Release,2020年11月9日
https://www.horiba.com/jp/corporate-news/news/article/partica-centrifuge-67031/
[7] HORIBA Scientific Launches FLUOROLOG-QM Modular Research Grade Spectrofluorometer
04/27/2020|Press Release:4th Generation Fluorolog covers the broadest range of luminescence research
https://www.horiba.com/en_en/company/news/detail/news/4/2020/horiba-scientific-launches-fluorolog-qm-modular-research-grade-spectrofluorometer/
[8] ラマン分光 https://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/raman-spectroscopy/
[9] 沼田 朋子,奥野 義人,中田 靖,中 庸行,“顕微ラマン分光装置による測定の実際と医薬品/バイオ応用の紹介”,Readout No.45 September 2015 p.24-34
[10] ラマンイメージング装置 LabRAM Soleil Special Site https://www.horiba.com/jp/scientific/soleil/
[11] 遠心式ナノ粒子解析装置 Partica CENTRIFUGE https://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/particle-characterization/particle-size-analysis/details/cn-300-45781/
[12] 東川喜昭,“自然/遠心沈降式粒度分布測定装置 CAPA-700”,Readout,No. 34,January 2009,pp. 23-29
[13] ”「堀場製作所-産総研 粒子計測連携研究ラボ」を設立-世界トップレベルの粒子計測を可能とするシステムの実用化をめざす-“,産業技術総合研究所ニュースリリース 
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/announce/pr20210201.html
[14] 蛍光分光光度計・蛍光寿命測定装置 https://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/fluorescence-spectroscopy/
[15] Ray Kaminsky, Stephen M. Cohen,“世界レベル最高感度を有する蛍光分光測定装置”,Readout No.4 January 1992 pp. 78-81
[16] 蛍光分光測定装置 Fluorolog-QM https://www.horiba.com/jp/scientific/products-jp/fluorescence-spectroscopy/line-up/details/fluorolog-qm-46665/

 (図はすべて堀場製作所から提供された)

 

(古寺 博)


 

「10-9 INNOVATIONの最先端」 企画特集は, NanotechJapan Bulletin と nano tech のコラボレーション企画です.