NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 秀でた利用成果
<2019年秀でた利用成果-3>
巨大誘電率を実現するAl2O3/TiO2積層膜の検討
aパナソニック株式会社,b大阪大学 辻田 卓司a,b,森田 幸弘a,b,西谷 幹彦b,北川 雅俊b
北海道大学 大西 広,中野 和佳子,平井 直美,松尾 保孝

 

(左から)辻田 卓司,森田 幸弘,西谷 幹彦,北川 雅俊

 

(左から)大西 広,中野 和佳子,平井 直美,松尾 保孝

 

はじめに

 近年,電気自動車,ウェアラブルセンシングデバイスの加速的な普及に伴い,安全,且つ高速充放電が可能な蓄電デバイスの開発が勢力的に行われている.特に人体に直接装着するウェアラブルセンシングデバイスでは,未装着感と安心の実現が必須であり,薄い・軽い・曲がる・安全等の性質が電源に求められる.このような中,キャパシターへの応用が可能な高誘電率材料は注目を集めており,誘電率の高いTiO2を使いこなす取り組みが広く行われており,Al2O3とTiO2を組合せた材料も多くの研究機関で開発が進められている[1][2][3].我々は,Wei Li等により報告されたAl2O3/TiO2積層膜[4]に注目した.Al2O3/TiO2積層膜では,各層の厚みを1nm程度に制御することでMaxwell-Wagner効果[5]が発現し,誘電率>1000を実現できることが報告されており,キャパシターへの応用が期待できる.

 本研究では,作製したAl2O3/TiO2積層膜の電気特性,及び物性評価から,巨大誘電率の発現メカニズムを調査し,巨大誘電率と電子絶縁性が両立する材料の実現を目的とした.そこで,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(北海道大学 微細加工プラットフォーム)の支援を受け,ピンホールレス,且つナノレベルの膜厚制御が可能な原子堆積法(Atomic Layer Deposition:ALD)を用いた成膜を実施した.

 ALDでは,基板上に有機金属を付着させ,これをH2Oやオゾン等で酸化することで酸化物が得られるが,Wei Li等と同様,この酸化剤にH2Oを用いた場合には,積層デバイスのリーク電流が大きく,蓄電用途への応用が難しいことが分かった.そこで,Al2O3層を形成する際の酸化剤を変更した積層膜を形成し,その電気特性と物性評価の結果から,酸化剤にH2OとO3を併用することの有用性を見出した.さらに,集電体とAl2O3/TiO2積層膜の界面を制御することにより,巨大誘電率を維持しながら,絶縁性を確保できることを見出した.

 

実験

 図1に,電気特性評価用の簡易デバイスの模式図を示す.金属電極(Pt or Au)付きガラス基板上にAl2O3/TiO2積層膜を形成し,最上部に,1mmφの金属電極をEB蒸着で形成した.Al2O3/TiO2積層膜はALD(Picosun, SUNALE-R,図2)で作製し,Al及びTi供給源である有機金属として,それぞれTrimethylaluminum(TMA)とTiCl4を選択した.また,Al2O3用の酸化剤にはH2OとO3を,TiO2にはH2Oを用いた.

 形成した積層膜の物性評価にはSTEM,EDX及びEELS(Hitach HD-2000,JEOL JEM-ARM200F)を用い,LCRメータで電気特性評価を行った.

            

図1 電気特性評価用のデバイスの模式図               図2 ALD装置写真    

 

 

結果と考察

 酸化材にH2Oを用いて作製したAl2O3/TiO2積層膜のSTEM及びEDXマッピング像を図3に示す.ナノメートルオーダー厚みで制御されたAl2O3,及びTiO2層が形成できていることが確認できる.

 

図3 Al2O3/TiO2積層膜のSTEM及びEDXマッピング像
(a)各層1nm,(b)各層2nmのSTEM及びEDXマッピング

 

 次に,Al2O3/TiO2積層膜の全厚を280nmに固定し,各層の厚みを変化させたときの絶縁性,及び誘電率の測定結果を図4に示す.測定周波数は100Hzであり,誘電率測定結果には,Wei Li等の報告結果,及びAl2O3とTiO2を独立のコンデンサーとみなして,直列に繋げた場合の計算結果も併記する.Wei Li等と同様,すべての酸化剤にH2Oを用いてAl2O3/TiO2積層膜した場合(〇),各層の厚みを1nmにすると絶縁特性が急激に悪化し,誘電率測定を行うことができなかった.酸化剤にH2Oを用いた場合に,膜中に何らかの電子リークパスが形成されているのではないかと推測し,絶縁性の確保を目的に,Al2O3層の形成時の酸化剤をO3に変更した(●).O3を酸化剤に用いた場合には,絶縁性の大幅な良化を確認することができたが,コンデンサーの直列モデルに比べ,誘電率は若干,向上するものの,巨大誘電率の出現には至らなかった.

 

 図4 各層の厚みを変化させたときの(a)絶縁性,及び(b)誘電率の測定結果

 

 Al2O3層形成時の酸化剤の違いによる差異を調査するため,H2O及びO3を用いて作製した50nm厚のAl2O3膜のI-V特性評価を行った.その結果を図5に示す.図5より,酸化剤にO3を用いることで,大幅な絶縁特性の向上が確認できる.

 

図5 各種酸化剤で作製したAl2O3膜(50nm)のI-V特性評価

 

 図6は,各層を60nmで作製したAl2O3/TiO2積層膜のEELS測定(O-K1)の結果である.本測定により,H2OでAl2O3層を作製した場合,TiO2層の表面に近い界面付近に酸素欠陥が形成されているのに対し,O3でAl2O3層を作製すると,酸素欠損が消失していることが判明した.この結果は,TiO2層上にTMAが吸着した際にTiO2層表面に酸素欠陥が形成されるが,Al2O3層形成時の酸化剤により,この酸素欠損の補填を行うか否かの違いが観測されたのだと考えている.

 

図6 Al2O3層形成時の酸化剤を変更した時のEELS測定(O-K1)の結果

 

 これらの物性評価結果とWei Li等の報告を鑑みて,巨大誘電率材料の実現には,酸素欠損を残した電子伝送性の高いTiO2層,及び絶縁性の高いAl2O3層を各々1nm以下で積層することが必須であると考えた.この仮説に基づき,酸化剤にO3とH2Oを併用してAl2O3層を形成したAl2O3/TiO2積層膜を形成し,電気特性評価を行った.図7は,図4の結果に本結果を追記したものである.絶縁性を確保しつつ,Al2O3層形成時にO3のみを用いた場合と比較して誘電率が向上し,誘電率>500を実現することができた.

 

 図7 各層の厚みを変化させたときの(a)絶縁性,及び(b)誘電率の測定結果

 

 更なる絶縁性の向上を目指し,O3とH2Oを併用して Al2O3層を形成したAl2O3/TiO2積層膜の集電体直近にのみに厚いAl2O3層を設置した.デバイスの模式図を図8に示す.また,2nmのAl2O3層を追加したAl2O3/TiO2積層膜の電気特性評価の結果を図9(a)に,図9(a)と同様の電気特性評価を行い,周波数100Hzの時の抵抗と誘電率の関係をまとめたものを図9(b)に示す.集電体直近に2nmにAl2O3層を設置することで,誘電率:~500を維持しつつ,絶縁性を1桁以上向上できることが明らかになった.

 

図8 集電体直近にのみ,厚いAl2O3層を設置した.デバイスの模式図

 

 

図9 Al2O3層を追加したAl2O3/TiO2積層膜の電気特性評価結果
(a)2nmのAl2O3層を追加したAl2O3/TiO2積層膜の電気特性評価
(b)周波数100Hzで測定した時の抵抗と誘電率の関係

 

 集電体とAl2O3/TiO2積層膜の界面の絶縁性を確保することの重要性が明らかになったため,次の施策として,絶縁性を上記の界面で確保しつつ,Al2O3/TiO2積層膜部分の誘電率が向上するよう,成膜プロセスの最適化を試みた.図10は,図9(b)の結果に,Al2O3/TiO2積層膜の成膜条件,及び積層膜と集電体の界面層の形成条件を最適化したデバイスの電気特性評価結果を追加したものである.界面層により電子リークを低減できること,Al2O3/TiO2積層膜部分での絶縁性確保の制限が緩和したことから,1.7×108 Ω / 1 mmφ,誘電率>1000(@100Hz)を実現することに成功した[6].

 

図10 陽極酸化を行ったAl2O3/TiO2積層膜の電気特性評価結果

 

謝辞

 本研究は文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(北海道大学 微細加工プラットフォーム及び,微細構造解析プラットフォーム)の方々に多大なご協力を賜り,推進させて頂きました.ここに厚く御礼申し上げます.また,センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム(大阪大学)の支援を受けております.この紙面をお借りし,感謝申し上げます.

 

参考文献

[1]. V. Mikhelashvili, E. Garshteinand G. Eisenstein, IEEE Electron Device Lett. 27(5), 344 (2006).
[2]. O. Auciello, W. Fan, B. Kabius, S. Saha and J. A. Carisle, R. P. H. Chang, C. Lopez, E. E. Irena and R. A. Baragiola, Appl. Phys. Lett. 86, 042904 (2005).
[3]. S. K. Kim, G. J. Choi, J. H. KIM and C. S. Hwang, Chem. Mater. 20, 3723 (2008).
[4]. W. Li, O. Auciello, R. N. Premnath and B. Kabius, Appl. Phys. Lett. 96, 162907 (2010).
[5]. G. Lee, B. Lai, C. Phatak, R. S. Katiyar and O. Auciello, J. Appl. Phys. 114, 027001 (2013).
[6]. T. Tsujita, Y. Morita, M. Nishitani, MRS Advance. 23(3), PP.1285-1291(2018)

 

(パナソニック株式会社 辻田 卓司)