NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 秀でた利用成果
<2020年秀でた利用成果-2>
小型マイクロステージの開発
リコーインダストリアルソリューションズ株式会社 藤村 康浩
東北大学 微細加工PF 森山 雅昭,菊田 利行,邉見 政浩,庄子 征希,田中 秀治

 

(左から)リコーインダストリアルソリューションズ 藤村 康浩,
東北大学 邉見 政浩,菊田 利行,庄子 征希,森山 雅昭,田中 秀治

 

1.レーザー光源プロジェクターの課題

 近年,これまで困難とされてきた緑色のレーザーダイオード(LD)が実用化され,LDによって光の3原色がすべて発光可能になった.そのため,LDをプロジェクターの次世代光源として活用することが提案されている[1][2].LDは,水銀灯,LED等の現在主に使用されている光源に比べてエネルギー変換効率が高く,また指向性が高いために,これをプロジェクターに用いることで,省エネルギー化が図れる.また,レーザーを走査する方式では,スクリーンとプロジェクターの距離にかかわらず映像を投影できるようになるので,きわめて浅い照射角度での投影や,凹凸の激しい対象物へのプロジェクションマッピングが可能となる.

 しかし,レーザー光は,単一波長で位相がそろった光であるがゆえに,干渉を起こしやすい.光の照射点あるいは映像を投影した画面を観測した際に,観測面(検出器や網膜)にて,光の干渉によりスペックルと呼ばれる光の強弱が発生する[3].そのため,現在のレーザー光源を用いたプロジェクターでは,スペックルの発生による画質の低下と目の疲労が実用化のための大きな障害となっている.

 これまでに,スペックルによるスクリーン上の光強度分布を低減する手法として,拡散板(板の表面に微細な凹凸を形成し,その構造による屈折・回折作用により入射光を一定の角度に拡散させるもの)を光路内に挿入して,これを高速で運動させることで光強度を時間的に平均化する方法[4][5]や,拡散板の替わりにコロイド粒子のブラウン運動を用いる方法[6],超音波による疎密波による回折を用いる方法[7]などが提案されている.拡散板を用いた方法では,電動モーターを用いて拡散板を回転させる手法[8]が主流であるが,省電力,省スペース,長期信頼性の観点からは望ましくない[8].

 

2.開発の背景

 省電力と省スペースを実現できるマイクロステージとしてMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)に着目し,拡散板を往復運動させるための2軸共振型MEMSマイクロステージの開発を行ってきた[9].拡散板を2次元駆動させることで,より効率よくスペックルを解消できることが知られているが,過去に報告したマイクロステージは,2軸駆動のためにはそれぞれの軸にアクチュエーターが必要であったため,小型化に限界があった.そこで,1つのアクチュエーターで2軸を独立に励振する機構を提案し,ナノテクノロジープラットフォーム事業の支援を受けて,スペックル低減モジュール用の小型マイクロステージを開発した.

 

3.小型マイクロステージの特徴

 開発した小型マイクロステージに拡散板を実装した写真を図1に示す.低消費電力と大きな変位を両立させるために,チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜を用いたユニモルフ型アクチュエーターによって生じる変位を,ムーニー構造でベクトル変換し,水平方向の変位を発生させている[10][11][12][13].また,それぞれの軸を共振駆動することでさらに変位を拡大させている点が特徴である[14].これにより,アクチュエーターのサイズを4.5×7.1mmと従来のおよそ50%に小型化することに成功した.

 

図1 拡散板を実装した2軸共振型MEMSマイクロステージ

 

4.小型マイクロステージの動作原理

 動作原理について図2を用いて簡単に説明する.ムーニー型アクチュエーターの中央にある,細長い板状の部分が,PZTの薄膜である.ここに,電圧を印加すると,PZT薄膜は赤矢印の方向に変形する.薄膜が変形したことで,パンダグラフ形状の両端が黒矢印の方向に引き寄せられる.引き寄せられた結果,緑矢印のように,共振ばねに対し,斜め方向に押す力が発生する.電圧が解放されると,元の形状に戻るので,電圧ON/OFFの信号を繰り返すことで,振動したい拡散板に対して斜め方向の振動が発生する.ここで,x-y方向では,共振周波数が異なるように設定しているので,ある周波数の時は,橙矢印のようにx方向に大きく共振振動する.また,別の周波数の時は,青矢印のように,y方向に大きく共振振動する.最終的に,x方向の共振周波数とy方向の共振周波数の合成波を印加すると,x-yの両方に共振振動するというシステムとなっている.

 

図2 MEMSマイクロステージの動作原理

 

5.小型マイクロステージの作成方法

 デバイスの作製工程の概略を図3に示す.①はじめに,デバイス層/埋め込み酸化膜層/ハンドル層がそれぞれ10/1/350μmのSOIウエハ上に,厚さ1000nmのシリコン酸化膜を熱酸化により成膜した.②その後,圧電アクチュエーターの下部電極となる厚さ100nmの白金,厚さ2000nmのPZT,上部電極となる厚さ100nmの白金を,スパッタ法によって成膜した.③これらの上にフォトレジストを塗布し,フォトリソグラフィーにより電極形状を定義した.このフォトレジストをエッチングマスクとして,まず上部電極を反応性イオンエッチング(RIE)によりパターニングした.その後,PZT層をウェットエッチングで,下地電極,熱酸化膜層,デバイス層シリコンをRIEでパターニングした.④最後に,ハンドル層シリコンを裏側からDeep RIE(ボッシュ法)によってパターニングすることで,ムーニー構造,共振ばね,および拡散板実装部を形成した.

 このように,単純なフォトリソグラフィーとエッチングを数回繰り返すだけという,非常にシンプルな作成方法となっている.

 

図3 小型マイクロステージの製造方法

 

6.小型マイクロステージの動作確認結果

 拡散板の代わりに,大きさ・質量がほぼ等しいダミー素子(□2.4mm,t=0.5mmの石英板.素子の中心に変位検出用の□20μmのCrマークを配置)をマイクロステージ上に実装して振動特性を計測した.評価結果を図4に示す.

 387.76Hzで0~5Vの正弦波を印加すると,x方向に56μmの共振振動が発生した(波形:緑線/図:右下).また,332.34Hzで5~10Vの正弦波を印加すると,y方向に48μmの共振振動が発生した(波形:青線/図:左上).そして,これら2つの正弦波を合成した合成波を印加すると,この□50μmのリサージュ振動を実現した(波形:橙線/図:右上).

 

図4 小型マイクロステージの動作確認結果

 

7.小型マイクロステージを用いたスペックル低減モジュール

 小型マイクロステージを用いたスペックル低減モジュールを開発した.スペックル低減モジュールの外観写真を図5に,構成図を図6に示す.拡散板を2枚使用しており,発散角7.35°の拡散板Aをマイクロステージに実装し,リサージュ振動する.そこから,1.525mm離れた所に,発散角5.15°の拡散板Bを配置する形になっている.

 

図5 スペックル低減モジュール

 

図6 スペックル低減モジュールの構成図

 

 評価光学系を図7に示す.レーザー光源があり,NDフィルターで光量調節をした先に,スペックル低減モジュールを配置する.モジュール透過後は12°程度の発散角を持った光になるので,再度レンズで集光し,スクリーンに投影する.スクリーンに投影した光の状態を,CCDカメラで撮影した.この時の露光時間は0.03秒である.スペックルコントラストは輝度ばらつきの標準偏差を平均光量で割った値で定義される.今回は,レーザー光源によるばらつき影響を避けるために,素のレーザー光のスペックル値で規格化した値で評価を実施した.

 

図7 スペックル評価光学系

 

 図8に振動量とスペックルの値の関係を示す.スペックル低減モジュールを透過しただけでも,拡散板の効果により,若干のスペックル低減効果を発現する.そこから,徐々に振動量を大きくしていくと,スペックルも低下していき,50×90μmのリサージュ振動した時に,規格化したスペックル値R=0.13を実現した.因みに,1.6mmの円振動した時のスペックル値と比較すると,小型マイクロステージを使ったスペックル低減モジュールでは,小さな振動量でも効率の良いスペックル低減効果を発現出来ていると言える.

 

図8 振動量とスペックル値の関係

 

 実際の光の状態を図9に示す.モジュールを駆動することで,明るい点,暗い点が強調されたぎらついた状態から,非常に滑らかな状態に変化していることが確認できる.これにより,本モジュールでスペックルを低減したレーザー光を光源に使用することで,レーザープロジェクターの画質向上が期待できる.

 

図9 スペックル低減モジュールを動作した時のレーザー光の状態

 

8.ナノテクノロジープラットフォーム事業の利用

 リコーインダストリアルソリューションズは,前身であるリコー光学の時代から,液晶パネル用のマイクロレンズアレイを始め,様々なガラスの精密加工を手掛けており,光学ガラスの微細精密加工については,知見はあったものの,今回開発した小型マイクロステージの基礎技術である,シリコンの加工,MEMSの設計,PZT圧電膜の取り扱いについては未経験であり,開発インフラも持っていなかった.

 ナノテクノロジー事業を利用することで,インフラ面ではシミュレーションからデバイスの加工における様々な設備を活用させて頂き,技術面では,東北大学の田中秀治先生及び,微細加工プラットフォームスタッフの方々の手厚いサポートを頂くことで,様々な課題を解決することが出来た.資金面では,JSTのA-STEPハイリスク挑戦タイプ及び,NexTEP-Bを活用することで開発を加速することが出来た.

 結果として,産学連携の活用により,小型マイクロステージ及びスペックル低減モジュールの開発を約2年という短期間で実現することが出来たと考えている.

 

9.まとめ

 拡散板を駆動する2軸共振型MEMSマイクロステージを開発した.このステージはPZT圧電アクチュエーターを用いることで,低消費電力を実現,1個のアクチュエーターでXYの2軸を独立に励振する機構とすることで,省スペース化を実現した.そして,このMEMSマイクロステージに拡散板を実装したスペックル低減モジュールを開発した.開発した小型マイクロステージのリサージュ振動により,小さな振幅でも効率の良いスペックル低減を実現している.小型マイクロステージを用いたスペックル低減モジュールをレーザー光源プロジェクターに搭載することで,スペックルが低減され,レーザー本来の色純度が高く色域が広い理想的なディスプレイ実現に寄与できると考えている.

 

10.謝辞

 小型マイクロステージの開発はナノテクノロジープラットフォーム事業(東北大学 微細加工プラットフォーム)の支援を受けて実施されました.東北大学の田中秀治教授,塚本准教授,戸津准教授,森山助教,および微細加工プラットフォームスタッフの皆様に感謝致します.その他多くの社内外の多大なる協力があって,試作開始から2年間という短期間で製品化に資するレベルに達することができました.ここにすべての関係者に対して感謝の意を表します.

 

参考文献

[1] 山本和久, "「クリーンデバイス社会実装推進事業」最先端可視光半導体レーザーデバイス応用に係る基盤整備プロジェクト", 第16回レーザーディスプレイ技術研究会, pp.55-61 (2015).
[2] K. V. Chellappan, E. Erden and H. Urey, "Laser-based displays: a review", Appl. Opt., 49, F79-F98 (2010).
[3] 黒田和男, 山本和久, 栗村直, "解説レーザーディスプレイ-基礎から応用まで-", pp.162-192 (2010).
[4] J.-W. Pan and C.-H. Shih, "Speckle reduction and maintaining contrast in a LASER pico-projector using a vibrating symmetric diffuser", Opt. Express, 22, pp.6464-6477 (2014).
[5] N. Abelé, C. Le Gros, J. Masson and L. Kilcher, "Speckle reduction technique for embeddable MEMS-laser pico-projector", Proc. SPIE, 8977, 89770P-89770P-10 (2014).
[6] B. Redding, G. Allen, E. R. Dufresne and H. Cao, "Low-loss high-speed speckle reduction using a colloidal dispersion", Appl. Opt.,52, pp.1168-1172 (2013).
[7] L. Wang, T. Tschudi, M. Boeddinghaus, A. Elbert, T. Halldo´rsson and P. Pe´tursson, "Speckle reduction in laser projections with ultrasonic waves", Opt. Eng., 39, pp.1659-1664 (2000).
[8] 黒田和男, 山本和久, 栗村直, "解説レーザーディスプレイ-基礎から応用まで-", pp.267-276 (2010).
[9] Y. Fujimura, T. Tsukamoto, S. Tanaka, "Piezoelectric Moonie-type Resonant Microactuator", IEEJ Transactiins on Sensors and Micromachines, Vol.137 No.4, pp.95-100 (2017)
[10] C. Niezrecki, D. Brei, S. Balakrishnan and A. Moskalik, "Piezoelectric actuation: State of the art", Shock and Vibration Digest, 33, pp.269-280, (2001).
[11] H.-W. Ma, S.-M. Yao, L.-Q. Wang and Z. Zhong, "Analysis of the displacement amplification ratio of bridge-type flexure hinge", Sens. Actuators A, 132, pp.730-736 (2006).
[12] R. E. Newnham, A. Dogan, Q. C. Xu, K. Onitsuka, J. Tressler and S. Yoshikawa, "Flextensionalmoonie actuators", in Proc.UltrasonicsSymposiμm, 1993. Proceedings., IEEE 1993, Oct 1993,  509-513 vol.1.
[13] M. F. M. Sabri, T. Ono, S. M. Said, Y. Kawai and M. Esashi, "Fabrication and Characterization of Microstacked PZT Actuator for MEMS Applications", J. Microelectromech. Syst, 24, pp.80-90 (2015).
[14] M. Lerman and D. Elata, "On the quality-factor of micro-resonators, "Procedia Engineering, 5, pp.95-98 (2010).

 

(リコーインダストリアルソリューションズ オプティカル事業部 藤村 康浩)