NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 秀でた利用成果
<2021年秀でた利用成果-6>
二重ナノコートカプセル技術の開発と化粧品の商品化
アドファーマ株式会社 金岡 奈美,濱野 和夫
九州大学 分子・物質合成PF 井手 奈都子,小野 文靖,後藤 雅宏

 

「秀でた利用成果」の表彰式で,株式会社スギ薬局の皆様と
(右から3番目がアドファーマ株式会社の金岡社長,その左が後藤教授)

 

1.はじめに

 アドファーマ株式会社(以下,アドファーマ)は,様々な企業の依頼を受け,経皮吸収技術を基に機能性化粧品の企画提案を手がけるベンチャー企業である(https://www.adpharma.jp/).今回の九州大学におけるナノテクノロジープラットフォーム(以下,ナノテクPF)支援の目的は,株式会社スギ薬局(以下,スギ薬局)のPB化粧品を開発するにあたり,目玉となる差別化技術の導入とその社会実装(商品化)であった.世の中には毎年数多くの新しい化粧品が開発販売されている.しかしながら,よほど特徴のある商品でないと大きな売り上げには繋がらないのが実情である.製品開発に15年程度の時間を要する薬と異なり,化粧品は企画から製造までおよそ2~3年の短期間で商品開発が可能である一方で,化粧品ビジネスの難しさがそこにある.具体的なアドファーマとの共同研究は,すでに2018年より取り組んでいたが,今回商品化のポイントとなった点は,スギ薬局の科学的なエビデンスに基づく商品開発へのこだわりにあった.そこで,今回のナノテクPF事業の支援では,実際に化粧品に配合するビタミンCならびにヒアルロン酸を用いて,具体的に特許技術で二重ナノコートカプセルを合成し,その皮膚への高浸透性を実証することが,実施機関 九州大学の役割として求められた.さらに,実用化に際して重要なナノカプセルの粒度分布解析と商品化に耐え得る長期安定性の評価も合わせて今回のナノテクPF事業で支援を行った.

 

2.薬物の経皮浸透の困難さ

 人間は外敵から身を守るために全身を皮膚で覆われている.皮膚浸透の最大の障壁は,皮膚の外表面を覆う角層が有する強固なバリア機能にある.図1に示すように,我々の皮膚は表皮,真皮の二層構造をしており,最外層にはケラチンを多量に含んだ扁平細胞からなる疎水性の高い角層(厚さ:約15μm)と呼ばれる多層膜が存在し,外因性物質の皮膚浸透において高いバリア能を示すことが知られている[1].一方で,この角層は非常に疎水的な膜の振る舞いをするので,もし有用な生理活性物質を油状基剤に可溶化することができれば,その皮膚浸透が促進されることが期待される[2][3].

 

図1 皮膚構造の模式図

 

 従来から,疎水的な角層との親和性を高め,経皮吸収能を向上させる手法としてエマルションが用いられている.一般に,経皮吸収製剤の剤形は,クリーム,ローションや乳液であるためOil-in-Water(O/W)やWater-in-Oil-in-Water(W/O/W)エマルションが広く利用されてきた.これらは最外相が水相という特徴から,薬剤を水洗で容易に除去でき,また,油分を同時に塗布することで疎水性の角層との親和性を高め,経皮浸透性を向上することが期待される.しかしながら,多くの有効成分は親水性の場合が多く,O/Wエマルションでは成分を油中に分散することは困難である.このため,薬物を内水相に分散させるW/O/Wの多層エマルションが用いられるが,ほとんどの薬物が外水相に容易に漏洩してしまう.このようにO/WやW/O/Wエマルションでは,親水性の薬物は油相へ溶解せず,油分と単に物理混合された状態にあり,油分の経皮吸収促進効果を十分に得られていないのが現状である.

 このような状況下,今回のナノテクPF支援では,親水性の有効成分を界面活性剤で被覆し,油状基剤にナノレベルで分散させるSolid-in-Oil(S/O)化技術を応用し,O/Wエマルションの内油相部分に親水性薬物を封入するSolid-in-Oil-in-Water(S/O/W)型の二重ナノコート粒子(図2)の調製を試み,経皮浸透キャリアとしての有用性を評価した.この場合,親水性の有効成分は,SOナノ粒子として直接有相中に溶解することになる.この油状基剤に有効成分を可溶化することが,皮膚浸透を向上させるために重要となる.

 

図2 S/O/W多層エマルション調製の模式図

 

3.薬物の経皮浸透性計測の実際

 調製したS/O/W粒子が本当に有効成分を経皮浸透させ得るかを検証する必要がある.そのために,図3に示すようなフランツセルを用いた.フランツセルの上部には,皮膚試料を正方形(2cm x 2cm)に切断してクリップで固定するが,皮膚試料に関しては化粧品開発ならではの問題が生じる.創薬開発においては,マウス皮膚が頻繁に用いられ,さらに詳細な検討を要する段階になるとヒトに類似した構造を有するブタ皮膚(特にYMP種)を使用する場合が多い.ところが化粧品業界では,研究開発に動物試料の利用が禁じられているためこのような動物由来の皮膚材料が使えない.現在,皮膚の代替試験のために複数の人工皮膚の構築が行われているものの実際の皮膚とはその特性に隔たりが大きい.このため唯一許されているヒト皮膚を用いて皮膚透過性を検討する必要がある.日本で購入できるヒト皮膚としては,KAC社から購入できるフランスの形成外科手術あるいは美容整形手術から得られる試料がある(図4).ちなみにヒトの皮膚は表面温度が32~33℃前後と言われている.このため,経皮吸収の透過性試験では,測定温度を32.5℃に設定している.コロナ感染症防止のための検温で,手の甲や腕の温度を測定すると低めの温度を示すので注意が必要である.

 

図3 薬物キャリアの皮膚透過性を計測するフランツセル

 

図4 化粧品の皮膚透過性解析に使用されるヒト皮膚試料

 

4.S/O/W製剤の皮膚浸透挙動

 まずモデル薬物としてFITCラベル化デキストラン(10kD)を用いて,S/O/Wクリーム(FD濃度0.3mg/g)を調製した.通常の皮膚には,透過し得る分子量の限界があり,ヒトの場合は分子量が500程度が限界であることが500Daルールとして知られている.よって,今回のモデル薬物のような分子量が1万の高分子化合物は,実際は皮膚を全く通過しない.今回の実験では,比較として,化粧品処方で最も代表的なゲル化剤カーボポールを用いて水溶液ゲルサンプルを調製した.さらに,皮膚の自家蛍光を考慮し,コントロールとしてFDを含まない水溶液ゲルを調製した.フランツセルに皮膚をセットし,レシーバー相にPBSを5.0ml加え,フランツセルに固定された皮膚上部に各サンプルを100mgずつ添加し,48時間後の蛍光スペクトルを測定した(励起波長:480nm,蛍光波長:523nm).

 それぞれの系におけるモデル薬物FDの透過挙動の結果を図5に示す.この結果より,S/O/W製剤は水溶液ゲルと比較して高い皮膚浸透性を有することがわかる.その挙動を詳しく解析した結果,S/O/W製剤は時間とともに外水相が蒸発し,皮膚表面に油膜が形成され,油状基剤に存在するFDの皮膚親和性[4]が有効に働きFDが高分子量の化合物であるにも関わらず,皮膚浸透が促進されたことが明らかとなった.

 

図5 高分子化合物(FD:10kD)の皮膚浸透挙動(n=6)

 

5.実際の有効成分のカプセル化と皮膚透過性試験

 モデル化合物で良好な浸透促進の効果が確認されたので,実際の化粧品成分であるアスコルビン酸誘導体(ビタミンC)ならびにヒアルロン酸を用いて,皮膚透過性の試験を行なった.アスコルビン酸誘導体は,皮膚直下のメラノサイトに作用し,チロシナーゼの阻害剤としてメラニン色素の生成を抑える機能がある.このため,美白剤として昔から多くの化粧品で使用されている.分子量は400程度であるので,皮膚の透過もある程度は可能だが,その効果を発現するためには,角層を突破して皮膚深部に到達する必要がある.さらに,アスコルビン酸は分解しやすい化合物であるので,その安定性も機能発現の重要な要素となる.アスコルビン酸の浸透の画像解析結果を図6に示す.図から明らかなように,同濃度のアスコルビン酸を塗布したにもかかわらず,水溶液で塗布した場合に比べ,界面活性剤でナノコートしたアスコルビン酸(SNDP)誘導体は,明らかに皮膚の深部まで浸透していることが確認された.皮膚中のアスコルビン酸誘導体を実際に定量した結果,その浸透量は水溶液中のおよそ10倍であることも明らかとなった.さらに,アスコルビン酸の長期安定性試験を実施した結果,ナノカプセルでコートされたアスコルビン酸は,水中に溶解した場合に比べ分解速度が大きく低下することも示された.

 

図6 アスコルビン酸誘導体の皮膚浸透の画像解析

 

 次に有効成分としては最も重要なヒアルロン酸の経皮浸透性について検討した.ヒアルロン酸は分子量が数十万の大きな水溶性の高分子化合物である.ヒアルロン酸は代表的な保湿成分として知られており,化粧品でも多くの製品に配合されている.しかしながら,この分子量の大きなヒアルロン酸は皮膚透過が全く起こらないことから,通常はこのヒアルロン酸を加水分解したオリゴヒアルロン酸が化粧品では用いられることが多い.オリゴヒアルロン酸の原料も種々存在するが,一般には分子量8,000~10,000程度のものが主流である.実際,研究用の試料として,様々な分子量のオリゴヒアルロン酸を入手可能であり,いくつかの製品には蛍光物質を付加した修飾体も研究用として存在する.今回は,実際の化粧品に配合する分子量8,000のオリゴヒアルロン酸を用いて二重ナノコート粒子を調製した.先に示したフランツセルにヒト皮膚を装着して透過挙動を測定した結果を図7に示す.水溶液に溶解したヒアルロン酸は,皮膚をほとんど透過しないにもかかわらず,ナノコートしたヒアルロン酸は,浸透性が大きく向上することが確認できた.

 

図7 蛍光ラベル化ヒアルロン酸の単位面積当たりの浸透量(n=4)
W:水溶液,S:SNDP(二重ナノコート溶液)(蛍光ラベル化ヒアルロン酸として1mg/mL)

 

 

 さて,実際にヒアルロン酸の皮膚への透過(分配)が確認されたもののその透過機構は明らかにされていない.そこで,今回はヒアルロン酸の浸透経路を共焦点レーザー顕微鏡(ZEISS LSM700)で観察した.その結果を図8に示す.この図から明らかなように,ヒアルロン酸の皮膚透過は,細胞と細胞の周囲の細胞間脂質部分を染み込むように浸透することが明らかとなった.さらに,細胞間脂質の動きをFT-IRで解析した場合,油状ナノコート粒子の添加によって,細胞間脂質の揺らぎが大きくなることが示されている.また,角層を通過後は,ナノコート粒子が壊れ,深部にはヒアルロン酸のみが浸透される様子も確認されている[5].今回のナノテクPF支援事業によって,これまで皮膚透過が困難とされてきた分子量の大きな高分子化合物についてもナノコートカプセルの技術を用いることによって皮膚の透過を可能とし,さらには科学的にその証拠を得ることができた.

 

図8 共焦点レーザー顕微鏡によるヒアルロン酸の皮膚浸透画像

 

6.高浸透処方を利用した化粧品の実現に向けて

 今回の具体的な支援内容のポイントは,特許技術(後藤 雅宏,神谷 典穂,田原 義朗,“水溶性薬物キャリア及びその製造方法”,特許第5618307号,US 8568745)をいかに社会実装に使える技術として支援するかにあった.実際に化粧品「プリエクラ」(図9)を商品化する場合において,下記の2点が重要であった.

1)実際の最終製品を開発した際に,封入した有効成分が,本当に肌に高浸透するのかを科学的に実証(エビデンスの取得)すること.
2)商品の安全性ならびに安定性の担保とコストとの兼ね合い.

 

図9 ナノテクPF事業の支援を受けスギ薬局で商品化された化粧品「プリエクラ」

 

 1)に関しては,今回ナノテクPF支援で調製した二重ナノコート粒子を用いて,ヒト皮膚の浸透試験を行った結果,有効成分のビタミンCおよびヒアルロン酸のいずれにおいても,高浸透性が確認できた.また2)に関しては,学術的には,スフィンゴエミリン脂質を用いると最高の皮膚浸透性が得られるが,実際このような特殊原料はコストが高く,商品化は困難となる.しかしながら,化粧品原料としてすでに実績があるシュガーエステルを界面活性剤として用いることでナノ粒子の原価を抑えることができた.ただ,ナノ粒子の製造工程でどうしても凍結乾燥工程を経ることが必要なため,通常の化粧品原料に比べかなり高価になることは否めない.今後は,企画,製造,販売のそれぞれの機関の綿密な連携によって,さらに高機能な化粧品開発が進むことが期待されている.引き続き,ナノテクPF事業がそのお役に立てれば幸いである.

 

7.今後に向けて新成分の開発に着手

 冒頭にも述べたように,化粧品開発においては他社製品との差別化が鍵となる.このためアドファーマにおいても新成分の開発に着手しており,令和3年度もナノテクPF事業の支援を継続して製品開発が進められている.アドファーマでは,ヒト皮膚の表皮細胞を活性化し,抗酸化物質としてよく知られるグルタチオンの産生を促進するナールスゲン(a)および肌の組織を活性化するプラセンタ(b)を内包した二重コートナノ粒子の開発に取り組んでいる.それぞれの凍結乾燥後の二重コートナノ粒子体と水分散後の写真を図10に示す.凍結乾燥体はどちらも白色の固体として得られ,水に分散することで半透明な水溶液が得られることが明らかとなった.

 

図10 (a1,b1)凍結乾燥後の二重ナノコート体と(a2,b2)水分散溶液

 

 水中での二重コートナノ粒子の挙動を解析するため,動的光散乱法(DLS)による粒子解析を行った.結果を図11に示す.ナールスゲンおよびプラセンタを内包した二重コートナノ粒子の平均粒径(Z-average)は,それぞれ106nmおよび131nmであり,内包成分が異なる際にも水中でナノ粒子として安定に存在していることが確認された.また,多分散指数(PDI)も0.181および0.266であることから,二重コートナノ粒子は水中において粒径のバラつきが少なく安定に存在することもわかった.

 

図11 二重コートナノ粒子の水中におけるDLS解析:a)ナールスゲン,b)プラセンタ

 

 現在,アドファーマとスギ薬局では,これらの新規有効成分を活用した新商品の開発が進められている.近い将来,店頭に新たなナノテクPF事業支援の商品が陳列されることを期待している.

 

参考文献

[1] K. C. Madison, Barrier Function of the Skin: “La Raison d'Être” of the Epidermis, J. Invest. Dermatol., 121 231-241(2003).
[2] Y. Tahara, S. Honda, N. Kamiya, H. Piao, A. Hirata, E. Hayakawa, T. Fujii, M. Goto, A solid-in-oil nanodispersion for transcutaneous protein deliver, J. Control. Release 131 14-18(2008).
[3] 田原義朗,後藤雅宏, ‘油状ナノ基剤を用いたDDS技術と非侵襲性経皮ワクチンへの応用', 化学工学,83(7), 408-411(2019).
[4] K. Sato, K. Sugibayashi, Y. Morimoto, Effect and mode of action of aliphatic esters on the in vitro skin permeation of nicorandil, Int. J. Pharm., 43 31-40(1988).
[5] S. Kozaka, A. Kashima, T. Nakata, T. Ueda, R. Wakabayashi, M. Goto, ‘Effective transcutaneous delivery of hyaluronic acid using an easy-to-prepare reverse micelle formulation', Cosmetics, 7(3), 52 (2020).

 

(九州大学 後藤 雅宏)