NanotechJapan Bulletin

 メニュー
      


<ナノプラ次期共用事業>
マテリアルDXプラットフォーム構想とその実現のための取り組み
文部科学省研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当) 江頭 基

1.マテリアル革新力強化戦略の策定とマテリアルDXプラットフォームの構想

 マテリアルは,我が国が高い競争力を有する分野であるとともに,広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤です.その横串的な性格から,異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として広範な社会的課題の解決に資するとともに,未来の社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術とされています.これらの重要性に鑑み,文部科学省と経済産業省は「マテリアル革新力強化のための戦略策定に向けた準備会合」を設置し,マテリアル・イノベーションを創出する力(マテリアル革新力)の強化に向けた検討を実施しました.令和2年6月に,マテリアル革新力強化のための政府戦略策定に向けた基本的な考え方や,①データを基軸としたマテリアル研究開発のプラットフォーム整備,②重要なマテリアル技術・実装領域の戦略的推進,③マテリアル・イノベーションエコシステムの構築,④マテリアル革新力を支える人材の育成・確保といった今後の取組の方向性等を取りまとめました.その報告書も踏まえ,政府は令和3年4月,統合イノベーション戦略推進会議(議長:官房長官)の下,2030年の社会像・産業像を見据え,Society 5.0の実現,SDGsの達成,資源・環境制約の克服,強靭な社会・産業の構築等に重要な役割を果たす「マテリアル革新力」を強化するための戦略(「マテリアル革新力強化戦略」)を策定しました(図1)[1].同戦略では,国内に多様な研究者や企業が数多く存在し,世界最高レベルの研究開発基盤を有しているという我が国の強みを生かし,産学官関係者の共通ビジョンの下,①革新的マテリアルの開発と迅速な社会実装,②マテリアルデータと製造技術を活用したデータ駆動型研究開発の促進,③国際競争力の持続的強化等を強力に推進することとしています.

 

図1 マテリアル革新力強化戦略の概念図 [1]

 

 本戦略を踏まえ,文部科学省では,我が国が世界に誇る計算基盤や研究データベース,先端共用施設群や大型研究施設等のポテンシャルと強みを相乗的に活かし,世界を先導する価値創造の核となる「マテリアルDX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォーム」を構築しています(図2)[2].マテリアルDXでは幅広い課題解決に貢献するとともに,他分野のロールモデルとなる材料分野をユースケースとし,①データ創出から,②データ統合・管理,③データ利活用まで,一気通貫した研究DXを推進することとしています.以下にはその主なプロジェクトである①データ中核拠点の形成,②データ創出基盤(マテリアル先端リサーチインフラ事業)の整備・高度化,③データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクトについて述べたいと思います.

 

図2 マテリアルDXプラットフォーム構想のアウトライン [2]

 

1.1 データ中核拠点の形成

 物質・材料研究機構(NIMS)では,データを活用した材料開発の効率化・高速化・高度化を実現するため,日本全国の研究機関が行う材料関係の研究開発の際に創出されるマテリアルデータを収集・蓄積して広く研究者が利活用できるようにするため,これらを担う「データ中核拠点」の構築を進めています(図3).具体的には,NIMSでは最先端計測機器や計算科学を活用することにより,信頼性の高い研究・分析データの蓄積が進められてきました.このような貴重な「資産」を活かし,世界最大級のマテリアルデータベースを構築するとともに,集めたビッグデータを利活用できる材料データプラットフォーム事業を推進しています.また,後述のマテリアル先端リサーチインフラ事業と連携し,全国の先端共用設備から創出した高品質なマテリアルデータの戦略的な収集・蓄積を行うためのデータ流通基盤の開発に本年度から本格的に着手しています.高品質・高信頼性・高付加価値のデータが蓄積され利活用できるようになることで,研究者,研究機関,アカデミア,産業界の垣根を超えた高度で効率的な新規物質の探索や画期的材料の開発が可能となります.今後はさらにデータプラットフォームの機能の一つとしてAI解析機能を付与し,マテリアル研究者によるデータ駆動型研究の推進を図りたいと考えています.

 

図3 データ中核拠点で実現するシステムの模式図 [2]

 

1.2 データ創出基盤(マテリアル先端リサーチインフラ事業)の整備・高度化 [3]

 マテリアル先端リサーチインフラ事業では,データを活用した研究開発の効率化,高速化,高度化とマテリアル分野の研究開発環境の魅力向上のため,高品質なデータを創出することが可能な共用基盤の整備・充実を目指すことを目的としています.マテリアル革新力強化戦略において定められている重要技術領域ごとに強みを持つ先端設備群を有するハブと,特徴的な装置・技術を持つスポークからなるハブ&スポークの体制を構築し,最先端の研究設備の共用サービスをその活用ノウハウとともに提供します(図4).また,センターハブと位置付けているNIMSは,事業全体の運営を最適化するための組織「運営機構」の事務局を担っています.これらの体制の下で,ユーザーニーズが高いデータ対応型設備の導入と設備から創出されるデータの構造化等を行う人材を配置し,最先端共用設備の外部利用及びデータ収集・蓄積・構造化を通じたデータ利活用を促進します.

 

図4 データ創出基盤(マテリアル先端リサーチインフラ事業)推進体制マップ [2]

 

 具体的な取組として,令和3年5月より,運営機構の下にデータ連携基盤委員会を設置し,データ収集・蓄積・構造化とデータの利活用を実現するための諸課題について,検討を開始しました.当面は,本事業より各機関に新たに配置されたデータ人材が中心となり,データの自動収集・構造化のためのシステム構築を推進するとともに,データ共有・利活用に向けた制度設計等に取組みます.

 前身であるナノテクノロジープラットフォーム事業が,今年度で当初予定されていた事業期間を終了しますが,同事業でこれまで構築された全国の設備共用基盤とこれらを支える高い技術力をもった技術スタッフ等の人材が今後も最大限その能力が発揮されるとともに,今後重要となるデータ利活用のための更なる体制強化を進めていきたいと考えています.

 

1.3 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト [4]

 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクトは,従来の研究者のアイデアと,数多くの試作物の作成と評価の繰り返しを中心とした研究手法に,データやAI分析等を駆使した研究開発手法を取り入れ,産学による研究開発拠点を構築して取り組むこれまでにない材料開発プロジェクトです.本プロジェクトは,今後益々複雑化する材料開発の世界において,革新的機能を有するマテリアル研究開発を効率的に創出することを目的としていますが,マテリアルDXプラットフォーム構想下において,マテリアル先端リサーチインフラ・データ中核拠点,及び,先端大型施設(放射光,中性子,計算機「富岳」等)との効果的な連携の下で,研究DXのユースケースとして実践することも期待されています(図5).

 

図5 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクトの概念図 [5]

 

 令和3年度はFS(フィージビリティスタディ)期間として,様々なデータや大型研究施設,最先端計算機も活用する次世代の研究方法論の検討を開始したところです.具体的には,マテリアル革新力強化戦略に基づき,4つの社会像(カーボンニュートラルの実現,Society 5.0の達成,国土強靭化,Well-being社会)の実現に大きく貢献することが期待されるマテリアル領域(蓄電・水電解触媒材料,磁性材料,半導体材料,金属構造材料,バイオアダプティブ材料)を対象とし,

  • 取り組む研究開発課題(産業界ニーズの高さ,データサイエンスとの親和性)
  • 材料創製・理論計算・計測評価・データ活用の4Grの有機的な連携体制
  • マテリアル×デジタル人材の育成計画
  • マテリアル先端リサーチインフラ,データ中核拠点との連携体制
  • 先端大型施設との連携体制

について,ワークショップ(10~12月に開催予定)等を通じて,マテリアル分野における次世代の研究方法論を具体化し,令和4年度以降の本格始動に展開していくことを想定しています.

 

2.最後に

 マテリアル分野は,輸出産業の要であることに加え,アカデミア・基礎研究についても,我が国には,ノーベル賞受賞につながった青色発光ダイオードやリチウムイオン電池の開発をはじめ,革新的なマテリアルを数多く生み出してきた実績があり,我が国が強みを有する分野ですが,近年その強みが失われつつあります.

 文部科学省としては,上述の施策を中心に,大学等の先端的な共用設備から創出されたデータを各機関の枠組みを越えて共有・活用する仕組み作りや,データを活用して革新的な材料を開発し迅速な社会実装につなげることを目指すプロジェクトを進め,マテリアルDXによるデータ駆動型研究開発を推進することで,本分野における我が国の国際競争力強化につなげていきます.

 

参考文献

[1] 内閣府HP マテリアル戦略 https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material.html
[2] 文部科学省 第11期ナノテクノロジー・材料科学技術委員会(第1回)配布資料
https://www.mext.go.jp/content/20210706-mxt_nanozai-000016583_7.pdf
[3] 文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」採択機関の決定について
https://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/material_research_results_00001.html
[4] 文部科学省「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクトのFS実施機関」採択機関の決定について
https://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/data-driven_fs_results_00001.html
[5] 文部科学省

 

(文部科学省 江頭 基)