NanotechJapan Bulletin

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<ナノプラ次期事業>
マテリアル先端リサーチインフラ ~データ共用および設備共用への発展~
マテリアル先端リサーチインフラ運営機構長,物質・材料研究機構 ナノテクノロジープラットフォームセンター長 小出 康夫

1.マテリアル先端リサーチインフラの全体構想

 2021年度からスタートした「マテリアル先端リサーチインフラ」は,政府が策定したマテリアル革新力強化戦略に基づき[1],データ駆動型の研究開発をさらに加速すべく,高品質なマテリアルデータを産学官から効率的・継続的に創出・共用化するための仕組みを構築するための文部科学省事業です[2].そのような高品質なマテリアルデータを戦略的に収集・蓄積・流通・利活用できる仕組みを持つ,「マテリアルDX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォーム」を我が国全体として実現することを目標としています.全国各地に整備し蓄積してきたナノテクノロジープラットフォームの優良な研究基盤や,新たに導入する最先端・ハイスループットの設備を活用し,産学官の多様な利用者からの先端設備の共同利用を可能とする環境や,利用者に対する課題解決への最短アプローチの提供を図りつつ,高品質なデータの創出が可能な共用基盤の整備を実施する計画です.

 図1にマテリアルDXプラットフォームの連携構想を示します.図1において左側がマテリアル先端リサーチインフラを示しています.具体的には,最先端装置の共用,高度専門技術者による技術支援に加え,新たにリモート・自動化・ハイスループット対応型の先端設備を導入し(研究設備インフラの共用),装置利用に伴い創出されるマテリアルデータを,利活用しやすいよう構造化した上で提供(研究データインフラの共用)します.また,図1の中央に示す物質・材料研究機構(NIMS)が構築するデータ中核拠点を通じて,データを全国で利活用できる環境を整備し,2023年度からのデータの全国提供の開始を予定しています.更に,図1の右側に示す文部科学省の「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト」とも連携し[2],マテリアル先端リサーチインフラ,データ中核拠点,及びデータ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクトが三位一体となったマテリアルDXプラットフォームを構築することで,我が国のマテリアル革新力の一層の強化に貢献します.

 

図1 マテリアルDXプラットフォームの連携構想とマテリアル先端リサーチインフラ

 

2.マテリアル先端リサーチインフラの組織体制

 図2に,マテリアル先端リサーチインフラに参画する25法人のハブ&スポーク体制,運営機構,及びPD,サブPD,およびPOからなるプログラム運営委員会体制を示します.全国25の大学・研究機関は,それぞれに7つの重要技術領域を担っています.具体的には,図2に示すように簡略化して記述すると,①高度なデバイス機能マテリアル,②エネルギー変換マテリアル,③量子・電子マテリアル,④マテリアルの高度循環技術,⑤バイオマテリアル,⑥ナノスケールマテリアル,及び⑦マルチマテリアル化技術および高分子マテリアルの7領域です.

 

図2 マテリアル先端リサーチインフラの25法人のハブ&スポーク,運営機構,およびプログラム運営委員会体制

 

 それぞれ7つの領域の特徴は担当ハブ機関紹介を含めて以下の通りです.①多種多様な材料・構造・プロセスから成る高度なデバイス機能マテリアル(東北大学ハブ)は,例えばIoT普及のために必須であり,新しい価値と産業の創出につながります.ハブ・スポーク機関の特徴を有機的に結び付けて,機能材料を含む幅広いマテリアルに対応する共用設備群に発展させるとともに,最適な材料・構造・プロセスの組合せ検討に役立つマテリアルデータを収集し利活用できる環境を構築し,最先端のMEMSやパワーエレクトロニクスなど,高度なデバイスのデータ駆動型研究開発に貢献します.

 ②高効率・高機能な革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル(東京大学ハブ)の開発は,環境問題や希少資源問題の克服,カーボンニュートラルの実現などに直結しています.ハブ・スポーク機関が連携して,これらの課題に取り組むべく,高度な微細構造解析および微細加工技術に加えて,mdx(データ活用型社会創成プラットフォーム)を融合した新しい研究体制をとります.これにより,高度解析・加工技術の共用,データの収集,蓄積,構造化,利活用などを行う環境を構築し,太陽電池,熱電素子など革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアルのデータ駆動型研究開発に貢献します.

 ③量子・電子技術(NIMSハブ)は,Society 5.0の実現に向け重要な鍵となる最先端基盤技術の1つであり,今後の経済・社会の飛躍的な発展を遂げるために必要不可欠な革新的技術です.本領域では,ハブ・スポーク機関が有する特徴的な解析装置と高度な微細加工技術の共用および,マテリアルデータの収集・蓄積・構造化を強力に推進し,量子センサ,フォトニクスデバイス,単電子デバイスなど革新的機能を発現する量子・電子材料のデータ駆動型研究開発に貢献します.

 ④持続的発展可能な社会の実現には,マテリアルの使用量低減・代替・再利用や未使用資源の有効利用など,マテリアル循環のための技術(NIMSハブ)が欠かせません.本領域では,ハブ・スポーク機関が有する種々の先端機器の共用を通じて,代替材料や再生材料由来の物質合成,材料削減に資する触媒反応の可視化などマテリアル循環に関わる支援をするとともに,創出されたデータを効率よく収集・蓄積・構造化し,その利活用を図ることで,サステイナブルなマテリアルのデータ駆動型研究開発に貢献します.

 ⑤バイオマテリアル(名古屋大学ハブ)は,持続可能で一人一人の多様な幸せが実現できる社会を構築するために必要不可欠な最先端基盤材料の一つであり,その研究開発はホワイトバイオからレッドバイオまで非常に幅広い分野において加速しています.本領域は,ハブ・スポーク機関が有する合成,加工,構造解析の世界有数の先端共用設備群に加えて,生体適合性検証支援のためにin vivo実験環境の実現,高品質データ創出・収集・蓄積・構造化,データ利活用環境の構築を図ることで,データ駆動型のバイオマテリアル研究開発に貢献します.

 ⑥SDGsの具現化,Society 5.0の実現に必要な材料の宝庫であるナノスケールマテリアル(九州大学ハブ)は,ナノ構造材料に高い実績を持つハブ・スポーク機関が協働して支援します.これまでに培った合成,解析,材料機能開発の支援基盤に加えて,放射光を含めた多面的なデータ収集や,情報科学と先端計測の融合に基づくデータ解析の高度化など,新たな共用支援機能を整備展開します.研究支援を通して材料の構造・特性・プロセスが紐付けされた高価値なデータを創出し,ナノチューブ,ナノシートをはじめとするナノ構造体が機能発現するナノマテリアル領域において,データ駆動型の研究開発に貢献します.

 ⑦SDGsに示された様々な社会課題の解決のため,各種材料を接合・積層・複合化して飛躍的な特性を発現するマルチマテリアル化技術(京都大学ハブ)の重要性が高まっています.本領域では,マテリアル・イノベーションの鍵となる高強度・生分解性・生体親和性・自己修復性などの固有な特性を示す次世代高分子マテリアルやマルチマテリアルを対象に,ハブ・スポーク機関が有する加工・分析・構造解析設備の機器利用・技術代行等の共用を通じてマテリアルデータを創出し,その利活用による回路集積化学分析デバイスや生体機能チップの実現など,データ駆動型研究開発に貢献します.

 以上のように重要技術領域は6つのハブ機関と19のスポーク機関が担います.各領域に強みを持つ先端設備群を提供するハブ機関と,特徴的な装置・技術を持つスポーク機関からなるハブ&スポーク体制を形成し,ご利用いただく皆様の研究開発のパートナーとして貢献する体制を構築しています.同時に横断技術領域として,微細加工領域,微細構造解析領域,物質・合成領域の3つの領域において連携責任者が横串の連携を進める体制も構築しています.

 図3には,マテリアル先端リサーチインフラを構成する25法人のハブ&スポーク機関の全国マップ図を示します.上記説明したそれぞれ7つの重要技術領域に分かれたハブ&スポーク機関の全国25の大学・研究機関は,北海道から九州まで全国に配置され,データ共用および装置共用のネットワーク体制が構築されています.本事業の基礎となる全国的な最先端共用設備体制と高度な技術支援を提供する専門技術者は,2012年度から10年にわたり実施してきたナノテクノロジープラットフォームにより育成されてきました.これら基盤を十分に活かしつつ,データ収集・利活用という新しい視点を加え,これからの10年,新しい取組みに挑んでいくことになります.

 

図3 マテリアル先端リサーチインフラを構成する25法人の全国マップ

 

3.データ収集・構造化・蓄積・利活用体制

 図4に,データ収集・構造化・蓄積の構想を示します.マテリアルのデータ収集・構造化・蓄積は,装置登録した共用装置にセキュリティデバイスやウェブユーザインターフェースを介して,NIMSデータ中核拠点(DPFC)に整備されるクラウドサーバー内の「データ構造化アプリケーションシステム」に接続されます.このデータ構造化システムはNIMSセンターハブが令和3年度に開発する計画で,装置メタデータの自動翻訳と試料メタデータのテンプレートによるユーザー入力とによるデータ構造化を進めます.構造化されたデータセットはクラウド内の各ハブ機関が管理する蓄積サーバに蓄積されます.ハブ蓄積サーバを介してマテリアル先端リサーチインフラ内でのデータ共用を進める計画です.図4に示すピンク色のリサ―インフラ管理領域がこれに対応しており,本格的な稼働は令和5年からを予定しています.生データから装置メタデータの自動抽出と自動翻訳が行われるとともに,試料の物質・物性等のユーザーが入力する材料研究分野別メタデータについてはテンプレートが用意されるなど,データの再利用性を高めつつ,可能な限りデータ登録作業の自動化や負荷低減が図られる姿を目指しています.クラウド上管理によって,ユーザーはユーザー認証を経て,安全安心に遠隔よりデータ利活用が可能となります.6つのハブ用に設置されるクラウド上のハブデータ蓄積サーバは,IoT情報セキュリティデバイスを使ってスポークやハブが持つ装置からデータ蓄積サーバにデータを安全にかつ装置担当者の作業負荷を下げつつ転送する仕組みです.最終的に公開が可能となったデータセットはNIMSデータ中核拠点が管理するサーバ領域に送られ完全公開となる予定です.図4における青色領域が相当しています.

 

図4 データ収集・構造化・蓄積・利活用体制とデータ中核拠点の連携関係

 

4.まとめとして

 近年,マテリアル研究開発は,データを活用した研究開発の効率化・高速化・高度化と研究開発現場や製造現場全体のデジタル化及びスマート化といったDX化が急務となっています.こうした背景から,マテリアル先端リサーチインフラを発足させることで,これまで構築されたナノテクノロジープラットフォームを,ナノテクデータプラットフォームに進化させ,我が国のマテリアル・イノベーション創出に貢献することを目指しています.

 

参考文献

[1] 内閣府HP マテリアル戦略,マテリアル強化戦略(本文・概要),
https://www8.cao.go.jp/cstp/material/material.html
[2] 江頭 基,「マテリアルDXプラットフォーム構想とその実現のための取り組み」, Webマガジン NanotechJapan Bulletin, vol 14, No. 5, 2021, https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/material_dx/1.html

 

(物質・材料研究機構 小出 康夫)