NanotechJapan Bulletin

      

企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第1回>
FIB-SEM法を活用した腎糸球体足細胞の発生過程の解明
順天堂大学 市村 浩一郎,角田 宗一郎,川崎 優人,宮木 貴之,野波 隆寛,小池 正人,坂井 建雄,生理学研究所 宮崎 直幸,村田 和義
名古屋大学 中尾 知代,榎本 早希子,荒井 重勇

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(左から) 順天堂大学 市村 浩一郎,名古屋大学 荒井 重勇,榎本 早希子,中尾 知代

1.はじめに

 足細胞(podocytes)は糸球体の表面をなす上皮細胞であり(図1),独特な突起構築を持つ[1][2].糸球体とは腎臓において血液を濾過し,尿を生成する組織であり,足細胞は血漿タンパク質が尿中へ漏れ出るのを防ぐ重要な役割を持つ.糸球体疾患患者では足細胞の突起構築に特異な形態変化を生じるため,病態の評価には足細胞の電顕観察が重視されている.

 足細胞はボウマン腔(図1,アスタリスク)と呼ばれる尿で満たされた空間に面しているため,走査電顕(SEM)による形態観察に適し,現在に至るまで足細胞の形態解析にはSEM観察が大きな役割を果たしてきた(図1A,C).しかし,従来のSEM観察だけでは足細胞の立体構造を詳細に解析することは困難であった.その主な理由は二つあり,一つは足細胞が糸球体基底膜という基質に張り付いているために,裏面(接着面)の観察が困難であること,もう一つは糸球体の表面が起伏に富み,足細胞の一部が深い谷間に入り込んでいるためである.

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図1 従来の電顕法で見た糸球体と足細胞(ラット)
(A,B)糸球体のSEM像(A)とTEM像(B).糸球体の最表面に見えている突起を無数に伸ばしている細胞が足細胞である.
(C)足細胞のSEM像.隣接する3つの細胞を異なる色で示してある.細胞体(CB)から太い一次突起(P)が伸び出し,
さらに一次突起から細かな足突起が無数に伸び出している.
(D)足細胞のTEM像.定圧灌流固定を施しているため,糸球体毛細血管(Cap)の壁がピンと張り詰めている.
アスタリスクはボウマン腔(尿腔)を示す.

 

 こうした問題を乗り越え,足細胞の全体像を詳細に把握するには,連続超薄切片の透過電顕(TEM)観察が有用であるが[3][4][5],この手法は高度なグリット操作と多大な労力を要することから,一般の研究者がこれを活用することは現実的には難しい.そこで,第3の手法として挙げられるのが,近年活用が進んでいるFIB-SEMやSBF-SEMである[6][7].これらの電顕法は樹脂包埋したサンプルをSEMの鏡体内で切削し,切削面から断面像を得る手法であり,切削と撮影は全自動で繰り返し行うことができる.さらに,得られた連続像から任意の構造を抽出・再構築し,立体構造を解析することが可能である.

 著者らは足細胞の立体構造解析におけるFIB-SEMやSBF-SEMの有用性に早くから着目し,これらを活用して足細胞の正確な構造階層性[8]や発生期における突起構造の形成過程[9],病態時における突起消失・再生過程(投稿中)を世界に先駆けて明らかにしてきた.これら一連の研究は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業・微細構造解析プラットフォーム(名古屋大学),生理学研究所,日本FEIの支援を得て実施されたものであり,本稿では特にナノテクノロジープラットフォーム事業の支援が大きく関与している成果である「足細胞の突起形成過程の完全解明」について紹介したい.なお,この研究成果は,英国科学雑誌 Journal of Cell Scienceのオンライン版に原著論文として公開されており(日本時間:2016年7月12日),同誌の特集号"Special Issue for 3D Cell Biology"(2017年1月号)に掲載予定である.

2.足細胞の立体構造 ~従来の認識~

 正常な成熟足細胞は3つのコンパートメント(細胞体,一次突起,足突起)からなり(図1),これらが順に連なり構造階層をなすとこれまでは考えられてきた(図2a).一次突起とは細胞体から直接伸びる太い突起で,一次突起から出る細い突起が足突起である.隣接する足細胞どうしは足突起によって噛み合っており,足突起間の隙間(スリット間隙)を通じて濾過が行われる.スリット間隙には特殊化したタイト結合であるスリット膜が張られている.スリット膜は「バリア」としての機能を持ち,血漿タンパク質の尿への漏出を防いでいる.

 先述のように,従来のSEM観察では足細胞を腔側面からしか見ることができず,その立体構造は完全に把握されていなかった.特に,一次突起や細胞体と基底膜の関係については断片的にしか分かっておらず,また足細胞の高度な突起構造が発生期にどのように形成され,傷害時にどのように消失・回復するかはほぼ分かっていなかった.


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図2 足細胞の新・旧構造階層性

(a)従来の単純な構造階層.
(b)FIB-SEM法を活用した立体構造解析により,足突起は細胞体・一次突起の
裏面にできる畝状隆起から伸び出ることが新たに判明した.

3.FIB-SEM法による足細胞の立体構造解析

 実験動物において足細胞のFIB-SEM解析を行う場合には,腎臓を定圧灌流固定することが望ましい.定圧灌流固定とは,固定液を血圧と同等(もしくはそれ以上)の静水圧で動脈内に注入し,目的の臓器を効率よく固定する方法である.この方法は超微形態の死後変化を最小限に抑えるだけでなく,糸球体の毛細血管壁をピンと張り詰めたまま固定し,毛細血管表面を覆う足細胞を生時と同じ状態に引き伸ばしておく利点があり,再構築像も美しいものとなる.

 サンプルは細胞膜のコントラスト増強のために多重ブロック染色を施したのち,アルコール脱水したサンプルをエポキシ樹脂に包埋している.硬化した樹脂包埋サンプルの表面をダイヤモンドナイフで露出し,糸球体の領域からFIB-SEMにより通常は400~700枚の連続断面像を撮影する.連続断面像からの足細胞の抽出(セグメンテーション)と再構築には立体構築解析システムAmira 6.0(FEI)を用いている.

3.1 正常な足細胞の立体構造

 立体再構築像を表面(腔側面)から見ると,従来のSEM像をよく再現していることが分かる(図3A).足細胞は糸球体基底膜に接着しているため,従来のSEMでは足細胞を裏面(接着面)から観察することは困難であるが,立体再構築像ならば裏面の観察も容易に行える(図3B,F).意外なことに,裏面は足突起によって占められているように見え,一次突起や細胞体の位置が一見分からない.

 単一の足細胞の再構築像を観察すると,足突起が一次突起から伸び出る様式を明瞭にすることができる.表面から見ると,一次突起と足突起の関係は葉脈のように見えるが,裏面から見るとその関係はそう単純ではない(図3).一次突起の下面には畝状に隆起した部分(畝状隆起 ridge-like prominence)が形成され,足突起はこの畝から左右に向って伸びている(図3D).つまり,畝状の隆起は一次突起の接着装置であるとともに,足突起と一次突起の連結装置であるともいえる.細胞体の下面においても同様な様式で足突起が伸び出しており(図3E),足細胞の正確な構造階層は(図2b)のようになっていると言える.また,先述したように,複数の足細胞が連結した状態だと裏面が足突起に占領されているように見えるが,これは畝状隆起の幅が足突起とほぼ同じであるため,細胞体や一次突起から出る畝状隆起を足突起と区別し難いことによる.

 隣接する二つの足細胞間にはスリット膜が形成されるが,3細胞間結合部の構造はこれまで分かっていなかった.FIB-SEM解析では,しばしば足細胞の3細胞間結合部を見付けることができ,この部位ではスリット膜が形成されず形態的にはタイト結合をなすことが分かった(図3F,G).3細胞間結合部の同定は通常のTEMでは不可能であり,これもFIB-SEM解析により初めて判明したことの一つである.

 なお,再構築像は3Dプリンタで出力し,手に取り観察することも可能であり(図3H,I),教材としても活用できる.

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図3 成熟足細胞の立体構造(ラット)

(A,B)隣接する3つの成熟足細胞の再構築像.腔側面から見ると足細胞の3つのコンパートメント
(細胞体,一次突起,足突起)のすべてが確認できるが(A),裏面は足突起に占められている(B).
(C,D)一次突起とそこか伸びる足突起の再構築像.腔側面からみると葉脈のように単純な形態に思えるが(C),
裏面から見ると足突起は一次突起の裏面に形成された畝状の隆起を介してお互いにつながっている(D).
(E)細胞体の裏面.細胞体でも一次突起と同様に畝状隆起が見られ,そこから足突起が伸び出ている.
(F,G)足細胞の3細胞間結合部(矢印).スリット膜は形成されず,タイト結合に連結している.
(H,I)3Dプリンタで出力した成熟足細胞の一部分.硬質の半透明樹脂に出力したのち,腔側面を緑色,基底面(接着面)を黄色に着色した.

 

3.2 発生期における足細胞の突起形成過程

 糸球体の発生過程は7つのステージに区分され,そのうち足細胞の突起形成が見られるのはS-shaped body stage,Capillary loop stage,Maturing glomerulus stageである(図4).好都合なことに,これらのステージは発生期のひとつの腎臓内で全て観察することができる.

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図4 糸球体の発生ステージ(ラット)

発生初期では足細胞の細胞体は密集しており,糸球体はブドウの房のように見える(A1,A2).
突起の形成は細胞体の直下で既に始まっているが,従来の走査電顕観察ではこの過程を観察することができない.
SEM像(A1,B1,C1),足細胞の形態変化を示す模式図(A2,B2,C2).


 S-shaped body stageでは,足細胞は円柱状であり,タイト結合やアドヘレンス結合からなる結合装置複合体で連結され,円柱上皮を成している(図4A1-A2,5C).腔側面から見ると足細胞は敷石状に見えるが,反対に基底側から見ると隣接する細胞間で不規則に入り組んで見える(図5A-D).

 

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図5 足細胞の発生過程(ラット)

(A-D)S-shaped body stage.足細胞は円柱状であり,他の上皮細胞と同様に細胞間結合装置(黄色)で連結している.
細胞間結合装置は基底方向に下行していくが,三細胞間結合部(tricellular junction,水色)が先行して下行する.


 次いで,Capillary loop stageの初期には,足細胞は互いに細い突起(原始足突起primitive foot processes)により噛み合うようになる(図6A).結合装置複合体(図6A,黄色)は原始足突起の直上まで下行しているが,原始足突起どうしの間にはスリット膜を含む細胞間結合装置は存在しない.さらに発生が進みCapillary loop stageの後期に入ると,足細胞は複数の一次突起を形成する(図6B,C).これに伴い,結合装置複合体は一次突起を縁取って位置するようになる.原始足突起は主に一次突起から伸び出し,長さが増すとともに,分岐したものも見られるようになる.

 Maturing glomerulus stageになると,一次突起は太さと長さを増す(図6D,E).結合装置複合体は原始足突起どうしの間に位置するようになり,足突起は未熟足突起(immature foot processes)となる.一次突起の成熟過程は均一ではなく,ひとつの足細胞内に様々な成熟段階が見られる(図6E1-5).始め一次突起は広い面積で基底膜と接着しているが,その接着面が徐々に狭まり,畝状隆起となる.

 未熟足突起間の細胞間結合装置はスリット膜に置き換わると,足突起間にスリット間隙ができ,未熟足突起は成熟足突起(mature foot processes)となる.さらに生後の発達過程で足突起内にアクチン線維の太い束が形成され,高い糸球体内圧から糸球体壁を保護するうえで役立つ[10][11].

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図6 足細胞の発生過程(ラット)

(A)Capillary loop stage(初期).原始足突起が形成されるが,突起間にスリット膜は見られない.
(B,C)Capillary loop stage(後期).一次突起が見られるようになる.細胞間結合装置は一次突起を
縁取るように位置し,原始足突起間にはスリット膜は見られない.
(D,E)Maturing glomerulus stage.一つの細胞内に様々な発達段階の一次突起(1-5)が見られる.CB 細胞体.

 

4.FIB-SEM法による解析の課題とその解決策

 FIB-SEM法によりこれまで認識されていなかった足細胞の立体構造が明らかになり,足細胞の構造解析における本法の威力が証明されたわけだが,いくつかの問題点も浮き彫りになってきた.最も大きな問題となるのは,連続断面像から目的の細胞を抽出する作業(セグメンテーション)をマニュアルで行わなければならない点である.足細胞の複雑性から自動抽出は現時点ではほぼ不可能である.連続像を一枚一枚見ながら行う抽出作業は,数百枚のTEM像を観察することに匹敵し,その過程で重要な所見を見出せることも多々あり,意義のある作業ではあるものの,解析の効率化には高度な自動抽出を可能とした画像解析ソフトの開発が切望される.

5.おわりに

 今後はFIB-SEM解析を一層活用し,足細胞に残された形態問題を解決してゆくとともに,ネフロン構成細胞の全種類を網羅した「Kidney Cell 3D Atlas」の作製を目指している.さらに,FIB-SEM解析はヒトの糸球体疾患において足細胞傷害を形態的に評価するうえでも有用なツールとなることは間違いなく,病理学分野での活用が進んでゆくものと予想される.

謝辞

 FIB-SEM解析は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業・微細構造解析プラットフォーム(名古屋大学)および日本FEIの支援を受けて実施された.またSBF-SEM解析は生理学研究所の支援を受け実施された.足細胞の立体構造に関する一連の研究は,JSPS科研費15K18960,23590226の助成を受けている.

参考文献

[1] Ichimura, K., Sakai, T.: Evolutionary morphology of podocytes and primary urine-producing apparatus. Anat. Sci. Int. (doi:10.1007/s12565-016-0368-4)
[2] Kriz, W., Kaissling, B.: Structural organization of the mammalian kidney. In: The Kidney, Physiology and Pathophysiology. 3rd ed. (Ed) Seldin, D.W., Giebisch, G., Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, pp 587-654 (2000)
[3] Harris, K.M., Perry, E., Bourne, J., Feinberg, M., Ostroff, L., Hurlburt, J.: Uniform serial sectioning for transmission electron microscopy. J. Neurosci., 26: 12101-12103 (2006)
[4] Hoffpauir, B.K., Pope, B.A., Spirou, G.A.: Serial sectioning and electron microscopy of large tissue volumes for 3D analysis and reconstruction: a case study of the calyx of Held. Nat. Protoc., 2: 9-22 (2007)
[5] Ichimura, K., Kurihara, H., Sakai, T.: Primary cilia disappear in rat podocytes during glomerular development. Cell Tissue Res., 341: 197-209 (2010)
[6] Kubota, Y.: New developments in electron microscopy for serial image acquisition of neuronal profiles. Microscopy, 64: 27-36, 2015.
[7] Ohno, N., Katoh, M., Saitoh, Y., Saitoh, S., Ohno, S.: Three-dimensional volume imaging with electron microscopy toward connectome. Microscopy, 64: 17-26 (2015)
[8] Ichimura, K., Miyazaki, N., Sadayama, S., Murata, K., Koike, M., Nakamura, K., Ohta, K., Sakai, T.: Three-dimensional architecture of podocytes revealed by block-face scanning electron microscopy. Sci. Rep., 5: 8993 (2015)
[9] Ichimura, K., Kakuta, S., Kawasaki, Y., Miyaki, T., Nonami, T., Miyazaki, N., Nakao, T., Enomoto, S., Arai, S., Koike, M., Murata, K., Sakai, T.: Morphological process of podocyte development revealed by block-face scanning electron microscopy. J. Cell. Sci. (doi: 10.1242/jcs.187815)
[10] Ichimura, K., Kurihara, H., Sakai, T.: Actin filament organization of foot processes in rat podocytes. J. Histochem. Cytochem. 51: 1589-1600 (2003)
[11] Ichimura, K., Kurihara, H., Sakai, T.: Actin filament organization of foot processes in vertebrate glomerular podocytes. Cell Tissue Res., 329: 541-557 (2007)


(順天堂大学 市村 浩一郎)


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