NanotechJapan Bulletin

      

企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第16回>
金属/半導体複合ナノ粒子の合成と評価 ~シームレスな実験環境を整備してプラズモニクスに適用される高機能ナノ粒子の実現を目指す~
室蘭工業大学 葛谷 俊博 准教授と名古屋工業大学 濱中 泰 教授に聞く

 

液相ナノ粒子合成装置を背に 葛谷 俊博氏(左)と濱中 泰氏(右)

 

 ナノ粒子はバルク材料にない機能を発揮する.金属ナノ粒子に光を照射すると金属中の自由電子の集団振動と共鳴して光電場が増強される.ここに半導体を接合しておくと半導体に強い光が集中することになり,光デバイスの変換効率が上がる.このような機能を持つ金属/半導体複合ナノ粒子の合成と評価の研究が,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業による名古屋工業大学の“分子・物質合成プラットフォーム”[1]の支援で進められた.その結果,工夫された簡便な液相法で,Ag/CuInS2複合ナノ粒子が合成され,その構造解析に基づき複合ナノ粒子の形成メカニズムが明らかにされた[2][3][4].この成果は,室蘭工業大学大学院 もの創造領域 先進マテリアル工学ユニット 准教授 葛谷 俊博(くずや としひろ)氏[5]と名古屋工業大学大学院 物理工学専攻 教授 濱中 泰(はまなか やすし)氏[6]らとの共同研究によるものである.濱中教授はプラットフォームの支援者でもある.そこで,この研究成果の内容や分子・物質合成プラットフォームの研究支援・活用状況などを伺うために,名古屋工業大学(以下,名工大)鶴舞キャンパスの濱中研究室[6]を訪ねた.なお,葛谷氏には北海道からご足労いただいた.

 

1.名工大 分子・物質合成プラットフォームの活動

1.1 名工大 スマートマテリアル創成支援 [1]

  名工大 分子・物質合成プラットフォーム(以下,PF)はスマートマテリアル創成支援を謳い,次の5つの事業を行っている.

複合ナノ粒子の気相合成支援:気相法による複合ナノ粒子の合成,電子顕微鏡および分光分析法を複合的に使用する各種デバイス材料の磁気・電気・光学特性の評価
生物分子関連の新規化合物合成支援:微生物等の細胞の認識・識別・構造解析が可能なナノ構造解析装置による新規化合物の合成と生物分子との相互作用等の詳細な解析
メスバウアー分光支援:ナノスケールの微粒子,析出物,薄膜などの局所物性評価
ナノカーボンの環境に優しい合成と評価支援:種々の基板表面へのナノカーボンの室温形成と評価,高結晶性ナノカーボンの低温合成,および,有機半導体との融合デバイスの開発と評価
分子合成テンプレート創成と評価支援:各種基板材料の超平滑面の形成,および分子合成用マイクロラボ創成と分子合成挙動評価

 図1に,これらの支援のための供用装置の例を示した.この中で,メスバウアー分光装置は,量子科学研究機構の放射光を用いたもの以外,他のPFにはなく,通常の実験室環境で使える唯一の装置として,磁性材料の微細構造の解析などに用いられている[7].

 

図1 名古屋工業大学 分子・物質合成プラットフォームの供用装置の代表例

 

 本稿の,金属/半導体複合ナノ粒子の合成と評価は,上記①の一環として行われた.

 

1.2 複合ナノ粒子の合成と評価支援における利用設備

 複合ナノ粒子の気相合成支援には,ナノサイズ金属・酸化物のコアシェルクラスターやバイメタルクラスターの試料を作製するスパッタリング法と希ガス中凝縮法を組合せた図1の「プラズマ・ガス凝縮クラスター堆積装置」と,さまざまなナノ物性評価装置が供用されている.ナノ物性評価装置には,高周波透磁率測定装置,PL(フォトルミネッセンス)スペクトル・PL寿命測定装置,UV/VIS/NIR(紫外/可視/近赤外)分光光度計など多数を備え,かつこれらを活用・駆使する高度のノウハウを保有しており,本稿の研究や学内外の研究支援に活躍している(図2).

 

図2 複合ナノ粒子合成と評価支援に活躍するナノ物性評価装置

 

1.3 本研究におけるPFの貢献

 本研究において当PFの果たした役割を,支援実施者の濱中氏は次のように語った.「利用者である葛谷氏は液相プロセスによるナノ粒子合成に精通しているが,今回のような複合ナノ粒子の開発においては,合成方法の迅速な改良,時間と共に変化し易いナノ粒子を合成後即座に構造を分析する手段,および光物性物理学に基づくナノ構造設計およびデータ分析手段などを求めていた.そこでPFとしては,利用者が提案した合成法に基づき,PFが保有する合成装置で対応できるよう共同で合成プロセスを考案した.その結果,高いプラズモン特性を有する新規金属/半導体複合ナノ粒子の合成と,ナノ構造の形成機構の解明に成功し,PFの役割を果たすことができた.」

 供用装置などと対応させて言い換えると,名工大PFの貢献は,以下の2点に要約される.

①ナノ粒子の合成から構造評価・物性評価までを連続して実施できるシームレスな実験環境を提供し,研究を加速させた.
②原子分解能分析電子顕微鏡により単一ナノ粒子内部の界面構造の詳細な情報を得て,ナノ粒子の形成プロセスの解明に貢献した.

 

2.金属/半導体複合ナノ粒子研究の背景

2.1 ナノ粒子の機能

 100年前に生まれた量子力学は,電子が粒子と波の二重性を持つことを教えた.物質中の電子に固有な,ある量子力学的長さ(ド・ブロイ波長)に比べて十分に大きな空間において,電子は自由に振舞うが,それより小さい10nm程度の空間に閉じ込められると,電子のエネルギー状態は連続なバンドから離散準位に変わる.この量子力学的サイズの半導体ナノ粒子は量子ドットとも呼ばれキャリアの量子閉じ込め効果に基づく発光・吸収波長の制御が可能であり,太陽電池,蛍光体,光触媒等への応用が注目されている.

 一方,金属に光を照射すると,金属中の自由電子は光電場によって集団振動(プラズマ振動)を起こす(図3).ナノ粒子ではそこに局在した局在プラズモンが励起され,金属ナノ粒子表面には入射光よりも100倍程度強い光電場を伴った近接場光が発生する.

 

図3 光による金属自由電子の集団振動

 

 局在プラズモン共鳴の励起に伴い,金属ナノ粒子は共鳴周波数に応じた光を吸収する.例えば,粒子径17.5nmの金ナノ粒子は波長550nmの光を吸収し,粒子径9.8nmの銀は420nmの光を吸収する(図4).それ故ガラスに金や銀のナノ粒子を混ぜると色がつく(身近な例として,ステンドグラスや切り子ガラスがある).

 

図4  Au,Agナノ粒子の共鳴吸収

 

 また局在プラズモン共鳴の振動分極によって近接場光が発生し,強い光電場が形成されるから,近傍にある物質はこの増強された光電場を感じ光が強く作用する.このようなアンテナ効果を利用するプラズモニクスの研究が進んでいる[8][9][10].つまり図5に示すように強い光を照射したことと同等の状況が生まれ,光機能材料や光化学反応の効率が向上し,高感度な光センシングが可能になる.太陽電池の変換効率の向上にも有効である.このような効果は表面増強ラマン分光(SERS)[11]の原理として知られている.

 

図5 ナノ粒子のアンテナ効果

 

2.2 ナノ粒子の光機能利用を狙って金属や半導体ナノ粒子の合成と評価

 利用者の室蘭工業大学の葛谷氏[5]は,名古屋工業大学 隅山教授,濱中准教授のもとで,経済性に優れ,環境に優しいエネルギー源の実現に向け,I-VI,I-III-VI系(Cu2S,CuInS2など)ナノ粒子の合成手法開発に努めてきた.氏らの合成方法はキャッピング剤やカルコゲンを共に含むドデカンチオール錯体を原料とすることに特徴がある.また葛谷氏は,室蘭工業大学が地方の大学として地域の活性化に貢献しようという方針の下,得意とするナノ粒子関連の技術・ノウハウで地域のガラスメーカーに協力し,プラズモニクスや希土類元素を工芸用ガラスに展開,二色性など特徴のある希土類切子ガラスなどの開発・商品化を支援している.この製品は,小樽への外国人観光客に好評という.

 一方,支援実施者の名工大の濱中研究室[6]では,安全安価でかつ高機能なナノ光デバイス材料の開発を目標として,ナノ粒子の研究を行ってきた.材料専門家の協力のもとに,サイズ,形態の制御されたナノ粒子を化学合成し,レーザーを用いた分光学的な物性研究,電子ビームを使って“粒子1個”のナノ構造の顕微分析の研究を行っている.ナノ粒子の合成も行うが光物性側からのアプローチがメインである.半導体ナノ粒子の先行研究の代表例として,CdSe量子ドットの量子閉じ込め効果を利用した可視光全域に渡る蛍光波長のチューニングや,また一時は市場を席巻したCdTe太陽電池などの研究がある.これらのII-VI族化合物半導体の問題は有毒元素のCdやSe,Teを含むことである.そこでこれら有毒元素を含まないCuInS2,AgInS2などのカルコパイライト結晶構造のI-III-VI2族半導体ナノ粒子の研究が進められた(図6).

 

図6 多元素化により有毒元素を回避:カルコパイライト結晶構造のI-III-VI2族半導体

 

 濱中氏は,錯体間のメタセシスな反応によりAgInS2ナノ粒子を合成している.酢酸銀(CH3COOAg),酢酸インジウム((CH3COO)3In),ドデカンチオール(CH3(CH2)11SH)溶媒,硫黄(S)粉末をフラスコに入れてArガス雰囲気で150~270℃に加熱して合成する.この中で,ドデカンチオールが還元剤として働き,S2-イオンが生じ金属イオンと反応しAgInS2が析出する.チオールはI族との親和性が高いので,粒子表面に強固に結合して粒子成長を阻害し,粒子の大きさは3nm以下となる.発光メカニズムを調べると,ナノ粒子結晶内に形成されたS空格子点(vacancy)がドナー,Ag空格子点とAg格子間原子(interstitial atom)がアクセプタとなる.光によって電子・正孔対が励起され,ドナー・アクセプター対に電子と正孔がトラップされ,トラップされた電子と正孔が再結合して発光するDAP(ドナーアクセプター対)発光のメカニズムを明らかにした.

 両氏のこのような研究背景のもとに,ナノ粒子合成に長けた葛谷氏と,ナノ粒子の光物性を研究してきた濱中氏が共同研究チームを組み,PFの共用設備を駆使して,金属と半導体が接合した新規なAg/CuInS2金属/半導体複合ナノ粒子の合成と評価を進めることになった.狙いは,金属ナノ粒子のプラズモニック効果に起因する高い光機能性と半導体ナノ粒子へのエネルギー移動パスを付与することである.当面の目標は,金属Agナノ粒子がCuInS2に内包されているコアシェル型複合ナノ粒子(以降Ag@CuInS2)と,CuInS2表面の一部に金属Agが析出し共に外部と接するヤヌス型複合ナノ粒子(以降Ag/CuInS2)とを合成し,合成反応のメカニズムと生成物の光学的特性を明らかにすることである.

 

3.金属/半導体複合ナノ粒子の合成

3.1 コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子の合成 [2]

1)合成装置と合成プロセス

 葛谷‐濱中氏考案による複合ナノ粒子の合成法は,図7左に示すような丸底フラスコを用いる簡単な液相合成方法である.図右に合成プロセスを示す.プロセス図から分かるようにはじめにコアとなるAgナノ粒子を形成し,次いでその表面にCuおよびInのチオール錯体の熱分解により,シェルとなるCuInS2を析出させるものである.

 

図7 コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子の液相合成装置(左)と合成プロセス(右)

 

2)合成プロセスにおけるAg@CuInS2複合ナノ粒子の組成および構造変化

 PFの透過電子顕微鏡(TEM)等を駆使して合成プロセス段階におけるナノ粒子の組成および構造変化を調べた.その結果を図8に示す.

 

図8 コアシェル形Ag@CuInS2複合ナノ粒子のTEM観察結果
(a)Agナノ粒子のTEM像,(b)コアシェル形Ag@CuInS2複合ナノ粒子,
(c)Tiltによる像の変化(左:0°,右:30°Tilt),(d)コアシェルナノ粒子の暗視野像

 

 図8(a)はコアとなるAgナノ粒子のTEM像である.粒径は平均5.4nmで,粒子径が比較的そろっていることが分かる.電子回折パターンより,Agのfcc (1 1 1), (2 0 0), (2 2 0), (3 1 1)に由来する回折リングが認められAgナノ粒子であることが確認されている.

 次に,シェル形成後のナノ粒子の組成・構造を調べた.図8(b)はAg-CuInS2複合ナノ粒子のTEM像で,平均粒径7.5nmの複合ナノ粒子が観察された.Agのリングパターンとともに,CuInS2(結晶構造:カルコパライト)の (1 1 2), (2 0 4)/(2 2 0), (3 1 2) )に由来する回折リングが認められ,CuInS2相ができていることが確認された.またステージを30°ティルトさせたがその構造に大きな変化がみられないこと(図8(c)),および暗視野造像(図8(d))などからコアシェル構造をしているのが分かる.さらにコアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子EDS(X線エネルギー分散分光)スポット分析から,中心部はコアのAgが,周辺はシェルのS,In,Cuが豊富に存在することが確かめられた.

 HR-TEM像は,コアのAgナノ粒子の表面にシェルCuInS2がエピタキシャル成長していることを示している(fcc Agの{1 1 1}面とカルコパライトCuInS2の{1 1 2}面が接合している).また条件によっては,シェル層がウルツ鉱タイプのCuInS2が生成することも確認された.

 

3.2 Ag/CuInS2複合ナノ粒子の合成 [3][4]

 色素増感型太陽電池の色素を模したナノ構造体の合成を目指し,AgとCuInS2を組み合わせたAg/CuInS2ナノ粒子の合成を試みた.Agは酸化物に対し双極子相互作用に起因する強い吸着性を持つことから,AgをCuInS2外部に析出させることで,Agが色素中のカルボキシル基やアミンのようなアンカー基として働くのではないかと考えた.また,Ag中の電子の平均自由行程は50nmと大きく,バリスティックな電子伝導が期待できる.このような複合ナノ粒子は太陽電池や光触媒など粒子中で変換されたエネルギーを外部に取り出すのに最適な構造であると考えられる(図9).

 

図9 Ag/CuInS2複合ナノ粒子を利用した湿式太陽電池模式図(電子伝導パスと局在プラズモン効果)

 

1)Ag/CuInS2複合ナノ粒子の合成プロセス

 Ag/CuInS2複合ナノ粒子は,図7と同じ液相合成装置(図10右)を用い,CuAgSナノ粒子を合成し,次いでこれをカチオン交換法により複合ナノ粒子に転化した.この方法ではCuAgSナノ粒子中のAgが選択的にInイオンと交換し,次いでAgイオンがナノ粒子表面で還元されることで,Ag/CuInS2複合ナノ粒子となる.合成プロセスを,図10(左,中)にまとめて示す.

 

図10  Ag/CuInS2複合ナノ粒子の合成プロセス

 

2)合成プロセスにおけるAg/CuInS2複合ナノ粒子の組成および構造変化

 反応途中のナノ粒子の構造を透過電子顕微鏡とXRD(X線回折)により調べ,複合ナノ粒子の形成メカニズムを調べた.図11にCuAgSナノ粒子のSTEM写真を示す.

 

図11  CuAgS種ナノ粒子

 

 反応時間を変えて生成したナノ粒子を観察すると,上記CuAgSナノ粒子は,反応時間とともに形態が変化し,開始5分後にはSEMおよびHRTEM(高分解能TEM)像(図12)にみられるようにacorn型(ドングリ状)複合ナノ粒子となった.このacorn型複合ナノ粒子は,EDX分析によりAg,CuAgS,CuInS2の三相からなることが確認された(Ag/CuAgS/CuInS2).

 

図12  acorn型(ドングリ状)複合ナノ粒子

 

 さらに反応時間が経過し30分後には,3相からなるacorn型ナノ粒子は消滅し,Agと周辺のCuInS2を示す2相で構成されるworm型(イモムシ状)複合ナノ粒子(図13)へと変化した(Ag/CuInS2).この変化は,Agが還元析出して生成したAg空孔がナノ粒子中を拡散し,そこにInイオンが侵入することによって最終的にAg/CuInS2複合ナノ粒子が形成されたと考えられる.

 

図13 カチオン交換開始30分後のナノ粒子像とEDXマッピング像

 

 なお,acorn型ナノ粒子の場合AgはCuAgS相上に選択的に析出している.これはCuAgS/CuInS2ヘテロストラクチャーのバンドアライメントがTypeⅡ型であるため,CuAgS相における電子ポテンシャルがCuInS2相に比べ低くなり,Agの還元がCuAgS相で選択的に生じたと考えられる.

 

4.金属/半導体複合ナノ粒子の光物性

4.1 コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子の光学特性

 図14(a)にAgナノ粒子(図中ではAg seed NPs),コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子(図中ではAg@CIS)のUV-可視光吸収スペクトル,および計算より求めたこれらの吸収断面積を示す.Agナノ粒子(種粒子)は,比較的シャープな吸収を2.7eV近辺に示す.これはAgナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon Resonance,LSPR)に起因するものである.コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子では,Agナノ粒子の2.7 eVから長波長側(2.21 eV)にシフトしブロードニングすることが分かる.これはLSPRがCuInS2シェルによって調節できることを示している.

 

図14 AgおよびAg@CuInS2のUV-可視光吸収スペクトルとFDTD計算結果
(a)AgおよびAg@CuInS2ナノ粒子のUV-visスペクトルとFDTD計算による吸光断面積計算結果,
(b)Ag@CuInS2ナノ粒子近傍の電場強度分布,
(c)図(b)線上の強度プロファイル(青線:2.34eV,赤線:2.26eV),
(d)計算モデルとなるコアシェルナノ粒子のHRTEM像

 

 葛谷・濱中の独自の液相法で作成した金属/半導体複合ナノ粒子の光機能を評価するため,電子顕微鏡等で得られたナノ粒子の詳細構造を取り込んだFDTD(Finite-difference time-domain,時間領域差分法)シミュレーションにより,光学特性と光照射下での光電場分布を計算した.図14(b)に共鳴波長帯の光を照射した際のコアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子の電場分布の計算結果を,また(c)には中央線の部分の強度プロファイルの計算結果を示す.(d)はFDTD計算に用いるモデル構造を決定するのに用いた電子顕微鏡像である.

 入射光電場E0に対するナノ粒子垂直断面における光電場分布をE0に対する相対値で表している.光電場の強さはカラーバーで示されている.共鳴波長付近ではコアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子のAgコア表面近傍で4倍,CuInS2シェル中は2倍,シェルの表面近傍は3倍に達することが分かる.

 コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子ではAgコア粒子はCuInS2シェル領域表面の電場を増強している.このような特徴は,コアシェル型Ag@CuInS2複合ナノ粒子が,量子ドット増感太陽電池(QDSSC)の光吸収材料として大いに期待できることを示している.また吸収断面積を計算したものを図14(a)中に合わせて示すが,その定性的な傾向はよく再現できていると考えられる.

 

4.2 Ag/CuInS複合ナノ粒子の光学特性

 図15(a)にacorn型ナノ粒子とworm型ナノ粒子の吸収スペクトルを示す.カチオン交換が進行しworm型複合ナノ粒子になると,2eV付近に強いピークが現れる.これはAgナノ構造のLSPRによる吸収バンドである.図15(b)にAg/CuInS2複合ナノ粒子周辺の近接電場強度分布を示す.Ag相の表面が強く輝いており強い電場発生を示しているが,それよりもAg相とCuInS2相の接するリング状境界線部分(図中の黄色点線の丸内)がより強く増強され,hot sitesが形成されていることが分かる.今後,この強い増強効果を太陽電池や,光触媒を活かしていくことを考えているとのことである.

 

図15  Ag/CuInS2複合ナノ粒子の光吸収特性と電場分布シミュレーション

 

4.3 今後の展開

 「引き続きプラズモニクスの観点からさらに新しい機能を求めて金属/半導体複合ナノ粒子の創製を進める.一方これまでに実現したコアシェルおよびヤヌス型Ag/CuInS2複合ナノ粒子の特性をよりよく発揮させるために,さらに高度な粒径・形状・組成制御法を築きあげ,太陽電池や光触媒への応用を進めることにも注力していきたい.」と濱中,葛谷両氏は今後の抱負を述べられた.

 

5.おわりに

 「金属と半導体という異種材料で構成された複合ナノ粒子を液相法で合成し,金属部に発生する局在プラズモンによる増強光電場が半導体部に作用して機能を発現するナノ粒子を実現したい.」という共通の目的から,分子・物質合成プラットフォームの持つ装置とそれを高度に駆使する知見を仲立ちに,地理的に遠く離れたハンディをものともせず,北海道の室蘭工業大学と中部の名古屋工業大学が強く連携し研究を進めている.室蘭工業大学の葛谷氏は複合ナノ粒子の合成を得意とし,名古屋工業大学の濱中氏はプラズモニクスの立場から複合ナノ粒子の構造解析および光学物性評価を得意とし,両者がうまく連携して研究を推進していることがよく分かる取材であった.そして,簡便なビーカ中の化学反応を用いる液相法で望む大きさ・形状のAg/CuInS2をはじめとする金属/半導体複合ナノ粒子が合成され,しかもその状態はインク(スラリー)状でありプリンテッドエレクトロニクスに即応用できる形態を実現している.この合成された金属/半導体複合ナノ粒子素材が,LED・レーザーなどの高効率発光素子,太陽電池,蛍光体,環境浄化や太陽光エネルギー変換のための光触媒,光通信・光情報処理デバイスなどへ広く応用・実現されることを期待している.

 

参考文献

[1] 名古屋工業大学 分子・物質合成プラットフォーム:http://nano.web.nitech.ac.jp/about/index.html
[2] T. Kuzuya, T. Kuwada, Y. Hamanaka and S. Hirai, “Synthesis of Ag/CuInS2 Core-Shell Nanoparticles”, Materials Transactions, Vol. 58, pp. 65–70 (2017)
[3] Toshihiro Kuzuya , Yasushi Hamanaka, Keiichi Itoh, Takamitsu Kino, Kenji Sumiyama ,Yasuhiro Fukunaka, Shinji Hirai, “Phase control and its mechanism of CuInS2 nanoparticles” , Journal of Colloid and Interface Science, Vol. 388, pp. 137–143 (2012)
[4] 桑田貴彦,濱中秦,葛谷俊博,「カチオン交換法によるAg/CuInS2複合ナノ粒子の合成」,第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,pp.08-101(2016)
[5] 葛谷俊博,室蘭工業大学大学院:http://www.muroran-it.ac.jp/crd/seeds/kuzuya/
[6] 名古屋工業大学大学院 濱中研究室:http://hamanaka-lab.web.nitech.ac.jp/
[7] 壬生攻,「メスバウアー分光による物質合成支援」,金属,第88巻,第1号,pp44-50(2018)
[8] 原口 雅宣,福井萬壽夫,岡本 敏弘,「プラズモニック・デバイスの現状と将来展望」,光学,40巻2号,pp. 68-76(2011)
[9] 林真至,「表面プラズモンとは?」,応用物理,第80巻,第1号, pp.66-70(2011)
[10] 大橋啓之,「表面プラズモンをエレクトロニクスで使う」,応用物理,第80巻,第2号,pp.146-150 (2011)
[11] 「表面増強ラマン散乱を活用した極微量物質の低コスト検知技術 ~テロ対策や医療分野への応用が期待されるSERS試薬開発~」ストローブ株式会社 代表取締役社長 今井 裕一氏に聞く https://www.nanonet.go.jp/magazine/content/files/mag_pdf/Nano_Inov_pdf/nanoInnov-57.pdf

 本文中の図は,名古屋工業大学大学院の濱中氏,室蘭工業大学大学院の葛谷氏より提供されたものである.

(真辺 俊勝)