NanotechJapan Bulletin

      

企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第17回>
モーダル型強結合を利用した広帯域光吸収体の構築とその水の完全分解システムへの展開
北海道大学電子科学研究所,国立台湾交通大学新世代機能性物質研究センター 上野 貢生,石 旭,押切 友也,孫 泉,松尾 保孝,笹木 敬司,三澤 弘明

 

(前列左から) 笹木 敬司,三澤 弘明,松尾 保孝
(後列左から) 上野 貢生,石 旭,押切 友也,孫 泉

 

1.はじめに

 サステイナブル社会の実現に向け,無尽蔵ともいえる太陽光に豊富に含まれる可視光を極めて少ない物質量により,高効率に電気エネルギーや化学エネルギーに変換可能な革新的太陽電池や人工光合成システムの開発が強く求められている.我々は,これまでに金属ナノ微粒子が示す局在プラズモン共鳴により入射光が金属ナノ微粒子表面に近接場として時間的・空間的に閉じ込められることを利用し,光と分子系とを強く相互作用させ,分子を高効率に励起する新規な「光反応場」の研究を進めてきた[1][2][3].その中で,局在プラズモンの緩和により金ナノ微粒子/酸化チタン半導体電極界面において生ずる励起電子−正孔対の電荷分離を用いて,電極界面に存在する水を不可逆的に酸化して酸素や過酸化水素を生成させるとともに,波長400〜1200 nmの可視・近赤外光エネルギーを電気エネルギーに変換できることを初めて示した(図1)[4][5].さらに,これら水の酸化反応を伴う光電変換の研究を発展させ,チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)単結晶基板の片側に金ナノ微粒子を形成させ,その反対側の基板表面にオーミック接合を介して白金プレートを接触させて全可視光による水の完全分解に成功した[6].また,還元助触媒として白金に代えてルテニウムを用いると,可視光照射により空中窒素が常圧・室温下にて固定されてアンモニアが生成すること[7],さらに還元助触媒としてジルコニウムを用いるとアンモニア生成の選択性がほぼ100%になることも明らかにした[8].

 

図1 (a)0.05wt%ニオブドープ単結晶酸化チタン電極上に配列した金ナノロッドの電子顕微鏡写真,(b)金ナノロッドの消光スペクトルと光電変換効率(IPCE)の作用スペクトル;黒線:無偏光照射条件,赤線:ロッドに対して長軸偏光照射条件,青線:短軸偏光照射条件,(c)金ナノロッド/酸化チタン電極から生じた酸素や過酸化水素のファラデー効率を示す棒グラフ(図中プロットは,無偏光照射条件における用いた電極のIPCE作用スペクトル)

 

 これら局在プラズモンを利用した光反応系は,化学的に安定で,ありふれた物質である水を電子源として用い,かつ太陽光に最も多く含まれる可視光を反応の駆動力として高いエネルギーを有する電子を生み出すことが可能なため,水素発生やアンモニア合成の他にも様々な有用な化学物質の合成へ展開できるものと期待される.

 しかし,半導体基板上に金ナノ微粒子を単層担持させる従来の方法では,局在プラズモン共鳴波長においても入射光の50%以上が透過してしまうため,光の有効利用という観点からは大きな問題があった.金ナノ微粒子のサイズを大きくすることによって光の捕集効率を高くすることは可能であるが,光散乱によるエネルギー損失の寄与も大きくなるため根本的な解決とはならない.局在プラズモンを用いて高効率な光エネルギー変換システムを実現するためには,幅広い可視波長域の光を強く吸収する機能を発現させる新しい方法論の開拓が強く求められており,本領域における大きな研究課題の一つとなっていた.

 我々は本研究課題に取り組む中で,ガラス基板上に金フィルムと酸化チタン薄膜を積層し,酸化チタン上に金ナノ微粒子を配置した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極が幅広い波長域で強い光吸収を示すとともに,水を電子源とした局在プラズモン誘起光電変換,および可視光水分解反応において従来のプラズモン電極に比べて高い量子収率を示すことを見出した.これまで,金ナノ微粒子/誘電体/金薄膜による赤外域における光吸収構造はいくつか報告されており,それらはパーフェクトアブソーバーや,スーパーアブソーバーと呼ばれている[9][10].これは,金ナノ微粒子の局在プラズモンと逆位相のプラズモンがミラーイメージとして金フィルム上に形成され,「イメージ双極子相互作用」と呼ばれる強い近接場相互作用が生じるためであることが実験と電磁場シミュレーションから示されている[9][11].しかし,我々の見出した積層光電極構造では,これらのメカニズムとは全く異なり,局在プラズモン共鳴帯と,酸化チタン/金フィルムによって構成されるFabry-Pérotナノ共振器モードとがモーダル型強結合を形成するという新しい原理に基づくことを明らかにした.本稿では,それらについて解説する.

 

2.積層光電極の作製法・評価法・光電気化学特性の計測法

 ガラス基板上に,スパッタリング(MPS-4000C1/HC1,アルバック)により膜厚100nmの金フィルムを成膜し,続いてその上に原子層堆積装置(SUNALE-R,ピコサン)を用いて任意の厚みで酸化チタン薄膜を成膜した.金フィルム上に緻密な酸化チタンを成膜するために,酸化チタンの前駆体であるTiCl4が金の表面と反応しやすくなるようあらかじめ金フィルム/ガラス基板を2-メルカプトエタノールのエタノール溶液(50mg/ml)に24時間浸漬し,金フィルム表面にヒドロキシル基が露出する化学修飾を行ってから酸化チタンを成膜した.次に,酸化チタン上に膜厚3nmの金薄膜を真空蒸着により成膜し,300℃で2時間アニールすることにより酸化チタンフィルム表面の金薄膜をナノ粒子化した.生成した金ナノ微粒子の平均粒径は12±4 nmであった.最後に,再度原子層堆積装置により任意の厚みの酸化チタンを基板上に成膜し,金ナノ微粒子を酸化チタンに部分的に埋め込んだ.このとき,金ナノ微粒子の表面を化学修飾しないことによって,金ナノ微粒子表面には酸化チタンが形成せず,酸化チタン薄膜表面にのみ追加の酸化チタンが形成した.この手法により金ナノ微粒子の酸化チタン薄膜への埋め込み深さを高い精度で制御することに成功した.

 作製した金ナノ微粒子の分光特性は,既報の顕微透過スペクトル計測システム[12]と膜厚測定システム(F-20,フィルメトリクス)により透過と反射スペクトルを測定することで検討を行った.3極式の光電気化学特性は,作製した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極を作用電極として,白金線および飽和カロメル電極をそれぞれ対極および参照電極として測定を行った.また,2極系では,金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極を陽極,そして白金線を陰極として光電変換効率を測定した.どちらの測定においても,水酸化カリウム(0.1 mol dm-3)電解質水溶液を用い,犠牲電子供与体は用いていない.2極系による可視光水分解の効率を測定するために,光電流の計測のみならず,陰極から発生した水素はガスクロマトグラフィー,また陽極から発生する酸素は同位体(O-18)を含む水を使用して発生した34O2をガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリーによって定量した.

 

3.金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極の構造評価

 図2(a)に作製した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルムの積層光電極の模式図を,図2(b)に金ナノ微粒子を7nm酸化チタン薄膜に埋め込んだ同電極構造の写真(下段)を示す.また,比較として従来のガラス基板上に酸化チタン薄膜を成膜し,その表面に金ナノ微粒子を担持した光電極(中段),およびガラス基板上の金フィルムに酸化チタン薄を成膜した基板(下段)も同時に示す.酸化チタン薄膜に金ナノ微粒子を担持したのみの光電極は,光の吸収効率が良くないために本電極を通して裏側の文字を判読することができる.また,金フィルムに酸化チタン薄膜を成膜した基板においては,金フィルムによる光の反射で基板は金色に近くなっている(後述するが金フィルムと酸化チタン薄膜によってFabry-Pérotナノ共振器が構成され,可視部にそのモードが存在するため厳密にはバルクの金の色とは異なっている).一方,金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルムの積層光電極は,黒色であり,電極を通して裏側の文字を判読することができない.図2(c)に金ナノ微粒子/酸化チタン界面の断面電子顕微鏡像(走査型透過電子顕微鏡像)およびそのエネルギー分散型X線分光イメージを示す(埋め込み深さは7nm).金ナノ微粒子が酸化チタン薄膜に埋め込まれていること,そして金ナノ微粒子は酸化チタンによって被覆されていないことが確認された[13].

 

図2 (a)金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極の模式図,(b)金ナノ微粒子を7nm酸化チタン薄膜に埋め込んだ金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極(上段),酸化チタン薄膜に金ナノ微粒子を担持した光電極(中段),および金フィルムに酸化チタンを成膜した基板(下段)の写真,(c)金ナノ微粒子/酸化チタン界面の断面電子顕微鏡像(走査型透過電子顕微鏡像)およびそのエネルギー分散型X 線分光イメージ

 

4.金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極の分光特性

 金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極の分光特性を検討した.図3に酸化チタン/金フィルム構造において金ナノ微粒子を酸化チタンに7nm埋め込み,酸化チタンの膜厚を19nmから44nmまで変化させたときの吸収スペクトルを示す.このスペクトルの縦軸は,反射スペクトル(R)と透過スペクトル(T)の値から吸収分を見積もり,対数スケールで表示している.図から明らかなように吸収スペクトルは酸化チタンの膜厚に大きく依存する.酸化チタンの膜厚が23nm以下において波長500nm以下の短波長側で観測される吸収帯は,金のd軌道の電子がsp伝導帯に励起される,いわゆるインターバンドとよばれる吸収帯に帰属される.また,酸化チタンの膜厚が25~35 nmにおいては,吸収スペクトルに2つのピークが現れ,特に膜厚が28nmのときには,それらのピークが明確になる.さらに,膜厚が44nmになると吸収スペクトルのピークは単一となり,金フィルムのない酸化チタン薄膜上に金ナノ微粒子を7nm埋め込んだときに観測される局在プラズモン共鳴の吸収スペクトルとほぼ一致する.

 

図3 金フィルム上に様々な膜厚の酸化チタン成膜した酸化チタン/金フィルム基板に
金ナノ微粒子を7nm酸化チタン側に埋め込んだ構造の吸収スペクトル

 

 一方,金ナノ微粒子を担持していない酸化チタン/金フィルム基板において酸化チタンの膜厚を20~40nm変化させ,反射スペクトルを測定すると波長600~700nm付近に反射率が低下するブロードなバンドが膜厚に応じて現れる.これらのバンドは,酸化チタン/金フィルムによって構成されるFabry-Pérotナノ共振器によるものと考えられる.酸化チタン薄膜側より金フィルムに向かって垂直に入射した光は,金フィルムと酸化チタンの界面で反射されるが,このとき位相ジャンプが生じて約3/4πラジアン位相角が進む.このため,酸化チタンの膜厚が1/4nnは酸化チタンの屈折率)よりかなり薄くてもFabry-Pérotナノ共振器が形成されることになる.酸化チタンの膜厚を28nmとすると,酸化チタン/金フィルムのFabry-Pérotナノ共振器の最低モードの波長が,酸化チタン薄膜に7nm埋め込まれた金ナノ微粒子が示す局在プラズモン共鳴波長650nmに重なる.このため,これら2つの状態が量子的な相互作用を起こし,モーダル型強結合状態が生じたと考えられる.この強結合状態においては,プラズモンとナノ共振器の2つの振動子の位相が一定の関係を有してエネルギーをやり取りしており,位相が互いに同じ向きに揃って振動している状態(結合性)と互いに逆向きに振動している状態(反結合性)の2つの状態が形成するため,吸収スペクトルにそれぞれの状態に対応する2つのピークが現れたものと考えられる.これは2つの水素原子が接近し,それぞれの原子軌道が重なり水素分子を形成するときに,新たに生じた分子軌道に結合性と反結合性の2つの分子軌道が生じるのと類似しており,図4(a)のエネルギーダイアグラムの模式図に示すような2つのハイブリッドモードが形成される.図3の吸収スペクトルからも明らかなように,プラズモンと共振器が強結合すると,吸収スペクトル幅が局在プラズモンのみの場合と比べさらにブロードになり,可視域の幅広い波長の光を吸収できることが示された.

 

図4 (a)局在プラズモンとFabry-Pérotナノ共振器との強結合によるハイブリッドモードの形成を示した模式図(P+:上枝ポラリトン, P-:下枝ポラリトン),(b)各酸化チタンの膜厚で観測された吸収スペクトルの2つのピークエネルギーを各共振器の共振波数に対してプロットし得られた分散曲線

 

 なお,酸化チタンの膜厚(共振器長)を変化させて計測した吸収スペクトルの2つのピークのエネルギーの値を各ナノ共振器の共振波数に対してプロットすることにより図4(b)に示す分散曲線を得た.この分散曲線は,強結合に特有の反交差な振る舞いを示し,それは結合振動子モデルによりフィッティングすることが可能で,分裂エネルギーは320meVとなることを明らかにした.また,酸化チタンの膜厚をより厚くし,Fabry-Pérotナノ共振器の2次のモードに対応する膜厚(168nm)としても,図3と同様に吸収スペクトルには2つのピークが現れ,さらに図4(b)と同様に分散曲線は反交差な振る舞いを示し,その分裂エネルギーは215meVと見積もられた.このように,我々が作製した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極が幅広い波長において強い光吸収を示す現象は,従来考えられてきたイメージ双極子相互作用によって説明することはできない.もし,イメージ双極子相互作用であれば,酸化チタンの膜厚を増大させれば,その相互作用は著しく低下すると考えられるが,上述したように共振器の2次モードに対応する膜厚ではそのような光吸収の低下は観測されなかった.つまり,本積層光電極においては,局在プラズモンとFabry-Pérotナノ共振器のモード間のモーダル型強結合により2つのハイブリッドモードが形成されることによって,可視域の幅広い波長の光に対して高い吸収効率を示すことが示された[13].

 

5.金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極の光電変換特性

 前節で示したように金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極構造においては,局在プラズモンのモードとナノ共振器とが強結合を形成する.より強い強結合を実現するためには,直感的には局在プラズモンを示す金ナノ微粒子は,ナノ共振器を形成する酸化チタン薄膜の外側に担持されるのではなく,酸化チタン薄膜内部に入っているのが好ましいと思われる.実際,局在プラズモン共鳴波長と共振波長とが一致するナノ共振器内部における光学モードの強度分布をシミュレーションすると,酸化チタン界面付近に大きな光強度が現れる.そこで,プラズモンとナノ共振器の強結合に与える金ナノ微粒子の酸化チタンへの埋め込み深さの影響を検討するため,酸化チタンの膜厚を28nmに固定し,金ナノ微粒子の埋め込み深さを変化させながら,それぞれの吸収スペクトル,および各波長において照射された光エネルギーに対してどれだけの電流が取り出せたかを示す“Incident Photon-to-Current Conversion Efficiency”=“IPCE”(外部量子収率とも呼ばれる)スペクトルを測定した.

 図5(a)は,金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光電極において,金ナノ微粒子を酸化チタン薄膜上に担持した場合(埋め込み深さ:0nm),3.5nm,7nm,14nmと埋め込み深さを変えたときの吸収スペクトルの変化を示している.金ナノ微粒子の埋め込み深さが深くなるにつれてより強い強結合が形成することにより2つのピークの分裂が明確になるとともに分裂幅が広がり,幅広い波長域の光吸収が可能になることが分かる.このことから,可視域の幅広い波長の光に応答する吸収体を構築するためには,金ナノ微粒子を酸化チタンに7~14nm程度埋め込むことが好ましいことが示された.

 

図5 (a)酸化チタン(膜厚:28 nm)/金フィルム光電極に任意の深さで金ナノ微粒子を埋め込んだときの吸収スペクトルの変化,(b)酸化チタン(膜厚:28 nm)/金フィルム電極に任意の深さで金ナノ微粒子を埋め込んだ光電極を用いて測定したIPCE作用スペクトル

 

 他方,電解質水溶液中で水を電子源として用いた光電気化学測定によりIPCE作用スペクトルを計測したところ,図5(b)に示すように2つのピークに分裂し,図5(a)の吸収スペクトルの形状とほぼ良い一致を示した.また,吸収スペクトルと同様,金ナノ微粒子の埋め込み深さが増大するにつれて,2つのピークの分裂が明確になるとともに分裂幅も広がり,幅広い波長域で水を電子源とした光電変換が誘起されることが明らかになった.さらに,埋め込み深さが7nmの場合は,これまで報告してきた金ナノ微粒子を単層酸化チタン基板上に担持して作製した金ナノ微粒子/酸化チタン光電極に比べ,可視波長域における平均IPCEの値が11倍増大した.一方,埋め込み深さが14nmまで増大すると,IPCEの値が7nmの場合と比べて顕著に減少することも示された.これは埋め込み深さが14nmの場合,平均粒径が12nmの金ナノ微粒子が酸化チタン薄膜の内部にほとんど埋め込まれてしまい,水の酸化反応が誘起される金ナノ微粒子/酸化チタン/水界面(三相界面)の面積が減少したためであると考えられる.このことから,幅広い波長の可視光を効率良く吸収して水の酸化反応を誘起する高効率なプラズモン誘起光電変換系や人工光合成系を本光電極を用いて構築するためには,金ナノ微粒子が酸化チタンに粒径の半分程度埋め込まれた構造が適していると思われる.

 さらに,図5の(a)と(b)における埋め込み深さ0nm,3.5nm,7nmの場合を比較すると,吸光度は大きく変化していないのに対して,光電流は埋め込み深さとともに増大しており,より強い強結合により,外部量子収率のみならず,内部量子収率(吸収された光子数に対する発生した電子数)も増大していると考えられる.実際に強結合していない従来型の金ナノ微粒子/酸化チタン光電極と,強結合し埋め込み深さが7nmの光電極の光電変換に関する内部量子収率を比較すると,強結合系では内部量子収率が約1.5倍増大していることが明らかとなり,従来型のプラズモン電極より多くの電子−正孔対が生成することが示された[13].

 

6.金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム積層光陽極を用いた可視光水分解

 前節で紹介したように本積層光電極は水を電子源として,可視光照射により光電流を発生させることができる.これは本電極を光陽極とし,陰極として適当な電極を用いれば,可視光によって水の分解が可能であることを示唆している.本電極が水の可視光分解に利用できるかを検証するために本研究で開発した金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極を光陽極,白金線を陰極として(図6(a)),可視光水分解を試みた.波長400 nm~850nmのキセノン光(550mW/cm2)を照射することによって光陽極側,および陰極側からそれぞれ発生したガスを分析したところ,酸素と水素であった.また,図6(b)に光照射時間に対する酸素と水素の発生量を示す.酸素と水素は照射時間に対して直線的に発生量が増加し,その比は1:2となり,可視光照射によって化学量論的に水分解が生じることが示された.また,波長450 nm~750 nmの範囲の光照射により観測された光電流量に対する発生した酸素,および水素量を示すファラデー効率は82%であることが確認された.金ナノ微粒子の埋め込み深さが7nmの金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光陽極は,同じ金ナノ微粒子の埋め込み深さの金ナノ微粒子/酸化チタン光陽極に比べて水素発生速度が約6.3倍増大することが明らかになった.光学フィルターを用いて水素発生に関する作用スペクトルを計測したところ,図6(c)の棒グラフに示すように吸収スペクトルの形状と概ね一致し,局在プラズモンの緩和過程において金ナノ微粒子にホットエレクトロンが生じ,それが酸化チタンの電子伝導帯に注入され,陰極でプロトンを還元し水素を,陽極において残った正孔が金ナノ微粒子/酸化チタン/水界面(三相界面)において水を酸化して酸素を発生させていると推察される[13].

 

図6(a)陽極に金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極,陰極に白金線を用いた可視光水分解システム概略図,(b)陽極,および陰極から発生した酸素,および水素発生量の光照射時間依存性,(c)水素発生量の作用スペクトル(棒グラフ)と電解質水溶液中における金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光陽極の吸収スペクトルの比較

 

7.まとめ

 局在プラズモンを利用した人工光合成の高効率化に向けて局在プラズモンとFabry-Pérotナノ共振器とのモーダル型強結合を利用することにより,可視光の幅広い波長域において高い光吸収効率を示す金ナノ微粒子/酸化チタン/金フィルム光電極を開発することに成功した.本強結合光電極は,可視光水分解において外部量子収率のみならず,内部量子収率の増大をも実現した.これは,局在プラズモンの位相緩和が強結合によって能動的に制御された結果,ホットエレクトロンの生成量が増大した可能性があり,プラズモン誘起人工光合成の研究が新たな次元に入ったことを予感させるものである.さらに,本稿で示した強結合による光捕集構造は,プラズモン太陽電池や,水を電子源とする水素発生・光アンモニア合成・二酸化炭素固定などの人工光合成系の光アンテナのみならず,局在プラズモン共鳴を利用した種々の光化学反応系や化学センサーの高感度化にも応用が期待され,今後幅広い応用に向けた研究を進めていきたいと考えている.

 

 

謝辞

 本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金特別推進研究(18H05205)「ナノ共振器-プラズモン強結合を用いた高効率光反応システムの開拓とその学理解明」,および文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業により推進されました.

 

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(北海道大学電子科学研究所 三澤 弘明)