NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第18回>
走査型透過電子顕微鏡観察によるコヒーレントα-Al2O3/Ga2O3超格子の断面観察
佐賀大学 大島 孝仁,加藤 勇次
物質・材料研究機構 竹口 雅樹,中山 佳子,古川 晃士

 

(左)佐賀大学 大島 孝仁,(右)物質・材料研究機構 竹口 雅樹,中山 佳子,古川 晃士

 

1.はじめに

 近年,パワー半導体材料としてバンドギャップが約5eVの酸化ガリウム(Ga2O3)が注目されており,精力的に材料研究が行われている[1].このGa2O3には,5つの結晶多形が存在するが[2],標準状態において熱力学的安定相であるβガリア構造のβ-Ga2O3と,準安定相ではあるがサファイア基板上にエピタキシャル安定化できるコランダム構造のα-Ga2O3が集中的に研究されている.これらの半導体材料は半導体業界の耳目を集めており,タムラ製作所からスピンアウトしたノベルクリスタルテクノロジー(埼玉県)[3]の設立やベンチャー企業FLOSFIA(京都府)[4]の躍進を支えている.そして,本稿ではα-Ga2O3に関連した話題を提供する.

 α-Ga2O3の材料研究は急速に拡大しており,ヘテロ接合系の検討を始める段階にまで進んでいる.準安定相α-Ga2O3の半導体工学的研究は,2008年にサファイア基板上にα-Ga2O3エピタキシャル膜が得られて初めて可能になった[5].それ以降,エピタキシだけでなく,不純物ドーピングによる伝導性制御[6]も試みられ,電界効果トランジスタ[7]やショットキーバリアダイオード[8]の試作・動作実証が報告されるようになった.そして,α-Ga2O3の研究開発とともに,α-(AlxGa1-x)2O3混晶系やそのヘテロ接合にも関心が寄せられるようになってきている.高Al組成で相分離が発生するβ-(AlxGa1-x)2O3混晶系とは異なり,α-(AlxGa1-x)2O3混晶系は全組成範囲で単結晶エピタキシャル膜が作製可能であり,バンドギャップ制御範囲も5.3–8.8 eVと広い[9].これらの特徴から,ヘテロ接合ではその大きなバンドオフセットを利用でき,ヘテロ接合,多重量子井戸,超格子を利用した多様な応用が期待される.しかしながら,そのようなヘテロ接合系でデバイス応用に要求されるコヒーレントな界面に着目した研究はほとんど行われていない状況であった.そこで,我々はα-(AlxGa1-x)2O3混晶系で,作製難易度が最も高いα-Al2O3/Ga2O3の超格子を発表すればインパクトが高いと考え実施した.なお,このα-Al2O3とα-Ga2O3の組み合わせは,格子不整合度(a軸,c軸方向それぞれ4.8,3.4%)が最も大きいためコヒーレント界面を形成しづらい.

 ナノテクノロジープラットフォームを利用することになったのは,本研究ではこのようなα-Al2O3/Ga2O3の超格子の界面の整合度を原子レベルで超高分解能電子顕微鏡観察を行う事が不可欠であると考え,物質・材料研究機構の共同研究者である井村将隆氏に相談したところ,竹口雅樹氏を紹介いただいたのがきっかけである.

 

2.α-Al2O3/Ga2O3超格子の作製

 酸素ラジカル支援分子線エピタキシにより,r面サファイア上に10周期のα-Al2O3/Ga2O3超格子を作製した.GaとAlのイオンゲージで計測した等価フラックスは,それぞれ0.9×10-7と1.89×10-6 Paに設定し,酸素ラジカルの生成プラズマパワーは200 W,供給酸素量は0.500 sccmとした.成長時の温度は560–580°Cに設定した.10周期超格子は,金属セルのシャッタ開閉を周期的に行うことで実現した.ここで,Gaフラックスの供給時間をパラメーターとして,α-Ga2O3の厚みが異なるサンプルA,B,C(この順にGaフラックス供給時間が40,80,120s)を作製した.なお,Alフラックス供給時間は270sに固定した.

 

図1 成長時のサンプルの様子.

 

3.X線を利用した構造解析

 作製した超格子サンプルA,B,Cに対して,まずX線反射率測定により層構造解析を行った.図2(a)に反射率パターンを示すが,いずれのパターンも10周期を反映した構造が見られた.点線は,超格子中のα-Al2O3,α-Ga2O3層の密度がバルク値と変わらないと仮定したモデルで再現を試みた反射率パターンであるが,おおよそ実験値へのフィッティングに成功した.このフィッティングにより得られた層構造を表1に示す.表において,dAldGaはそれぞれα-Al2O3,α-Ga2O3層厚,xaveは平均Al組成を表す.成長時に意図した通り,dAlがほぼ一定で,dGaがA,B,Cの順に増加していることが分かる.

 

図2 超格子サンプルA,B,Cの(a)X線反射率測定,(b)対称面XRD測定結果.用いたX線はCuKα1である.

 

表1 各層厚みと平均Al組成のまとめ.

 

 次に,X線回折(XRD)測定により,結晶構造解析を行った.図2(b)に超格子サンプルA,B,Cの対称面X線回折パターンを示す.いずれのサンプルにおいても,超格子に特徴的なサテライトピークを確認でき,xaveの変化に対応した0次ピークシフトもみられた.しかしながら,サンプルCについてはサテライトピークがブロードであり,サンプルAとBのみサテライトピーク間の8つの小さなサブピークを確認できた.すなわち,超格子の結晶性は,dGaに強く依存して,dGaが1 nmを超えるとα-Ga2O3層が緩和して低下すると考えられる.

 そこで,XRDの非対称面逆格子マップから基板と超格子のエピタキシャル関係を評価した.図3に拡張格子サンプルの2 2 -4 6に対する逆格子マップを示す.AとBでは,基板と超格子のピークの面内位置が一致しており,超格子が歪み基板に対してコヒーレントであると分かる.一方,Cについては超格子の面内ピーク位置が基板に対して一部ずれており,超格子が部分的に緩和していることが分かる.これは,先に示した対称面XRDパターンの結果と一貫性があり,dGaにコヒーレンシーが強く依存することを示している.

 

図3 超格子サンプルA,B,Cの非対称面XRD逆格子マップ.

 

4.走査透過電子顕微鏡を用いた界面観察

 コヒーレント超格子サンプルBについて走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察した.X線回折測定において間接的にコヒーレンシーを確認できたが,直接的に観察したいという動機から実際の界面の原子配置をSTEMで観察した.なお,試料作製およびSTEM観察は,NIMS微細構造解析プラットフォームのデュアルビーム加工観察装置(NB5000)および実動環境対応物理分析電子顕微鏡(JEM-ARM200F)を用いて実施した.STEM観察時の加速電圧は200kVであり,電子線入射方位は[2 -1 -1 0]である.図4(a)に超格子全体の明視野(BF)像を示す.BF像では,密度が大きい領域が電子線の散乱が大きく暗くなるので,暗い筋に相当する箇所がα-Ga2O3層であり,その間の明るい帯がα-Al2O3層である(画像最下部はサファイア基板である).一部α-Ga2O3層の暗い箇所が明るいα-Al2O3層に染出しているが,それは大きな格子不整合に起因する強い歪みを反映していると考えられる.界面の原子配列を理解するために,(b)と(c)にそれぞれBFと円環状検出器による暗視野(HAADF)モードで撮影した拡大像を示す.なおHAADFにおいては,重い元素が明るい,軽い元素が暗いコントラストとなる.いずれの像においてもミスフィット転位は見られず,界面における格子の連続性が保たれている.特にHAADF像においては,α-Ga2O3層とα-Al2O3層を構成するGaとAlが界面で一対一対応して並んでいる様子が直接的に観察でき,コヒーレント界面であると確認できる.なお,これらの原子配置は,図4(d)のコランダム構造の金属配置モデルと一致している.

 

図4 サンプルBに対する(a)と(b)はBF(c)はHAADF-STEM像.(b)と(c)は同じ領域に対する像である.
(d)STEM像と対応したコランダム構造のカチオン位置.

 

5.おわりに

 現在研究が盛んに行われているパワー半導体材料α-Ga2O3の将来的なヘテロ接合デバイス応用を予期して,α-Al2O3/Ga2O3モデル超格子を作製し,その界面コヒーレンシーをXRDとSTEMにより評価した.その結果,dGa ~1nmまではコヒーレント界面を維持した高結晶性の超格子が得られると分かった.本研究で示したdGa <~1nmの条件は非常に厳しいが,実際のα-(AlxGa1-x)2O3/Ga2O3ヘテロ接合デバイスでは,より界面の格子不整合度が小さいので条件も緩和され,多くの機能を持つヘテロ接合や超格子デバイスが作製可能になると予想される.なお記事の成果は,APEX[10]に報告しているので,興味がある方は参照されたい.

 

6.謝辞

 デュアルビーム加工観察装置(NB5000)によるα-Al2O3/Ga2O3超格子のTEM試料作製は物質・材料研究機構電子顕微鏡ステーションの中山 佳子氏と古川 晃士氏に,STEM観察は同 竹口 雅樹氏に実施いただいた.記して深く謝意を表する.

 

参考文献

[1] S. J. Pearton, J. Yang, P. H. Cary, F. Ren, J. Kim, M. J. Tadjer, and M. A. Mastro, “A review of Ga2O3 materials, processing, and devices,” Appl. Phys. Rev., vol. 5, no. 1, p. 011301, Mar. 2018.
[2] R. Roy, V. G. Hill, and E. F. Osborn, “Polymorphism of Ga2O3 and the System Ga2O3-H2O,” J. Amer. Chem. Soc., vol. 74, no. 3, pp. 719–722, Feb. 1952.
[3] https://www.novelcrystal.co.jp/
[4] http://flosfia.com/
[5] D. Shinohara and S. Fujita, “Heteroepitaxy of corundum-structured α-Ga2O3 thin films on α-Al2O3 substrates by ultrasonic mist chemical vapor deposition,” Jpn. J. Appl. Phys., vol. 47, no. 9, pp. 7311–7313, Sep. 2008.
[6] K. Akaiwa and S. Fujita, “Electrical conductive corundum-structured α-Ga2O3 Thin films on sapphire with tin-doping grown by spray-assisted mist chemical vapor deposition,” Jpn. J. Appl. Phys., vol. 51, p. 070203, Jun. 2012.
[7] G. T. Dang, T. Kawaharamura, M. Furuta, and M. W. Allen, “Mist-CVD Grown Sn-Doped α-Ga2O3 MESFETs,” IEEE Trans. Electron Devices, vol. 62, no. 11, pp. 3640–3644, Nov. 2015.
[8] M. Oda, R. Tokuda, H. Kambara, T. Tanikawa, T. Sasaki, and T. Hitora, “Schottky barrier diodes of corundum-structured gallium oxide showing on-resistance of 0.1 mΩ·cm2 grown by MIST EPITAXY ®,” Appl. Phys. Express, vol. 9, no. 2, p. 021101, Feb. 2016.
[9] H. Ito, K. Kaneko, and S. Fujita, “Growth and Band Gap Control of Corundum-Structured α-(AlGa)2O3 Thin Films on Sapphire by Spray-Assisted Mist Chemical Vapor Deposition,” Jpn. J. Appl. Phys., vol. 51, p. 100207, Oct. 2012.
[10] T. Oshima, Y. Kato, M. Imura, Y. Nakayama, and M. Takeguchi, “α-Al2O3/Ga2O3 superlattices coherently grown on r -plane sapphire,” Appl. Phys. Express, vol. 11, no. 6, p. 065501, Jun. 2018.

 

(佐賀大学 大島 孝仁)