NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第22回>
超伝導トンネル接合放射線検出器を用いた先端計測機器
Advanced analytical instruments using superconducting tunnel junction X-ray detectors

産業技術総合研究所 浮辺 雅宏,志岐 成友,藤井 剛,大久保 雅隆

 

(左から)浮辺 雅宏,藤井 剛,志岐 成友,大久保 雅隆

 

1.はじめに

 超伝導トンネル接合(STJ)X線検出器は,非常に薄い(~1nm)絶縁物からなるトンネル層を2枚の超伝導層で挟んだ構造を持つデバイスである.我々は,トンネル層としてアルミニウム酸化膜(AlOx),超伝導層としてアルミニウム・ニオブ(Nb/Al)の多層膜を用いている.STJ X線検出器では,1)検出媒体として用いる超伝導体のバンドギャップがミリeVオーダーで,半導体のバンドギャップ(eVオーダー)に比べ1/1000程度と極めて小さい,2)信号担体として準粒子(電子)を用いる,3)構造上不感層が無いため,

1)理論的に半導体検出器に比べ20~30倍という優れた髙エネルギー分解能及び高P/B比(ピーク信号とバックグランド信号の強度比)
2)μsecオーダーの高速な信号の立ち上がり
3)100eVを切るような低いエネルギーのX線に対しての高い検出感度

が期待できる.そのため我々は30年以上に渡り,STJ X線検出器の開発を続け,4.1eV@400eVという半導体検出器の10倍以上のエネルギー分解能[1]及び~10,000に達するP/B比を実現し,更に低エネルギーX線に対する検出能力も実証した.しかしSTJは,その高性能の維持のため,単一素子では高々100μm角程度の有感面積しか得る事が出来ず,高い分析スループットが求められる実用分析装置での運用に際し障害となっていたため,アレイ化による有感面積の拡大を試み,現時点で我々は,これまでで世界最大規模の512素子STJアレイX線検出器を開発し,~5mm2の有感面積を実現した.後述の先端計測機器に搭載されている100素子からなるSTJ アレイX線検出器を図1に示す.

 

図1 100素子 STJ X線検出器

 

 また,図2に同検出器でこれまでに得られたデータを示す.

 

図2 STJ X線検出器のエネルギー分解能、計数率特性、及びエネルギー感度特性

 

 図2から,STJ X線検出器が半導体検出器の10倍以上の高エネルギー分解能を実現していること.100素子を1つの検出器として用いたアレイ検出器であれば,非常に大量のX線を検出する必要がある分析手法(元素マッピング,低濃度元素の分析,粒子線励起X線分析(PIXE)等)にも充分適用可能であること.更に通常の半導体検出器では検出が極めて困難な低エネルギーX線も充分にピークとして検出可能である事が分かる.

 一方,近年研究が進められている次世代機能性材料(GaN,SiC等の省エネルギー半導体や軽量合金,耐熱鋼等の構造材料,全固体リチウムイオン電池で用いられる高性能固体電解質等)の性能向上には,材料中のホウ素(B),炭素(C),酸素(O),窒素(N)等の軽元素周辺の原子スケールの局所構造や,Liを含む軽元素自体の材料中での偏在状況をナノスケールで詳細に分析する必要がある.一般的にそのような目的には,励起された目的元素からの蛍光X線を利用するが,軽元素の場合,放出される蛍光X線は,ほぼそのエネルギーが1keV以下の軟X線となり,その発生確率(収率)も低いものとなる.そのため,軽元素ドーパントの様にその濃度が極めて小さな場合,既存のシリコンドリフト検出器(SDD)ではエネルギー分解能の点で,結晶分光器を用いる波長分散分光法(WDS)では検出感度の点で不十分であったため,これまで充分な知見を得ることが出来なかった.既述のようにSTJアレイX線検出器は,図3に示すように軟X線のような低いエネルギーのX線に対して既存のSDDの約10倍のエネルギー分解能と,WDSの数百倍の検出効率を同時に実現する.そこで,微量軽元素についての高い分析スループットでの未活用情報取得を可能とするため,我々は100素子からなるSTJアレイX線検出器(有感面積:1mm2)を用いて,これまでに以下の2種類の先端計測機器を整備した.

1)超伝導蛍光X線検出器付走査型電子顕微鏡(SC-SEM)
2)超伝導蛍光収量X線吸収微細構造分析装置(SC-XAFS)

 

図3 各種軟X線検出器のパフォーマンス比較

 

 両装置は既に,文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」(https://www.nanonet.go.jp/)微細構造解析プラットフォームに参画の産総研先端ナノ計測施設(AIST Nanocharacterization Facility: ANCF(https://unit.aist.go.jp/rima/nanotech/index.html))に所属の共用装置として公開され,実材料の分析に使用されている.次章では,これら各先端計測機器の概要及びこれまでに得られた測定例について説明する.

 

2.STJアレイX線検出器を用いた先端計測機器

2.1 超伝導蛍光X線検出器付走査型電子顕微鏡(SC-SEM)

 次世代機能性材料の研究開発では,その内部構造と機能の関係の解明が重要だが,多くの場合,内部にnmオーダーの複雑な構造を持つため,微量成分も含めた構成元素の量や3次元的な分布をnmスケールで測定する必要がある.それができる分析手法の中でも,低加速電圧(1keV以下)にした走査電子顕微鏡(SEM)とSDD等のエネルギー分散型X線検出器(EDX)を組み合わせた装置(SEM-EDX)を用いる蛍光X線分析は,操作性,適用範囲の広さの点で他の分析手法を凌駕し,この手法が実現すれば次世代機能性材料の研究開発に大きく貢献するが,これまでにも述べた様に半導体検出器は軟X線に対するエネルギー分解能やP/B比が低く分析時に発生する蛍光(特性)X線を明瞭に分離できないため,その実施が非常に困難であった.そこで,高エネルギー分解能かつ高P/B比を実現するSTJアレイX線検出器をEDXとしてSEMに組み合わせた超伝導蛍光X線検出器付走査型電子顕微鏡(SC-SEM)を整備した[2](図4).

 

図4 SC-SEM全体写真

 

 本装置では,X線光学系(ポリキャピラリー)により試料より発生する特性X線を高い効率でSTJアレイX線検出器に導くことで,実用的な検出スループットを実現している.またSEMは電子源としてコールドタイプの電界放出電子銃をもつFE-SEMであり,加速電圧は0.6~30kV,一般的な条件での解像度は10nm程度である.

 本分析装置の機能及び他の分析手法との比較を以下に示す.

1)元素同定能力(高エネルギー分解能,高い検出感度)

 AlN膜から発生するN Kα線を複数の検出器(STJアレイX線検出器,SDD,WDS)で測定した結果を図5に示す.本データからSTJアレイX線検出器がWDSと同等,SDDの約10倍のエネルギー分解能を実現していることが分かる.この高エネルギー分解能により,SC-SEMは各元素の特性X線ピークを明瞭に分離して測定可能である.例えば,BNパウダーの特性X線スペクトル(図6)ではB,C,N,Oのピークを,また耐熱合金中に存在する粒子状析出物(Inclusion)から得られた蛍光X線スペクトル(図7)では,半導体検出器では分離できないCrとOの特性X線が分離出来ていることが分かる.また金属Liから得られたLi Kα線のX線ピークを図8に示す[3].本データからSC-SEMが非常に低いエネルギーのX線を明確にピークとして検出可能であることが分かる.

 

図5 各検出器で得られたN Kα線のX線ピーク

 

図6  BNの特性X線スペクトル

 

図7 耐熱鋼の特性X線スペクトル

 

図8 Li Kα線のX線ピーク

 

2)微量成分分析能力(高P/B比)

 Mg濃度が1019 1/cm3(数百ppm)程度のp-GaNの特性X線スペクトルを図9に示す.本スペクトルで分かるようにSC-SEMでは,STJアレイX線検出器の10,000に達する高いP/B比により,ドーパントであるMgの特性X線を直接ピークとして検出可能である.この他p-SiC中のAlドーパント(5 x 1018 1/cm3),炭素化合物中の窒素ドーパント(~1019 1/cm3)等,100ppm程度の極めて低濃度な成分からの特性X線もピークとして検出可能である事を確認している.

 

図9 p-GaN(Mg:~1019 1/cm3)の蛍光X線スペクトル

 

3)マッピング分析能力(高計数率特性)

 SC-SEMでは簡易的ではあるが,既に元素マッピングも可能となっている.本機能により1)で述べた耐熱合金中に存在する粒子状析出物を対象としてCr,O,Feのマッピング分析を試みたところ,粒子状析出物が主に酸化物で構成されていることが明らかとなった.

 

4)他の分析手法とのベンチマーク(WDS及びXPS)

 SC-SEMと軟X線を使った分析手法として一般的に使われているWDS及びXPSを比較した結果を以下に示す.

・WDSとの比較

 

 今後予定している改良が完了後のSC-SEMは,WDSに比べ1000倍(SDDを使ったSEM-EDXの1/10程度)という圧倒的なスループットの点でWDSよりも優れていると言える.

 

・XPSとの比較

 

 SC-SEMではプローブとして使用する電子ビームの特性(スポット径を数nmまで絞る事が可能,電子エネルギーを変えることで特性X線の最大発生領域の中心深さをサブμm以下の精度で制御可能)を生かし,極めて高い空間分解能で元素マッピングが可能である点,またSTJアレイX線検出器の高感度性のため,非常に低い濃度の元素も検出可能な点でXPSよりも優れているといえる.

 

2.2 超伝導蛍光収量X線吸収微細構造分析装置(SC-XAFS)

 これまでにも述べたように次世代機能性材料の開発では,軽元素を含む微量元素周辺の原子スケールの局所構造を調べるためには,材料中の対象元素周辺の原子スケールの局所構造を調べる必要がある.そのための有力な分析手法である蛍光収量X線吸収微細構造分析(FY-XAFS)では,試料に照射するX線を高強度にすることで対象元素からの蛍光X線の発生量を増大させるため,一般的に放射光施設において行われるが,軟X線領域を対象とする場合,既存の半導体検出器ではエネルギー分解能の点で各元素からの蛍光X線の分離が充分にできなかったため,STJアレイX線検出器を備えた超伝導蛍光収量X線吸収微細構造分析装置(SC-XAFS)を高エネルギー加速器研究機構・放射光科学研究施設(KEK・PF)に整備した.(図10)本装置が現在使用できるビームラインはBL-11A,BL-11B,BL-16Aで,70-5000eVの範囲が測定できる.利用可能なビームライン及び可能な測定元素,特徴を表1に示す.

 

図10 SC-XAFS全体写真

 

表1 SC-XAFSが利用可能なビームラインスペック

 

 これまで,SC-XAFSによりn-SiCのNドーパント(4 x 10-19 cm-3)のX線吸収端近傍構造(XANES)測定に世界で初めて成功した.500度でNをイオン注入した4H-SiC基板とその後熱処理(アニール)した基板で実際に得られたXANESスペクトル(図11)と原子構造を元に第1原理計算により得られるスペクトルを比較することにより,SiCへのドーピングでは,イオン注入直後から殆どのNがCサイトを置換していることが判明し[4],アニールによりNの格子位置置換が進むのではなく,アニールによるn-SICの活性化は,むしろ欠陥回復が原因であることを示唆することとなった.

 

図11 n-SiC中のNのXANESスペクトル

 

3.今後の展開

 これまでに述べた性能を生かしSC-SEM,SC-XAFSを用いて,既に企業を含む多くのユーザーの試料の分析を実施した.特にSC-SEMは,公開開始後まだ2年程度であるが,近年急速に利用者を増やしつつある.しかし,両計測機器の更なる性能向上による実用性の向上を目指し,我々は,アレイ数の増大及び,STJ素子の層構造の改良によるSTJアレイX線検出器の更なる有感面積の拡大及びエネルギー分解能の向上に取り組む予定である.更には,SC-SEM,SC-XAFSに加えて現在構築を進めている,超伝導蛍光X線検出器付き粒子線励起X線分析装置(SC-PIXE)を完成させ,微量軽元素の今以上の高感度分析を実現したい.

 

謝辞

 本研究の一部は,内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム 革新的構造材料 ユニットD66 (SIP-IMASM) の一環として実施しました.

 

参考文献

[1] M. Ukibe et al., J. Low Temp. Phys. 184, 200 (2016)
[2] G. Fujii et al., X-ray spectrometry 46, 325. (2017)
[3] M. Ukibe er al., Microscopy and Microanalysis 24, 1036.(2018)
[4] M. Ohkubo et. al., Sci. Rep., 2, pp.00831-1 - 00831-5 (2012).

(産業技術総合研究所 浮辺 雅宏)