NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第23回>
窒化物薄膜LEDボンディング技術の開発
(株)フィルネックス 荻原 光彦
広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 雨宮 嘉照 横山 新


1.はじめに

 本研究開発では,発光ダイオード(LED)と異種材料デバイスとの集積化を目指して,窒化物薄膜LEDボンディング技術の開発を行った.異種材料基板上に接合した窒化ガリウム(GaN)薄膜LEDの動作を実証した.その成果は,2018年に開催された国際会議(The 3rd Int. Symp. on Biomedical Engineering (ISBE2018), Int. Workshop on Nitride Semiconductors (IWN2018))で報告した[1][2].

  本研究開発の一部は,文部科学省の「ナノテクノロジープラットフォーム事業」に参画する広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所の「微細加工プラットフォームコンソーシアム(代表機関:京都大学)」の支援を受けて実施した.図1に支援依頼元と支援に携わったメンバーの写真を示す.

 

図1 支援依頼元と支援に携わったメンバー
(左から) (株)フィルネックス 荻原 光彦,広島大学 雨宮 嘉照,横山 新

 

 図2にスーパークリーンルーム内で支援依頼元と支援に携わったメンバーが一緒に実験をしている写真を示す.図2(a)~(c)はそれぞれ,誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma: ICP)エッチング装置を使ったGaN-LED層の分割エッチング加工,電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)を使った試作サンプルの加工状態の観察,DCマグネトロンスパッタ装置を使った配線用Al薄膜形成,の際の写真である.

 

(a)ICPエッチング装置を使ったGaN-LED層の分割エッチング加工

(b)SEMを使った試作サンプルの加工状態の観察

(c)DCマグネトロンスパッタ装置を使った配線用Al薄膜形成

図2 スーパークリーンルーム内で支援依頼元と支援に携わったメンバーが一緒に実験をしている写真

 

2.背景と研究開発の目的

 先端半導体デバイス・システムでは,高性能化と小型化が常に求められる.高性能化と小型化を追求するためには素子の高密度集積と機能集積が重要な技術要素である.パッケージング・プロセスでは,“2.5D”や“3D”といった異種機能素子の高密度集積技術の発展により大幅な性能向上や小型化が図られている.フロントエンド・プロセスでもチップレベルの機能集積技術の開発が進められている.いわゆるシリコン(Si)フォトニクスは,チップレベルの異種機能集積を目標として長年研究開発が積み重ねられてきた重要なテーマの一つで,光デバイスと電子デバイスのSi基板上での“完全融合”を目指した研究開発が進められている[3].その課題に対し解となる候補技術として,デバイス層の転写技術を挙げることができる.今までデバイス層の転写技術はいろいろな機関で開発されてきた.ウエハボンディング(WB)技術[4]や表面活性化接合(SAB)技術[5]は直接接合技術として実用化されている.エピタキシャルリフトオフ[6]を使ったSi基板上へのガリウムひ素(GaAs)発光素子の接合技術[7]や,それを発展させたエピタキシャルフィルム・ボンディング(Epitaxial Film Bonding: EFB)技術[8][9][10]は,常温・大気圧下で異種材料を接合する技術として,チップレベルの異種機能集積を実現するもう一つの有望なデバイス層転写技術である.

  青色LEDの実用化を端緒に精力的に高品質化開発が進められ,さらに次世代のパワーデバイスや高周波デバイスの材料として注目されている窒化ガリウム(GaN)は,青色から紫外(UV)波長領域の光源としてバイオ・メディカル応用としても重要なデバイス材料である[11].また,半導体デバイスのバイオ・メディカル応用として,光源,バイオセンサー,光学部品,Si CMOS制御素子をSi基板上に集積した小型・高性能な検査システムが提案されている[12][13][14][15].その集積デバイス・システムの構想概念図の例を図3に示す[13].本研究開発では,図3に示したバイオ・メディカル応用の光源としても応用可能なGaN薄膜LEDの開発に取り組んだ.

 

図3 目標の集積デバイス・システム(構想概念図)

 

3.GaN薄膜のEFB

 GaN薄膜LEDボンディング技術の開発にあたり,それに適したEFBプロセスを開発した.EFBプロセスの概要を図4に示す.母材基板上に形成したGaNエピタキシャル層を複数の個別LED領域(GaN薄膜LED層: GaN-LED層)に分割エッチングした後に((a)),母材基板の表面領域を選択的にエッチングしてGaN-LED層を母材基板から剥離した((b)).剥離したGaN-LED層を異種材料基板(ゲスト基板)上に常温・大気圧下で圧接して接合した((c)).GaN-LED層を常温・大気圧下で接合するプロセスを構築することによりゲスト基板の選択肢が広がると共に,作製に使用する装置や工程を簡素化することができる.

 

図4  EFBプロセス概要

 

 GaN-LED層の分割エッチング加工には,図2(a)のICPエッチング装置を用いた.エッチングガスには塩素系ガスを用い,エッチングマスクにはプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)を使って成膜した酸化珪素(SiO2)薄膜を用いた.ドライエッチングにより加工したGaN-LED層のへき開断面の電子顕微鏡像(断面SEM像)を図5に示す.SEM像観察では図2(b)のSEM装置を使用した.LED構造の加工を行い,p側,n側のオーミック電極を形成した後にGaN-LED層を母材基板から剥離した.

 

図5 LED構造の加工をしたGaN-LED層の断面SEM像

 

 母材基板から剥離したGaN-LED層を異種材料ゲスト基板(Si基板)上に常温・大気圧下で圧接して接合した.接合に際し接着剤等は一切使用していない.接合力はファンデルワールス力より強く共有結合より弱い複合的な力と考えている.

 接合したGaN-LED層の断面SEM像を図6に示す.接合したGaN-LED層の断面は,収束イオンビーム(Focused Ion Beam: FIB)を使って加工した.GaN-LED層の厚さは2μmである.GaN-LED層の周囲に見える物質は,FIB加工の際にGaN-LED層を保護するための材料である.図6の太い矢印で示した位置がGaN-LED層とゲスト基板の接合位置である.図6に示した通り,接合界面には浮き(ボイド)などの接合不良は見られなかった.常温・大気圧下で接合するEFBプロセスで良好なGaN-LED層の接合が得られることを検証した.

 

図6 異種材料ゲスト基板(Si基板)上に接合したGaN-LED層の断面SEM像

 

4.GaN薄膜LEDの評価

4.1 GaN-LED層の剥離表面

 GaN-LED層の剥離表面の表面粗さはゲスト基板上への接合特性に影響を与えると考えられる.そこで,原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: AFM)を使ってGaN-LED層の剥離表面(接合予定表面)の表面粗さを測定した.この装置も支援機関のものを用いた.

 図7にGaN-LED層の剥離表面のAFM像を示す.測定領域は,剥離したGaN-LED層の中央付近の5×5μm2の領域である.剥離したGaN-LED層の算術平均表面粗さ(Ra)は0.7nmであった.Ra<1nmの表面粗さは良好な接合を得るのに十分な表面粗さと言える[16].

 

図7 GaN-LED層の剥離表面の表面粗さ(AFM像)

 

4.2 GaN薄膜LEDの特性

(1)発光特性

 Si基板上に接合したGaN薄膜LEDの発光状態を光学顕微鏡で観察した.図8にSi基板上に接合したGaN薄膜LEDを点灯した時の光学顕微鏡写真を示す.GaN薄膜LEDのサイズは,100×40μm2である.p側電極とn側電極間の発光領域はおよそ30×40μm2である.図8から発光領域でほぼ均一に発光していることを確認できる.スペクトロメーターで測定した発光波長分布のピーク波長は430nmである.

 

図8 Si基板上に接合したGaN薄膜LEDを点灯した光学顕微鏡写真

 

(2)電気特性

 図9に今回試作したゲスト基板(Si基板)上に接合したGaN薄膜LEDの典型的な電流-電圧特性(I-V特性)を示す.順方向電圧が4VでのLED電流は1mAであった.ゲスト基板として石英基板を使った場合にも同様のI-V特性が得られた.比較のため母材基板から剥離する前のGaN-LEDのI-V特性を調べた.図10に母材基板から剥離する前のGaN-LEDの典型的なI-V特性を示す.図9に示したI-V特性は図10に示したI-V特性と同等の特性である.この結果から,EFBプロセスによってゲスト基板上に接合したGaN薄膜LEDのI-V特性には大きな変化が発生しないことを検証した.

 

図9  Si基板上に接合したGaN薄膜LEDの典型的なI-V特性

 

図10 母材基板上のGaN薄膜LEDの典型的なI-V特性

 

5.GaN薄膜LEDの2次元アレイ

 GaN薄膜LEDの異種材料基板上への集積の観点から,GaN-LED層のEFB開発で得られた結果に基づいて,GaN薄膜LEDの2次元アレイを試作した.2次元アレイのGaN薄膜LEDは,図8に示したLEDと同等の設計とし,LEDサイズは100×40μm2とした.LEDの配列を5×4のアレイとした.ゲスト基板は,基板表面に絶縁層としてSiO2層を形成したSi基板を使った.2次元アレイの試作では,図4で説明したEFBプロセスを使って,5×4のGaN薄膜LEDをゲスト基板上に一括接合した.GaN薄膜LEDをゲスト基板上に接合した後,各LEDを個別に点灯制御するためのAl配線を形成した.Al配線形成には図2(c)に示したDCマグネトロンスパッタ装置を使用した.

 接続パッドおよび周辺領域を含めた2次元アレイチップサイズは3.5mm□とした.2次元アレイチップより若干大きい領域をSi基板のへき開により取り出し,端子台に銀ペーストで接着した.端子台と2次元アレイチップの接続パッド間は25μmΦ金ワイヤを使ってワイヤボンディングで接続した.

 図11に試作したGaN薄膜LEDの2次元アレイの写真を示す.2次元アレイの一部のGaN薄膜LEDを点灯した状態を示している.2次元アレイの点灯制御にあたっては,専用の電子回路およびソフトウェアを準備した.図11に示したように,EFBプロセスにより異種材料基板上にGaN薄膜LEDを集積できることを検証した.

 

図11  GaN薄膜LEDの2次元アレイの写真

 

6.GaN薄膜LEDと光導波路の集積

 図3に示した集積デバイス・システムを目指した要素技術開発として,光導波路上にGaN薄膜LEDの作製を試みた.光導波路にGaN薄膜LEDからの光を導入するため,光導波路に光グレーティング・カップラー領域を形成した.使用するGaN薄膜LEDから出射される光の波長に適合するように光グレーティングを設計した.EFBにより光グレーティング・カップラー上へGaN-LED層を接合した後にAl配線を形成し,光導波路上にGaN薄膜LEDを作製した.図12に光導波路上に作製したGaN薄膜LEDの光学顕微鏡写真を示す.EFBにより光導波路上にGaN-LED層を接合することができ,GaN薄膜LEDと導波路を同一基板上に集積できることを検証できた.残念ながら,今回はグレーティング・カップラーが正常に動作しておらず,光導波路への光導入には成功していない.

 

図12 光導波路上に作製したGaN薄膜LEDの光学顕微鏡写真

 

7.まとめと今後の課題

 本研究開発では,EFBによるGaN-LED層の異種材料基板上へのデバイス層転写プロセスを開発し,複数のGaN薄膜LEDの集積,およびGaN薄膜LEDと光導波路の集積を同一基板上でできることを検証した.今後,効率よく光導波路へ光を導入できる光源と光導波路の改良を進め,集積したGaN薄膜光源と光導波路の動作実証,さらにはバイオ・メディカル応用に向けた集積デバイス・システムの実用化を目指したい.

 

謝辞

 GaN薄膜LEDの2次元アレイの点灯制御にあたり,点灯制御のための電子回路およびソフトウェアを作製して下さいました,広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所,ナノテクノロジープラットフォーム教育研究補助職員の岡田 和志氏に感謝致します.本研究は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム,微細加工プラットフォームコンソーシアム,および文部科学省のネットワーク型共同利用・共同研究拠点「生体医歯工学共同研究拠点」の共同研究の一部として実施されました.

 

参考文献

[1] M. Ogihara, Y. Amemiya, and S. Yokoyama, “Photonic device integration using thin device layer bonding for biomedical applications,” The 3rd Int. Symp. on Biomedical Engineering (ISBE 2018), Nov. 8-9, 2018, Hiroshima Univ., Japan, pp.234-235, 2018.
[2] M. Ogihara, S. Yokoyama, and Y. Amemiya, “Heterogeneous integration of nitride semiconductor device layer by epitaxial film bonding,” Technical Digest of Int. Workshop on Nitride Semiconductors (IWN 2018), Nov. 11-16, 2018, Kanazawa, Japan, TuP-OD-27, pp.258, 2018.
[3] Nature Photonics vol. 4 Issue 8, focuses on silicon photonics, Aug. 2010.
[4] T. Abe, T. Takei, A. Uchiyama, K. Yoshizawa, and Y. Nakazato, “Silicon wafer bonding mechanism for silicon-on-insulator structure,” Jpn. J. Appl. Phys. 29, pp. 2311-2314, Dec. 1990.
[5] H. Takagi, Y. Kurashima, A. Takamizawa, T. Ikegami, and S. Yamaguchi, “Surface activated room-temperature bonding in Ar gas ambient for MEMS encapsulation,” Jpn. J. Appl. Phys. 57, Dec. 2017.
[6] M. Konagai, M. Sugimoto, and K. Takahashi, “High efficiency GaAs thin film solar cells by peeled film technology”, J. Cryst. Growth 45, pp.277-280, 1978.
[7] J. Maeda, Y. Sasaki, N. Dietz, K. Shibahara, S. Yokoyama, S. Miyazaki, and M. Hirose, “High-Rate GaAs Epitaxial Lift-Off Technique for Optoelectronic Integrated Circuits,” Jpn. J. Appl. Phys. 36, pp. 1554-1557, 1997.
[8] M. Ogihara,H. Fujiwara, M. Mutoh,T. Suzuki, T. Igari,T. Sagimori,H. Kurokawa,T. Kaneto,H. Furuta,I. Abiko,and M. Sakuta, “LED array integrated with Si driving circuits for LED printer printhead,” Electron. Lett. vol.42, no.15, pp.881-883, 2006.
[9] M. Ogihara, “Bridge to Si Photonics by epifilm bonding technology,” (invited) 4th International Nanotechnology Conference on Communication and Cooperation (INC 4), April 14-17, 2008, Tokyo, Japan, 2008.
[10] M. Ogihara, “Epifilm Bonding Technoloby,” (SEMI STS Award) SEMI Technology Symposium 2008 (STS 2008), Dec. 3-5, Makuhari Messe, Japan, 2008.
[11] H. Takehara, Y. Ohta, M. Motoyama, M. haruta, M. Nagasaki, H. Takehara, Y. Noda, K. Sasagawa, T. Tokuda, and J. Ohta, “Intravital fluorescence imaging of mouse brain using implantable semiconductor devices and epi-illumination of biological tissue,” Biomedical Optics Express, vol. 6, p.1553, 2015.
[12] S. Yamatogi, Y. Amemiya, T. Ikeda, A. Kuroda and S. Yokoyama, “Si Ring Optical Resonators for Integrated On-Chip Biosensing,” Jpn. J. Appl. Phys. 48, 04C188, 2009.
[13] Y. Amemiya, A.K. Sana, Y. Nakashima, J. Maeda, and S. Yokoyama, “Silicon Photonic Biosensors with MEMS Flow Control,” Extend. Abst. Int. Conf. on Solid State Devices and Materials (SSDM2017), pp. 366-367, 2017.
[14] T. Uruma, T. Tabei, Y. Amemiya, T. Sato, S. Yamada, K. Okada, and S. Yokoyama, “New integration technology of optical waveguides and photodiodes with CMOS operational amplifiers,” Extend. Abst. Int. Conf. on Solid State Devices and Materials (SSDM2018), pp. 603-604, 2018.
[15] K. Tanimoto, Y. Amemiya, and S, Yokoyama, “Optical Waveguides with Memory Effect Using Photochromic Material for Neural Network,” Extend. Abst. Int. Conf. on Solid State Devices and Materials (SSDM2017), pp. 97-98, 2017.
[16] H. Takagi, R. Maeda, T. R. Chung, N. Hosoda, and T. Suga, “Effect of the Surface Roughness on Room-Temperature Wafer Bonding,” Jpn. J. Appl. Phys. 37, pp. 4197-4203, 1998.


 

((株)フィルネックス 荻原 光彦)