NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第27回>
生体鉱化作用を模倣したリン酸カルシウムと異種素材のナノ複合体の創製
長岡技術科学大学 大学院工学研究科 エネルギー・環境工学専攻 山田 翔太,
長岡技術科学大学 大学院工学研究科 物質材料工学専攻 山田 伊織,多賀谷 基博
名古屋大学 林 育生,坂口 佳充

 

 

(左から)長岡技術科学大学 山田 翔太,山田 伊織,多賀谷 基博

(左から)名古屋大学 坂口 佳充,林 育生

 

1.はじめに

 超高齢社会を迎えた日本では,健康で安心して暮らせる社会の実現が課題となっている.それに伴い,バイオ・医療品の市場は拡大を続けている.この根幹的役割を担う「ナノバイオテクノロジー」に係る材料創製について筆者らは取り組んできた.当該分野における材料の基本単位はナノメートルであり,ナノ構造の形状・性状に加えて,異種材料を巧みに複合させた「ナノ複合体」が重要となる.生体内に存在する硬組織の主成分はリン酸カルシウムであり,その多くはコラーゲンやシリカなどの異種材料と複合したナノ複合体となっている.したがって,生体鉱化作用を模倣したリン酸カルシウム系材料のナノ複合体を創製して機能を解明することによって,当該分野の飛躍的進展が見込まれる.

 本稿では,水酸アパタイトと細孔構造を有するシリカとの複合粒子の創製に関する研究ついて概説し,層状リン酸八カルシウムへのEu(III)イオン置換とコハク酸修飾についての研究を紹介する.

 

2.水酸アパタイトと細孔構造を有するシリカの複合粒子

 生体内には1–2gのSiが含まれているとされ[1],生体骨には36ppmのSiが存在している[2].そのため,リン酸カルシウム系化合物とシリカを複合化する研究が数多くなされている[3][4].しかし,そのナノ複合体における構造制御に関する研究はなされていない.そのため,筆者等は,ナノ細孔構造を有するシリカ(MS)とリン酸カルシウム系化合物をナノスケールで複合化させる研究を提案してきた.MSは,特異な水和層構造を形成するため,生体材料への応用が期待されている.つまり,MSと生体内の硬組織の主成分である水酸アパタイト(HA)をナノスケールで複合させることができれば,高い生体親和性とナノ細孔構造を併せ持つ材料が得られると期待される.そこで,以下では,カチオン性界面活性剤ミセルと両親媒性ブロック共重合体の存在下で,シリカとリン酸カルシウムを複合させ,細孔構造を持つ生体親和性の高い複合粒子の合成を行った著者等の結果を紹介する.

 複合粒子はCa/Pモル比を1.0として,カチオン性界面活性剤(CTAB)と両親媒性ブロック共重合体(P123)の存在下でリン酸源とカルシウム源を反応させた.この溶液にシリカ源(シリコンアルコキシド,TEOS)を添加し,水熱反応させた後,洗浄してエタノール分散液とした.この分散液から電気泳動法によって粒子を回収して乾燥させ,複合粒子を得た.合成時のP123の添加量は0,0.19,0.38,0.76mMであり,それぞれMS/HA-0,MS/HA-1,MS/HA-2,MS/HA-3と定義した.ここで,シリカ源のみで合成した試料MS,リン酸源とカルシウム源のみで合成した試料HAをリファレンス試料とした.

 粒子は,固体29Si–NMR(DD/MAS法,共鳴周波数:59.62MHz,パルス幅:4.0μs,待ち時間:20s,積算回数:1000回,標準試料:tetramethylsilane(–9.55ppm)),固体31P–NMR(DD/MAS法,共鳴周波数:121.50MHz,パルス幅:4.0μs,待ち時間:20s,積算回数:1000回,標準試料:ammonium dihydrogen phosphate(1.02ppm)),比表面積・細孔径分布測定とTEMにより評価した.固体29Si–NMRスペクトルついて,より詳細な解析を行うため,スペクトルの分離を行った.3つのSi成分が重なったピークを,Q2(–93±2ppm,2つの≡Si–O–Si≡結合と2つの≡Si–OH結合を持つ),Q3(–102±2ppm,3つの≡Si–O–Si≡結合と1つの≡Si–OH結合を持つ),Q4(–111±2ppm,4つの≡Si–O–Si結合を持つ)の3つに分離した.

 固体29Si–NMRスペクトルを図1(a)に示し,(Q2+Q3)/Q4比をP123の添加量に対してプロットした結果を図1(b)に示した.MS/HA複合粒子では,複合によってSi‒OH結合が減少し,Si‒O‒Si結合が増加する傾向が見られたことから,複合によってMS相の縮合反応が促進された可能性と,Si‒OH結合を介してMS相とHA相が複合している可能性が示された.また,P123の添加量の増加に伴いSi‒OH結合が増加したことから,P123がMS相の縮合反応を抑制する可能性が示された.固体31P–NMR(図2)の結果から,リファレンス試料であるHAでは結晶性の高いHA相(0.4ppm)が生成し,MS/HA複合粒子では歪のあるHA相(2.7ppm)の生成が確認された[5].さらに,47ppmと–45ppmのスピニングサイドバンドの強度が,P123の添加量の増加に従い増加していく傾向が見られ,アモルファスリン酸カルシウム(ACP)の増加が示唆された[6].TEM観察を行った結果を図3に示す.それぞれの複合粒子では,点線で囲んだHAの柱状結晶の周囲にMS相が存在している様子を確認できた.複合粒子の表層はMS相が支配的であり,結晶性が低いHA結晶とMS相の複合化が実現されていると考えられる.図4に比表面積・細孔径分布測定の結果を示す.IUPAC分類よりそれぞれの等温線の型は,リファレンス試料であるHAがIII型,MSがH4型,全ての複合粒子がH3型であった.複合粒子からはスリット状細孔を持ったMS相に起因する高い比表面積が得られた.また,P123の添加量の増加に伴い,細孔径が大きくなる傾向が見られた.これは,CTABとP123の混合ミセルが形成したためと考えられる.これらの結果から,本稿で合成した複合粒子は,生体骨に類似した結晶性の低いHA相と細孔構造を持つHA相が複合した材料であることが判明した.

 

図1 (a) solid state 29Si–NMR spectral deconvolution results of MS and the nanostructured MS/HA hybrid particles, indicating the separated spectra of (1) Q2 (i.e., two Si–O–Si and two Si–OH bonds) at –93±2 ppm, (2) Q3 (i.e., three Si–O–Si and one Si–OH bonds) at –102±2 ppm and (3) Q4  (i.e., four Si–O–Si bonds) at –111±2 ppm, and (4) their re-synthesized and (5) raw spectra. (b) (Q2+Q3)/Q4 ratios of the nanostructured MS/HA hybrid particles with the concentration of P123. Here, the (Q2+Q3)/Q4 ratio of MS is 0.98.

 

図2  Solid state 31P–NMR spectra of HA and the nanostructured MS/HA hybrid particles.

 

図3 (a–f) N2 adsorption (closed circles) and desorption (open circles) isotherms of (a) HA, (b) MS, (c) MS/HA-0, (d) MS/HA-1, (e) MS/HA-2 and (f) MS/HA-3, and (g) the changes of SBET and BJH pore diameter of the nanostructured MS/HA hybrid particles with the concentration of P123.

 

図4 TEM images of HA, MS and the nanostructured MS/HA hybrid particles (inset: magnified images).

 

3.層状リン酸八カルシウムへのEu(III)イオン置換とコハク酸修飾の両立

 リン酸八カルシウム(OCP)は,水酸アパタイト層と水和層が繰り返された層状構造を持つリン酸カルシウムで,骨再生医療分野で研究されている.また,水和層に存在するリン酸水素イオンを異種イオンへ置換できる可能性が知られており,新規層状化合物の創製を目指しこれまでに様々なジカルボン酸イオンの置換による有機修飾が試みられてきた[7][8][9][10].さらに,OCP骨格中への異種イオンの置換や層間有機修飾により機能化することで,様々な応用が実現すると期待される.そこで,以下では,OCPのCa2+をEu3+へ置換した光機能性OCP(OCP:Eu)とコハク酸(Suc)により有機修飾したOCP:Eu(Suc-OCP:Eu)の2種類を合成・評価(図5)し,置換されたEu3+の配位環境と層間有機修飾の影響を考察した著者等の結果を紹介する.

 

図5 Illustration of OCP:Eu and Suc-OCP:Eu structures of this study.

 

 OCP:Euは,Eu(III)イオンをCaに対して1–10mol%になるように酢酸バッファー(0.1M)中に溶解させ,次に,リン酸三カルシウムを添加して50℃・3時間の加水分解を施して合成した.一方で,Suc-OCP:Euは,酢酸バッファー(0.1M)と1.0M酢酸ナトリウムの混合溶液中にEu(III)イオンとSucを溶解させ,その後は同様に合成した.生成物を超純水で洗浄して50℃・48時間の乾燥を行った.試料名は,Euイオンの仕込み濃度Xを添えて,OCP:Eu-XX1–10),及び,Suc-OCP:Eu-XX1–10)と表記した.評価はXRF,XRD,FT-IR,固体31P–NMR,蛍光スペクトル,及び,内部量子効率(ηint)により行った.

 XRF結果から,Eu(III)イオン含有モル濃度は仕込みと凡そ一致した.XRD(図6)から,合成した試料はOCP相であり,OCP:Eu系のd100値は1.87‒1.88nm,Suc-OCP:Eu系のd100値は2.14‒2.16nmで,Suc修飾によりd100値が増大したことが確認された.また,Suc-OCP:Eu系では,XRF結果から,C濃度の増加とP濃度の減少がみられ,FT-IR結果から,層間のリン酸水素イオン由来の吸収帯強度が減少してカルボン酸イオン由来の吸収帯が発現した.さらに,固体31P–NMR(図7)の結果からは,OCPの水和層中に存在するP3,P5,P6に帰属されるピークの形状がOCP:Eu系とSuc-OCP:Eu系で大きく異なっており,Suc-OCP:Eu系ではPaとPbの2つのピークに分裂していることが明らかとなった.これは水和層中のリン酸水素がSucイオンに置換されたことで水和層中のP5のピークが減少し,水和層中の水素結合が変化することでリン酸とリン酸水素の存在状態に変化が生じた結果である[11].一方,Euの濃度の増加に伴うケミカルシフトの変化はなく,OCPの構造を維持したままEuが置換されており,SucイオンがOCP層間のリン酸水素イオンと置換していると考えられた.蛍光スペクトル(図8(a),(b))から,Eu(III)イオン由来の赤色発光が観測され,OCP:Eu系とSuc-OCP:Eu系の間でスペクトル形状に大きな差異は見られなかった.OCPが水酸アパタイト構造を部分的に持つため,5D07F0のピークを,極大波長が574nmと577nmのスペクトルへ分離したところ水酸アパタイト構造におけるCa(I)サイトへEu(III)イオンが置換していることが示唆された[12].また,蛍光強度(蛍光波長:614nm)(図8(c))は,Eu濃度増加に伴って増大し,Suc-OCP:Eu系がOCP:Eu系に比べて高く,Eu(III)イオンの仕込み濃度が10mol%でも濃度消光が抑制されていると考えられた.さらに,ηint(図8(d))からは,両系ともにEu量に伴って増大し,Suc-OCP:Eu系がより高いことがわかる.これらの結果から,OCPの層状構造がEuの濃度消光を抑制していると考えられ,さらには,コハク酸修飾により層間距離が増大したことによって,Eu同士間およびEu-欠陥間の距離が増大し,濃度消光と欠陥によるエネルギー失活が低減され,発光特性が向上したと推察している.

 

図6 XRD patterns of (a) OCP:Eu and (b) Suc-OCP:Eu. All the plane indexes were attributed to a single phase of (•) OCP (ICDD No.: 01-074-1301).

 

図7 Attribution of phosphorus in OCP crystal structure (a) and 31P DD/MAS solid-state spectra of the (b) OCP:Eu and (c) Suc-OCP:Eu. Pa: hydrated orthophosphate, Pb: hydrogen phosphates.

 

図8 PL spectra of (a) OCP:Eu and (b) Suc-OCP:Eu under the excitation wavelength at 395 nm, and (c) PL intensity at 614 nm and (d) ηint (550–750 nm).

 

4.おわりに

 本稿では,水酸アパタイトとナノ細孔構造を有するシリカの複合粒子と,層状リン酸八カルシウムへのEu(III)イオン置換とコハク酸修飾について紹介した.高齢化が進む日本において高性能な骨補填材料や,治療と診断を同時に行うセラノスティクス材料などの,ナノバイオ材料の研究は急務な状況にある.そのため,生体鉱化作用を模倣したナノ複合体材料の合成が必要であるが,実際に生体内でナノ複合体が形成するプロセスと機能が未解明な点が多い.ナノ複合体が形成する機構と機能が解明されれば,ナノバイオテクノロジーは急速に進歩すると考えられる.そして,本研究室においては,材料合成のみならず,生物が織りなす材料機能の解明研究を進め,当該分野の発展へ寄与したい.そして,健康で活力ある社会として日本が発展することを願う.

 

謝辞

 本研究の一部はJSPS科研費 若手研究(A) 17H04954の助成を受けて実施したものです.本研究推進の中で固体NMRスペクトル測定に御協力いただきました,名古屋大学大学院工学研究科分子・物質合成プラットフォームの林 育生氏,坂口 佳充先生へ深く感謝申し上げます.

 

参考文献

[1] R. Jugdaohsingh, J. Nutr. Heal. Aging, 2007, 11, 99–110.
[2] S. J. Whiting and H. H. Draper, J. Nutr., 1981, 111, 1721–1726.
[3] A. Sousa, K. C. Souza and E. M. B. Sousa, 2008, 4, 671–679.
[4] A. I. Villacampa and J. M. Garcı́a-Ruiz, J. Cryst. Growth, 2000, 211, 111–115.
[5] J. Vogel, C. Russel, G. Gunther, P. Hartmann, F. Vizethum and N. Bergner, J. Mater. Sci. Mater. Med., 1996, 7, 495–499.
[6] T. Yasue and Y. Arai, Gypsum Lime, 1993, 1993, 108–116.
[7] H. Monma and M. Goto, J. Incl. Phenom., 1984, 2, 127–134.
[8] M. Markovic, B. O. Fowler and W. E. Brown, Chem. Mater., 1993, 5, 1401–1405.
[9] T. Yokoi, M. Kamitakahara and C. Ohtsuki, Dalt. Trans., 2015, 44, 7943–7950.
[10] I. Yamada and M. Tagaya, Colloid Interface Sci. Commun., 2019, 30, 100182.
[11] Y. Li, D. G. Reid, M. J. Duer and J. C. C. Chan, Solid State Nucl. Magn. Reson., 2018, 95, 1–5.
[12] M. Long, F. Hong, W. Li, F. Li, H. Zhao, Y. Lv and H. Li, J. Lumin., 2008, 128, 428–436.

 

(長岡技術科学大学 多賀谷 基博)