NanotechJapan Bulletin

      

企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第3回>
液晶を用いたシリコン細線マッハツェンダー光スイッチ
産業技術総合研究所 電子光技術研究部門 渥美 裕樹,明治大学 大学院 宮崎 哲男
東京工業大学 工学院 電気電子系/未来産業技術研究所 宮本 恭幸

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(左から)産業技術総合研究所 渥美 裕樹,明治大学 宮崎 哲男,東京工業大学  宮本 恭幸

1.はじめに

 光通信技術は,様々な変調方式・多重方式を採用することで大容量信号伝送を可能とし,これまで大陸間,都市間ネットワークからFTTHまで,長距離通信を中心として発展してきた.その一方で,インターネット利用者数の増加,高品質コンテンツの多様化に伴い,基幹ネットワーク通信量は現在も増大し続けており,さらなる大容量・低遅延・低消費電力な次世代光通信システムの開発が期待されている[1].また,発展著しい大規模データセンターやスーパーコンピュータ内のサーバー間,通信ボード間,さらにはチップ間といった,より短距離通信に向けた光配線技術の研究開発,実用化も進んでいる[2].そして,これらに共通する技術課題の一つとして挙げられるのが,光機能デバイス,システムのチップ上集積である.その中で,シリコンフォトニクスは高密度光集積を可能とする技術として注目されている.

 シリコンフォトニクスはシリコンを導波路コア材料とした光配線技術である(図1).シリコンは高屈折率材料(~3.45:波長1550nm)であり,周囲をとりまくクラッド材料との大きな屈折率差により,伝搬光は数百nm幅のシリコン導波路コア内へ強く閉じ込められる.その結果,半径数µmといった微細曲げ導波路での低損失伝搬を可能とし,高密度な光集積回路を実現できる.さらに,シリコンフォトニクスはLSIと同じシリコンを材料プラットフォームとしていることから,成熟したCMOSファブラインを一部利用でき,光電子集積性・大量生産性に優れている.上記利点を生かし,これまで様々な機能デバイス,集積システムが開発されている.

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図1 シリコン細線導波路(断面SEM)

 その中で“位相制御”は,変調器,光スイッチ,可変波長フィルタ,コヒーレントレシーバーといったシステムを構成する主要な機能デバイスの動作原理となっており,これまでシリコンの熱光学効果,キャリアプラズマ効果などを用いた位相制御デバイスが報告されてきた[1][3][4][5].

 一方,我々はシリコン導波路と液晶材料を組み合わせた位相制御技術の開発に取り組んでいる.シリコン導波路において面内方向に電界成分を持つ光はシリコン導波路コアに強く閉じ込められて伝搬する一方で,クラッド材料へのエバネッセント光を付随する(図2).従って,機能性を有するクラッド材料を選択することで,エバネッセント光を介して様々な効果を導波特性に付加することができる.我々は,伝搬光の実効屈折率を制御すべくクラッド層にネマティック液晶を採用した.ネマティック液晶は大きな屈折率異方性を有する流動性分子の集合体である.また,分子軸の向きは外部電界で制御することが可能であり,この特徴を生かし,ディスプレイやLCOSデバイスとして広く応用されている.そして,光通信デバイスに向けても小型かつ低消費電力な位相シフタとして期待されている[6][7].

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図2 液晶埋め込みシリコン細線導波路

 図3に我々が取り組んでいる位相シフタの模型図を示す.SOI基板上に形成されたシリコン導波路の上に液晶が載った構造となっている.外部電界を与えない時,液晶分子はデバイス上部に集積された配向膜の効果によって導波路伝搬方向に沿って並ぶ.一方,外部電界を与えることで,液晶分子は電界方向に向きを変える.その結果,シリコン導波路を伝搬する光の実効屈折率が変化し,光伝搬速度が変わることで位相制御することが可能である.

 本稿では,高いパターンニング精度を有し,高性能な光・電子デバイス開発において実績があるナノテクノロジープラットフォーム・微細加工プラットフォームコンソーシアム(東京工業大学)の電子線露光装置を活用させていただき,代表的な位相制御デバイスである液晶装荷シリコン光パススイッチを作製したのでご紹介する.

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図3 液晶装荷シリコン位相シフタの模式図

2.実験

2.1 デバイス設計

 図4に作製したマッハツェンダー型光スイッチの構成図を示す.設計したマッハツェンダー光スイッチは,2×2ポートの入出力構成となっており,それぞれの側に伝搬光を分岐,及び結合する3dB方向性光結合器を有している.両者間は上述の位相シフタを含む2本の対称アーム導波路によって接続されており,位相シフタを動作させ片方アームの位相を制御することで,出口側方向性結合器での位相干渉を通じて光信号の出力ポートを切り替える.シリコン導波路の寸法は高さ220nm,幅430nmであり,導波路曲げ半径は50µmとした.3dB方向性結合器は波長1550nmで動作すべく導波路間ギャップ,及び結合器長はそれぞれ330nm,50µmとした.デバイスは全面液晶で覆われており,その上に位相シフタ導波路方向にラビングされた配向膜付き石英基板が集積されている.位相シフタ部では電極配線の取り回しのレイアウト制限からループバック導波路構造を導入した.この構造により,デバイスの外側に両電極を形成することができ,光導波路と電気配線の交差を避けることができる.位相シフタ部での導波路幅は330nmおよび300nmとなるよう設計した.このように両者の導波路幅をずらすことで両導波路間の実効屈折率に差が生じ,ループバック伝搬時の導波路間光結合を避けることができる.また,位相シフタ部のシリコン導波路幅を狭くすることで,液晶クラッド層への光染み出しが増え,より高効率な位相制御が可能となる.ループバック導波路の並行領域の長さおよびギャップ幅はそれぞれ300µm,2µmとし,電極のギャップ間隔は10µmとした.

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図4 液晶装荷シリコン光パススイッチの模式図

2.2 デバイス作製

 設計されたデバイスを以下の方法で作製した.

 BOX層3µm,トップSi層220nmのSOI基板に対して,電子線ポジレジストであるZEP-520A(日本ゼオン製)を塗布し,電子線描画装置JBX-6000FS及びJBX-6300FS(日本電子製)を用いてシリコン光回路のパターンニングを行った.各装置の加速電圧はそれぞれ50keV,100keVとし,ビーム電流を100pAとした.その後ICP-RIE装置にてSF6及びC4F8の混合ガスを用いてSi転写を行った.シリコン導波路では側壁荒れによって伝搬光が散乱されやすいことから,ナノメートルオーダでの平滑さが要求される.我々は上記プロセスにより,1dB/cm台の低伝搬損失なシリコン細線導波路の作製に成功している.シリコン光回路形成後,リフトオフプロセスによりTi/Au電極,電気配線を形成し,液晶材料LIXON-JC5143XX(JNC製)を塗布した.さらに,導波路方向にラビング処理されたポリイミド膜付き石英基板をデバイスの上に集積することで完成させた.

2.3 測定系・測定結果

 次に,図5に示す測定系を用い,作製デバイスの測定評価を行った.光源には1550nm波長帯のASE光源,及び狭帯域光源を用い,偏波コントローラを通してTE偏波に制御した.その後,2µmスポット径を有する偏波保持先球ファイバを通じて評価デバイスに入射した.デバイスとの光結合効率を良くするため,デバイス側の入出力端面には先端幅300nmのスポットサイズコンバータを導入している.デバイスからの出力光はスペクトルアナライザ,及びディテクタを通じてオシロスコープで観測した.また,スイッチング駆動用の電圧信号は電極プローブを用いてデバイスに印加した.配向膜の影響を検証するため,液晶上の配向膜は基板上に接着固定せず,圧着用プローブを用いて上から押し付けて安定させている.

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図5 測定系:(i)スペクトル測定,(ii)時間応答測定

 図6(a)に各出力ポートからの透過スペクトルを示す.電圧信号を与えない時,入力ポート#2からの入射光に対し,スイッチング波長1550nmにおいて出力ポート#1からの光透過が得られた.印加電圧を増やしていくと出力ポート#2へ出力が増え,印加電圧6.2Vの時に完全にポートが切り替わった.この結果により,位相シフタ部に電圧信号を与えることで液晶分子回転し,伝搬光の位相シフトが生じていることが示された.デバイス挿入損失はおよそ6dBであり,これは入出力での方向性結合器での損失(~4dB)およびアーム導波路領域での伝搬損失を含む.また,自由スペクトル領域(FSR)は設計値(~200nm)に対して35nmであった.これは,光回路全体が液晶クラッド埋め込みとなっていることから,アーム導波路全体で液晶の分子方向にばらつきが発生し,両アーム間で位相差が生じていることが原因と予想される.

 次に,図6(b)に波長1550nmにおける透過光強度の印加電圧依存性を示す.出力ポート#1,#2におけるポート間クロストークはそれぞれ,約14dB,約26dBと測定された.この値は3dB方向性結合器の位相整合性を高め,及びアーム導波路間の損失差を低減することで改善可能である.また,位相シフタの性能指数であるVπLは1.86V・mm(位相シフタ長300µm)であり,これは電極間距離を近づけ,位相シフタ部の導波路幅をより狭くしエバネッセント効果を強くすることで,低減することが可能である.

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図6 デバイス測定結果

 最後に,スイッチング動作の時間応答について評価した(図7).上述したように,配向膜は圧着用プローブにてデバイスチップに押し付けられており,押しつけ圧力に応じて配向膜と光回路間の距離を制御することができる.本測定では電気プローブを通じて6Hzの矩形電気信号を与え,デジタルオシロスコープにて出力ポート#1での(規格化)出力強度を測定した.その結果,電圧信号に応じた光強度のスイッチング動作が得られ,適切な押しつけ圧力の時,出力光の立ち上がり,立下り時間はそれぞれ,7.9msec,8.4msecとなった.押し付け圧力を増やすと,立上がり時間は2.0msecと低減する一方,立下りは48.1msecと増大した.これは,配向膜が導波路に接近することで,配向膜による液晶配向効果が強まったことで説明される.さらに,配向膜を集積しないデバイスでは,立上がり,立下り共に応答時間が増大した.一般的に液晶分子は空気界面に対して垂直方向に立ち上がる特性を持つことから,この効果が応答速度を律速していると考えられる.これらの結果より,光学特性は配向膜条件に敏感であり,スペーサなどを用いて配向膜距離を制御することが重要であるという結論が得られた.

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図7 デバイス応答速度

3.まとめ

 我々は,大きな屈折率異方性,電界制御性を有するネマティック液晶とシリコンフォトニクスを融合することで小型,低消費電力な位相制御器の開発を進めている.

 今回,マッハツェンダー型のシリコン光パススイッチを作製し,電圧信号に応じた出力ポートのスイッチングを確認した.また,配向膜条件の違いによる応答速度への影響を評価し,配向膜距離の重要性を得た.位相制御は光回路システムにおいて重要な機能であり,今後さらなる特性の改善,新規デバイスの開発につなげていきたい.

4.謝辞

 本研究は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォームサポートプロジェクト事業の支援を受けて実施されました.この場をお借りして御礼申し上げます.

参考文献

[1] K. Tanizawa, et al., Opt. Express 23(13), 17599 (2015).
[2] Y. Arakawa, et al., IEEE Commun. Mag. 51(3), 72 (2013).
[3] P. Orlandi, et al., Opt. Lett. 37(17), 3669 (2012).
[4] X. Xiao, et al., Opt. Express 21(4), 4116 (2013).
[5] C. R. Doerr, et al., IEEE Photon. Technol. Lett. 23(12), 762 (2011).
[6] K. Nakatsuhara, et al., Opt. Express 22(8), 9597 (2014).
[7] Y. Xing, et al., IEEE Photon. Technol. Lett. 27(12), 1269 (2015).


(産業技術総合研究所 渥美 裕樹)


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