NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第30回>
AlGaN/GaN HEMTの放射線照射効果解析
三菱電機株式会社 佐々木 肇,日坂 隆行,門岩 薫,
量子科学技術研究開発機構 小野田 忍,大島 武
大阪大学 保田 英洋,森 博太郎

 

 

(左から)保田 英洋,森 博太郎,日坂 隆行,門岩 薫,佐々木 肇

 

(左から)小野田 忍,大島 武

 

1.はじめに

 近年,ワイドバンドギャップ半導体である窒化ガリウム(GaN)を用いたAlGaN/GaN HEMTはGaAs系デバイスに比べ,高い飽和ドリフト速度,高い絶縁破壊耐圧を有することから,高出力・高効率動作が可能なデバイスとして注目されている[1][2][3][4][5].GaNは原子結合力が強い安定な材料であり,高温動作が可能で耐放射線性にも優れており,デバイスの基板に用いている炭化ケイ素(SiC)の熱伝導率が高いことから放熱性もよく,小型で軽量,高い信頼性のデバイスとして宇宙用途として期待されているデバイスである.

 半導体デバイスを宇宙環境で使用するためには,地上用途と異なり耐放射線性を考慮する必要がある.宇宙空間では,大気での吸収がないため,超新星爆発や太陽フレアから放出される高エネルギーの重粒子,電子線,プロトンなどの影響を直接受けることになる.これらの粒子がデバイスに衝突し,定常位置から原子が弾き出され結晶欠陥を生成し,電気特性を劣化させる現象を弾き出し損傷効果という.その他,放射線による電離作用で生成された固定電荷や界面準位が特性を変動させる効果をトータルドーズ効果,単一粒子が入射した際,電離作用で生成された高密度の電荷により過渡的に特性が変動するもしくは恒久的に破壊する現象をシングルイベント効果と呼び,宇宙用デバイスが受ける代表的な効果である.

 これまで,放射線照射効果の一つである弾き出し損傷効果は,電気的特性やその過渡応答特性を用いて解析されてきた[6]が,直接生成された欠陥を観察した例はない.本研究では,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(大阪大学 微細構造解析プラットフォーム)の支援を受け,超高圧電子顕微鏡を用いて発生した欠陥の観察を行った.

 今回,電気特性評価と電子顕微鏡観察を組み合わせることにより,高エネルギーの重粒子や電子線を照射した場合,点欠陥の集合体である転位ループが形成されるが,デバイスの信頼性に与える影響は小さく,宇宙用途として充分な耐放射線性を有していることが示された.さらに,宇宙環境と同等の高エネルギー電子を超高圧電子顕微鏡内で照射することで,欠陥生成過程をその場観察することができた.

 

2.実験

 照射実験には一般的なAlGaN/GaN HEMTを用いた[1].図1の断面模式図に示すように4H SiC基板上にAlGaN/GaN層をエピ成長し,電極を形成後SiN保護膜を形成している.放射線は図のようにデバイスの上部から照射した.重粒子の照射には,図2に示す量子科学技術研究開発機構のイオン加速器施設(TIARA)を用いた[2].今回照射した重粒子は18 MeVのNiイオンである.照射効果を明確にするため,集束イオンビームを用いデバイスの一部に照射を行った.電子線照射も同機構の電子線照射施設(図3)を用い,2MeVの電子線をデバイス全面に照射した.

 

図1  AlGaN/GaN HEMTデバイスの模式図と重粒子・電子照射の様子

 

図2 イオン加速器施設(TIARA)

 

図3 電子線照射施設

 

 デバイス特性評価には微小電流を測定できる半導体パラメータアナライザB1505A用いた.電子顕微鏡観察は,図4に示す大阪大学,超高圧電子顕微鏡センター所有の最大加速電圧3MVのH-3000を用いた[7].今回の観察および電子顕微鏡内での電子線照射に用いた加速電圧は,電子線照射実験に合わせ2MVとした.

 

図4 大阪大学微細構造解析プラットフォームの超高圧電子顕微鏡:H-3000

 

3.結果と考察

重粒子照射

 宇宙環境で照射される重粒子を模擬し,加速器にて18MeVのNiイオンの照射を行い弾き出し損傷効果を調査した.50μmのフィンガー長に対し中央の20μmに絞り重粒子を照射した.図5にデバイス特性を示す.7×1012cm-2のNiイオンを照射することによりドレイン電流が約半減し,5.5×1013cm-2の照射では照射量とともに,ドレイン電流,相互コンダクタンスともに低下している.しきい値電圧の変化が少ないのは,フィンガーの一部に照射しているためである.これらの変化は重粒子照射の影響で生成された結晶欠陥により,AlGaN/GaN界面に形成された二次元電子ガス(2DEG)濃度が減少し電子移動度が低下したことを示している.

 

図5 重粒子(Ni)照射時のデバイス特性変化

 

 図6に重粒子照射時のゲート・ショットキー特性の変化を示す.順方向,逆方向特性ともに,高電圧領域で照射量に応じわずかに電流が低下している.これは図5で述べた二次元電子ガス濃度の減少によるものである.ただ,順方向特性の直線領域の変化はなく,ショットキー障壁は変化していないことを示している.低電圧領域では測定誤差範囲内で大きなリーク電流の増大は見られていない.以上の結果より,重粒子照射で結晶欠陥が生成されドレイン電流は低下するものの,デバイスの信頼性に与える影響は小さいことが明らかになった.

 

図6 重粒子(Ni)照射時のショットキー特性の変化

 

 最大ドレイン電流の照射量依存性を評価した結果,1×1011cm-2の照射まで安定であり2×1011cm-2以上の照射で徐々に劣化を開始した.宇宙環境での重粒子の暴露量は元素やエネルギー,軌道により異なるため一概には言えないが,照射量が1×1011cm-2まで安定であることはAlGaN/GaN HEMTは宇宙用として充分な耐放射線性を有していることを示している.

 図7に超高圧電子顕微鏡像を示す.Niイオンを18MeV,2.8×1013ions/cm2 照射したデバイスの断面TEM像である.サンプル膜厚は1.5μm,2MVの加速で観察している.画像では照射による損傷領域が黒いコントラストとして観察できている.拡大すると点の集合体にみえることから,転位ループ起因の欠陥コントラストが像として表れているものと推測できる.図では転位ループは観察できているが,イオントラッキングに対応した欠陥は見えていない.このことは,ショットキー特性でリーク電流が増加しないことと対応し,デバイスの信頼性に影響を与える線状欠陥が生成し難いことを示している.

 

図7 重粒子照射デバイスの超高圧電子顕微鏡観察像およびSRIMによる重粒子の軌跡計算

 

 イオン照射時のイオンの軌跡をStopping and Range of Ions in Matter (SRIM) [8]を用いてシミュレーションした結果を左右に示す.ゲート部分はゲート金属によるエネルギー損失のためゲート側に寄っている.このように,転位ループのコントラストはシミュレーションした結果とよく一致している.

 図8にSRIMを用いて計算した欠陥発生濃度分布と転位ループコントラストを示す.高エネルギー状態の入射側より,エネルギーが減衰し停止する直前の領域の方が,欠陥発生密度が高い.観察したコントラストは計算された欠陥濃度分布をよく表している.ゲート金属によるエネルギー減衰も計算結果と観察結果がよく一致している.計算では空孔濃度を示したが,フレンケル対欠陥であれば同数の格子間欠陥が発生していることになる.像のコントラストではAlGaN/GaN中の転位ループが見え難いが,SRIMでは欠陥が発生していることが計算できている.これがドレイン電流を低下させている原因である.

 

図8 転位ループとSRIMによる欠陥発生密度の計算

 

 図9は重粒子照射したデバイスの制限視野回折像である.サンプルが厚いため回折スポットはクリアではないが,重粒子照射したAlGaN/GaNやSiC領域でもアモルファス化せず結晶パターンを維持している.これも耐放射線性が強い要因の一つである.

 

図9 重粒子(Ni)照射デバイスの制限視野回折像

 

 図10は図7と同様に重粒子照射したデバイスを200kVの電子顕微鏡で観察した結果である.サンプルの膜厚は0.1μm.このように,通常のTEM観察では明瞭な転位ループは見えず,超高圧電子顕微鏡を用いることにより,はじめて重粒子ダメージを直接観察できたことになる.

 

図10 重粒子照射デバイスの200kV電子顕微鏡観察

 

電子線照射

 宇宙環境では太陽フレアから放出される大量の高エネルギー電子やプロトンに曝される.そこで,宇宙に多く存在する2MeVの電子線を照射しデバイス特性の変化を観察した.電子線はフレンケル対欠陥のみを生成させることができるため,弾き出し損傷効果の基礎検討にも役立つ.図11は4.1×1017e/cm2の電子線照を照射した時のドレイン電流および相互コンダクタンスの変化を示す.ドレイン電流が減少することで相互コンダクタンスが低下し,しきい値電圧も浅い方向へシフトしている.このことは,重粒子照射時と同様,電子線照射でも二次元電子ガス濃度と電子移動度が低下していることを示している.

 

図11 2MeV電子線照射時のデバイス特性変化

 

 図12に電子線照射時のショットキー特性を示す.順方向,逆方向ともに高電圧領域でわずかに電流が減少している.これは二次元電子ガス濃度の低下によるものである.順方向特性の直線部分の変化がないことからショットキー障壁は変動せず,リーク電流が増加していないことから,デバイスの信頼性に与える影響が小さいことが分かる.

 

図12 電子線照射時のショットキー特性

 

 最大ドレイン電流の照射量依存性を評価したところ,1×1016cm-2の照射まで安定であり1×1017cm-2以上の照射で徐々に劣化が開始した.電子エネルギーにもよるが,静止軌道で10年間暴露される高エネルギーの電子線は1×1015cm-2とも言われており[9],AlGaN/GaN HEMTは宇宙用として電子線照射に対し充分な耐放射線性を有していることを示している.

 超高圧電子顕微鏡を用いると,宇宙空間で暴露される電子線と同等のエネルギーの電子を照射できるため,欠陥の発生過程をその場で観察することができる.図13は2MeVの電子線を点線で示した枠内に1.3×1022e/cm2照射した結果である.照射領域に点欠陥の集合体である格子間型転位ループによる黒いコントラストが現れている.この観察結果は,ドレイン電流の低下が点欠陥の生成によることを示唆している.

 

図13 超高圧電子顕微鏡を用いた電子線照射誘起欠陥のその場観察

 

 図11で示したに電子線照射時のデバイス特性の変化を,デバイスシミュレータ(Silvaco,ATLAS)を用いてシミュレーションを行った[1].高エネルギーの電子線は飛程が長いため,AlGaN/GaNのエピ層全体に結晶欠陥としてアクセプタ型の準位を一様に埋め込むと,1×1017cm2のトラップを仮定した時,図11の特性変動をほぼ再現できた.高エネルギーの電子線は高速近くまで加速されているため,ダメージの見積には相対論的手法が必要である.MacKinley-Feshbachの式[10]を用い,散乱断面積を見積り,照射量から発生欠陥数を算出すると,計算で得られた欠陥に対し数十倍の欠陥が生成する見積となった.このことは,電子線照射中もしくはその後,発生したフレンケル対欠陥の大多数が室温状態でもアニールアウトし,照射前の健全な結晶状態に戻っていることを意味している.

 

4.まとめ

 宇宙環境で曝される高エネルギーの重粒子および電子線をAlGaN/GaN HEMTに照射し,弾き出し損傷効果をデバイス特性や電子顕微鏡を用いて解析した.重粒子照射で生成した点欠陥の集合体である転位ループコントラストを超高圧電子顕微鏡を用いることによりはじめて直接観察することができた.点欠陥の発生で,二次元電子ガスの濃度および移動度がわずかに低下するものの,トラッキングダメージはなくショットキー障壁のリーク電流も増加しないことから,デバイスの信頼性に与える影響は小さいことがわかった.超高圧電子顕微鏡を用いて,宇宙環境を模擬した電子線照射効果のその場観察を行った.電子線照射で点欠陥の集合体である転位ループが生成される様子を直接観察できた.デバイス特性から電子線照射の場合もリーク電流の増加はなく,デバイスの信頼性に与える影響は小さいことがわかった.以上の結果より,AlGaN/GaN HEMTは宇宙用途として高い耐放射線性を有することが示された.

 

5.謝辞

 本研究の一部は,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業課題として大阪大学微細構造解析プラットフォームの支援を受けて実施されました.この紙面をお借りして厚く御礼申し上げます.

 

参考文献

[1] Hajime Sasaki, Takayuki Hisaka, Kaoru Kadoiwa, Tomoki Okua, Shinobu Onoda, Takeshi Ohshima, Eiji Taguchi, Hidehiro Yasuda, “Ultra-high voltage electron microscopy investigation of irradiation induced displacement defects on AlGaN/GaN HEMTs”, Microelectronics Reliability 81, pp.312–319, (2018).
[2] S. Onoda, A. Hasuike, Y. Nabeshima, H. Sasaki, K. Yajima, S.-i. Sato, T. Ohshima, “Enhanced Charge Collection by Single Ion Strike in AlGaN/GaN HEMTs”, IEEE Trans. Nucl. Sci. 60, p.4446, (2013).
[3] T. Yamasaki, Y. Kittaka, H. Minamide, K. Yamauchi, S. Miwa, S. Goto, M. Nakayama, M. Kohno, N. Yoshida, “A 68% efficiency, C-band 100 W GaN power amplifier for space applications”, Proc. Microwave Symp, p.1384, (2010).
[4] H. Yoshikoshi, T. Tanaka, A. Kodama, T. Saito, E. Mitani, T. Morita, T. Sakata, M. Funabashi, M. Nakadai, “Radiation hardness tests for space qualified X-hand AlGaN/GaN HEMTs”, Proc. of Reliability of Compound Semiconductor Workshop, (ROCS), p.131, (2015).
[5] Hajime Sasaki, Takayuki Hisaka, Kaoru Kadoiwa, Yoshitaka Kamo, Eitaro Ishimura, Satoshi Hatori, Ryoya Ishigami, Kyo Kume, “Reliability Study of Proton Irradiation Effects on AlGaN/GaN HEMTs”, Proc. of Reliability of Compound Semiconductor Workshop, (ROCS), p.83, (2019).
[6] L. Lv, J. Ma, Y. Cao, J. Zhang, L. Li, S. Xu, X. Ma, X. Ren, and Y. Hao, “Study of proton irradiation effects on AlGaN/GaN high electron mobility transistors”, Microelectronics Reliability, Vol.51, pp.2168-2172, (2011).
[7] H. Mori, “Topics in recent studies with high-voltage electron microscopes”, J Electron Microsc, Vol.60, No.Suppl 1, pp.S189- S197, (2011).
[8] J. F. Ziegler, J.P. Biersack, and U. Littmark, “The stopping and range of ions in solids”, The Stopping and ranges of ions in matter, Vol.1, New York Pergamon Press (1985).
[9] Shin-ichiro Sato, Kenneth J. Schmieder, Seth M. Hubbard, David V. Forbes, Jeffrey H. Warner, Takeshi Ohshima, and Robert J. Walters, “Defect characterization of proton irradiated GaAs pn-junction diodes with layers of InAs quantum dots”, J. Appl. Phys. Vol. 119, p.185702, (2016).
[10] W. McKinley, and H. Feshbach, “The Coulomb Scattering of Relativistic Electrons by Nuclei”, Phys. Rev., Vol.74, No.12 pp.1759-1762, (1948).

 

(三菱電機株式会社 佐々木 肇)