NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第31回>
光学多層膜の物性解析に基づくバイオセンサーの開発
~小型高性能・低コストの光導波センサーを実現~

有限会社シーアンドアイ 上野 耕治氏,産業技術総合研究所 微細加工プラットフォーム 多田 哲也氏,赤松 雅洋氏に聞く

 

 

産業技術総合研究所 微細加工PFのX線回折装置の前にて
(左)赤松 雅洋氏、(右)上野 耕治氏:開発したバイオセンサーを手に

 

 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業は,最先端研究設備の共同利用によりイノベーションの創出を図る.これによって得られる多くの成果の中で,特にホットな成果をピックアップして紹介する本Webジャーナル,NanotechJapan Bulletin企画特集記事として,今回は,有限会社シーアンドアイ(C&I社)が,国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)の微細加工プラットフォーム(PF)を活用して,光学多層膜の物性解析に基づくバイオセンサーを開発した例を取り上げる.本バイオセンサーはウィルス等を光学的に検出するもので,検出感度を上げるためにセンサー表面に光学多層膜を形成している.この光学多層膜はセンサー表面から被測定試料中に漏れ出たエバネッセント光を導波する光導波センサーの鍵技術であり,産総研の微細加工PFの支援によって成膜の条件出しや物性解析評価が行われ,開発が推進された.C&I社は本成果に基づいて,小型高性能・低コストの光導波センサーを製品化した.

 本バイオセンサー開発を担ったC&I社 代表取締役 上野 耕治氏と,産総研 つくばイノベーション推進センター 共用施設運営ユニット ユニット長である多田 哲也氏,同ナノプロセッシング施設 ナノプロセスエンジニアの赤松 雅洋氏を,茨城県つくば市にある産総研微細加工PFに訪ね,開発の背景・経緯・技術内容・PF利用成果などを伺った.先ず,多田氏から産総研の微細加工PFの概要と特徴についてお話を伺った.

 

1.産業技術総合研究所の微細加工プラットフォームの概要と特徴

 産総研には共用研究開発施設として外部の方々に公開利用してもらっている施設が6つあり,先端ナノ計測施設が文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業の微細構造解析PFとして,ナノプロセッシング施設が微細加工PFとして公開利用されている.その他には超電導アナログ・デジタルデバイス開発施設,MEMS研究開発拠点,スーパークリーンルーム,先端バイオ計測施設が外部に公開された施設になっている.

 産総研の微細加工PFであるナノプロセッシング施設には,成膜作製・微細加工・デバイス試作・構造解析・計測評価に関する90種以上の装置がある[1].施設建物の1階は600m2のクリーンルームになっており,成膜装置やエッチング装置などが設置されている.2階は400m2の一般実験室で,電子顕微鏡やX線回折装置など解析評価系の設備がある.

 産総研の微細加工PFの特徴として,多田氏は以下の点を強調された;

①技術専門スタッフ11人による技術相談・技術支援の充実:
 赤松氏をはじめ微細加工技術に精通している多くの専門家がおり,装置利用に関する技術相談やオペレーション中のトレーニングを通じて,産総研が蓄積してきたナノテクノロジーに関する知識やノウハウを利用者に提供している.PF利用形態としては,機器利用・技術代行だけでなく,技術相談や技術指導にも力を入れており,セミナーや実習コースを開催して若手研究者や高度技術者の育成を行っている.

②研究の初期段階での技術支援:
 PF利用ユーザがかかえる技術課題をPF側支援スタッフが研究の初期段階から情報共有し,どの装置を利用して問題を解決するのが最適かを共に考えて実行する.C&I社の光学多層膜センサーの場合も,スパッタ装置による成膜条件出しや,成膜した膜をラマン散乱やX線回折で物性評価して開発を加速し,シーズの段階から製品化に至るまで支援した成功例になっている.

③新材料,定形外の試料にも対応:
 定形の直径2~8インチ基板に加え,定形外の“かけら”の小片試料も微細加工している.また,ナノエレクトロニクスの大企業の研究者が,自社の装置では試せる材料に制限があり,本PFの装置で実験したいという要望にも応えるようにしている.

④中小企業・ベンチャーの利用料は半額:
 経済産業省の中小企業支援方針を受けて,本PFの利用料を中小企業・ベンチャーに対しては半額にしている.これにより,対象となる企業の利用が大幅に増加した.C&I社の利用も,その恩恵を受けた.

 C&I社の産総研微細加工PF利用成果については,第4章で詳しく紹介する.PFで利用した装置は,成膜ではスパッタ成膜装置,物性解析関係では顕微レーザーラマン分光装置・分光エリプソメータ・X線回折装置・走査型電子顕微鏡(SEM)などである.

 

2.有限会社シーアンドアイの会社概要とバイオセンサー取り組み経緯

 次に,上野氏からC&I社について会社の概要と,バイオセンサーを開発するに至った経緯をお伺いした.

 有限会社シーアンドアイは,上野氏が2004年に茨城県つくば市に創立した[2].英語社名であるC&I Co., Ltd.はChemistry and Investmentを意味しており,上野氏が有機合成化学の専門家であることから,化学分野の研究開発,技術コンサルテーションの事業を始めた.創立当初は再生医療関連の仕事が中心であったが,体に埋め込むものをポリエチレングリコール系ポリマーやハイドロゲルなどで覆った表面の解析へ移り,表面解析の関連でバイオセンシングへと展開していった.そうした折に,産総研の電子光技術研究部門で開発されていた光導波モードセンサーに巡り合った.

 図1は,光導波モードセンサーの構成図である.中央にあるセンサーチップ上に測定試料を載せる.センサーチップは逆台形型のプリズムに設置されていて,プリズム左方から白色LED光ビームを入射させて測定試料に照射する.センサーチップ表面で測定試料から反射された光は,プリズム右方に出射されて分光器に導かれる.センサーチップ表面には光導波多層膜が形成されている.この光導波モードセンサーで被測定試料の定量評価ができる原理については,次の第3章で説明する.

 

図1 光導波モードセンサーの構成

 

 ただ上野氏が巡り合った当時の光導波モードセンサーは,未だ大型の光学定盤に構築した装置で実験しており,基礎技術はできていたが,製品化するには小型化や低コスト化が必要であった.そのためにはセンサーチップの小型化・低コスト化が必須であり,図2に描いた新しい製法に挑戦することにした.図2左側の従来製法では,半導体プロセスでSi多層膜を形成したウエハをダイシングして小片化し,多層膜小片を石英プリズムに貼り合わせていた.それに対して右側の新製法では,低融点ガラスをモールド成形したプリズム上に直接,スパッタリングなどのPVD(Physical Vapor Deposition)プロセスで多層膜を成膜コートする.

 

図2 光導波モードセンサーの製造プロセス;(左)従来技術,(右)新技術

 

 この新製法の開発は,中小企業庁の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」の支援を受けて平成25~27年の3年間,C&I社と産総研が取り組んだ[3].

 以下では,次章で光導波モードセンサーの動作原理を説明し,第4章で産総研の微細加工PFを利用した光学多層膜の物性解析に基づいてバイオセンサーを開発した詳細について述べる.第5章では,C&I社の導波モードセンサー応用製品を紹介する.

 

3.エバネッセント光利用の光学多層膜センサー ~動作原理とバイオセンサー応用~

 

 ここでは,産総研の電子光技術研究部門が開発してきた,エバネッセント光利用の光学多層膜センサー(光導波モードセンサー)の動作原理を説明する[4][5][6].

 図3上側に,光導波モードセンサーの断面構造(図1中央のセンサーチップ断面を拡大して描いている)を示す.センサー表面には,ガラスのモールド成型プリズムの上にシリコン(Si)層とガラス(SiO2)層の2層薄膜が積層されている.このセンサー上に,被測定試料である水溶液を滴下する.プリズムの左下方から白色光を入射させると,ある入射角度以上ではセンサー表面で全反射してプリズム右下方に反射光が導かれる.屈折率が大きい媒質(ガラスの屈折率:n3=1.52)から屈折率が小さい媒質(水の屈折率:n4=1.33)へ入射する場合には,ある角度以上では全反射するからである.入射光がセンサー表面で全反射する場合に,入射光はセンサー表面から測定試料中に僅かに(~100nm程)漏れ出てから反射光となってセンサー内部に戻っていく.この測定試料中に漏れ出た光がエバネッセント光(あるいは近接場光)であり,試料を通過した光なので試料の光学的性質を反映した光になっている.

 

図3 光導波モードセンサーの断面構造(上)とセンサー反射率の波長依存性(下)

 

 図3下側は,全反射された光の波長スペクトルで,殆どの波長では反射率が1に近く全反射されているが,ある波長では反射率が極端に低下している.この反射率ディップ波長は,センサー表面に形成された2層薄膜による平面導波路を光が伝搬するモード波長(入射光波長の整数倍が一回反射する光路長と等しい)になっている.この導波モード励起波長の光は平面導波路中を伝搬して表面に沿って進みSi層を多重反射しながら吸収されてしまう.導波モード励起波長以外の反射光はプリズム右下方に進んで検出されることになる.この検出光はセンサー表面で全反射した光で,平面導波路がない場合は1回の全反射であるが,平面導波路がある場合は導波路内で多重反射するために,エバネッセント光が平面導波路によって増幅され,平面導波路がない場合と比べると100倍近く増強されることになる.これは,エバネッセント光を応用する場合,例えば蛍光顕微鏡の光源(5章で説明)への適用等で大きな効果を発揮する.

 図4は,光導波モードセンサーの2種類の検出方法を描いている.青色の反射率波長スペクトルは測定試料が純水の場合で,反射率ディップ波長は610nmになるようにセンサー表面の平面導波路や入射光ビームの入射角度を設計している.試料の水溶液に透明なタンパク質を含ませると屈折率nが変化するので,平面導波路の伝搬モード波長が変化し,反射率ディップ波長が長波長側にシフトする(図4赤色のスペクトル).センサーからの出力光波長スペクトルを分光器で検出し,ディップ波長シフト量からセンサーに吸着したタンパク質を定量検出できる.

 

図4 光導波モードセンサーによる検出方法

 

 図4緑色のスペクトルは,色素や金ナノ粒子などをセンサー表面に吸着させた場合で,色素や金ナノ粒子がエバネッセント光を吸収するので,水溶液の消衰係数kが変化する.これにより,反射率ディップがより深くなる.反射率ディップ値の変化を検出することで,センサーに吸着した色素や金ナノ粒子を定量評価できる.

 図5は,光導波モードセンサーを用いたバイオセンサー応用例で,抗原抗体反応を利用したウィルス検出を説明する図である.現在インフルエンザの検診では,イムノクロマトグラフィーという方法でウィルスを検出している.この方法では金コロイドの凝集反応でウィルスを検出しており,簡易なため広く使われているが定量性はなく,検出感度は低く,感染初期だと偽陰性の判定をしてしまう割合は高い.したがって,より高感度で定量評価できるウィルス検出法が求められている.光導波モードセンサーによるウィルス検出は,そうした要請に応えるものと期待される.

 

図5 光導波モードセンサーによる抗原抗体反応を利用したウィルス検出

 

 図5左端の容器には,検出試薬としてウィルスに対して抗原抗体反応する抗体を入れておく.抗体としては2種類:1次抗体と2次抗体を入れる.1次抗体にはストレプトアビジンを修飾してセンサー表面に吸着し易くする.2次抗体には金(Au)ナノプレート標識を修飾しておき,エバネッセント光を吸収させる.この試薬に,図5上方に描いたウィルスなどの検出対象である抗原を加えて,①抗原抗体反応を起こす.抗原抗体反応により,図5中央に描いたアビジン-抗原-標識の複合体が生成される.それを,光導波モードセンサーチップ上に滴下して,②測定する.図5右下のセンサー表面部の断面拡大模式図では,抗原抗体複合体がセンサー表面上のビオチンに吸着して,エバネッセント光がAuナノ標識で消衰する様子を描いている.測定結果の③アウトプットとしては,図5右端のグラフのようにセンサー反射率ディップの変化量⊿Rを時間経過とともにプロットする.⊿Rが設定したしきい値に達する時間から,インフルエンザウィルスの定量評価ができる.本方法は数分~10分程で終了し,イムノクロマトグラフィーより2桁程高感度であり,判定の信頼度が向上すると期待される.

 

4.光学多層膜の物性解析に基づくバイオセンサーの開発

 本章では,中小企業庁の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」の支援を受けてC&I社と産総研が取り組んだ“光導波モードセンサー用多層膜コートプリズムの開発”の詳細を紹介する[3].

 

4.1 多層膜設計シミュレーションと成膜・物性解析のループで短期開発

 図6は,光導波モードセンサー向け光学多層膜の開発方法を示している.シミュレーションと実験(成膜・評価)のループを回して短期間に開発が進捗するようにしている.

 

図6 光導波モードセンサー向け光学多層膜の効率的開発サイクル

 

 光学多層膜の設計シミュレーションは,ガラスプリズムの基質の上にSi反射層(L1),SiO2導波層(L2),必要に応じて第3層としてITO透明電極層(L3)あるいはSiOx電場増強層を加えた表面に,タンパク質などの検出対象層(L4)の4~5層モデルで行う.このシミュレータは産総研の電子光技術研究部門が開発したもので,各層のnkテーブル(屈折率と消衰係数データ)を入力して,導波モードセンサーとして最適な各層膜厚を出力する.

 成膜は,成膜条件の変更が容易で調整幅が大きなRFマグネトロンスパッタリング装置で行った.産総研の微細加工PFのスパッタ装置を利用し,単層での成膜条件を検討し,目標の膜厚,nkテーブルに近づけた.最重要層はSi反射層(L1)であり,単結晶Si(High n,Low k)が好ましいが,スパッタリングで単結晶Siを成膜するのは難しく,アモルファスSiになってしまう.スパッタリングを高圧化し,温度・反応ガス組成などの成膜条件を最適化することで,アモルファスではなく微結晶Siの成膜を達成した.微結晶Si膜の光学特性は,単結晶Siに近いものになっている.

 スパッタ成膜した膜の物性評価は,産総研微細加工PFの評価装置で行った.エリプソメトリ装置で膜厚やnkテーブルを測定,結晶性の評価はラマン分光やX線回折装置などで行った.物性解析の実データを,次節(4.2節)で紹介する.

 

4.2 光学多層膜の物性解析結果 ~ラマン分光・エリプソメトリ・X線回折~

 図7上は,スパッタ成膜した微結晶Si膜のラマンスペクトルである.ラマン光散乱は物質に入射した光が,物質中の分子振動を励起して振動エネルギー分だけ異なる波長の光として散乱される現象である.図7横軸は,ラマン散乱光の波長シフト量の逆数で,単位はcm-1である.図7上の3つのスペクトルは,青色が微結晶化サンプルの生スペクトル,紫色が下地のBK7ガラス(微結晶Si膜なし)からのラマン散乱スペクトル,赤色が生スペクトルから下地スペクトルを差し引いたデータ処理後の正味の微結晶Si膜のラマン散乱スペクトルである.赤色の正味の微結晶Siスペクトルには,500 cm-1付近にSi-Siの格子振動に相当するピークが見られる.

 

図7 ラマン分光によるSi反射層の微結晶評価;(上)ラマンスペクトル,(下)結晶化率

 

 図7下は,以下の式で定義した結晶化率のスぺクトルである;

結晶化率(Xc)=(c-Si+GB)ピーク面積/(c-Si+GB+a-Si:TO)ピーク面積

ここで,c-Siは結晶Si,GBは結晶粒界(Grain Boundary),a-Si:TOはアモルファスSiの横光学(Transverse Optical)格子振動で,全体に対する(c-Si+GB)の割合として定義している.このグラフから80%近く結晶化していることが分かる.

 図8は,微結晶Si層のX線回折データである.横軸はX線回折角:2θ,縦軸はX線回折強度である.赤色は測定データ,青色は計算データである.Si結晶の(111)面,(220)面,(311)面からの回折ピークが観測されている.

 

図8 X線回折による微結晶Si層の結晶性評価

 

 分光エリプソメトリでは,薄膜の膜厚とnkテーブルを求めることができるが,測定データからnkテーブルを求める解析モデルが肝要で,エリプソメトリ装置メーカーと協力して解析モデル構築に取り組んだ.エリプソメトリで測定した膜厚やnkテーブルを多層膜設定シミュレータに入力して,導波モードセンサーの特性を予測し,実際に試作した導波モードセンサーの性能と比較する,というサイクルを回して開発を加速した.

 光学多層膜の膜厚に関しては,走査型電子顕微鏡(SEM)による断面観察によっても確認した.図9は,SEMによる光学多層膜断面を観察した例で,上2つ各写真内の右下にある目盛りは1.00µm,下の写真は右下の目盛りは50nmである.上左は加速電圧1kV,右は10kVで観察したSEM写真である.ガラス基板上に55nm厚のSi層,その上に480nmのSiO2層が,平滑な界面状態を保って形成されている様子が確認された.

 

図9  SEMによる光学多層膜の断面観察

 

4.3 光導波モードセンサーの性能評価

 図6に示したシミュレーションと実験のサイクルを回して,良好な光導波モードセンサーを試作評価したデータ例を図10に示す.試作した光学多層膜は,

・L1:微結晶Si層(膜厚45nm,n=3,32,k=0.08)
・L2:SiO2ガラス層(膜厚350nm,n=1.46,k=0)
・L3:ITO電場増強層(膜厚30nm,n=2.18,k=0)

で,L3を付加することで検出感度向上だけでなく,L2を薄くできるので生産性が上がる.

 図10は,センサー反射率の波長スペクトルで,図4に対応する特性である.青色がセンサー上に純水を滴下した場合の測定データ,赤色は屈折率が純水よりも高くなる10%食塩水(屈折率変化量=0.0175)を滴下した場合である.反射率ディップ波長が590nmから618nmにシフトし,波長シフト量⊿λ=28nmを得た.

 

図10 光導波モードセンサーの反射率スペクトル:(青)純水,(赤)10%NaCl水溶液

 

 こうして図2に示した新技術製法で,従来技術と同等性能の導波モードセンサーを,格段に低コストで量産できることを実証した.

 

5.C&I社でのバイオセンサー製品化と今後の展開

 C&I社では,前章で紹介したサポイン事業で開発した新製法による光導波モードセンサーを,以下の2つの製品に適用し,販売している[2];

①導波モードバイオセンサー:

 高感度モバイル型バイオセンサー(Eva-M02)で,冒頭の写真で上野氏が手に持っている黒色のボックスである.図11はその内部構造で,装置サイズは150mm×65mm×58mmである.2階部分に光学エンジン,1階部分にCPUボードとBluetoothユニットが収納されている.光学エンジンの中央部には導波モードセンサーチップを配置し,蓋を開閉して被測定物をセンサーチップ上に滴下する.センサーチップ1枚当たり4つのサンプルを測定できる.センサーチップは測定試料と接触するので,1度測定した後は廃棄して,次の測定には新しいセンサーチップをセットすることになる.すなわち,センサーチップは消耗品扱いとなり,ディスポ―ザル価格で提供している.Bluetooth無線を通して,EvaEasyというアプリを使ってiPadやiPhoneから操作し,誰でも簡単に様々な測定を行うことができる.EvaEasyによるバイオセンサー操作方法は,C&I社ホームページ上の動画として公開されている[7].

 

図11 バイオセンサーEva-M02の内部構造

 

②全反射蛍光顕微鏡用の照明ユニット:

 市販の光学顕微鏡を全反射蛍光顕微鏡(TIRF:Total Internal Reflection Fluorescence Microscope)に変えるオプション照明ユニット(WG-TIRF)で,光学蛍光測定の分解能を向上させる.図12は,蛍光顕微鏡で通常の落射照明(左側)と,エバネッセント光による全反射照明(右側)を比較した模式図である.通常の落射照明では,励起光を集束させた焦点部だけでなく細胞内の広い範囲にある蛍光分子を励起光で光らせてしまう.これに対してエバネッセント光による全反射照明では,カバーガラスに接した細胞表面の励起レーザ照射部のみが発光する.したがって,より鮮明でS/N比が高い画像が取得できる.

 

図12 蛍光顕微鏡で従来の落射照明に比較してエバネッセント光が高解像度である理由

 

 本照明ユニットは,顕微鏡の試料ステージに載せるだけで良い.ユニット価格は,市販の全反射蛍光顕微鏡の1/10以下なので,ユーザが所有している顕微鏡で高分解な蛍光観察が安価にできるようになる.WG-TIRFの紹介と使い方についても,C&I社のホームページで動画を公開している[8].

 今後の展開として,上野氏は次のように語った.「製品化したバイオセンサーを臨床検査で使ってもらうには,抗体試薬メーカとの協業が必須で,提携先パートナーを模索しているところです.薬事法の規制を通すためには,かなり大規模な試験が必要となり,ベンチャー企業1社だけでは対応できない.技術移転やライセンシー供与も考えないといけないか,と思ってます.」

 

6.おわりに

 光導波モードセンサーは,産総研で基本技術が開発されてはいたが,競合製品より優位に立つには小型化・低コスト化が必須であった.そのための鍵は,光学多層膜を新プロセス開発で低コスト化することと目標を定めて,C&I社が産総研微細加工PFを利用して,成膜条件出しと多層膜物性解析を地道に積み重ねた.その努力に感銘を受けるとともに,本成果に基くバイオセンサーや全反射蛍光顕微鏡が世の中に広く普及することを期待したい.

 

参考文献

[1] 産業技術総合研究所 ナノプロセッシング施設:https://ssl.open-innovation.jp/npf/
[2] 有限会社シーアイシー: https://www.candi-wgm.com/
[3] “光導波モードセンサ用多層膜コートプリズムの開発”,平成27年度戦略的基盤技術高度化支援事業の研究開発成果等報告書(平成28年3月):https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2013/160902kantou26.pdf
[4] Makoto Fujimaki, Xiaomin Wang, Takafumi Kato, Koichi Awazu, and Yoshimichi Ohki, “Parallel-incidence-type waveguide-mode sensor with spectral-readout setup", Optics Express, Vol. 23, Issue 9, pp. 10925-10937 (2015):https://www.osapublishing.org/oe/fulltext.cfm?uri=oe-23-9-10925&id=315496
[5] 粟津浩一,藤島真,Subash C.B.Gopinath, 王暁民, “導波モードセンサーを用いたインフルエンザウィルスの検出 ー手のひらサイズの高感度センサーを開発ー”, シンセオロジー,vol.8, No.2, pp.97~106 (2015):https://www.jstage.jst.go.jp/article/synth/8/2/8_97/_pdf/-char/ja
[6] NEDOニュース“インフルエンザから重金属の判別まで,高感度に検出―小型高感度センサの開発に成功―”(2013年):https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100218.html
[7] Eva-M02の紹介と使い方(動画):https://www.candi-wgm.com/products/evam02.html#evam02_06
[8] WG-TIRFの紹介と使い方(動画):https://www.candi-wgm.com/products/wgtirf.html#wgtirf_05

図は全て,C&I社から提供された.

 

(尾島 正啓)