NanotechJapan Bulletin

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企画特集 ナノテクノロジーPick Up ~新展開をもたらすナノテクノロジープラットフォーム~
<第4回>
原子間力顕微鏡カンチレバーを活用した微細抵抗変化メモリ(ReRAM)動作機構の解明
鳥取大学大学院工学研究科 木下 健太郎,高 相圭
大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点 北島 彰

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(左から) 大阪大学 北島 彰,鳥取大学 木下 健太郎,高 相圭(現在は,株式会社東芝)

 「ナノテクノロジープラットフォーム事業」における大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点は,「微細構造解析」,「微細加工」,「分子・物質合成」の3つのプラットフォームが連携することで多くのユーザの研究開発に協力して幾多の成果を挙げているが,その中に分子・物質合成プラットフォームを活用して生まれた大変ユニークでインパクトの大きい鳥取大学の研究成果がある.

 今回,その研究成果の内容と,大阪大学拠点の果たした役割を紹介するために,鳥取大学大学院工学研究科情報エレクトロニクス専攻准教授 木下 健太郎(きのした けんたろう)氏と大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点で担当された北島 彰(きたじま あきら)氏にお話を伺った.

1.大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点の果たした役割

 大阪大学には3つのナノテクノロジープラットフォーム(PF)が揃っている.図1に示すとおり,微細構造解析PFは同大学超高電圧電子顕微鏡センター内に設置されており,微細加工PFと分子・物質合成の両PFの装置は主に同大学産業科学研究所内の産業科学ナノテクノロジーセンターの同一のクリーンルーム内に設置されている.同じクリーンルーム内に二つのPFの装置類が混在することで,両PFを活用する研究支援も効率的に実行可能と北島氏は語った.

 北島氏の担当する分子・物質合成PFは,表1に示す支援を行っており,この支援のため物質合成(成膜),物質(膜)評価,デバイス構造形成(加工),デバイス機能評価に用いられる約20の装置類を揃えて供用している.

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図1 大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点

表1 分子・物質合成PFの提供する主な支援
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 今回の鳥取大学の研究への支援に適用したのは,これら装置の中の一つ,「環境雰囲気可変型走査プローブ顕微鏡」(株式会社日立ハイテクサイエンスAFM5000/E-Sweep)である図2aにその写真を示す.写真中央の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)本体デッキ上のチャンバー内にカンチレバーと試料が収められ,雰囲気を真空度:10-5Pa(各種ガス置換可),温度:-120℃~300℃,湿度:30%~70%,横方向磁界制御:±3000ガウスなどの範囲で制御できる.装置測定機能としては,AFM(原子間力顕微鏡),DFM(タッピングAFM),KFM(表面電位顕微鏡),EFM(電気力顕微鏡),MFM(磁気力顕微鏡),STM(走査型トンネル顕微鏡)等様々な測定ができるほか,表面形態と電流分布の同時測定AFMとして機能する.図2bに電流電圧特性測定の測定原理図を示す.

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図2 環境雰囲気可変型走査プローブ顕微鏡(a)と同装置を用いた電流電圧特性測定の原理(b)

 上述のように大阪大学では環境雰囲気可変チャンバーを備えたAFMをナノテクノロジープラットフォームで装置供用しており,その特徴を鳥取大学の木下グループに活用していただいたと北島氏は語った.

2.研究の背景

 シリコン(Si)の電界効果トランジスタ(FET)を用いたLSIの進歩発展は,20世紀後半における情報化革命の原動力となり,今日のコンピュータや携帯機器の進化に繋がっている.このSi LSIの進化は,素子の微細化により達成されてきたが,その微細化も限界に近づき,更なるLSIの進化のニーズに応えてSi FETに代わる次世代素子の研究開発が活発に行われている.特に大量の情報を蓄積するメモリの高集積密度,高速動作,低消費電力が強く要求される.こうしたニーズに応える新規メモリデバイスの一つとして,今回の研究の対象としている抵抗変化メモリ(ReRAM:Resistive Random Access Memory)がある.

 表2に現在コンピュータ等で使われている各種メモリとReRAMとの特性比較を示す.キャッシュメモリに使われる高速のSRAM(Static Random Access Memory),主記憶に使われるDRAM(Dynamic RAM)に比べて,ReRAMは不揮発性で,チャンピオンデータではあるがデータ書き換え回数(表2 Endurance欄)を除いて各パラメータで勝っている.ファイル等を保存する磁気ディスクメモリ(HDD)の代替となり,USBメモリとしても使われる不揮発性のフラッシュメモリに比べると,書き換え回数を含めてすべてのパラメータで勝っている.

 ReRAMの記憶機能部分は表2最右列に抵抗体「R」で示される単純な構造で,書き込み電圧で抵抗が変化する遷移金属酸化物の薄層の上下を金属電極で挟んだサンドウィッチ構造であり抵抗の高低をデータの“0”,“1”に対応させる.読み出しは,状態の変わらない低い電圧で行う.電源を切っても状態は保持されるので,不揮発性メモリとなる.ReRAMのメモリセルは,表2のポンチ絵に示すように「R」とFET等のセレクターで構成されるが,セレクターとしてダイオードのような2端子素子を採用することで,メモリのセル面積はワード線とビット線の交差部に配置する「R」の所要面積だけでよくなり,セル面積としては最小加工寸法(最小ゲート寸法または配線幅)をFとすれば4F2まで小さくできることになる.なお,ReRAMは20nmノード以降に出番が来ると云われている.

 現状では書き換え回数が不十分でSRAM,DRAMの代替にはならないが,フラッシュメモリと比較すれば大きく,また,データの書き込み消去に要する時間(表2のSpeed欄)は1ns以下と圧倒的に高速である.また,書き換え電圧もフラッシュの20Vに対して3Vと低く,電源を切ってもデータを保持する「不揮発性」を有する.現在,まだ素子内および素子間のばらつきが大きい等,信頼性が十分に確立されていないため,量産レベルにないが,先ずはフラッシュメモリあるいはハードディスクドライブ(HDD)などのストレージ階層とDRAMのメインメモリ階層の中間にあって両者の性能差の緩衝となるストレージクラスメモリ(SCM: Storage Class Memory)としての製品化を視野に入れた研究開発が行われている.故に,信頼性の確立が急務であるが,それには抵抗のスイッチングが生じる機構が解明される必要がある.

表2 現存の各種半導体メモリとの特性比較
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 なお,現在次世代メモリとして注目され研究が盛んに行われているデバイスには,ReRAMの他にMRAM(磁気抵抗RAM),PRAM(相変化RAM),FeRAM(強誘電体RAM)等があり,凌ぎを削っている.表3にその特性をReRAMと比較して示す.いずれも開発途上にあるが,各メモリそれぞれの個性があり,必ずしも競合する訳ではないことが分かる.

表3 次世代を狙う各種メモリ素子の特性比較
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3.ReRAM研究の経緯---AFMカンチレバー先端ReRAMの着想

 ReRAMの電圧印加による抵抗スイッチング現象は40年前に見つかったが.特に注目されるようになったのは,Samsungが2004年のIEDM(International Electron Device Meeting)で酸化ニッケルNiO等の二元系遷移金属酸化物を用いてメモリが作れると報告してからである.ただし,その前の2002年のIEDMにて,シャープが別の型のもの(強相関電子系物質のPr0.7Ca0.3MnO3(PCMO)薄膜使用)を利用したReRAMについて報告している.富士通研究所(以降,富士通研)に勤務していた木下氏は,2004年の秋にReRAMの研究開発グループを立ち上げるよう命じられた.富士通研のReRAMグループは書き換え/消去に要する電流を従来よりも1桁以上低減し[1],時間を5ns以下に高速化する[2]など,優れた研究成果を残したが,会社の方針により2008年以降ReRAM開発を中止した.木下氏は2008年まで富士通研に勤務しReRAMの研究開発に従事した後,鳥取大学に移った.

 鳥取大学では,大学であるがゆえにメーカのようにリソグラフィーを用いて微細デバイスを作る設備がない.それを逆手にとってAFMのカンチレバーを活用した動作機構解明の本格的研究を始めることとなった.もともと富士通研でも基板の上に白金PtとNiOの薄層を重ね,NiO膜の表面にPtでコーティングされたAFMのカンチレバーを当ててReRAMとしての特性を調べる実験は行っていたが,大学へ行ってからカンチレバー側にNiO層を作り込むことを着想したという.なお,遷移金属酸化物としては,NiO,TiO2,Cu2O,ZnO,HfO2などが用いられるが,これらを含む多くの材料を用いたReRAMのメモリー特性を調べてNiOの動作電圧が一番低いので,これを用いて研究を行うこととした.

 図3で上述のNiO/Pt構造にPtコートカンチレバーを接触させる従来形式と[3][4],Pt/NiO構造が形成されたカンチレバーをPt下部電極基板に接触させる木下氏による提案形式の違いを説明する.左の最初の形式では,カンチレバーに電圧を加えてNiO層内に変化を起こさせてもカンチレバーがドリフトしてしまったとき,もとの場所に戻すことは難しく,実験が中断してしまう.右の新形式ではカンチレバー側にNiO層があり,電圧印加の履歴は常にカンチレバー側に保たれ,ドリフトの影響は受けない.さらに後章で述べる種々の実験がこの構造ゆえに可能となった.

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図3 AFMカンチレバーを用いた微小ReRAM構造実験の最初の方法(左)と新提案方法(右)

4.AMFカンチレバー先端への微小ReRAMセルの形成 [5][6]

 図4に実験に用いたAFMカンチレバーを活用したReRAMの構成を示す.カンチレバーの探針は先端半径50nmのSi製で,その表面にPtを20nm厚に堆積させてReRAMの上部電極(TEL)を形成し,その表面にアルゴン・酸素混合ガス中でNiOを室温で15nm堆積させた.下部電極(BEL)はSi基板表面に形成された二酸化シリコン(SiO2)層上にPtを100nm堆積して形成した.カンチレバーの先端を基板に接触させることで,図中に緑の破線で示す微小ReRAMセルが形成される.

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図4 AMFカンチレバー先端に形成された微小ReRAMセル

 カンチレバー先端接触部の電界分布のシミュレーション結果を図5に示す.電界強度を色と線の長さで表わしている.電界強度は接触領域中央で最も強く,中央から5nmはずれた点で強度が1/eに下がっており,このカンチレバーの先端には実効面積が直径10nmの極微小ReRAMセルが実現したことが分かった.これにより,将来,ReRAMが主役となって活躍する寸法領域で,ReRAMの動作状態,性能を事前に検討・評価する手段が実現した.

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図5 カンチレバー先端の下部電極接触時における電界分布のシミュレーション結果
(電界シミュレーションソフトFemtet(Murata Software Co., Ltd.)を使用)[5][6]

 このカレンチレバー方式のもう一つの特徴は,下部電極を取り換える実験が出来る事である.以下の章で,このデバイスを活用して行った実験により,動作メカニズムに関わる有益な知見が得られた例を紹介する.

5.ReRAMにおける遷移金属層の電圧・電流特性の特異性と解析課題

 ReRAMにおける印加電圧による抵抗の変化の様子は少し変わっている.図6で電流・電圧特性の変化の様子を説明する.NiO等の遷移金属酸化物(TMO)は元々高抵抗であり,初めに使う時に「フォーミング」と呼ばれる動作を行う.図6右のグラフで,電圧を上げて行くと黒線に従って徐々に電流が増加し,ある電圧で(1)の様に電流が急上昇する.装置に予め設けておいた電流リミッターでその電流は一定値に止まる.実用時には直列に接続されるMOS FETの飽和電流でリミットされるが,実験では装置に設けられているリミッターを使用している.電圧を下げると,左向きの黒矢印に従って原点に戻る.これで,フィラメントと呼ばれる電流通路が出来た状態になる.次に電圧を上げると赤線に従って電流が増加する.(2)の頂点で「リセット」され電流が急激に減少する.即ち電流通路が部分的に切断される.続いて,電圧を上げると青線に沿って電流が変化し,ある電圧で電流が急増して(3)に到る.これで「セット」が行われ電流通路が復活したことになる.以下電圧を変化させるとセット,リセットを繰り返し,抵抗値をそれぞれ低抵抗,高抵抗に切り替えることができる.読み出しはセット,リセットに到らない電圧・電流で行うことになる.

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図6 ReRAMの動作特性の説明図

 ここで,最初のフォーミングでは,図6の左図に示すように,TMO層内に電流通路となるフィラメントが形成されると考えられている.これは酸素イオンが抜けてできた酸素空孔(VO)が繋がってできものと云われている.一度通路が出来た後は,電圧の上げ下げを繰り返すとその度に酸素が動いてフィラメントの一部でVOが消滅したり,再びVOが生成されたりして,フィラメントの切断と接続により高抵抗と低抵抗を繰り返すとされている(図7上段).しかし,この酸素イオンの挙動やその要因についての解明はなされていない.セット時の酸素イオンの貯蔵場所についても図7下段左に示すように,一般的にはアノードのPt電極であるとされるが,TMO内部である可能性もあり(図7下段右),これまで分かっていない.酸素イオン貯蔵庫とフィラメントとの酸素イオンのやり取りで抵抗スイッチングが生じると考えられているにもかかわらず,酸素貯蔵庫の正体も場所も不明であるため,素子設計の指針が立たず,これがReRAMの実用を阻む大きな原因の1つとなっている.

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図7 RERAM動作時のVOの動き:
(上段)ReRAMのセットとリセットにおけるフィラメントを形成するVOの変化
(下段)リセット時にフィラメントから動いた酸素イオンの存在場所に対する二つのモデル

 図8にカンチレバー先端を用いて形成した実効直径10nmのReRAMと半導体プレーナ技術で作った直径200µmのReRAMの電流電圧特性を示す.電流値(縦軸)は対数スケールになっている.両者のデバイス寸法は桁違いであるが(東京ドームと10円玉の面積比に相当する),スイッチング電圧はほぼ同等であることが分かる.

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図8 カンチレバー微小ReRAM(左)とサンドウィッチ型の大きなReRAM(右)との特性比較 [6]

6.AFMカンチレバー活用微小ReRAMによる抵抗変化機構の探求 [7]

6.1 酸素イオン蓄積領域の特定

 ReRAMの抵抗の変化の機構については,色々なモデルが発表されている.その中で,セット時にアノードのPt電極に酸素が移動し,リセット時にそれが戻るというモデルが多く取り上げられている.そしてPtに触媒作用があるなど,Ptが他の金属より酸素を取り込みやすいからではないかなどの議論もある.

 こうしたモデルの妥当性を評価するのに,カンチレバー側に可変抵抗部であるTMO層を形成することで,下部電極(アノード)を自由に取り換えられる本研究のAFMカンチレバーReRAMは打って付けである.ただ,ここで考慮すべき点は,カンチレバーと基板の間に残る不純物,特に水の影響である.電極を取り換えるに当たっては,真空中300℃でベーキングして電極表面の水分を完全除去し,水分の特性への影響を無くす必要がある.それが出来るチャンバーを備えたAFMを供用設備として公開しているところを探し,大阪大学のナノテクノロジー設備供用拠点の支援を受けることとなった.

 評価実験の手順と結果を図9に示す.図右に示すように,AFMカンチレバーReRAMのフォーミングとセット時の下部電極をPt電極で共通とし(左側のPt孤立電極),リセット時の下部電極をNi,Pt,Au,TiN(右側の各種電極群)と順次取り換えて抵抗値の変化を測定した結果が,図左である.下部電極をセットに用いたものと別の電極に変えても,リセットすることが確認された.セットの際,セット用のPt電極に酸素イオンが移動し,この酸素イオンが再びNiOに戻ることでリセットが生じるのであれば,セットの際に用いたのと別の下部電極上では,リセットしないはずである.しかも,電極材料が異なってもその触媒能に影響されることなくリセット後の抵抗値はほぼ一定であった.このことは,セット時にVOを作った酸素イオンの貯蔵庫が下部アノード電極(図7下段左)でなく,TMOの中(図7下段右)にあることを示している.

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図9 下部電極を取り換えてリセットを行い,リセットできることを確認した実験

6.2 ReRAMにおいて抵抗変化を起こすVOの集合・分散のメカニズム

 前節の実験結果から,セット時にVOを作って飛び出した酸素イオンはTMO内に止まっていることが証明された.従って,セットおよびリセットは図10に示すようにフォーミングで形成したフィラメント,即ち,VO集合体の繋がりを,TMO内部の酸素の動きにより切断したり修復したりするメカニズムを考える必要がある.

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図10 セットとリセットにおける酸素イオンの流れ

 酸素の移動,言い換えると,VOの集合と分散を繰り返すメカニズムについて,以下のモデルが考えられる.セットでは,電圧パルス印加により電流通路であるフィラメントが過熱しその隣接領域との間に発生する局部的な温度の急勾配により,フィラメントのVOを埋めていた酸素原子がソレー拡散(Soret diffusion: 温度勾配で発生する力による拡散)で分散し周辺のVOを埋める[8],言い換えればVOが周辺からフィラメントに集まり,その繋がりにより電流通路が形成され,低抵抗となる.次に電圧を印加すると,高VOの濃度のフィラメント領域とその隣接領域の間の局部的なVO濃度の急勾配で発生する濃度拡散により,フィラメントに集まっていたVOは周辺に分散し,繋がりが部分的に切断され電流が流れにくくなる,即ち高抵抗となる.このように,ReRAMの低抵抗と高抵抗のスイッチングの繰り返しは,ソレー拡散と濃度拡散の繰り返えしによって起こっていると考えられる.このメカニズムは拡散方程式に基づくシミュレーションで確認している.

 そもそもソレー拡散と濃度拡散は現象として常に同時に発生しているが,温度勾配や濃度勾配等の優劣により,リセットが生じるか,セットが生じるのかが決まる.ソレー拡散の大きさを決めるソレー係数は温度の二乗に反比例するので,低めの温度では濃度拡散よりソレー拡散が大きくなりやすい.パルス形状と環境温度,試料サイズによりリセットとセットのどちらが生じるかを調査した実験データは,上記理論で説明できたとのことである.

6.3 AFMカンチレバー活用極微小ReRAMにより得られた知見と今後の課題

 ReRAMの将来の実用領域である微小電流領域での動作メカニズムを解析する上では,出来るだけ周囲の寄生容量の影響を排し,純粋にReRAMの特性を評価する必要がある.木下氏は富士通研での研究の時から,世に先駆けて低電流化を進めてきており,その経験から低電流化の実現の鍵が寄生容量低減にあることを主張してきた[1].フォーミングあるいはセットの時にはフィラメントと隣接領域の温度勾配の急増によりVO濃度が高くなると,これによるフィラメント領域におけるジュール熱の増大によって温度勾配が更に増加する正のスパイラル現象が起き,電流立ち上がりは極めて急峻である.そのため電流リミッターがあっても寄生容量が存在すれば大きな過渡電流が流れてしまい,電流通路のフィラメントが太くなり,動作電流を小さく出来ない.今回の実験でもその点に気を遣っている.図11はフォーミング及びセット時とリセット時の下部電極を別々て設け,カンチレバーを動かして使い分ける方法を採った.(それぞれ,図11中にSet-lineとReset-lineと記載).セット用の電極(Set-line)は形状を細長くし,抵抗Rを大きくすると同時に,寄生容量を削減している.このセット用電極自体を電流リミッタ―として使用することで,セット時の過渡電流を抑制し,低電流動作を可能としている.この様な工夫をすることで初めて,抵抗スイッチングの本質を抽出ことが出来ると木下氏は語った.

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図11 フォーミングおよびセット時(Set-line)とリセット時(Reset-line)の電極の使い分け [6]

上記研究成果は,これまでの世の中のReRAM研究開発動向に対して,次の3件の新しい主張をしている.

(1)AFMカンチレバー活用という手段による直径10nmの微小デバイスにより初めての微小電流領域でのReRAM動作の世界最初の実証

(2)セット時の酸素イオンの貯蔵庫の特定

(3)ソレー拡散と濃度拡散によるスイッチングモデルの提案
である.

上記(1)のカンチレバー活用は,(2),(3)の結果を生み出す元にもなっている.上記(2)は電極が酸素イオンの貯蔵庫か否かという議論に決着を付けたことになり,今後の議論はTMOの内部の挙動になる.上記(3)はその一モデルの検証である.この,温度勾配がVOの挙動に関与するという新しい知見は,これまで固体中では考慮されなかった温度勾配によって誘起されるイオン拡散が,今後のReRAMデバイスの材料や構造の設計に際して,支配的な要素となり得ることを示している.新しい設計指針となる熱設計に関する様々なデータを取るという課題への対応は今後の取り組みの一つである.メモリの高密度化による隣接セルへのジュール熱の流入を含め,セル構造やパルス形状の工夫による熱分布の制御は,今後のReRAM開発の鍵になると木下氏は語った.

7.おわりに

 AFMカンチレバーをReRAMにするというユニークな発想から生まれた数々の研究成果は,その不揮発性メモリ動作の根幹に関わるものであり,これまでグローバルに進められているReRAMの研究がこれを機に異なるフェーズに入るのではないかという予感がする.

 新たに見えてきたソレー効果に関わるデバイス構造や材料物性の追求により,安定で信頼度の高い工業製品を実現し,持ち前の高性能,低消費電力,高密度集積,不揮発性を発揮するユニバーサル・メモリの夢が現実になることを期待する.

 最後に,これら研究成果の輩出には,研究の実施を可能とした大阪大学のプラットフォームの存在が不可欠であったことを強調したい.

参考文献

[1] K. Kinoshita,a_ K. Tsunoda, Y. Sato, H. Noshiro, S. Yagaki, M. Aoki, and Y. Sugiyama, "Reduction in the reset current in a resistive random access memory consisting of NiOx brought about by reducing a parasitic capacitance", Applied Physics Letters Vol.93, No.3, p. 3506 (2008).
[2] K. Tsunoda, K. Kinoshita, H. Noshiro, Y. Yamazaki, T. Iizuka, Y. Ito, A. Takahashi, A. Okano,Y. Sato, T. Fukano, M. Aoki, and Y. Sugiyama, "Low Power and High Speed Switching of Ti-doped NiO ReRAM under the Unipolar Voltage Source of less than 3 V", IEEE, Technical Digest IEDM 2007, pp. 767-770 (2007).
[3] Chikako Yoshida,a_ Kentaro Kinoshita, Takahiro Yamasaki, and Yoshihiro Sugiyama, "Direct observation of oxygen movement during resistance switching in NiO/Pt film", Applied Physics Letters, Vol.93, No.4, p.2106 (2008).
[4] K. Kinoshita, T. Yoda,1 and S. Kishida, "Correlation between resistance-change effect in transition-metal oxides and secondary-electron contrast of scanning electron microscope images", Journal of Applied Physics, Vol.110, No.6, p.4503 (2011).
[5] 高相圭,木下健太郎,福原 貴博,岸田 悟,「微細キャパシタ構造における抵抗変化メモリ(ReRAM)のフィラメント特性」,Journal of the Vacuum Society of Japan, Vol. 56, No. 5, pp. 176-178 (2013).
[6] Sang-Gyu Koh, Satoru Kishida and Kentaro Kinoshita, "Extremely small test cell structure for resistive random access memory element with removable bottom electrode", Applied Physics Letters Vol. 104, No.8, p. 3518 (2014).
[7] Kentaro Kinoshita, Sang-Gyu Koh, Takumi Moriyama, and Satoru Kishida, "Finding Oxygen Reservoir by Using Extremely Small Test Cell Structure for Resistive Random Access Memory with Replaceable Bottom Electrode", Scientific Reports, Vol. 5, Article number:18442, Published 22 December 2015.
[8] Dmitri B. Strukov, Fabien Alibart, R. StanleyWilliams, "Thermophoresis/diffusion as a plausible mechanism for unipolar resistive switching in metal-oxide-metal memristors", Applied Physics A, Vol. 107, No. 3, pp. 509-518 (2012).

※本文中の図1,図2は北島氏,その他の図表は全て木下氏より提供されたものである.


(向井 久和)


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