NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 卓越した技術スタッフ
<平成30年度優秀技術賞>
電子線照射に高敏感な材料の電子顕微鏡による構造観察および分析
受賞者 九州大学 微細構造解析プラットフォーム 鳥山 誉亮氏に聞く






展示の前で優秀技術賞の表彰状を手に鳥山氏と記念バッジ


 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業は,37の研究機関が全国の産学官の研究者に対して,1000を超える最先端のナノテクノロジー設備の利用機会を提供し,イノベーションにつながる研究成果の創出を目指している.最先端の研究設備の有効利用は,設備の特徴を熟知して整備し,利用技術を高め,利用者に使用のノウハウを提供する技術スタッフの存在によって可能となる.このため,ナノテクノロジープラットフォームは平成26年度から,特に優れた支援を行った技術スタッフを3つの賞(優秀技術賞,技術支援貢献賞,若手技術奨励賞)で表彰してきた.平成30年度の優秀技術賞は,九州大学微細構造解析プラットフォーム(PF)の,同大学 超顕微解析研究センター テクニカルスタッフ 鳥山 誉亮(とりやま たかあき)氏に贈られた[1].受賞テーマは「電子線照射に高敏感な材料の電子顕微鏡による構造観察および分析」である.表彰式は第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)セミナー会場で行われ,受賞内容はナノテクノロジープラットフォームのブースに展示された.nano tech 2019の開かれた東京ビッグサイトの一室で,鳥山氏に受賞した技術の内容,支援の状況,今後の抱負などを伺った.

 

1.九州大学 ナノマテリアル開発のための超顕微解析共用拠点 [2]

 はじめに,九州大学の微細構造解析PFについて概要を伺った.本PFは,学内組織としては九州大学 超顕微解析研究センターに設置され,「ナノマテリアル開発のための超顕微解析共用拠点」と称して,先端的電子顕微鏡群と関連周辺機器を産官学の利用者に共用設備として公開,多様な物質・材料のナノ構造解析・状態解析に関する研究を支援している.本PFの世界屈指の設備としては,加速電圧1300kVの超高圧電子顕微鏡で,オメガフィルタを搭載した,数μm厚の試料でも電子線が透過して高分解能観察が可能な電子顕微鏡がある.利用できる設備の詳細や利用方法などについては,本PFのホームページ[2]や,本PFを利用した研究成果を紹介したNanotechJapan Bulletinの企画特集「ナノテクノロジー Pick Up」の記事[3]に記述されている.

 今回の受賞で鳥山氏が使用した電子顕微鏡は,図1の広電圧超高感度原子分解能電子顕微鏡(JEM-ARM200CF)である.電子線の加速電圧設定が30,60,80,120,200kVと幅広い電圧範囲で利用でき,かつどの電圧でも電子ビームの球面収差補正が機能して原子分解能で観察できる.加速電圧が高い方が厚い試料を観察できるが,試料が電子線によって損傷を受けて試料の構造が壊れてしまう恐れが大きい.特に今回の受賞対象となった電子線照射に高敏感で損傷を受け易い材料に対しては長時間の観察をしても試料が電子線照射で損傷されない様な条件検討として,加速電圧の調整の検討が有効となる可能性がある.

 

図1 広電圧超高感度原子分解能電子顕微鏡(JEM-ARM200CF)

 

 加速電圧を下げると試料の損傷が抑えられるだけでなく,エネルギー分散型X線分光(XEDS;Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による元素分析を高感度に行えるメリットもある.XEDS元素分析では,電子線照射でサンプルから放出されるX線エネルギー値が各元素固有の値を持つことから,そのX線エネルギースペクトルを取得し解析することで元素分析が可能となる.X線を放出する際のイオン化断面積は,電子線の加速電圧が低い方が大きい,すなわちX線を放出が多くなる.したがって,低加速電圧の方が元素分析を高感度にできる.しかも,図1の装置には,X線を検出する検出器として100mm2の大口径シリコンドリフト検出器(SDD;Silicon Drift Detector)を2台み込んでいて,感度をより一層向上させている.

 図1の広電圧超高感度原子分解能電子顕微鏡は,九州大学の電子顕微鏡装置群の中で最も利用されている顕微鏡で,2017年度の実稼働日数は124日であった[4].その中で外部共用率は66%と,2/3が九州大学外部の利用になっている.外部利用の内,民間企業の利用は19%であった.なお,利用形態としては多くの場合「機器利用」であり,「技術代行」はしてない.利用者が電子顕微鏡を利用する時には,PFの技術支援スタッフが一緒に実験操作するだけでなく,実験計画の立案からデータ解析までの一貫した研究支援を積極的かつ創造的に行なっている.

 

2.受賞対象技術 <事例1>臭化ヨウ化銀(AgBrxI1-x)ナノ粒子の構造評価

 今回受賞された「電子線照射に高敏感な材料の電子顕微鏡による構造観察および分析」にどんな優れた技術を開発適用したか,事例2件で以下に紹介する.利用者は2件ともに,京都大学大学院理学研究科の固体物性科学研究室の方々である.京都大学は,触媒として期待されている金属ナノ粒子の構造解析や元素分布状態の観察で,以前から九州大学の微細構造解析PFの支援を受けてきており,2016年に一つの研究成果をNanotechJapan Bulletin 企画特集「ナノテクノロジー Pick Up」で紹介した[5].

 本章では第1の事例として,臭化ヨウ化銀ナノ粒子の構造評価について取り上げる.京都大学では,臭化ヨウ化銀(AgBrxI1-x)ナノ粒子を合成し,全固体電池向けに超イオン伝導性を示す固体電解質としての応用を目指している[6][7].京都大学にあるX線回折装置を使用して,合成したAgBrxI1-xナノ粒子の結晶構造解析を行っているが,ナノ粒子1つ1つについて結晶構造や元素固溶状態の解析までは確認ができていなかった.個々のナノ粒子の結晶構造や組成・均質性を評価するためには電子顕微鏡での観察・分析が必要であり,九州大学微細構造解析PFに高分解能電子顕微鏡観察・分析の依頼があった.

 ところで,ヨウ化銀(AgI)は,写真の感光材料として使用されていた物質である.電子線を照射すると,AgIは分解され銀(Ag)が析出する.AgBrxI1-xのナノ粒子も同様に一般的な条件で電子線照射を照射すると即座に分解が起こり,構造は大きく変化してしまうので,AgBrxI1-xナノ粒子を安定させた状態で電子顕微鏡観察することは困難であった.図2に,AgBrxI1-xナノ粒子の電子線照射による構造変化の様子を示す.(a),(b)は観察開始直後,(c),(d)はそれから3分後の電顕像である.

 

図2 AgBrxI1-xナノ粒子の電子線照射による構造変化
(a),(b)観察開始直後,(c),(d)3分後

 

 使用した電子顕微鏡は図1のJEM-ARM200CFであり,電子線ビームを細く絞って試料面上を2次元的に走査し,試料を透過・散乱した電子を検出して像形成する走査型透過電子顕微鏡像(STEM;Scanning Transmission Electron Microscope)である.非対称磁界レンズを用いて球面収差補正することで,原子分解能でのSTEM観察を可能にしている.各写真の左下にある白線は,200nmのスケールを示す.

 左側の2枚はSTEM-HAADF(High Angle Annular Field,高角散乱暗視野)像,右側2枚はSTEM-BF(Bright Field,明視野)像である.STEM-HAADF像は試料から散乱された電子線の内,高角度に散乱された電子を環状の検出器で検出した像で,原子番号の2乗に比例してコントラストが得られる.STEM-BF像は主に透過波を検出した像でTEM-BF像と等価なコントラストが得られる.

 STEM-HAADF像とSTEM-BF像では,図2で分かるように白黒(明暗)が反転して観察される.観察開始直後と3分間電子を照射した後を比較すると,黄色の矢印で示したナノ粒子の様に短時間の電子線照射により粒子形状が大きく変化する.また,赤色の○で示したエリアの様に,一部のナノ粒子は縮小,消失している.このように,一般的な観察条件ではAgBrxI1-xナノ粒子を安定して観察・分析する事が出来なかった.

 そこで,電子線照射によるAgBrxI1-xナノ粒子の構造変化を抑制するために以下の検討を試みた.

①電子線の加速電圧を下げる
②電子線ビーム電流を下げる
③試料を冷却する

この中で最も効果的であったのは,③試料の冷却であった.AgBrxI1-xナノ粒子は冷却(-176℃)する事で電子線照射に対して安定性が向上することが分かった.

 使用した試料冷却ホルダーは,図3に示した一般に市販されている汎用品(GATAN Model 636)である[8].図3左はホルダーの全体で,これを電子顕微鏡に挿入して観察する.右側白色部が液体窒素のデュアー(容器),左先端部に試料ホルダーが見える.液体窒素デュアーと試料ホルダーの間は,熱伝導ロッドで連結されている.図3右の写真は,試料ホルダーの先端部を拡大して撮影したもので,試料上方から電子線が入射して,電子線は下方に透過散乱して検出される.試料ホルダーは2軸で傾きが調整でき,試料ホルダーの温度はSiダイオードでモニタされる.

 

図3 試料冷却ホルダー(GATAN, Model 636)
(左)液体窒素デュアー(右側白色部)含むホルダー全体,(右)試料ホルダー先端部

 

 試料冷却ホルダーを使用する際には,液体窒素の蒸発に伴うバブリングによって振動が発生して,電子顕微鏡観察にノイズとして悪影響を及ぼすことがないように注意が必要である.特に高分解能像の撮影時にはこの影響が大きな問題となる.液体窒素は,図3左の写真のこぶし程の大きさがあるデュアーに注入すると2時間ほどで蒸発して空になる.デュアー内の液体窒素が完全に蒸発し空になってから温度が-176°Cに保持されている時間帯はバブリングの影響が無く,高分解能観察に適している.しかし,その時間は長くはないので,液体窒素をデュアーに注入する際には極力氷を入れないように,フィルタを通して注入することで氷を取り除くと,バブリング発生をかなり抑制することができ,高分解能観察が可能となった.

 もう一つ,高分解能像撮影で有効だった手法が,“試料ドリフト補正を行いながらの複数枚画像積算処理”である.STEM観察では,電子線ビームを細く絞って試料に照射し,試料面上をスキャンすることで透過電子像を得る.高画質の画像を取得するには画像取込時のスキャン速度を遅くして露光や画像ピクセルサイズを稼ぐ必要がある.一般的な画像取り込み時のスキャン速度は10~20秒程(例pixel size 1024 x 1024,pixel time 20μsec)で行っている.試料ドリフトが残った状態で画像取り込みを行うと,取り込んだ画像にドリフト由来の歪みが現れる.特に高分解能像取得時ではこの影響を大きく受ける.この試料ドリフトの影響を最小限に抑えるために用いたのが“試料ドリフト補正を行いながらの複数枚画像積算処理”である.早いスキャンで画像取り込みを連続で行い,取り込んだ各画像をクロスコリレーションによるドリフト補正を行いながら画像積算処理するものである.一枚の画像としてはノイジーでS/N比は良くないが試料ドリフト由来の像歪みが抑えられ,これを10~20枚連続して撮像した後,積算処理する事でS/Nの良い歪みが抑えられた原子分解能像に取得が可能となった.図4は,AgBrxI1-xナノ粒子の高分解能STEM-HAADF像である.六角形状の原子配列が確認できた.

 

図4 AgBrxI1-xナノ粒子の高分解能STEM-HAADF像

 

 図5は,上述した電子線照射による構造変化を抑制する手法により,AgBrxI1-xナノ粒子をXEDSマップ分析した結果である.図5左上のHAADF像は1回のスキャン(約10秒)で撮影したマップ分析前の画像,図5中央と右側4枚はマッピング分析後の各元素の画像である.電子線照射によって放出されるX線を検出して得るが,発生するX線量は電子線の電流が大きい程,また試料が大きい程増加する.したがって,ナノ粒子ではX線の発生効率が高くないので1回のスキャンで十分なS/Nのマップ像は得られない.このため同じ領域を何回もスキャンしてX線シグナルを積算する事で,マップ像のS/Nを稼ぐ.具体例としては1フレームを1秒でスキャン,30分かけて同じエリアをスキャンして60×30=1800枚を積算して得る.この分析時間中に構造が変化してしまったら,積算しても求める像形成はできない.図4のHAADF像と各元素マップ像でAgBrxI1-xナノ粒子の形状を比較すると,10nm~50nmの粒子では形態変化が殆ど無く両者の形状は良く一致している.試料の冷却により長時間分析が可能となった.

 

図5 AgBrxI1-xナノ粒子のHAADF像とXEDSマップおよびスペクトル

 

 図5左下のX線エネルギースペクトルには,各元素に固有のエネルギーで放出されるX線ピークが見られる.1.4kVにBr,3.0kVにAg,3.9kVにIの特性X線ピークがある.図4中央と右側4枚のXEDS元素マッピング像は,各元素と3元素合計のマッピング像である.各元素の色付けは,ソフトウェアで自由に選択できる.4枚のXEDS像は,30分の積算で1度に形成される.これらの元素マッピング像から三角形状のAgBr相の粒子と,比較的等方的な形状で組成がAgBrxI1-xのナノ粒子が混在していることが明らかとなった.

 臭化銀やヨウ化銀は電子線照射によりダメージを受けやすく,これまで電子顕微鏡による観察・分析の例はなかった.今回,世界で初めて臭化ヨウ化銀ナノ粒子を電子顕微鏡により組成分析・原子像観察に成功した意義は大きい.

 

3.受賞対象優秀技術 <事例2>多孔性金属錯体(MOF)-金属ナノ粒子ハイブリッド材料の高分解観察

 「電子線照射に高敏感な材料の電子顕微鏡による構造観察および分析」の2つ目の事例として,多孔性金属錯体(MOF;Metal Organic Frameworks)-金属(Pt)ナノ粒子ハイブリッド材料の電顕観察を紹介する.この事例の利用者も,事例1と同じく京都大学の同じグループである.

 貴金属ナノ粒子は触媒として機能する性質を有するが,触媒反応のサイクル特性に課題がある.すなわち,同じ触媒で何度も反応させて行くと反応性が劣化してしまう.MOFは金属イオンと有機配位子が組み合わさって規則的な多孔質ネットワーク構造を持つ材料である.京都大学で10nm程度の金属ナノ粒子をMOFで覆ったハイブリッド材料を合成したところ,触媒サイクル特性の向上が確認された.この触媒サイクル特性向上のメカニズム解明の為に,金属ナノ粒子を取り巻くMOFがどのような状態であるのか,MOFの結晶構造を直接観察したいという依頼があった.

 ところがMOFは電子線照射に弱く,STEM観察において一般的な観察条件では数回の電子線照射でMOFの構造が壊れてしまうことが課題であった.MOF構造が壊れてしまう原因は,電子線のマイナス電荷によるMOFを構成しているプラスの金属イオンの還元作用で,金属イオンが析出してしまう為と考えられる.図6は一般的な観察条件で金属ナノ粒子-MOFハイブリッド材の観察を行ったSTEM-HAADF像である,左側の2枚の中の赤色破線で囲んだ□エリアを拡大したものが,右側の2枚である.取得された MOFの画像を見ると,黄色の矢印で示したナノ粒子状のものがMOF粒子全体に斑模状に現れている.これはMOFが電子線照射により還元され粒子の析出が起こり,MOFの構造が壊れてしまっている.

 

図6 電子線ダメージを受けた金属ナノ粒子-MOFハイブリッド材のSTEM-HAADF像

 

 したがって,このような電子線照射によるMOF中での粒子析出を抑制しないとMOF本来の構造が観察できない.事例1と同様に,以下のような対策を試みた;

①電子線の加速電圧を下げる
②電子線ビーム電流を下げる
③試料を冷却する

 結果的には,上記①③は殆ど効果なく,②電子線ビーム電流の低減が最も有効であった.電子線のプローブ電流値は,通常の観察であれば数十pAで,XEDS元素分析では試料の損傷がなければ数百pAが一般的であるかと思われる.今回はXEDS分析ではなく,MOFの結晶構造を直接観察したいという目的であったので,電子線プローブ電流値を可能な限り下げてMOFの構造が壊れないギリギリのプローブ電流値の検討を行った.高角散乱電子は低角度散乱電子よりも強度が弱いため,HAADF条件ではプローブ電流値を下げると画像のS/N比は悪くなる.そこで,ADF検出内角度をやや低角域の40mrad程度に設定することで,検出感度の向上を図った.また,数回のスキャンで構造変化が起こる事から,前述事例1の“試料ドリフト補正を行いながらの複数枚画像積算処理”は適切ではなかった.この為画像取得は1スキャンで行い,画像取得1スキャンにギリギリMOFが耐えられるプローブ電流値(約5pA以下)にて,数々のMOFを撮影した.

 図7は,Ptナノ粒子-MOFハイブリッド材料の高分解能STEM-HAADF像である.MOFの規則正しい結晶格子構造がはっきりと見えており,MOFの結晶構造を電子顕微鏡で初めて観察できた.さらに作製されたハイブリッド材料は,金属ナノ粒子表面を結晶性MOFが覆っていることも明らかになった.こうした観察の蓄積から,金属ナノ粒子-MOFハイブリッド材料の触媒サイクル特性改善の原因解明,一層の特性改善が進められている[9].

 

図7 金属ナノ粒子-MOFハイブリッド材料の高分解能STEM-HAADF像

 

 電子線プローブ電流値を下げ,かつADF検出内角度を小角散乱域に設定し感度を維持する手法は,金属ナノ粒子-MOFハイブリッド材料以外の材料にも適用できる.具体例としては,今回とは別の利用者から提供のあった電子線照射に弱い金属酸化物ナノシート材料においても,金属酸化物の構造を維持した原子分解能STEM像の撮影に成功している.

 

4.技術スタッフとしての今後の抱負

 鳥山氏は,受賞対象である「電子線照射に高敏感な材料の電子顕微鏡による構造観察および分析」を振り返り,次のように語った.電子線照射に弱い材料・物質に対しても,電子顕微鏡で観察できるようにするという挑戦的なテーマに取り組めせてもらった.色々と試行錯誤して,何とか困難な課題を解決して安定して観察できるようになった.微細構造解析PFで,利用者の方からそうした挑戦的なテーマを依頼されたお蔭と感謝している.PFの技術スタッフとしては,そうしたテーマ・試料に巡り合う機会が貴重である.電子顕微鏡では観察できないのではないか,という難しい課題でも,是非,微細構造解析PFに問い合わせていただきたい.

 今回の受賞の元になった2つの事例では,既存の電顕装置において調整できる範囲で観察条件を振って安定して観察できる条件出しをした.お金をかけて,特殊なことをしているわけではない.色々な技術を組み合わせることで,対応した.特に,電子線ビームを低電流で観察することは,今回の受賞対象事例だけでなく,電子線照射に弱い他の試料にも適用できる手法として期待している.

 鳥山氏としては,電子顕微鏡観察が困難な試料でも,電子顕微鏡を使いこなして観察できるようにするだけでなく,今後は観察対象の試料を作製する方にも注力していきたい.Arイオンミリングや,ミクロトームを使った生体試料はじめソフトマテリアルの試料作製にも挑戦したい,と抱負を語った.PF利用者から電顕観察依頼があると,先ずは試料作製をどうするかで的確な助言ができるようにしたい.試料作製は,多くの技術ノウハウが集積した電顕観察の肝だと考えている,と語った.

 

5.おわりに

 電子顕微鏡で観察している最中に,電子線照射が原因で観察対象物の構造が崩れてしまうことで電顕観察を諦めていた試料に対しても,試料を液体窒素で冷却したり,電子線加速電圧やビーム電流を下げたり,他の様々な技術を組み合わせることで観察できるようになった.PF利用者の電子線照射に弱い材料でも観察したいという要望と,PFの共用設備と技術スタッフに蓄積された高度な技術と弛まぬ努力がマッチングして,今回の受賞に至ったことに感銘を受けた取材であった.鳥山氏の今後益々のご活躍と,九州大学の微細構造解析PFが今後も産官学からの挑戦的課題に応えていくことを期待したい.

 

参考文献

[1] 文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム事業」平成30年度技術スタッフ表彰;https://www.nanonet.go.jp/ntj/award/
[2] 九州大学 ナノマテリアル開発のための超顕微解析供用拠点;https://www.nanonet.go.jp/ntj/insti/kyushu-u/nc/
[3] NanotechJapan Bulletin Vol. 11, No. 1, 2018,企画特集「ナノテクノロジー Pick Up」<第 13 回>「超高分解能電子顕微鏡を用いた触媒の微細構造解析 ~世界最高レベルの性能を持つアンモニア合成触媒とアンモニアから水素を簡単に取り出す分解触媒の開発に貢献~」;https://www.nanonet.go.jp/magazine/content/files/mag_pdf/PickUp_pdf/nanotechPickUp-13.pdf
[4] 九州大学 超顕微解析研究センター報告,No.42, (2018)
[5] NanotechJapan Bulletin Vol. 9, No. 6, 2016,企画特集「ナノテクノロジー Pick Up」<第 2 回>「新規な金属ナノ粒子の原子分解能状態解析と新たな触媒機能性の開発」;http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/ossc/pdf/newspaper/20170119_nanotechPickUp-02.pdf
[6] 山本貴之,小林浩和,北川宏,“ヨウ化銀ナノ粒子の相転移挙動およびイオン伝導性の制御”,第67回コロイドおよび界面化学討論会 (2016年9月22日)
[7] T.Yamamoto, H.Kobayashi, T.Yamamoto, S.Matsumura, Y.Kubota and H.Kitagawa, “臭化ヨウ化銀ナノ粒子の相転移挙動とイオン伝導性”,日本化学会第97春季年会 (2017年3月16日)
[8] GATAN, “Double Tilt Liquid Nitrogen Cooling Holder (Model 636)”;製品仕様書 http://mtrmika.technion.ac.il/wp-content/uploads/2014/02/636_Db_Tilt_Liq_Nitro_Cool_Holder_Dsheet_FL4.pdf
[9] Hirokazu Kobayashi, Tomokazu Yamamoto, Syo Matsumura, Yoshihide Nishida, Katsutoshi Sato, Katsutoshi Nagaoka, Hiroshi Kitagawa, “Pt Nanocrystals Covered with Metal-organic Framework for CO Oxidation Catalysis”, 日本化学会第97春季年会 (2017年3月17日)

※本文中の図は,全て九州大学から提供されたものである.

 

(尾島 正啓)