NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 卓越した技術スタッフ
<平成30年度技術支援貢献賞>
透過型電子顕微鏡のための高度試料作製技術による支援業務
受賞者 東京大学 微細構造解析プラットフォーム 押川 浩之氏に聞く

 

 試料作製装置のイオンスライサーを背にした押川氏

 

 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(NPJ)は,全国の大学,研究機関が一体となって最先端の研究設備の共用体制を構築することにより,イノベーションの創出に寄与することを目的としている.高度で高価な最先端設備の共用は,利用者の裾野を広げる一方,不慣れな利用者が装置の機能.性能を十分に活用できないといった事態も起こる.このため,共用装置の有効活用に向け,ナノテクノロジープラットフォームは技術スキルを持ったスタッフを置いて,利用者を支援している.PF利用は,年間3,000件に及ぶが,その中から優れた支援を行った技術スタッフ数人を毎年表彰してきた.平成30年度は,2019年1月 30日に第 18 回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)のセミナー会場で表彰式が行われ[1],東京大学(東大)微細構造解析プラットフォーム(PF) 押川 浩之氏に技術支援貢献賞が贈られた[2].受賞題目は「透過型電子顕微鏡のための高度試料作製技術による支援業務」であった.これまでの授賞対象は観察,解析などの支援が多く,観察前段階の「試料作製」は珍しい.おもてに出にくい高度な「試料作製」技術がどのようなものか伺うべく,東京大学浅野キャンパスに,受賞者の東京大学大学院工学系研究科 総合研究機構 技術職員 押川 浩之(おしかわ ひろゆき)氏を訪ねた.

 

1.東大微細構造解析PFにおける技術支援

1.1 東大微細構造解析PFの構成

 NPJでは,ナノテクノロジー関連科学技術において基本となる3つの技術領域:「微細構造解析」「微細加工」「分子・物質合成」のPFに,延べ37の大学・研究機関が参画する.東大は微細構造解析PFと微細加工PFに参画し,東大微細加工PFは超微細リソグラフィー・ナノ計測拠点[3]と称し,その活動は,NanotechJapan Bulletin企画特集「ナノテクノロジーPickUp」[4],第17回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2019)[5]などで紹介された.

 東大微細構造解析PFは,先端ナノ計測プラットフォーム拠点と称し,学内組織としては大学院工学系研究科 総合研究機構 ナノ工学研究センターが実施機関となって,運営されている[6].ナノ工学研究センター内には,無機材料原子構造計測部門など5つの計測部門を設け,工学系,理学系,農学系,医学系の各分野から グループリーダーが出て,分野横断的な取り組みをしている(表1).表には各計測部門が共用に供している設備の主なものを示している.また,コーディネート部門が設けられ,この部門のコーディネート室が共用設備の利用についての相談に対応する.

 

表1 微細構造解析PF:ナノ工学研究センターの構成と主要共用設備

 

1.2 東大微細構造解析PFの電子顕微鏡と試料作製装置 [7]

 本稿の対象となる電子顕微鏡を東大微細構造解析PFは多数保有し,その数は18台に及ぶ.押川氏が担当する装置から例をあげれば,原子分解能元素マッピング構造解析装置 JEM-ARM200F thermal FE single SDDは(図1左),加速電圧200 kVで,球面収差補正装置を組み込み,SDD EELS軽元素対応検出器を用いて,STEM暗視野格子像を0.082nmの分解能で,原子構造解析,元素分析などに用いられる(FE:電界放射,STEM:走査透過電子顕微鏡,SDD:シリコンドリフト検出器,EELS:電子エネルギー損失分光).また,ハイコントラスト透過型電子顕微鏡JEM-2010HCは(図1右),単結晶LaB3電子銃を用い,格子像0.1nmの分解能で,画像をシートフィルムやCCD(電荷結合撮像素子)に記録できる.

 

図1 東大微細構造解析PFの電子顕微鏡例
(左:原子分解能元素マッピング構造解析装置,右:ハイコントラスト透過型電子顕微鏡)

 

 本稿の主題となる試料作製装置[8]には,短冊状試料にイオン研磨処理を行い,薄膜試料を作製するイオンスライサーEM09100ISがあり,Arイオン加速電圧1~8kVで傾斜角は0.1°刻みの最大6°の浅い角度でイオンビームを照射できる.また,精密イオンポリッシャーのGATAN Model-691,EMD-12210の2機種は,イオン加速電圧を100V~6kVの範囲で低い電圧から制御でき,試料貫通プロセスを高分解能モニターで観察できる.図2は研究室に設置されているイオンスライサー(左)とイオンポリッシャーGATAN(右)の写真を示した.このほか,イオンビーム加工による試料作製装置としては,CCDカメラを装備して加工位置を確認しながら断面加工を行うクロスセクションポリッシャーSM-0900010,0900020がある.

 

図2 イオンビーム加工を用いた電子顕微鏡試料作製装置
(左:イオンスライサー,右:イオンポリッシャー)

 

 電子顕微鏡試料作製には古くから,機械的に薄片を切り出すミクロトームが使われてきた.東大微細構造解析PFには,図3のウルトラミクロトーム EMUC7が用意されている.静電気式ピックアップ法を実現し,試料を傾斜・移動・回転したときにフォーカスや視野が移動しないユーセントリック実体顕微鏡の装備が特長である.

 

図3 ウルトラミクロトーム

 

 東大PFには,この他にも,オシレート切断方式のミクロンマイスター,低角用イオンミリング,真空蒸着装置,ディンプルグラインダー,超音波ディスクカッター,オスミウムコーターなど様々な試料作製装置が用意されている.

 

1.3 東大微細構造解析PFの利用形態 [9]

 PFは大学・研究機関に限らず,民間企業も利用できる.利用して得られた成果は公開を原則とするが,民間企業などの成果は非公開にすることができる.PF利用の形態には,共同研究,技術支援(または技術補助),技術代行,機器利用,技術相談の5つの形態があり,共同研究契約,秘密保持契約などを締結して利用する.ただし,本拠点で計測,分析,加工した試料や計測データを第三者に販売することにより利益を得るといった営利目的での利用はできない.

 利用形態によりPF装置利用の実施者,利用料金は表2のように区分される.

 

表2 PF利用形態

 

1.4 受賞者押川氏の支援活動

 押川氏は,十余年前は大学の半導体研究室でTEMの試料の作製・観察などを行っていた[10].その後,計測器メーカーに数年勤務し,半導体試料の受託分析,装置の納品・保守サービスなどを行った.サービスより依頼分析が多かった.そうこうしているうちに,東大で技術職員の公募があった.これに応募して採用され,ナノテクノロジープラットフォームで技術支援にあたっている.

 電子顕微鏡の経験は長いが,他の装置の経験は少ない.PFでは,透過電子顕微鏡の試料作製と観察を支援する.過去の経験を活かして,装置のクリーニングをし,修理も部品を取り寄せて行っている.東大の微細構造解析PFに,電子顕微鏡は18台ある.押川氏は,1.2節に挙げた,原子分解能元素マッピング構造解析装置JEM-ARM200F thermal FE,ハイコントラスト透過型電子顕微鏡JEM-2010HC はじめ半数に近い装置の担当となっている.担当する装置について,ユーザーの予約管理,相談,支援などを行う.一つの装置の講習をするとそこに張り付いてしまうので,他の装置の支援が十分にできないといった悩みを抱える.支援は,技術代行で始まることが多いが,ユーザーに学んでもらい,技術支援から機器利用に移行するよう努めている.

 押川氏が,得意とするのは試料作製である.会社勤めの頃に,様々な試料の作製で苦労し,試料作製でその道を極めようと思ったという.元々細かい作業が好きで,難しいものもなんとかしようと,電子顕微鏡の試料作製に挑戦している.

 

2.透過型電子顕微鏡試料の作製

2.1 電子顕微鏡試料作製法の概要

 電子は物質との相互作用が強いので電子線は吸収され易く,透過能は小さい.電子線が透過する厚さは,物質や加速電圧に依存するが,加速電圧100kVのとき,100nmに過ぎない.このため透過型電子顕微鏡で観察するには,厚さ数10nmの試料を作製する必要がある.

 薄膜試料は,表3に示すような機械的な切断,エッチング・研磨,堆積(蒸着など)で作られる.調製法の化学研磨には電解研磨を含み,イオン研磨にはArイオンミリング,集束イオンビーム(FIB)加工などが含まれる.粉末試料では研磨の前に,樹脂に包埋するなど,前処理が必要になる[11].観察目的,材質に応じて最適な調製法を選ぶ.これに応えられるよう,東大微細構造PFには多種多様な試料作製装置が用意されている.

 

表3 電子顕微鏡薄膜試料作製法

 

 調製の際,試料に欠陥などの損傷が入ることがあり,厚さが観察に不適当だったりする.調製した試料を電子顕微鏡で観察し,満足の行く観察ができなければやり直す.このため,試料作製には観察に要するより長い時間がかかり,観察に対し,試料作製には3倍の時間がかかる.1日の観察をするのに,試料作製には3日かけているという.

 スタッフ表彰で示された二つの試料作製にはミクロトームとイオン研磨がそれぞれ用いられた[12].

 

2.2 ミクロトームによる試料作製

 ミクロトームはバルク試料から,電子顕微鏡観察に適した厚さの薄片試料を切り出す装置である(図4).バルク材料あるいは,エポキシ樹脂に包埋した材料を,切削部が1mm程度になるようトリミングする前処理の後,試料台に載せ,切削断面をガラスナイフで整形する.ミクロトームと切削面が平行になるよう,ダイヤモンドナイフと試料の位置角度を調整し,切削の様子を見て切削条件を調整しながら切削する[11].切削されてできた試料薄片は,ダイヤモンドナイフ上のボートに張った水の表面に浮かぶ.水を嫌う材料では,水の代わりにエタノールやアセトンなどの溶剤を使うこともある.水に浮かんだ薄片を銅などの金属メッシュ上に掬いとり,試料薄片の載った金属メッシュを電子顕微鏡の試料ホルダーにセットして,観察に進む.切削された試料薄片は水に回収され,水から掬い取られた薄片は水の表面張力で金属メッシュに張り付いているので,電子顕微鏡試料ホルダーまでメッシュを移動する間に飛び散るようなことはない.

 

図4 ミクロトームによる超薄片試料の作製

 

2.3 イオンミリングによる試料作製

 イオンミリングによる薄膜試料作製では,まず,イオンスライサーによって試料に電子顕微鏡観察用薄層領域を作る(図5).厚さ100μmの試料の上,中央に幅10μmのシールドベルトを置く.Arイオンビームで,シールドベルトの外の試料を削り落とした後,シールドベルトの中央付近を薄く削って,試料の厚さを数10nmにする[13].中央部付近を薄くして行く時は,浅い角度でArイオンビームを照射する.厚さを精密に調整するため,イオンミリングの速度を下げる.このため,Arイオン加速電圧を細かく調整できるイオンポリッシャーを用いて仕上げる.

 

図5 イオンスライサーによる薄膜試料作製

 

3.支援における透過型電子顕微鏡のための高度試料作製技術 [12]

3.1 できなかった電子顕微鏡試料作製を可能に

 PF利用者から,透過型電子顕微鏡用試料の作製が困難な物質の試料作製を持ち込まれた.このため,幾つかの試料作製法の開発とその応用を行った.

 一つは,水や有機溶剤に溶解してしまう試料や,熱に弱い薄膜試料作製のための,ミクロトームドライ法の開発・改良と利用者の試料作製への応用である.もう一つは,サイズの大きい微粒子の場合,薄膜試料作製が困難であったため,イオンミリングを用いてサイズの大きな微粒子の観察が可能な手法を開発した.これらの手法により,これまで観察することができなかった依頼試料のうち幾つかの試料で観察が可能となった.

 押川氏は,会社時代に制約付きの試料の作製方法を考えることが度々あった.対応には薄片試料を作製・回収して電子顕微鏡装置にセットするための工夫が必要になる.その工夫により,制約付きの試料作製ができるようになった.この経験のお蔭で,受賞対象となる技術を比較的短期間に開発し,利用者を支援することができた.

 

3.2 ミクロトームにおけるドライ法

 2.2節で述べたように,ミクロトームでは,切り出した薄片試料を水に浮かせて回収している.しかし岩塩のような水に溶ける材料は,薄片試料が水に溶けてしまって回収できない.そこで,水や有機溶剤に溶解する試料,また熱に弱い試料などに対応するため,試料貼り付け用のワックスを使用せず,常温で硬化する樹脂に包埋し,ミクロトームによる切片を作製し,水上に浮かせずに試料をピックアッップ,回収する,ドライ法を開発・応用した.

 ミクロトームでは,樹脂に包埋した試料をセットしてダイヤモンドナイフで切る.表面保護のため,試料を熱硬化樹脂で固めるが,熱の影響を避けるため,100℃以下で硬化する樹脂を使い,低い温度で時間をかけて硬化させるようにした.切る試料の大きさは200μmくらい,大きいとダイヤモンドナイフの刃が欠けるから小さい方が良い.切片の厚さは機械でセットし,数10nmに仕上げる.2.2節で述べたように,通常は水を張って,水に浮いて出てきた切片を掬い上げる.水に浮かんだものをメッシュで掬って電顕の試料台に載せる.水に溶ける材料の試料作製が必要になり,水を張らずに切った.試料は出てこない.出てくる時はしわくちゃになっていた.水を張っていないので切片はナイフの刃についていた.これを剥がしてピックアプし,電顕観察用のメッシュに回収することに成功した(図6).薄片のピックアップには,竹串の先につけた,人の睫毛(まつげ)を用いた.睫毛は適当な弾力があり,睫毛(図6中の矢印の先)を切片とダイヤモンドの刃の間に差し込んで剥がしてピックアップした.この切片を電顕観察用のメッシュに載せると,水の表面張力がないから,切片は剥がれて飛んでしまう.そこで,同じサイズのメッシュを上からかぶせ,2枚のメッシュで切片を挟むことによって保持して,電子顕微鏡まで運ぶことができた.作製された試料を透過型電子顕微鏡で観察すると,低倍率の写真(図7左)でわかるようにヨレやシワなどなく作製されていた.倍率を上げた写真(図7右)でも不均一な点は見られない.

 

図6 ミクロトーム ドライ法による電子顕微鏡試料の作製

 

図7 ミクロトーム ドライ法により作製した試料の透過型電子顕微鏡観察

 

 押川氏は,他の人がドライ法を使っているか,どんなやり方をしているか知らないという.ドライ法での試料作製法をオープンにするのは本稿が初めての機会となった.ドライ法をどんどん使って欲しいと押川氏はいう.会社などでも技術を抱え込む人がいる.それでは,技術が継承されず,広まらない.ユーザーは押川氏の方法を学んだので,今後は自社の装置でやることになった.PF利用は終了したが,技術は伝承され,広まった.

 

3.3 イオンミリング法を用いた粉末からの試料作製

 チタニア(TiO2)など粉末状の試料を透過型電子顕微鏡で観察する際に,粉末の粒径が100nm以下であればそのまま観察できる.粒径が100nm以上になるとそのまま観察することはできない.この問題を解決するため,粉末試料を樹脂に混ぜて,シリコン(Si)などの基板表面に塗り,イオンミリング装置で加工する方法を開発した.Siのダミー試料を,イオンミリング装置に入るよう,あらかじめ加工し,試料台に載せた後に,粉末試料の混じった樹脂を表面に塗る(図8左).この試料はイオンスライサーを用いて粉末試料の入った樹脂の部分を薄膜に加工する.イオンスライサーのシールドベルトは写真の面に載せる.イオンスライサー加工で粒子が削られ,ポリッシャーで精密に加工して,透過型電子顕微鏡で観察できる大きさの粉末電顕試料を作製できた(図8右).

 

図8 イオンミリング法を用いた粉末からの試料作製
左:試料台(下段)上のSi(中段)に粉末試料を混ぜた樹脂(上段)を塗布;右:作製された試料

 

 この加工では複数のイオンミリング装置を使った.この場合に限らず,イオンミリング装置を利用する場合,試料の粗削りから仕上げまで装置を使い分けして行くことがある.例えば加速電圧や,イオン電流の大きい装置を用いて粗削りを短時間で行い,仕上げは低加速電圧の装置で時間をかけて行う.ところが試料ホルダーは装置ごとに異なるから,装置が変わるごとにホルダーへの試料の載せ替えが必要だった.ホルダーの載せ替えは,煩雑なだけでなく,試料を損傷する恐れもある.そこで仕上げ用のホルダーをもとに,粗削り用から仕上げで使用する装置まで一貫して使用できるホルダーを用意し,ホルダーから取り外す時に試料を壊すリスクの低減に成功した.

 これらの技術を応用してTiO2の粉末試料を作成した例を図9に示した.図9左にあるように樹脂も脱落することなく試料を保持しており,HAADF(高角度環状暗視野)像(図9中),ABF(環状明視野)像(図9右)を取得できたことから電子顕微鏡試料としての薄片化のできていることが分かる.

 

図9 イオンミリング法によるTiO2粉末電子顕微鏡試料作製例

 

3.4 電子顕微鏡試料作製技術のさらなる高度化へ

 押川氏は,様々な試料の作製で苦労し,工夫して成功した時の喜びから,試料作製でその道を極めようと将来の目標を定めた.元々細かい作業が好きで,難しい課題もなんとかしようと挑戦し,解決策を見出してきた.ユーザーには,試料作製がうまく行かないと相談に来る人もいる.作製方法を説明すると,それを聞いて理解するだけで終わるユーザーもいる.もっと疑問を持ち,さらに良くすることを考えて欲しいと押川氏は望む.

 ユーザーの中には,いくら時間をかけても作製法を修得できない人もいる.TEMの試料作製は20年間変わっていない.いくつもの装置を使い,試料台を移す時に試料を壊したりする.ひとつの装置に材料をセットしたら,操作ボタンを押すだけで電子顕微鏡試料ができるようにならないか考えているという.TEM試料作製を謳わない別種の装置の中に使えるものがないか探している.電子顕微鏡試料作製に化学研磨があり,電解液を両面から吹き付けて薄くする.これに対し,金属を削るのにジェット研磨があり,この装置でSiを加工したら薄くできた.溶剤を吹き付けるが,溶剤にはフッ酸・硝酸という危ないものを使っていたのを,水に研磨剤を混ぜて吹き付けるようにして薄くできた.砥粒を替えたりするなど良い条件を探している.試料作製のリスクをなんとか少なくしたいと考え,工夫を凝らして,誰でも試料作製ができるよう,新たな作製法を探している.

 

4.おわりに

 PFの技術スタッフは,微細構造解析を支援する陰の存在である.さらにその解析の陰には試料作製という陰の存在がある.構造解析,現象解明は,観察・解析装置に適した試料の存在によりはじめて可能になる.試料作製は観察・解析の一部とされ,表に出にくい.しかし,1日の観察に用いる試料の準備には3日かかるという.平成30年度のナノテクノロジープラットフォーム技術スタッフ表彰は,陰に隠れがちな技術,支援を表に出した.受賞者の押川氏は,電子顕微鏡の試料作成を極めようと,他人の思いつかないような工夫をし,難しい試料作製を可能にしてきた.開発した技術は公開して広く活用されることを期待し,簡便な試料作製装置の開発にも興味を示している.新しい現象の発見,原理の解明は新しい装置によってなされることが多い.その装置での観察には装置に適した試料作製が求められる.現象の観察・解明を陰で支える技術に関心が寄せられ,その高度化・活用により,物質・材料研究が進展することを期待したい.

 

参考文献

[1] 第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)開催報告:https://www.nanonet.go.jp/magazine/Reports/nanotech2019.html
[2] 技術スタッフ表彰:https://www.nanonet.go.jp/ntj/award/
[3] 超微細リソグラフィー・ナノ計測拠点:http://nanotechnet.t.u-tokyo.ac.jp
[4] “有機系浮遊粒子状物質を検出するMEMS形センサの開発~長年積み上げた薄膜センサ技術をナノテクプラットフォームで短期間にデバイス化~”, NanotechJapan Bulletin Vol. 11, No. 6, 2018,:https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/nanotech-pickup/19.html
[5] 第17回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2019)開催報告,NanotechJapan Bulletin Vol. 12, No. 2, 2019:https://www.nanonet.go.jp/magazine/Reports/Japannano2019.html
[6] 微細構造解析プラットフォーム応用設備運用サイト:http://lcnet.t.u-tokyo.ac.jp/hub1.php
[7] 微細構造解析プラットフォーム応用設備運用サイト 共用設備:http://lcnet.t.u-tokyo.ac.jp/keisoku2.php
[8] 微細構造解析プラットフォーム応用設備運用サイト 試料作製装置:http://lcnet.t.u-tokyo.ac.jp/CP_IS_PIPS.php
[9] 微細構造解析プラットフォーム応用設備運用サイトご利用にあたって:http://lcnet.t.u-tokyo.ac.jp/keisoku1.php
[10] Yoko Kawamura, Yasuo Shimizu, Hiroyuki Oshikawa, Masashi Uematsu, Eugene E. Haller1 and Kohei M. Itoh, “Critical Displacement of Host-Atoms for Amorphization in Germanium Induced by Arsenic Implantation”, Applied Physics Express, Vol. 3, No. 7, p. 071303 (2010)
[11] 透過電子顕微鏡用試料作製法と問題点 (非生物試料編),九州大学超高圧電子顕微鏡室2010 年 11 月:http://www.hvem.kyushu-u.ac.jp/dl/training/siryou2.pdf
[12] 透過型電子顕微鏡のための高度試料作製技術による支援業務:https://www.nanonet.go.jp/pages/research_support_award/H30_Award_4.pdf
[13] イオンスライサーによる試料作製技術3:粉体試料作製:https://www.jeol.co.jp/applications/detail/640.html

(図は全て押川氏から提供された)

 

(古寺 博)