NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 卓越した技術スタッフ
<平成30年度技術支援貢献賞>
プロセスソリューションを実現するドライエッチング技術
受賞者 物質・材料研究機構 微細加工プラットフォーム 大里 啓孝氏に聞く

 

 クリーンルームの見学エリアに立つ大里氏と受賞記念バッジ

 

 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業(NPJ)は,全国,37の大学,研究機関が参画し,最先端の研究設備を共用することにより,イノベーションの創出に寄与することを目指している.共用設備は,ナノテクノロジー関連科学技術において基本となる3つの技術領域:「微細構造解析」「微細加工」「分子・物質合成」のプラットフォーム(PF)のそれぞれに適した形で整備され,支援スタッフを置いて設備の有効活用を図っている.NPJは毎年,優れた支援を行ったスタッフ数人を表彰しており,平成30年度は,2019年1月30日に第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)のセミナー会場で表彰式が行われた[1].5人の支援スタッフが表彰され,物質・材料研究機構(NIMS)微細加工プラットフォーム 大里 啓孝(おおさと ひろたか)氏に技術支援貢献賞が贈られた[2].受賞題目は,「プロセスソリューションを実現するドライエッチング技術」である.どのような技術でどのような支援が行われたかを伺うべく,茨城県つくば市千現の物質・材料研究機構に大里氏を訪ねた.

 

1.プロセスインテグレーションを特色とするNIMS微細加工PF

1.1 NIMS微細加工PFの組織概要 [3]

 NIMSは,3つの技術領域:「微細構造解析」「微細加工」「分子・物質合成」の全てに参画し,微細加工PF,分子・物質合成PFと微細構造解析PFの一部を,千現地区の材料信頼性実験棟に収容している(図1).微細加工PFは30台以上の微細加工装置群をアンダーワンルーフに集約し,分子・物質合成PFと微細構造解析PFとの横断的融合研究が可能な環境を整えている.

 

図1 NIMS微細加工PF

 

 NIMS微細加工PFは,2007年に,ナノテクノロジー融合センター ナノ集積ラインとして文部科学省「ナノテクノロジー・ネットワーク(ナノネット)事業」に参画し,千現地区材料信頼性実験棟1階にクリーンルーム(450m2)を新設,半導体微細加工装置群を新規整備してナノネット事業における研究支援を行ったのち,2012年よりNPJに参画した.

 多種多様な材料加工に対応可能な微細加工装置を整備し,微細加工PF長のもとに,職員と支援員合わせて5名のスタッフを置いて,運営,支援を行っている

 

1.2 NIMS微細加工PFの設備

 NIMS微細加工PFは,測定試料,デバイスなどを一貫して製作するのに必要な,成膜,リソグラフィ,エッチング,プロセス評価の装置を揃え,クリーンルームに設置している(図2)[4].

 

図2 NIMS微細加工PFの施設・設備

 

 受賞の対象となったドライエッチングは,真空容器内で,反応ガスを高周波放電させ,活性化した反応ガスと被加工物との化学反応で気化しやすい化合物を作って,これを排出させることにより,被加工物を削り取る,反応性イオンエッチング(RIE)である.NIMS微細加工PFには表1に示す4台のドライエッチング装置が図2の左部分に設置され,加工対象,反応ガス等によって使い分けられている [5].

 

表1 NIMS微細加工PFのドライエッチング装置群

 

 

1.3 NIMS微細加工PFの支援の特徴:プロセスインテグレーション [6]

 NIMS微細加工PFの支援形態は,他の機関とほぼ同様,次の3形態である.

*機器利用:NIMS微細加工PFスタッフにより「機器利用ライセンス」を付与されたユーザーが自身で装置利用を行う.
*技術補助:NIMS微細加工PFスタッフの補助を受けながら装置利用を行う.
*技術代行:ユーザーとの打合せに沿ってNIMS微細加工PFスタッフが代行して,試料作製を行う.

 NIMS微細加工PFは,PFを「ユーザーとスタッフの皆の知識を共有する共創の場」と考える.利用者は,PFの装置,これを活用するノウハウ,蓄積された加工のレシピをもとに支援を受けて,試料やデバイスを作製して,成果を創出する.測定試料やデバイスは,成膜,リソグラフィ,エッチングなどいくつもの加工手段を経て作られる.どのプロセスをどのような順序で組み合わせ,どのような条件で実行するかを示すのが加工レシピである.施設で実施された内容,加工のレシピは,共用施設の財産となって,次の利用に役立てられる.そのため,NIMS微細加工PFは,「レシピは共有,成果は占有」を運営ポリシーとしている.

 測定試料やデバイスは,技術の異なる様々なプロセスを経て作られる.プロセス設計は,微細加工PF利用における重要な過程である.利用にあたり,スタッフは利用目的達成のためのプロセス設計を利用者とともに行う.プロセス設計は,要素プロセスの最適な組み合わせにより,目的達成のために,要素プロセスを統合・集積するプロセスインテグレーションである.プロセスインテグレーションは,デバイスを作る一貫プロセスが可能な設備やその設備使用上の豊富なノウハウ,経験の蓄積,によって可能になる.NIMS微細加工PFはプロセスインテグレーションをその特徴とし,優れたプロセスインテグレーションで,支援スタッフ表彰の優秀技術賞を受賞している[7].

 

1.4 NIMS微細加工PFにおける受賞者大里氏の支援活動

 大里氏はNIMS微細加工PFにおいて主にドライエッチングを担当するが,全てのプロセスを実施できる.5人のスタッフの全員が全てのプロセスを実施でき,プロセスインテグレーションに対応する.大里氏は,表1のドライエッチング装置の大半で,利用者の機器利用ライセンス取得テストを実施するのに加え,電子線描画装置,スパッタ装置,さらにクリーンルームとは別室にある後工程のスクライバーでもライセンス取得テスト実施者となるなど様々なプロセス装置に通じている.このため,試料作りの一貫したプロセスを設計し,一連のプロセスを遂行することができ,利用者からバルク基板の提供を受け,完成した試料,デバイスを利用者に渡すこともある.

 NIMS微細加工PFの利用は,電子デバイス,光学デバイスの開発が多い.利用者は,企業が半分,公的機関と大学が残りの半分を分け合い,50:25:25の比率になる.

 先に述べたように,支援の形態には,機器利用,技術補助,技術代行の3つがあるが,機器利用と技術補助はセットになることが多い.まず技術補助で利用者がスタッフと一緒に作業して機器の使用法を習得したら,その後は利用者が自分で作業する機器利用に移行する.

 機器利用の形態では,利用者の中には多くの学生もおり,最先端の装置の使用方法を指導するだけでなく技術的な相談についても随時受けて,学生の修業・成長を助ける.このように,NIMS微細加工PFは最先端の研究を支援しながら,将来の日本の技術を支える人材の育成にも貢献している.

 技術代行は材料加工が専門でない,生体分野などの微細加工に不慣れな利用者が主に利用しており,加工のすべてをスタッフに任せる形態となっている.利用者は希望の構造・設計をスタッフに伝えるだけで,その後の工程はすべてスタッフ任せになるためは,微細加工が未経験でも施設を利用することがメリットである.

 NIMS微細加工PFの装置群はリソグラフィ・成膜・ドライエッチングを核とし,汎用的な工程が可能な構成となっている.使用できる材料については,NIMSは材料研究所ということもあり,加工対象には特に制限を設けていない.利用希望者の中には,加工装置に材料制限をかけないことについて賛否両論があるが,実際に利用者の声を聞くと,この判断は間違っていないと思っている,と大里氏は語る.特に企業の利用者は新しい材料を試す際に,まずは社内の装置を検討するが,当然ながら装置管理者にあれこれ制限がかけられていて,まず間違いなく断られる.そのため,「何でもできる,可能と言ってもらえるのは助かる」との声をよく聞く,という.

 依頼を受けるものは,大半が経験のない未知のものばかりである.新しい材料や,難しい構造など誰でもできないものだからこそ,それが難しいものに取り組むというモチベーションとなり,これからも難題に挑戦していく,と大里氏は語った.それらの積み重ねは,次章に詳述する新しいドライエッチングの手法の開拓につながり,この度のスタッフ表彰の対象となった.

 

2.ドライエッチングにおけるプロセスソリューション [2]

2.1 新材料Ga2O3のMOSダイオードのトレンチ形成にDry/Wet連続エッチングを考案

 酸化ガリウム(Ga2O3)は,近年になってパワーデバイスを構成する素材として注目されるようになった材料である.パワーデバイスは,電機システムの制御に古くから求められ,交流給電の東海道新幹線はシリコン(Si)サイリスタによって直流モーターを駆動して運行した.最近では,電気自動車はじめ多くの電動機器の制御に重要性の増しているデバイスで,その高効率化が強く求められている.高い電圧,高温環境下で高効率に動作するパワーデバイスはエネルギーギャップの大きい半導体材料で構成することが望ましい.パワーデバイスに広く用いられているSiのエネルギーギャップは1.1eVであるが,エネルギーギャップ3.0eVのⅣ族化合物:炭化ケイ素(SiC)のパワーデバイス開発が進み,青色LEDの材料として知られ,エネルギーギャップ3.36eVのIII-V族化合物半導体:窒化ガリウム(GaN)のパワーデバイスへの展開にも関心が高まっている[8].

 こうした中で,酸化物という異なった元素組成から成るGa2O3のパワーデバイス応用の可能性が指摘された[9].Ga2O3のパワーデバイス関連物性定数は表2のように各種半導体と比較される.エネルギーギャップは4.6〜4.9eVと見積もられ,パワーデバイスの最高動作電圧を決める絶縁破壊強度,パワーデバイス用材料としての潜在能力を比較する指標のバリガ指数は極めて高い.

 

表2 各種パワー半導体材料の材料物性値比較 [10]

 

 Ga2O3は数年前にバルク単結晶成長が可能になり,開発の機運が高まった.単結晶の成長に成功した,株式会社ノベルクリスタルテクノロジー/株式会社タムラ製作所の佐々木 公平氏は,高電圧で整流作用が可能な超低損失Ga2O3ショットキーバリアダイオード(SBD)の開発に挑戦した[10][11].パワーデバイスの最大動作電圧はその降伏電圧で決まり,降伏電圧はエネルギーギャップとともにデバイス内の電界分布に左右される.Ga2O3 SBD内の電界分布を,デバイス断面での電磁界解析によるデバイスシミュレーションで求めると(図3),最大電界がショットキー接合を構成する電極とGa2O3との界面に発生し,ショットキー接合のリーク電流が大きくなって,この電流による発熱でデバイスが破壊することがわかった.平坦な構造のプレーナ型では,Ga2O3の材料特性を発揮できない.ところで,デバイス内の電界分布,最大電界の発生場所はデバイス構造で変えられる.Si pn接合ダイオードでは,接合の端面を傾斜(べベル)構造にして耐圧を高めることが試みられた.佐々木氏らは,半導体メモリのDRAMで蓄積容量を増そうと考案されたトレンチ(溝)構造に着目し,トレンチMOS構造の電界分布を解析したところ,最大電界が内部で発生するため,リーク電流が抑えられ,Ga2O3本来の性能を発揮させられることがわかった.

 

図3 プレーナ構造(左)とトレンチMOS構造(右)の電界強度分布

 

 トレンチ構造はSi MEMS(微小電気機械システム)でも用いられ,トレンチのような深掘り加工はドライエッチング,その中でも反応性イオンエッチングで行われる.Ga2O3のトレンチ形成が,半導体に限らず各種材料の微細加工ができるNIMS微細加工PFに依頼された.しかし,Ga2O3は最近になって着目され,数年前に単結晶が使えるようになった新材料である.同じGaの化合物であるGaAsが,20世紀末の衛星放送開始にGaAs系FETが貢献したような実績や,これを支えた加工技術の蓄積をGa2O3は持たない.GaAsが金属間化合物であるのに対して,Ga2O3は金属酸化物である.ドライエッチングの経験はもちろん,当初はその手がかりもなかった.

 反応性イオンエッチング(RIE)は,加工対象を反応性ガスと反応させ,生成した化合物を,ポンプで吸引,廃棄するメカニズムでエッチングを行う.そのため,反応生成物の蒸気圧が重要である.一般的な半導体である,SiやGaAsはフッ素や塩素化合物の蒸気圧が高いため,比較的簡単にエッチングすることが可能である.しかし,Ga2O3のような酸化物は一般的に蒸気圧が低く,エッチングしにくいとされている.また,新しい材料であるがゆえに,確立された条件がなく,ドライエッチング条件はゼロから探索した.

 エッチング条件探索には,NIMS微細加工PFで行っていた他の材料加工の条件を参考としながら,反応性ガスを選択し,GaとOをいかに効率的に反応させて,廃棄するかに主眼を置いた.

 反応性ガスはBCl3を選定した.それは,Gaの反応とOの反応を同時に満足させられる反応性ガスのためである.反応式は下記のように推測される.

3 BCl3 + Ga2O3 → 2 GaCl3 + 3 BOCl

上記の反応によって生成されるGaCl3及びBOClは,ともに蒸気圧が高く,吸引・廃棄できるので,Ga2O3の加工が可能となり,最終的に各種パラメータの調整やマスクの最適化を行うことでデバイス構造を作製可能な条件に行き着いた.Ga2O3のトレンチ構造が形成可能となったことにより,トレンチMOS構造のSBDの作製を開始した.

 作製工程は,まずトレンチエッチングを行った(図4左)後,トレンチの表面に酸化物として誘電率の高いHfO2をALD(原子層堆積)法により被着し,トレンチを埋めるようにCu/Au/Niの3層構造のアノード電極を形成した(図4中).トレンチの深さは2μm,幅は5μm,間隔は1μmで,直径400μmのアノード電極の範囲に整然と形成されている(図4右).試作されたGa2O3トレンチMOS SBDは市販のSiC MOS SBDとほぼ同等の逆方向特性,より低い順方向立ち上がり電圧を示し,Ga2O3パワーデバイスの高効率性の可能性が確かめられた[11].

 

図4 トレンチ構造のSEM写真(左),デバイス構造の断面模式図(中),顕微鏡写真(右)

 

 この作製工程の中で,ALDは東京工大微細加工PF,特性評価は早稲田大学微細加工PFの装置で行われた.依頼者である佐々木氏は,その工程に最適な機関を選び,加工を行うことにより,Ga2O3 MOS SBDの試作に成功した[11].このことは各機関の強みを生かすことで早期の成果創出が可能である,という模範的利用例であり,機関を横断した利用は,ナノテクノロジープラットフォーム事業の存在価値を高めるものである.

 

2.2 スピントロニクス応用磁性ナノワイヤのDry/Wet連続エッチングによる作製

 現代の情報社会や産業を支える電子デバイスは電子の電荷の動きを利用している.これには電流を伴うため熱損失を生じ,情報量増大に伴い電力消費が性能向上を阻害する恐れが出てきている.一方,電子は微細な磁石に相当する,スピンという属性を持つ.その移動には電流を要しないので,電子に代わって,スピン流を制御して情報処理を行わせようとスピントロニクスの研究が進んでいる.スピン流の制御にはまず,磁性体中のスピンを非磁性体に注入する.高効率でスピンを注入する入手容易な強磁性材料が求められる.

 筑波大学の末益研究室は,スピントロニクス材料として,豊富な資源から構成される,強磁性窒化物に着目した.中でも,窒化鉄(Fe4N)はスピン分極率が大きく,電子流による磁壁の移動,これによるスピン流注入への応用が期待される.磁壁の移動は,磁気異方性やスピン流注入極の形状に依存する.そこで,筑波大学は,Fe4N細線(ナノワイヤ,NW)における磁壁物性の細線形状依存性を評価しようと,NIMS微細加工PFに評価用デバイス作製への協力を求めた.

 厚さ数十nmのFe4N膜を作り,幅が数百nmの細線に加工するのに,まず,金属細線加工によく使われるArイオンミリングで削った.集束イオンビーム(FIB)のGaイオンビームによるエッチングも同様だが,削られた金属はRIEのようにガスになって放出されないから,Arイオンミリングで削られたものはどこかについてしまう.この再蒸着はNW加工に用いたマスク材の角に多く起こる.このため,L字型に削ったFe4N NWをSEMで観察すると,縁に突起があるため電界集中が起こるのでL字型に白く光って見える(図5左).

 

図5 Fe4Nナノワイヤのエッチング加工:左 Arイオンミリング,右 Dry/Wet連続エッチング

 

 そこでCl2ガスによるドライエッチングの検討を行った.この際に,Feの化合物では蒸気圧の高いものは存在しないが,エッチング後のサンプルの断面観察を行ったところ,プラズマが照射された部分がエッチングマスクと明らかに様相が違っており,材料が変質していた.その現象について考察してみると,FeとCl2ガスの反応からはFeCl3が生成されているものと推測された.試しにそのサンプルを水洗したところFe4N膜がエッチングされており,ドライエッチングの有用性に気付いた.しかし,水による溶解ではFeCl3水溶液が強酸になるので,Fe4N薄膜を加工した細線へのダメージが懸念された.そこで,FeCl3を除去する溶剤を,水から有機溶剤(アセトン)に切り替え,難エッチング材であるFe4Nの加工に成功した.この手法:Dry/Wet連続エッチングで作製したFe4NナノワイヤはArミリングによる時のような突起がないのでSEM観察ではL字ナノワイヤがうっすらと見えている(図5右).

 鉄窒化物(Fe4N)の微細加工は,フォトリソグラフィーにより所定形状パターンに加工したマスク材をマスクにして,Fe4N膜を所定パターンに加工し,マスク材を除去する.マスク材に,当初はALDで形成したアルミナ(Al2O3)を使用した.ALDアルミナはRIEやアルカリでエッチング可能なため,初期の実験では重宝したが,最終段階の加工後のマスク除去で強アルカリによるFe4N細線へのダメージが無視できなくなり,他のマスク材の選定を迫られた.様々な材料を思案して,MgOに着目し,これを選ぶことになった.MgOは真空蒸着で成膜可能なのでリフトオフによるマスク形成が可能であり,Cl2プラズマやイオン衝撃に対する耐性が高いなどマスク材として最適である,さらに潮解性があり水に溶ける材料なので,除去に強酸・強アルカリを使用することがないため,Fe4N細線へのダメージが少ないことが選定の理由である.

 2段階エッチングの考案,MgOマスクの導入により,従来のイオンミリングや反応性エッチングでは対応できない難加工材料の微細加工が可能になり,利用者がイメージしていた通りの加工を行うことができた.

 そこで,上記の手法,マスクでFe4N強磁性ナノワイヤを作製し,その中の磁壁の動きを調べることになった.分子線エピタキシー(MBE)法により,固体の鉄(Fe)とRF-N2(RF放電で活性化した窒素ガス)を同時供給し,SrTiO3(001)基板上に厚さ15nmのFe4N膜を成膜した.このFe4N膜を,電子線リソグラフィとリフトオフによりパターン化したMgOマスクを介してCl2反応性イオンエッチングとアセトン洗浄のDry/Wet連続エッチングで加工し,幅500nm,長さ25μmのL字型ナノワイヤに形成した.L字の腕は,Fe4Nの磁化容易軸方向の[100],「010」に合わせてあり,磁気力顕微鏡により磁場による磁壁の運動を確認できて,Fe4Nにおける磁壁の電流駆動に進む第一歩となった[12].

 

3.早期成果創出を可能にするプロセスインテグレーション

3.1 要素技術の最適組み合わせでプロセス設計

 微細加工PFにおいて,デバイスや試料は様々な要素プロセスを統合・組織化し,プロセス設計のもとに,各プロセスを遂行して作製される.NIMS微細加工PFはリソグラフィ・成膜・ドライエッチングを核とした装置群により汎用的な工程が可能な構成を取り,プロセスインテグレーションにより成果の早期創出を図る.

 PFを利用してのデバイス作製において,企業による利用成果は非公開のことが多い.公的機関からの依頼で公開可能なプロセスインテグレーションに次の例がある.

3.2 トリプルゲート型ダイアモンドMIS FETの試作

 ダイアモンドは,エネルギーギャップ5.5eVのIV族半導体でパワーデバイス材料としてGa2O3よりはるか以前から注目されている.しかし,結晶成長や加工の困難さから,実用には至っていない.NIMSの研究グループは,NIMS微細加工PFを利用してダイアモンドMISFET(金属—絶縁物—半導体電界効果トランジスタ)の試作に挑戦した.

 ダイアモンドはエネルギーギャップが大きいため,パワーデバイスとして高電圧動作が期待されるが,室温でのキャリアが少ない.そのため水素化してキャリア数を増やしたH-ダイアモンドを使った.ゲート構造には,出力電流を大きくできると期待される,立体構造のトリプルゲート(Tri-Gate)構造を選んだ.図6はその構造設計例である.濃緑がH-ダイアモンド,基板から上にフィン(魚のヒレ)が突き出るようにダイアモンド基板が深掘りエッチングされている.SiやGaAsではTri-Gate MISFETが作られているが,ダイアモンドはこの構造の加工ができなかったため, Tri-Gate MISFETを作れなかった.

 

図6 Tri-Gate ダイアモンドFETの断面構造

 

 そこで,大里氏も加わったNIMS研究グループは,リソグラフィ,ドライエッチングなどの要素技術の組み合わせを考案してフィン構造を作り,ダイアモンドTri-Gate MISFETの試作に成功した(図7).この製造方法は特許化され[13],この方法をもとに試作されたデバイスで平面構造MISFETに対するTri-Gate MISFETの優位性を示すことができた[14].

 

図7 Tri-Gate ダイアモンドFETのフィン構造(左)と完成したFET(右)の表面SEM写真

 

4.おわりに

 NIMS微細加工PFのユーザーの多くは,新しいデバイスの試作,新しい材料の特性評価試料の作製を目的として施設を利用するため,常に新しい加工プロセスの開発が求められている.大里氏はこれに応え,ドライエッチングにおいて,難加工材料の加工を可能にする方法を生み出した.今回紹介した事例以外にも,過去に考案された様々な加工手法は施設のデータベースに蓄積され,それが新しいユーザーに還元されている.大里氏は,このようなポジティブスパイラルを続けることで魅力ある施設になるものと確信している.その一方,利用者の研究において試料作製を代行することに不安も感じている.利用者自身が微細加工を行わないため,目的の試料を得られたとしても,加工手法は微細加工PFに止まり,加工手法の利用範囲拡大,新たな展開に役立つか危惧している.利用者にも微細加工についてある程度の知識を深めてもらい,問題が発生した際に一緒に解決に当たって欲しいと願っている,という.ポジティブスパイラルを続ける環境づくり,ユーザーを含めた大きなポジティブスパイラルの展開が望まれる.

 

参考文献

[1] 第18回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2019)開催報告 NanotechJapan Bulletin, Vol. 12, No. 2, 2019:
https://www.nanonet.go.jp/magazine/Reports/nanotech2019.html
[2] 文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業 技術スタッフ表彰:https://www.nanonet.go.jp/ntj/award/
[3] NIMS微細加工プラットフォームの概要:https://www.nims.go.jp/nfp/group/index.html
[4] NIMS微細加工プラットフォームの施設紹介:https://www.nims.go.jp/nfp/facility/bldg/index.html
[5] NIMS微細加工プラットフォームの装置紹介:https://www.nims.go.jp/nfp/facility/list/index.html
[6] NIMS微細加工プラットフォームの利用について:https://www.nims.go.jp/nfp/use/flow/index.html
[7] ナノ材料物性探索のためのデバイスプロセス技術 NanotechJapan Bulletin Vol. 9, No. 2, 2016:
https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/outstanding-staff/2.html
[8] 第14回ナノテクノロジー総合シンポジウム(JAPAN NANO 2016)NanotechJapan Bulletin開催報告Vol. 9, No. 2, 2016:
https://www.nanonet.go.jp/magazine/Reports/JAPANNANO2016.html
[9] 酸化ガリウムによるパワーデバイス開発 NanotechJapan Bulletin Vol. 8, No. 2, 2015:
https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/10-9-innovation/32.html
[10] 超低損失酸化ガリウムトレンチ MOS 型ショットキーバリアダイオード NanotechJapan Bulletin Vol. 11, No. 2, 2018:
https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/excellent-result/18.html
[11] Kohei Sasaki ; Daiki Wakimoto ; Quang Tu Thieu ; Yuki Koishikawa ; Akito Kuramata, Masataka Higashiwaki , and Shigenobu Yamakoshi , “First Demonstration of Ga2O3 Trench MOS-Type Schottky Barrier Diodes”, IEEE Electron Device Letters ( Volume: 38, Issue: 6, June 2017 ), Page(s): 783 - 785
[12] Toshiki Gushi, Keita Ito, Syuta Honda, Yoko Yasutomi, Kaoru Toko, Hirotaka Oosato, Yoshimasa Sugimoto, Kiyoshi Asakawa, Norio Ota and Takashi Suemasu, “Fabrication of L-shaped Fe4N ferromagnetic narrow wires and position control of magnetic domain wall with magnetic field”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 54, p. 028003 (2015)
[13] トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET,特開2017-220512
[14] Jiangwei Liu, Hirotaka Ohsato, Bo Da, Yasuo Koide. High Current Output Hydrogenated Diamond Triple-Gate MOSFETs. IEEE Journal of the Electron Devices Society. Vol. 7 (2019) , pp. 561-565

(図は全て大里氏から提供された)

 

(古寺 博)