NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 卓越した技術スタッフ
<令和元年度技術支援貢献賞>
微細加工技術を用いた材料開発支援
受賞者 北海道大学 微細加工プラットフォーム 大西 広氏,中野 和佳子氏に聞く

 


(左から)中野 和佳子氏,大西 広氏   

 

 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業[1]は,25の大学・研究機関等が保有する最先端ナノテクノロジー設備を産学官の研究者で共用することにより,ナノテクノロジーおよびその応用分野のイノベーション創出に貢献することを目的としている.ナノテクノロジープラットフォーム(NPJ)は微細構造解析プラットフォーム,微細加工プラットフォーム,分子・物質合成プラットフォームの3つの技術領域のプラットフォーム(PF)で構成されており,上記25の法人はそれぞれ1~3のPFを所有している.各法人のPFを合計すると37の実施機関となる.各実施機関では蓄積された知識や技術およびノウハウで利用者を支援する技術スタッフの活動が,その利用成果に大きく貢献している.

 ナノテクノロジープラットフォーム事業では,毎年上記37の実施機関の中から,特に優れた活動を行った技術スタッフを表彰している.令和元年度は技術支援貢献賞が5件と若手技術奨励賞が1件選出され[2],その表彰式はnano tech 2020国際ナノテクノロジー総合展の初日の1月29日午後に,同会場内のソース&ニーズセミナー会場Bで行われた.

 本稿はその中の技術支援貢献賞受賞の北海道大学 微細加工PFの技術専門職員 大西 広(おおにし こう)氏,同技術職員 中野 和佳子(なかの わかこ)氏による「微細加工技術を用いた材料開発支援」[3]の業績を紹介する.表彰式の翌日の1月30日に,nano tech 2020の会場東京ビッグサイトの一室で,お二人から北海道大学の微細加工PFにおける支援活動の状況や成果についてお話を伺った.

 

1.北海道大学 微細加工プラットフォームの特徴

 北海道大学(以下北大)微細加工PFは,同大学の創成研究機構に設置されたナノテクノロジー連携研究推進室(同大学北キャンパスエリアの創成科学研究棟内)に属している.なお,微細構造解析PFも同推進室に属しており,両PFを横断的に運営できるので,幅広い利用者の要望に応える支援ができる.大西氏は北大電子科学研究所 技術部 微細加工グループ 主任を務める技術専門職員,中野氏は同微細加工グループの技術職員である.両者はクリーンルーム及び共用設備の維持管理・改善・利用指導と共に,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業における技術支援者としてナノテクノロジー連携研究推進室の松尾 保孝 教授の指揮下で,学内外からの産学の共用設備利用者に対して技術相談・技術補助・技術代行等の業務を行っている.

 

1.1 共用装置[4]と利用状況

 北大微細加工PFは,クラス100とクラス10000のクリーンルームを持ち(図1),その中に

  • リソグラフィー装置類:超高精度電子線描画装置,レーザー直接描画装置等
  • 成膜装置類:原子層堆積装置,プラズマCVD,ヘリコンスパッタ装置,パルスレーザー堆積装置等
  • エッチング装置類:反応性イオンエッチング装置等
  • 評価装置類:FE-SEM等

などの装置群を配置し,技術スタッフの支援により利用者の課題に対処する体制を整えている.特に,北大は,フォトニクスデバイスの分野では,フォトニック結晶デバイス,プラズモニックデバイス,メタマテリアルなどで研究実績があり,北大 微細加工PFはそれらで培われた知識,技術,ノウハウを活かし,ユーザーが要望するデバイス作製にも迅速に応えることができる.最近では,バイオ・ライフサイエンス分野にも注力しており,マイクロ流路加工や細胞培養デバイスなども作製している.

 

図1 クリーンルームの様子

 

 図2左グラフに,微細加工PFの共用施設利用件数のナノテクノロジープラットフォーム事業開始時からの推移を示す.平成30年度は地震の影響を受けて装置の稼働時間は減ったが,学外重点化の方針を立て,学内は一部自主事業として実施することで,学外からの利用件数の減少は少なく抑えられている.令和元年も学外重点化は継続されている.

 

図2 微細加工PFの共用設備利用件数と利用料収入の変遷

 

 この8年間の総支援件数は641件であり,そのうち学外は320件であった.特に,本州から海で隔たる最北の地で本州の大学からの利用が多いことは,北大微細加工PFの活動が他から高く評価されていることを示している.ただ,民間企業に関しては,利用がやや少ない.「この理由は,北海道には半導体関係の企業が少なく,工場はあっても開発部門は本州にあることによる」と大西氏は語った.それでも約15%は企業からの利用である.

 図2右グラフに示す利用料収入は,利用件数の伸びよりも右肩上がりに上昇している.このことは一件あたりの装置利用時間が長くなっていることを示している.研究内容の高度化や研究段階の進展が推察される.

 

1.2 北海道大学 微細加工プラットフォームの注目装置

(1)3台の超高精度電子線描画装置

 北大 微細加工PFには図3に示す3台の超高精度電子線(ビーム)描画装置を揃えて,フォトニクスデバイス等の試作を支援している.超高精度電子ビーム描画装置 ELS-7000HMは加速電圧100kVながら低ビーム電流(10pAレベル)描画が可能,超高精度電子ビーム描画装置 ELS-F125は加速電圧125kVで大ビーム電流(nAレベル)高精細描画が可能,超高速スキャン電子線描画装置 ELS-F130HMは加速電圧130kVで低電流から大電流まで幅広いビーム電流値での高速スキャンによりさらなる高速化を実現しており,8インチ基盤への描画に対応している.この装置には更に北大特注の曲面上(レンズ表面等)への微細パターン形成機能を有している.ハイトセンサーを用いず,曲率データ入力により自動的にステージを上下させて,曲面上にパターンを描画する機能である.その実用化に当たっては大西氏らもその評価に参加し,曲面描画を実現している.

 

図3 北大微細加工PFの3台の超高精度電子線描画装置

 

(2)成膜関連装置

 図4に北大 微細加工PFの共用成膜関連装置を示す.この中で多くの企業や学外研究機関から利用されているのは原子層堆積装置(ALD:Atomic Layer Deposition)である.酸化物薄膜をモノレイヤーレベルで制御して形成できる装置である.凹凸のある表面でも均一な厚さで緻密な膜が形成される.北大の場合,多様な材料(SiO2,TiO2,Al2O3,HfO2,Nb2O5など)の薄膜にも対応し,多層膜の形成も可能である.他のプラットフォームの原子層堆積装置では装置内汚染の問題で使う材料を限定しているところが多く,北大なら対応してくれると他の大学から紹介されて訪ねてくる利用者もしばしばあると大西氏は語った.多少の汚染があっても,挑戦する方を選ぶとのこと.

 

図4 北大 微細加工PFの成膜関連装置群

 

2.電子線描画による微細加工についての技術支援

 北大 微細加工PFの特徴の一つである電子線描画を用いた微細加工技術によるデバイス等の作製支援は,文部科学省のナノテクノロジープラットフォーム事業の前身のナノテクノロジー・ネットワーク事業での技術支援体制を引き継ぎ進化させている.その支援技術は,特にフォトニックデバイスの作製に貢献する中で磨かれてきた.その一例を次に示す.

 

2.1 プラズモニックナノデバイス作製における微細構造の実現

 プラズモニックデバイスは,金属微細構造と光との相互作用によって,可視光から赤外光の幅広い波長領域で起こる局在表面プラズモン共鳴を活用するものである.北大 電子科学研究所の研究グループは,電子線描画を用いた半導体微細加工技術により金属ナノ構造体を作製し,プラズモン分光特性や光電場増強効果の検討をしている.光電変換デバイスやセンサーデバイスの創製を目的とした研究である.その中で,従来可視光領域での研究が中心であったプラズモニックデバイスをテラヘルツ領域に拡張し,ローム株式会社との共同研究により実用化に直結する素子開発を行った[5].

 数10~数100nmサイズの微細な金属構造体の加工においては,一般に半導体製造で使われる紫外線露光によるリソグラフィーを使用することは困難であり,波長の短い電子線描画が使われる.電子線ビーム径は数nm程度まで絞り込まれるので,電子線のパワーを低く制御することで,数nmオーダーでの加工分解能が実現できる.図5に電子線描画により微細な金属パターンを形成するリフトオフ方式のリソグラフィーの工程を説明する.

 

図5 金属ナノ構造体製造のリソグラフィー工程の手順(出典:参考文献[5])

 

 まず,スピンコートしたレジスト膜に電子線で描画した後現像して描画部分を溶解(ポジ型電子線レジスト使用の場合)して除去し,次に金属膜をスパッタリングし,最後にレジストを溶解して剥離すると,電子線描画したパターンの金属薄膜が残る(リフトオフ).ここでレジストの膜厚を薄くするとリフトオフで得られる金属薄膜パターンの解像度は高くなる.しかし薄すぎるとパターン形成が困難になる.レジスト濃度やレジストのスピンコート回転数の最適化を行い,レジスト膜厚150~200nmに決定した.基板の材質によっては金や白金の密着性がよくないので,接着層としてあらかじめクロムを1~2nm程度スパッタリングしたあと金などをスパッタリングすることで,機械的に強い金属ナノ構造を造っている.

 図6はローム株式会社と北大の共同研究チームが図5で説明した微細加工技術で作製した金ナノ円周構造とリングの一部にスリットを設けた構造を作り,プラズモン共鳴特性を評価したものである.スリット幅については,15nmの他に,10nm,5nmも試みている.金ナノ円周構造における光電場増強に関しては,88THzで100倍程度のプラズモン共鳴がみられ,スリットリングのスリット部では,15nmの場合50THzで約6,000倍のプラズモン共鳴がみられ,5nmでは25,000倍が見積もられた.

 

図6 (a)金ナノスリットリング構造および金ナノ円周構造の電子顕微鏡写真,(b)金ナノ円周構造のパターン図,(c)金ナノスリットリング構造(破線)および金ナノ円周構造(実践)のプラズモン共鳴スペクトル,(d)FDTD(Finite-difference time-domain:有限差分時間領域法)シミュレーションによる金ナノスリットリング構造(スリット幅15nm)の光電場強度分布.(出典:参考文献[5])

 

2.2 電子線における高速・大面積描画への取り組み

 電子線描画は電子ビーム径で決まる微細ドットでパターンを埋めるように描いていくので,高精細のパターンを作るのは得意であるが,大面積のパターンの描画では,描写ドット数の増加に伴いドット間移動時間等のオーバーヘッドタイムの増加で描画時間が著しく増大する.大西氏,中野氏らは,設備利用者のニーズに合わせるべく,この問題への対策を検討した.以下にその検討結果を紹介する.

 プラズモニックデバイスにおいて,通常の分光高度計の使用やセンサーデバイスによる実測のために,ある程度のパターン寸法が必要である.目視・光学顕微鏡で観察可能で,分析装置の光照射範囲であることなどを考慮して,目標パターンを図7に示すように1mm角の中に200nm程度の金ディスクを並べるものとして,描画法を検討した.

 

図7 描画法検討の目標パターン

 

 図8に示す3つの方式を比較し,高速化の効果を評価した.(a)は各円形金ディスクを塗りつぶすように描画する一般的な方法,(b)は高速化を図るために間引き照射により1パターン当たりの電子ビーム照射ドット数を減らすことでオーバーヘッドタイムを短縮する方法であり,ディスクの形は少し凸凹になる.(c)は電子ビームの焦点位置を少しずらして1点で200nm径のビーム形状を実現し更に描画時間を短縮する方法である.

 

図8 高速・大面積描画法改善の提案:(a)は通常の描画法,(b),(c)は高速化手法

 

 表1は,上記 3つの方式の評価結果である.この3描画法を図3に示す描画装置ELS-F125とELS-F130HMにより実行して同面積のディスクパターン描画の所要時間を比較したものである.ビーム電流5nAで評価したが,F125では装置仕様の違いにより,同条件での比較ができなかったため,可能な限り近い条件のビーム電流4.3nAで比較した.表から図8(b)及び(c)方式の描画時間短縮効果が確認された.

 

表1 高速・大面積描画法改善の評価

 

2.3 異分野ニーズに応える技術支援

(1)Al被覆Mg合金薄板の引張変形メカニズムの調査 [6]

 この課題は,北大 助教 徳永 透子氏により進められたものである.実用金属中最も軽量なMg(マグネシウム)合金について,熱感押出と熱間圧延とを施すことで,薄板に加工することに成功し,その薄板が超可塑性を有することを確認した.更に,超可塑性変形メカニズムを解明するために,結晶構造のナノレベルの変化の情報を得ることを目論んだ.その手段として,図9(a)に示す引張試験片の側面(オレンジ色の部分)に格子模様を刻んで,引張試験後の格子模様の乱れ(図9(b))を調べ,試験材料の変形の要因(結晶粒界のすべり,結晶格子の変形等)の解明を行った.この研究において,ナノレベルの微細格子の形成を微細加工PFが協力した.

 

図9 Al被覆Mg合金薄板の引張変形構造の観察実験,(a)引張試験片,(b)試験片側面に印した格子模様の60%引張変形後の乱れ,(c)格子模様作成EBリソグラフィー用レジストのスピンコート治具,(d)同リソグラフィーにおけるEB描画治具.

 

 元々電子線描画(EBリソグラフィー)用の露光装置や露光用レジスト塗布(スピンコート)装置は半導体デバイス製造用であって,この場合のような基板の側面(幅0.5mm)に描画するようにはなっていないが,北大 微細加工PFではユーザーのこの要望を受け入れ,両装置に取り付ける治具とこれに脱着可能なホルダーを新規に作成(図9(c)および(d))して対応した.図9(b)は60%引張試験後の格子模様の変化の様子の一例である.Al(アルミニウム)との境界面近くやMg材料の中央部など,場所による違いも評価できている.

 新規ホルダーを開発して行ったこの構造解析支援の手法は,磁性材料の解析でも採用しており,リソグラフィーの応用分野拡大の機会となったとこれら支援を実施した大西氏,中野氏は語っている.

 

(2)準結晶パターンを利用した超高分解能計算機ホログラムの開発 [6][7]

 この課題は,北見工業大学 准教授 杉坂 純一郎氏により進められたものである.準結晶ホログラムは任意の微細像を生成できる素子であり,複雑な光学系を必要とせず,光の回折限界を超える超解像の像が得られる.この素子の動作実証実験を行うため,素子の試作に北大の微細加工プラットフォームを利用した.

 準結晶ホログラム素子は,ガラス基板上の金属薄膜にCAD設計された位置に円形孔を開けたもので,図10(a)に試作した素子のFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)像を示す.緑,赤,青,紫の円形孔の色分けは,ホログラム設計CADにおいてそれぞれの描画フィールドに属することを表している.

 

図10 (a)試作した準結晶ホログラム素子,(b)試作素子から得られたレーザー回析像,(c)数値計算回析像

 

 円形孔の加工においては,同一描画フィールドに属する円形孔の位置関係と半径に誤差がないことが要求される.しかし,利用者指定の薄膜材料Alでは半径の誤差がやや大きくなるので,大西氏はWSi(タングステンシリサイド)を用いることを提案し,半径の誤差約10nmの十分な精度で加工できた.長年の経験からの勘が働いたと大西氏は語った.試作素子にレーザー光を照射して生じる回折パターンは図10(b)に示され,図10(c)に示す数値解析結果とほぼ一致したとのことである.

 

3.ALDを用いた多様な構造・材料への薄膜の形成

 北海道大学の微細加工PFにおいて,電子線描画と並んで利用される目玉技術は,1.2節(2)で紹介したALDを用いた多様な構造・材料への薄膜形成技術である.ALDは,基板上に金属酸化膜或いは窒化膜を形成する際に,原子の自己制御性を利用して一層ずつ堆積する技術で,緻密で均一に制御された膜厚の薄膜を形成する.

 

3.1 ALDのメカニズム

 図11にALDのメカニズムを酸化アルミニウム(Al2O3)薄膜形成の例で示す.ガス状の前駆体(プリカーサー)のAl(CH3)3(TMA: Trimethyl aluminum)をソースとして流入して基板のOHと結合させる.基板のOHがすべてAl(CH3)3と結合して基板表面がAl(CH3)2の層で覆われると,その表面にはCH3が並ぶことになり,TMAはCH3と結合しないので,表面被覆は一層で止まる.ここで余ったTMAと発生したCH4を排気する(パージ).次に酸化剤としてH2Oのガスを流し,表面のCH3を酸化し,Al2O3の単層が完成すると同時にその表面にOH基が並ぶ形となる.ここにまたTMAを流すことで,第2層の形成が始まる.これを繰り返すことにより,所定の厚さの薄膜を制御して形成できることになる.

 

図11 ALDによる酸化アルミニウム(アルミナ)薄膜形成のメカニズム

 

3.2 北大における支援成膜について

 北大の微細加工PFでは,成膜材料について利用者の要望に広く応える方針であるが,現在多くの支援実績があるのは,Al2O3(アルミナ),TiO2(酸化チタン),SiO2(シリカ)であり,そのソース(プリカーサ)としては次の液体ソースを気化して使っている.

  • Al2O3用はトリメチルアルミニウム(TMA)
  • TiO2用は四塩化チタン(TiCl4
  • SiO2用はSAM.24(Silanediamine, N,N,N’,N’-tetraethyl(C8H22N2Si))

その他に,固体ソースを気化して使うHfO2(ハフニア),NiO(酸化ニッケル),Nb2O5(5酸化ニオブ)等の成膜も可能である.

 表2に上記主な成膜材料について,実際の成膜データを示す.成膜温度,酸化剤等によって成膜レートや膜質(結晶性や密度)に影響が出るので,支援時には利用者の希望条件を踏まえた調整も行っている.

 

表2 主な成膜材料についての実際の成膜データ

 

 なお,成膜時間について,アルミナの例では,1nm厚の成膜には約10層の堆積が必要であり,1層成膜の所要時間がおよそ8.2秒であるので,10nmでは約14分となる.ただし,堆積工程は予めプログラムしておき,自動で行われるので,繰り返し操作に人手はかからない.3.4節で紹介する積層膜の例では,280nmの厚さであり,成膜時間は約13時間で一晩掛かったとのことである.

 また,成膜結果は,同じ組織内の微細構造解析PFのTEM(透過型電子顕微鏡)等で直ちに評価でき,成膜条件の修正に反映することができる.

 

3.3 成膜試験例

(1)ALD装置の試料室の構成と成膜実験例

 図12はALD装置の試料室の蓋(上の写真)を開けて試料台側を上から見たもの(下の写真)である.下の写真中央の試料台に試料ウエハの鏡面が見える.試料は6インチ径のサイズまで成膜可能である.試料ウエハ上の数字は,図中の右の表に示す成膜評価実験における膜厚測定位置である.周囲の黒い点は成膜のためのガスの噴き出し口で,5個の内の3個は3種類の液体ソース用,1個は酸化ガス用,もう1個は固体ソース用に割り当てられている.これらガスは蓋側の対応する位置にある黒い点から蓋側に移って広がり,試料全面にガスが降り注ぐ.ガスの排気口は試料台の裏側中央にある.チャンバーは600℃まで加熱可能である.また,固体ソース加熱用ヒーター(200℃まで)が付随している.

 

図12  ALD装置の試料室写真(下は試料台側,上は被せる蓋),表は試料台各所での膜厚測定データ

 

 図右の表は,4インチウエハへTiO2を成膜した実験例である.成膜温度300℃で1500サイクル(1500層)の成膜を行い膜厚分布の測定を行っている.測定位置のCはウエハの中心である.膜厚の平均は66.38 nmで,7箇所のばらつきは1.02%である.成膜時間は70分程度であった.

 

(2)様々な材料・構造への成膜の取り組み

 ALDによる成膜では基板表面に凹凸があっても表面形状に忠実に均一の膜厚が実現できる.図13の左は断面のSTEM(走査型透過電子顕微鏡)像でそのことを示している.この実験では写真の右に示す順に材料を変えた5層の膜を各10nm膜厚で堆積した.図13右は,STEM像のEDS(エネルギー分散形X線分析装置)分析データで,材料の違いを色分けして示している.これら評価は同じ建物内にある微細構造解析PFの装置で行っている.北大のALD装置では,このように材料の異なる多層膜形成の支援も行うことも可能である.

 

図13 表面に凹凸のあるSi基板への成膜例

 

(3)これまでに試した成膜基板材料

 これまでに,シリコン基板,ITO(酸化スズドープ酸化インジウムIn2O3-SnO2)基板,FTO(フッ素ドープ酸化スズ(SnO2))基板,STO(チタン酸ストロンチウムSrTiO3)基板,TiO2(酸化チタン)基板,高分子フィルムの基板材料等に成膜を行っている.様々な素材への成膜が可能であるが,反応温度(100℃以上,前駆体によっては300℃以上)に耐える素材である必要がある.

 なお,図14に示すように,異種材料が存在する基板表面への成膜も確認している.この例はITO基板の表面に金のパターンを形成した上に,Al2O3を成膜した.

 

図14 異種材料が存在する基板への成膜

 

3.4 利用成果の例:巨大誘電率を実現するAl2O3/TiO2積層膜

 本例は,近年注目されている,Al2O3/TiO2積層膜(図15)における巨大誘電率発現の情報[8]にヒントを得て,パナソニック株式会社と大阪大学の研究チームが,そのメモリーデバイスやキャパシターへの応用を意図したものである.巨大誘電率と電子絶縁性が両立する材料の開発を目的として,Al2O3/TiO2積層膜の技術を有する北大微細加工PFを利用することとなった.その成果は,平成30年度の秀でた利用成果として,ナノテクノロジープラットフォームの表彰を受けており,NanotechJapan Bulletin Vol. 12, No. 3, 2019 [9]に詳細が紹介されている.

 

図15 Al2O3/TiO2積層膜の構成

 

 本件において,利用者との密接なコンタクト,微細構造解析PFとの連携の下で行われた微細加工PFの支援活動(松尾氏の下で大西氏,中野氏が実行担当)は以下のようにまとめられる.

  • ALDによる成膜のレシピ設定,予備成膜,技術代行
  • 微細構造解析PFでのエネルギー分散形X線分光法により見つけられた積層膜中(TiO2層内の界面近傍)の酸素欠損を,Al2O3形成の酸化剤H2OをO3に取り換えることで除去
  • 論文[8]は酸化剤にH2Oを使用しており,酸素欠損(TiO2層の導電性)が巨大誘電率に関わるとの判断で,Al2O3形成の酸化剤にH2OとO3を併用することで誘電率>500を達成
  • 積層膜と集電電極との間に2nm厚のAl2O3層を追加することで,リーク電流をさらに一桁改善
  • 上記によりリーク電流の心配なく成膜条件を最適化(積層する各層の厚さ1nm以下)

 以上により,1.7×108Ω/1mmφ,誘電率>1000(@100Hz)の高抵抗での巨大誘電率実現に成功した.

 

4.おわりに

 北海道大学の微細加工PFは,フォトニクスナノデバイス分野の研究開発とともに整備された装置と培われた技術を基にユーザーの微細加工ニーズに応える支援活動を行っている.電子線描画による微細加工およびALDによる高度に品質が制御された薄膜作りの最先端を行く専門家グループと言える.その専門の能力が買われて他の大学と技術補完の協力の例もしばしばあるという.

 また,北海道大学では微細構造解析PFも同じ建物の中にあり,協力することで,技術レベルが深みを増している.

 この微細加工PFは,特にユーザーの新しい試みには前向きに対応すると大西氏,中野氏は口を揃える.例えば,ALDでは装置汚染の問題で成膜材料を限定しているPFが多いなか,北大は各種材料の成膜を引き受けることが知れわたっていて,他のPFの紹介で依頼を受けることもあるという.こうしたことから,異種材料の多層積層膜の形成も北大プラットフォームの得意技に育っている.ユーザーの新しい要望に応えた新たな挑戦は新しい技術やデータの蓄積を生み,支援技術の広がりと高度化に繋がる.同時に,ユーザーの新技術・製品の創出に貢献することになる.大西氏,中野氏のお話はこのことを実感させるものであった.

 

参考文献

[1] 文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業
https://www.nanonet.go.jp/ntj/
[2] 文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業,技術スタッフ表彰
https://www.nanonet.go.jp/ntj/award/
[3] 「微細加工技術を用いた材料開発支援」技術支援貢献賞受賞
https://www.nanonet.go.jp/pages/research_support_award/R01_Award_3.pdf
[4] 北海道大学 ナノテクノロジー連携研究推進室 微細加工プラットフォーム,NanotechJapan, YellowPages.
https://www.nanonet.go.jp/yp/pf/F/HK/
[5] ⼤⻄⼤,⻨野遥⼀,坂⼝拓⽣,上野貢⽣,三澤弘明,「テラヘルツ帯にプラズモン共鳴周波数を有する⾦ナノスリットリング構造の光学特性」,NanotechJapan Bulletin Vol. sikenn 3, No. 5, 2010.
https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/F26-11.pdf
[6] ナノテクノロジープラットフォーム利用成果発表会(平成29年10月20日),北海道大学利用成果事例.
[7] 杉坂 純一郎,三井 良一,大西 広,松尾 保孝,東 陽介東 陽介,企画特集「Collaboナノテクノロジー」 <第10回>-1「準結晶パターンを利用した超高分解能計算機ホログラム技術の実証」,NanotechJapan Bulletin Vol. 10, No. 1, 2017.
https://www.nanonet.go.jp/ntjb_pdf/CollaboNano-10.pdf
[8] W. Li, O. Auciello, R. N. Premnath and B. Kabius, “Giant dielectric constant dominated by Maxwell–Wagner relaxation in Al2O3/TiO2Al2O3/TiO2 nanolaminates synthesized by atomic layer deposition”, Phys. Lett . 96, 162907 (2010).
https://aip.scitation.org/doi/10.1063/1.3413961
[9] 辻田 卓司,森田 幸弘 西谷 幹彦,北川 雅俊,大西 広,中野 和佳子,平井 直美,松尾 保孝,文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 平成30年度秀でた利用成果 「巨大誘電率を実現するAl2O3/TiO2 積層膜の検討」, NanotechJapan Bulletin, Vol. 12, No. 3, 2019.
https://www.nanonet.go.jp/magazine/content/files/mag_pdf/Exellent_pdf/MajorResults2019_3.pdf

掲載図および表のうち出典記載のないものは,大西氏から提供された.

 

(向井 久和)