NanotechJapan Bulletin

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文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム 卓越した技術スタッフ
<令和元年度技術支援貢献賞>
単結晶X線構造解析による技術支援
受賞者 奈良先端科学技術大学院大学 分子・物質合成プラットフォーム 片尾 昇平氏に聞く

 

 

(左)単結晶X線回折装置の前に立つ片尾氏,(右)X線観察試料作製中

 

 文部科学省の委託事業:「ナノテクノロジープラットフォーム事業」(NPJ)では,ナノテクノロジーに関する最先端の研究設備とその活用のノウハウを有する機関が緊密に連携して,全国的な設備の共用体制を共同で構築する.これにより,産学官の多様な利用者による設備の共同利用を促進し,産業界や研究現場が有する技術的課題の解決へのアプローチを提供するとともに,産学官連携や異分野融合を推進し,イノベーションの創出に役立てる.ナノテクノロジー関連科学技術において基本となる3つの技術領域:「微細構造解析」,「微細加工」,「分子・物質合成」に応じて,25の法人・大学・延べ37の組織が参画し,各領域ごとのプラットフォームを構成する.プラットフォームには,設備利用の豊富なノウハウを有する支援スタッフが用意され,設備利用を支援するので,設備に不慣れな利用者でも短期間で成果を出せる.年間3,000件を越える利用があり,多数の利用成果が生まれている.成果への支援スタッフの貢献に応え,2014年度より,技術スタッフ表彰が行われるようになった[1].令和元年度の表彰式は,2020年1月29日に東京ビッグサイトで開催された第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2020)に於いて行われ[2],「単結晶X線構造解析による技術支援」と題した技術支援貢献賞が,奈良先端科学技術大学院大学 分子・物質合成プラットフォーム 片尾 昇平(かたお しょうへい)氏に贈られた[3].どのような支援が行われ,どのようなご苦労があったかなどを,受賞者ご自身から直接,伺うこととしたが,年初からの新型コロナウイルス感染が収まらず,Web会議でのこととなった.支援の現場は,片尾氏がネット端末を持ち運んで,ご紹介いただいた.

 

1.奈良先端科学技術大学院大学 分子・物質合成プラットフォームの概要

1.1 大学組織における位置づけ [4]

 奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は,1986年にバイオサイエンスから建学の検討を開始し,1991年に情報科学研究科を設置して開学した大学院のみの大学である.1992年に,バイオサイエンス研究科,1996年に物質創成科学研究科を増設したが,2018年に3研究科を統合して先端科学技術研究科先端科学技術専攻を設置した.3研究科はその中の3領域となった.学生数の規模は,修士入学定員350人,博士入学定員107人である.研究科統合の狙いは融合研究の推進にあり,大学の目的・理念のはじめには,「先端科学技術の基盤となる情報科学,バイオサイエンス,物質創成科学の3分野に係る研究の深化と融合を推進‥‥」と記されている.

 研究科に加えて,学内には学内共同教育研究施設が設けられ,その一つに物質科学教育研究センターがある(図1).その役割について,「物質科学教育研究センターは,物質科学分野の先端科学技術に係る教育研究のうち,各専門分野を横断的に網羅する物質科学の三要素,新規な機能物質の設計,物質の微細加工や制御複合化による新素材の合成,新物質・新材料の機能解析と評価に関する教育研究と実験・実習を行う学内共同教育研究施設です.本学の研究科やセンターと有機的なつながりをもち,特に,物質創成科学領域とは密接な連携のもとに活動しています.」と大学HPに記されている.

 奈良先端科学技術大学院大学 分子・物質合成プラットフォームは,物質科学教育研究センターの光情報分子科学研究室(河合 壯 教授)がNPJに参画して構成され,同研究室の清水 洋 特任教授がプラットフォームの連携マネージャーを務めている.同研究室は物質創成科学領域の研究活動を行う.このような成り立ちから,共用装置はNPJとともに学内,他大学も利用している.

 

図1 奈良先端科学技術大学院大学の組織(一部)

 

1.2 プラットフォームの構成・共用装置 [5]

 NPJ分子・物質合成プラットフォームは,ナノテクノロジー関連の化学・材料分野の研究者が高価な設備を購入することなく最先端機器を活用し,次世代を担う素材の開発研究が行える,全国規模の共用設備ネットワークとして構築された.NAISTは,NPJ分子・物質合成プラットフォームに参画する10機関の一つである.支援する研究ターゲットとしては分子や高分子材料のほか,有機・無機半導体や誘電体などの材料についてナノメートルスケールでの制御された構造やそのためのプロセス開発などを想定する.医創薬や検査・計測などのライフサイエンスからエネルギーや情報関連技術など将来のイノベーションにつながる研究開発を重点的に支援するほか,物質創成科学領域の教員との共同研究や若手研究者の独自研究については特に積極的な支援を行うとしている.表1の主な支援機器:8機器に加え,9つの群に分類された支援試行装置を供用する[6].

 

表1 NAIST分子・物質合成プラットフォームの共用装置

 

1.3 支援の形態と実績

 NAIST分子・物質合成プラットフォームは,ナノテクノロジーを活用あるいは深化させることで将来のイノベーションにつながると判断される高度な先端研究開発の中で,特に分子・物質合成に関する研究開発を支援する.利用成果は公開を原則とするが,企業などの利用では機密保持を必要とすることもあるので,成果非公開型の利用・支援も実施している.

 その支援形態は,他の機関とほぼ同様であるが,表2の4形態に分類している[7].このプラットフォームの藤田 咲子氏は平成27年度「若手技術奨励賞」を受賞し,受賞題目は「クライオ電子顕微鏡法を用いた技術支援」であった.表1の初めに挙がっている透過型電子顕微鏡のクライオ分析オプションを用い,協力研究における支援が評価されたものであった[8].また,NanotechJapan Bulletinで紹介された利用成果の,プラズマ処理工程を「見える化」する色材の開発では,企業との共同研究による発色過程の解析にX線構造解析装置(支援試行装置)などが活用された[9].

 

表2 NAIST分子・物質合成プラットフォームにおける支援形態

 

 受賞題目の単結晶X線構造解析の実施件数は年間300件を越える(図2).ナノテクノロジープラットフォームの支援装置は学内教育研究用も兼ねているため,学内の利用が多い.ナノテクノロジープラットフォームの利用は,大学と企業がほぼ半々で,企業の方が多かった年もあるという.

 

図2 単結晶X線構造解析の実施件数

 

2.受賞対象となった支援業務 〜分子単結晶のX線構造解析〜

2.1 単結晶X線構造解析はどのように行われるか [10][11]

 1912年にラウエが硫酸銅の結晶にX線を照射して回折像を得て以来,X線回折により鉱物や金属の結晶構造が明らかにされるようになった.X線は結晶を構成する原子の持つ電子によって散乱されて回折像を結ぶので,電子数の多い元素,すなわち金属などの原子番号の高い元素で構成される無機化合物結晶の構造解析がまず進んだ.X線源の強度が上がり,検出器の感度が向上して,炭素,水素のような軽元素で構成される有機化合物や分子の単結晶構造解析ができるようになり,1953年にはDNAのらせん構造がX線構造解析で見出された.回折像は,結晶を構成する多数の原子のそれぞれが持つ電子によって構成される電子密度分布を反映している.したがって,回折像は電子密度を介して,原子の属性や位置情報を含むから,回折像の解析により,結晶の幾何学的構成とともに原子の種別,配置等を決めることができ,分子構造まで決めることができる.

 線源で発生させたX線は,光学系を介して単結晶試料に照射され,結晶中で回折,結晶を透過して検出器に回折パターンを結像する(図3左).X線回折装置は,単結晶の上方から見て図3右のように構成される.試料が多結晶であると,入射X線に対して異なる角度の回折面からの回折X線が検出器上で混じることになり,回折スポットがぼやけてしまう.このため高解像度を得るには単結晶の使用が不可欠であり,十分な回折透過X線が得られるよう,結晶の厚さは制限される.また,単結晶はゴニオメーターに載せて回転させ,様々な入射角での回折パターンをとることにより結晶構造情報を多く取得するようにしている.

 

図3 単結晶X線回折測定の概要(左:測定の模式図,右:装置の構成)[10]

 

 得られた回折パターンは,単結晶内の電子密度分布関数に,フーリエ変換のような,回折に応じた数学処理を施した分布関数に相当する.したがって,回折強度のデータに逆変換の数学処理を施せば単結晶内の電子密度分布を復元できる.電子密度分布は分子構造に由来するから,電子密度分布から分子モデルを構成できる(図4).

 

図4 単結晶X線構造解析の原理 [11]

 

 数学処理は複雑であるが,今では,目的に応じた様々な解析プログラムが作成,提供されている.粉末用,単結晶用,タンパク質用,ラウエシミュレーション用,モデル構築用など用途別のソフトウェアがある.表1の単結晶X線回折装置のメーカーのリガクは,格子決定のためのツール,結晶外形と面指数の関連づけ,複数の温度条件での測定,粉末試料の回折データ測定および処理,結晶の軸立て条件の計算なども可能なソフトウェアを装置とともに提供する.

 単結晶構造解析はまず,測定に必要な単結晶の作製に始まる(図5).単結晶は測定に適した形状に切り出し,X線回折装置にセットしてX線回折強度を求める.収集されたデータに単結晶組成など既知で解析に必要な情報を加えて,構造解析を始める.まず,モデルを立てて初期位相を推定し,逆変換の数式処理で構造を算出する.この構造をもとに位相を計算すると推定した初期位相とは若干異なる結果が得られるから,最小二乗法を用いて誤差が小さくなるようモデルを修正して行く.目的の誤差範囲に収まったら,分子モデルの完成である.分子モデルは,原子の座標配置で表され,座標から必要な情報を計算してレポートが作成される.レポートは,世界最大の分子性結晶構造データベースであるケンブリッジ結晶学データセンター(The Cambridge Crystallographic Data Centre:CCDC,英)に登録できる結晶構造データ(化合物の名称・分子式,二次元構造図,結合表,三次元原子座標,結晶学データ等)を含んでいる.

 

図5 単結晶X線構造解析の手順 [11]

 

2.2 単結晶X線構造解析の技術支援 〜試料作製から観察,結晶構造データ作成まで〜

 ナノテクノロジープラットフォームの支援機器の中で,片尾氏は表1の2行目にある単結晶X線回折装置を担当している(図6).この装置はリガク社製単結晶X線回折装置:VariMax RAPID RA-Micro7で,高電流Moターゲットと検出器に高速イメージングプレート(半円筒内側の黒い領域)を搭載したことに特徴がある.この他にも最近導入した薄膜X線回折装置も担当するが,利用の依頼は単結晶X線回折の方が多いという.

 

図6 技術支援に用いた単結晶X線回折装置

 

 利用依頼は全国各地の企業,大学から来る.利用者はメールや電話で依頼してくる.大学の依頼者はX線回折の経験があるので,試料情報を書いたメモを付けて,サンプルを持ってくる.企業の場合は経験がない場合もあり,測定ができるかどうか心配して一度相談に来てからの試料持ち込みが多い.協力研究,技術代行が多く,結晶ができたから構造解析をして欲しいと丸投げに近い依頼もある.X線構造解析には良い単結晶が必要で,構造解析は結晶の良否判定からはじまる.分子結晶は過飽和溶液からの晶出によって作ることが多い.溶液から取り出すと風解などで結晶の壊れることがあるから,溶液に入ったまま送って貰い,測定直前に取り出して測定試料を作製することもある.試料搬送は郵送で良い.

 図6のX線回折装置において,X線はヘリウムガスの流れる水平のパイプ状ミラーを通って試料に照射され,対向する検出器に回折パターンを形成する.図7に単結晶X線構造解析用試料作製の手順を示した.偏光顕微鏡下で測定試料を切り出し,マウントループに取り付けてX線回折装置の試料台にセットする.図7は,左上の試料作製の道具立てから,マウントループにセットするまでを示している.結晶は,方位や周期性の異なる2つもしくはそれ以上の結晶の接合した双晶(twin)の入っていることがあり,回折スポットが割れてしまう.このような場合は構造解析が容易ではないので,双晶のない完全な単結晶領域を切り出して観察試料を作製する.双晶は偏光顕微鏡で見つけられるので作業は偏光顕微鏡下で,試料をオイル中に保持して行う(図7左下).観察試料の結晶の大きさは0.1〜0.2mmで,もとの結晶自体小さいので細い筆先でオイル中の結晶を回して双眼実体偏光顕微鏡で双晶のない完全な単結晶領域を探し出し,剃刀で数十μmの厚さに切り出す(図7中下).直径20μmワイヤの先端をループ状にして結晶を保持できるようにしたマウントループで切り出した結晶をピックアップし(図7中上),余分なオイルをふきとって(図7右上),マウントループ上に結晶を立てる(図7右下).これをX線回折装置の試料台の先端にセットして観察を行う.作業中に変質する試料もあるので,セットするまでの作業は手早く行わねばならない.

 

図7 単結晶X線構造解析用試料作製

 

 試料の作製,装置へのセッティングが終わったら,X線を当てて,回折パターンを取得し,構造解析プログラムを用いて,分子モデルを組み上げる.ゴニオメーターで試料を回転させ,多数の入射角で単結晶の回折パターンを取得するので,測定は20時間に及ぶ.X線回折パターンを撮って,単結晶が切り出されていないことが分かることもある.層状結晶の層を分けにくいこともある.アモルファス(非晶質)だと回折がおきず,ピークが全く得られない.微結晶の集まりのこともある.針状結晶がマリモのように固まっていると,その中から一本の針を取り出す.試料作りを5回やり直したこともあるという.粘り強く,試行錯誤を繰り返して,測定試料を作り,分子構造決定にまで辿り着いている.測定・解析にかなりの時間がかかるが,それでも1.3節に示したように年間300件を超える単結晶X線構造解析を行なっている.nano tech 2020のナノテクノロジープラットフォームのブースに設けられた技術支援賞のコーナーに展示したパネルには,3つの支援例が紹介されていた[3].

 

3.支援例 〜経験と新たな工夫で分子結晶の難しい解析に成功〜 [3]

3.1 機械応答性を持った固体発光分子の構造解析

 室蘭工業大学の中野 英之 教授らは,光,電気,熱,圧力などの外部からの刺激によって発光,色彩変化,電流,形状変化などの応答を示す機能性材料の創出を図っている[12].固相発光体である新規ビス(シアノスチリル)ベンゼン誘導体(CSB‐5)はクロロフォルム溶液中では波長507nmの緑色発光をし,結晶にすると波長620nmの赤橙色発光に変わる.この結晶をすり潰してアモルファス(非晶質)にすると機械応答性発光を示す.ガラス基板上に設けたCSB‐5結晶膜を引っ掻いて,紫外線を照射すると,引っ掻いて非晶質化した領域は緑色の蛍光を発した(図8).

 

図8 引掻くと緑の蛍光のCSB-5 [12]

 

 中野教授らは結晶構造を明らかにしようとX線構造解析に他の機関の協力を探る中で,NAISTナノテクプラットフォームを利用することになった.この試料は貼り合わせになっていて,片尾氏はこれを剥がすのに苦労したという.X線回折の試料は回折スポットが明るくなるような大きさと厚さが必要である.5回くらいのトライでやっと真直ぐに割れた.試料作製の難しさに加えて,この試料では,電子密度と分子モデルとを合わせるのにも苦労したという.X線構造解析の結果,図9に示す構造が明らかになった.CSB-5の結晶構造解析における初めての成功であった[13].

 

図9 CSB-5の結晶構造 [3]

 

3.2 非常に薄く積層した結晶の構造解析

 応力によって色が変わり,応力を除くと自らもとに戻るメカノフルオロクロミズムを示す分子結晶は,圧力の可視化などへの応用で注目されている.NAISTの河合 壯 教授らは,フランスの国立科学研究所(CNRS)パリ・サクレー大学との国際共同研究で,有機固体キラル発光体の機械応答性円偏光発光の研究を行ない,その一環で単結晶X線構造解析を行った[14].この種の材料は結晶多型が介在するため,結晶構造解析が難しい.共同研究の対象とした,ジフルオロ-ホウ素b-ジケトネート錯体(difluoro-boron b-diketonate complexes)にはDFB-HexとDFB-PhEtの2つの多型がある.波長396nmの紫外光で励起すると,基板に蒸着した状態では緑の蛍光を発するが,アニールすると青の蛍光になり,膜をこすると緑の蛍光となる(図10).DFB-Hex(図10左)とDFB-PhEt(図10右)とでは,処理の各段階での発光のスペクトルが異なる.そこで,両者の結晶構造解析を行った.

 

図10 メカノフルオロクロミズムを示す分子結晶の蛍光スペクトル [14]

 

 解析試料は,非常に薄い結晶が多重に積層しており,単結晶を得るために板状結晶を切り出すサンプリングを繰り返すことにより,なんとか結晶構造解析に耐える良質の単結晶試料を得ることができた.単結晶構造解析の結果,図11に示すようなDFB-HexとDFB-PhEtの結晶構造が得られ,分子の積層構造が解明された.この結果は,世界初の力学刺激応答性の円偏光発光材料の発見につながったという.

 

図11 メカノフルオロクロミズムを示す分子結晶の構造解析 [3]

 

3.3 空気中で不安定な有機金属触媒の結晶構造解析 [15]

 高分子は重合に用いる触媒によって性質が変わる.このため新規触媒を開発して高分子の共重合構造や分子量などを制御することで,超強靭性,高ガス・バリア性,超弾性などの機能を持った革新的材料の開発が進んでいる.有機金属触媒は重合の制御性が高く,チタン(Ti)系触媒は立体規則性の制御に優れる.首都大学東京(現在,東京都立大学)の野村 琴広教授らは組成を変えてイミダゾリジンをベースとするTi系触媒を合成した.組成によりエチレン重合に対して高い触媒活性を示すが,エチレンとヘキセンの共重合の触媒活性は低いといった,触媒性能の違いがある.触媒構造と反応活性の相関を解明しようと,Ti系触媒のX線構造解析をNAISTのプラットフォームで行うことになった.

 ところが,この触媒は大気中に出すと不安定だった.そのような材料はキャピラリー(ガラス管)に封入してX線回折測定を行なっている.しかし,容器外壁からの回折X線がバックグラウンドノイズになり,霜の付着があるなど,計測精度に問題がある.単結晶切り出しの間にも変質の恐れがある.様々な試行錯誤の結果,グローブバック(図12)に試料を入れ,実体顕微鏡下で作業する方法に辿り着いた.グローブバックは,パイプと手袋のついたポリエチレンの袋で,簡易的なグローブボックス環境を作れる.Arガスを流しながら,単結晶切り出し・試料台へのマウントを行なった.単結晶試料は試料台ごとオイルコートしてX線回折測定を行う.この結果,組成の異なる複数のTi系触媒結晶の高精度構造解析に成功した(図13).これにより,触媒機能が陰イオン部分の構造により制御されることを明らかにできた.

 

図12 グローブバック

 

図13  Ti系有機金属触媒の結晶構造 [3]

 

4.おわりに

 新たに,分子を創成し,物質を合成したら,狙ったものなっているか,分析・評価する.分子・物質合成プラットフォームには,微細構造解析プラットフォームにもあるような分析・評価装置が共用装置として用意されている.装置共用のプラットフォーム構築により,分析・評価の先端的な装置の利用は広まった.分子・物質合成を業とする人々は必ずしも先端的な分析・評価装置に明るいとは限らない.プラットフォームに設置された装置使用のノウハウに通じたスタッフの支援があって初めて成果の挙げられることも多い.装置使用のノウハウには,測定試料の作製,装置の運転操作・測定・観察,測定・観察結果の解析などが含まれる.片尾氏はこの全ての面で支援を行なったが,その中でも特に測定試料の作製に注力し,工夫と試行錯誤を繰り返して利用成果達成に貢献した.装置使用ノウハウの中身,その難しさは十分に知られているだろうか.今回の取材を通して,成果の背景には技術スタッフ諸氏の工夫と大変な努力があることを知った.このような装置使用のノウハウの中身が周知され,分子・物質合成を主たる業務とする利用者が,支援スタッフとともに,装置使用のノウハウの質の向上を図ることによって,共用装置利用の効果が高まることを期待したい.

 

参考文献

[1] 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業 技術スタッフ表彰
https://www.nanonet.go.jp/ntj/award/
[2] ナノテクノロジープラットフォーム令和元年度秀でた利用成果と技術スタッフ表彰者が決定!!
https://www.nanonet.go.jp/ntj/topics_gov/?mode=article&article_no=5011
[3] 「単結晶X線構造解析による技術支援 技術支援貢献賞受賞」
https://www.nanonet.go.jp/pages/research_support_award/R01_Award_5.pdf
[4] 奈良先端科学技術大学院大学 大学案内 http://www.naist.jp/about/
[5] NAIST ナノテクノロジープラットフォーム 「分子・物質合成プラットフォーム」(奈良先端科学技術大学院大学)
https://www.nanonet.go.jp/ntj/insti/naist/ms/
[6] ナノテクノロジープラットフォーム装置一覧
https://mswebs.naist.jp/nanopla/equipment.html
[7] ナノテクノロジープラットフォーム利用方法
https://mswebs.naist.jp/nanopla/use.html
[8] 「<平成27年度若手技術奨励賞>クライオ電子顕微鏡法を用いた技術支援~卓越した凍結技術とTEM観察技術を用いて生体脂質膜の機能解明に貢献~」,NanotechJapan Bulletin Vol. 9, No. 3, 2016;https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/outstanding-staff/5.html
[9] 「<ナノテクノロジーPick Up>プラズマインジケータによる処理工程の見える化」,NanotechJapan Bulletin Vol. 10, No. 6, 2017;https://www.nanonet.go.jp/magazine/feature/nanotech-pickup/12.html
[10] Webinar (オンデマンドセミナー) 「単結晶X線構造解析をはじめよう! 」 リガク
https://www.rigaku.co.jp/rigaku.com/webinar/getwebinar.php?getwebinar=sxrd1
第1回 「X線で分子を見る ~単結晶X線構造解析とは~」(2010年4月15日開催)
https://www.rigaku.co.jp/webinar/dat/100415video.html
第2回 「単結晶X線構造解析でわかること」(2010年4月22日開催)
https://www.rigaku.co.jp/webinar/dat/100422video.html
[11] Webinar (オンデマンドセミナー)「X線で分子を見る」シリーズ リガク
https://www.rigaku.co.jp/rigaku.com/webinar/getwebinar.php?getwebinar=sxrd_series
単結晶構造解析でわかること オンデマンド公開2011/11/16
https://www.rigaku.co.jp/rigaku.com/webinar/getwebinar.php?getwebinar=111122sxrdbasic
[12] 中野研の研究概要 http://www3.muroran-it.ac.jp/nakano_lab/Research.htm
[13] Ryohei Kaneko, Yoshimitsu Sagara, Shouhei Katao, Nobuyuki Tamaoki, Christoph Weder, and Hideyuki Nakano, “Mechano‐ and Photoresponsive Behavior of a Bis(cyanostyryl)benzene Fluorophore”, Chemistry a European Journal, Vol. 25, Issue24, April 26, 2019, pp. 6162-6169; https://doi.org/10.1002/chem.201900120
[14] Marine Louis, Ramarani Sethy, Jatish Kumar, Shouhei Katao, Régis Guillot, Takuya Nakashima, Clémence Allain, Tsuyoshi Kawai, and Rémi Métivier, “Mechano-responsive circularly polarized luminescence of organic solid-state chiral emitters”, Chemical Science, 2019, Vol. 10, pp. 843-847; https://doi.org/10.1039/C8SC04026E
[15] Kotohiro Nomura, Hiroya Fukuda, Hideshi Matsuda, Shohei Katao, and Srisuda Patamma, “Synthesis and structural analysis of half-titanocenes containing 1,3-imidazolidin-2-iminato ligands: Effect of ligand substituents in ethylene (co)polymerization”, Journal of Organometallic Chemistry, Vol. 798, Part 2, 1 December 2015, pp. 375-383; https://doi.org/10.1016/j.jorganchem.2015.04.028

(図表は全てNAIST 片尾氏の提供による)

 

(古寺 博)