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アルファベットパターンを光記憶結晶にナノメートルスケールで描画 ~微小な光による意思決定デバイスの実現につながる成果~

 国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT),山梨大学,龍谷大学は2018年10月4日,山梨大学大学院 総合研究部の堀 裕和教授ら,龍谷大学 理工学部の内田 欣吾教授ら,およびNICTネットワークシステム研究所 成瀬 誠統括研究員の共同研究グループが,ナノメートルサイズの針先の近接場光により,フォトクロミック単結晶の表面に光の波長以下の大きさのアルファベットを描き,さらに消去することに初めて成功した,と発表した.本研究は,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「ナノ光学と光カオスを用いた超高速意思決定メカニズムの創成」の一環として行われ,研究成果はScientific Reports誌にオンライン掲載された(注).

 近年自然の複雑な現象を活用した問題解法(自然知能)が注目され,分子が光によって構造を変えるような物質と光の相互作用を利用する意思決定,解探索,認識などの知能システム構築が期待されている.研究グループは,可逆的光異性化反応(フォトクロミズム)が光機能システムの重要な要素となり得ると考え,近接場光とフォトクロミズムを組み合わせ,新たなナノスケールでの光情報記憶実現の可能性を調べた.近接場光は光の波長以下の物質に光が作用したときに生じる光の波長より小さい光で,本研究は,これを利用してフォトクロミク材料に局所的な光異性化を引き起こし,情報を記録しようとするものである.研究グループはこれまでの研究で,フォトクロミック結晶表面の1点に近接場光を作用させたとき,結晶の裏面にナノメートルスケールの異性化パターンが形成されることを見出している.本研究ではこれを発展させ,試料表面に複数の点数の近接場光を加えた場合の試料表面の形状変化を捉えた.研究で取り上げたフォトクロミック材料は,熱的に安定で,結晶状態でもフォトクロミズムを呈すジアリールエテンである.研究グループは,光異性化に伴う分子構造変化の大きい6員環構造を持つジアリールエテンを合成し,昇華法で得た結晶表面に近接場光を作用させた.近接場光の励起と光異性化の観察には光支援型原子間力顕微鏡(AFM)を用い,探針先端に当てた赤色レーザーで発生する近接場光で結晶表面に局所的な光異性化を生じさせた.この方式によれば,光異性化に伴う表面の形状変化も同じAFMで随時観察が可能である.ジアリールエテン分子は開環状態で透明であるが,紫外線により閉環し赤紫に着色する.着色結晶にAFM探針先端の近接場光を30秒程度作用させると,その付近だけが光異性化されて透明になり,分子が表面に垂直な方向に縮んで円錐状の凹み(直径約32nm,深さ約1.5nm)が生じる.分子変形のため光異性化の生じる範囲はほぼ30nmに限られ,励起光波長670nmの約1/20以下の微細な書き込みが可能である.実験では,凹みを連ねて200nm四方に1文字ずつアルファベットのUとYを描画し,これらをAFMで読み取ることができた.また,表面全体への均一な近接場光励起で,このアルファベットのパターンの特徴を反映しながら,徐々に平坦化させて消去できることも確かめられた.

 本研究により示された光異性化と機械的歪みの釣り合いから,ナノメートルスケールでの機械学習ばかりでなく,自然界の複雑な数物構造を模した全く新しい機能が生まれることも期待されるという.

(注)R. Nakagomi, K. Uchiyama, H. Suzui, E. Hatano, K. Uchida, M. Naruse, and H. Hori, "Nanometre-scale pattern formation on the surface of a photochromic crystal by optical near-field induced photoisomerization", Scientific Reports Vol. 8, Article number: 14468 (2018), doi: 10.1038/s41598-018-32862-9; Published 27 September 2018