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「透明で高い粘り強さを持つ材料」を簡単に調製することに成功! ~重要なキーマテリアルのひとつとして期待~

 名古屋大学と東京大学は2018年10月15日,名古屋大学大学院工学研究科の竹岡敬和准教授らが,東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授らと共に,滑車状構造の分子(ポリロタキサン)を架橋剤に利用することで力学的に丈夫で光学的に透明なエラストマーの調製に成功した,と発表した.本研究は,内閣府の革新的研究推進プログラム(ImPACT)『超薄膜化・強靭化「しなやかタフポリマー」の実現』の一環として行われ,研究成果はScience Advances誌に掲載された(注).

 エラストマーは加荷重に対して柔軟に変形し荷重が解放されると元に戻る性質を持ち,自動車,建築物など様々な用途に利用されている.今後も高度先進医療,フレキシブルディスプレイ,ソフトロボットなどの開発において,エラストマーは重要なキーマテリアルの役割を担うと考えられている.従来のエラストマーの伸張性は,高分子の架橋構造による三次元ネットワークで実現されているが,破断伸度は架橋点間の分子鎖長に比例することが知られている.一方,弾性率は架橋密度が高いほど大きくなる傾向があり,弾性率と伸張性は二律背反の関係にある.弾性率を高める目的で無機微粒子フィラーを多量に添加することもあるが,伸長率が低下して脆くなり,さらに透明性も低下する.また,可塑剤を添加して高分子をしなやかな状態にすることも可能ではあるが,可塑剤は時間が経つとブリードしてエラストマーの劣化や表面の汚染を招くという問題があり,エラストマーの靭性向上は難しい課題とされていた.本研究において研究グループは,架橋剤としてポリロタキサン(PR)を利用するエラストマーを開発した.ポリロタキサンは,環状のα-シクロデキストリン(α-CD)と,その環を貫くポリエチレングリコール(PEG)鎖から成る分子で,α-CDはPEG鎖に沿って滑車のように動くことができる.このα-CDを架橋点にしてポリマーを結合すると,ポリマーがPEG鎖に沿って自由に動く三次元網目構造となり,従来の架橋剤による架橋点に比べて広範囲で自由に動くネットワークが作られる.

 研究グループは,PRのα-CDにビニル基を導入して架橋剤とし,この存在下でメタクリル系のモノマーである2-(2-methoxyethoxy)ethyl methacrylate(MEO2MA)を重合してエラストマーを得た.架橋剤量を1wt%としてPR架橋剤で作ったサンプルと,一般的な架橋剤ethylene glycol dimethacrylate(EDGMA)で架橋したサンプルを比較すると,変形エネルギー密度は,それぞれ102.2kPaと20.2kPa,破壊エネルギーは,それぞれ703.1J/m2と147.8 J/m2となり,PR可塑剤による靭性向上が確かめられた.PR架橋剤量については,添加量の増加に伴いヤング率,変形エネルギー,破壊エネルギーは増大するが,破断伸度は徐々に低下する傾向が見られた.小角X線散乱測定(SAXS)から,PR架橋剤で架橋したエラストマーでは,分子が大きく変形してエネルギーを吸収することが靭性向上のメカニズムであることが分かった.耐熱性については従来の架橋剤に比べて悪化は見られていない.

 このエラストマーの製法はモノマーの種類を変えて様々な応用が可能で,フィラーを含まない透明で靭性の高いエラストマーが容易に得られる.研究グループは,本エラストマーが今後発展する分野で重要なキーマテリアルになると期待している.

(注)H. Gotoh, C. Liu, A. Bin Imran, M. Hara, T. Seki, K. Mayumi, K. Ito, and Y. Takeoka,"Optically Transparent, High Toughness Elastomer Using a Polyrotaxane Cross-linker as a Molecular Pulley", Science Advances , 12 Oct 2018: Vol. 4, no. 10, eaat7629, DOI: 10.1126/sciadv.aat7629