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物性・原理

光で絶縁体を未知の金属相へと相転移させることに成功

 東京大学は2018年10月17日,同大学物性研究所の岡﨑浩三特任准教授,辛埴教授らの研究グループが,「励起子絶縁体」と呼ばれる絶縁体の候補物質と考えられていたTa2NiSe5と,通常の絶縁体であるバンド絶縁体と考えられていたTa2NiS5について,高次高調波レーザー時間・角度分解光電子分光装置を用いて非平衡状態における電子構造を直接観測し,Ta2NiSe5が「励起子絶縁体」であるということを解明,さらに,Ta2NiSe5とTa2NiS5ともに超短パルスレーザーを照射することで,熱平衡状態では実現できない未知の金属相へ相転移することも発見したと発表した.本研究は,文部科学省 国家課題対応型研究開発推進事業「光・量子融合連携研究開発プログラム」,独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費基盤研究の助成のもとに行われた.本成果は,英国科学誌Nature Communicationsに掲載された(注).

 物質に超短パルスレーザーを照射すると一般に物質は非平衡状態になるが,寿命が比較的長い準安定状態になることもあり,光によって相転移が誘起されたとみなせるため「光誘起相転移」と呼ばれる.光誘起相転移のこれまでの研究報告の多くは,熱平衡状態における高温相に対応する相への相転移だった.

 研究グループは,「励起子絶縁体」の候補物質であると考えられていたTa2NiSe5を取り上げた.「励起子絶縁体」とは,電子と正孔が結合して励起子を作る際のクーロン結合エネルギーがバンドギャップより大きく,励起子が光照射なしに自発的に形成された絶縁体である.比較のため,Ta2NiSe5のSeをSに置換した通常のバンド絶縁体Ta2NiS5を加え,新規に開発した高次高調波レーザー時間・角度分解光電子分光装置を用いて,これらの物質のポンプ光照射後の非平衡状態における電子バンド構造の直接観測を行った.ポンプ光はTiサファイヤレーザーパルス光(波長800nm,パルス幅30fs,繰返し1kHz)で,今年度のノーベル物理学賞を受賞したチャープパルス増幅技術によって超短パルスを発生した.プローブ光は,ポンプ光の一部を分割してArガスに集光して振動数が奇数倍の高次高調波を発生させ,その内の単一次数を選択し,ポンプ光に対して時間差をつけて物質に照射する.

 まず,照射する超短パルスレーザーの強度の違いに対する振る舞いから,Ta2NiSe5が励起子絶縁体であることを解明した.さらに,ポンプ光照射前は価電子帯のバンドがフェルミ準位を横切らない絶縁体的なバンド構造になっている一方で,ポンプ光照射後は価電子帯の正孔的なバンドと伝導帯の電子的なバンドがフェルミ準位を横切る金属的なバンド構造に変化する様子が観測された.これは,Ta2NiSe5という物質が励起子絶縁体相から金属相へと光誘起相転移したことを意味する.この物質は高温においても金属にはならないので,実現された金属相は熱平衡状態では実現し得ない「未知の金属相」であることが分かった.バンド絶縁体のTa2NiS5においても同様の金属層への光有機相転移を確認した.

 本研究成果は,光によって絶縁体を金属に,さらには金属を超伝導体に変換するなど「物質の光による制御」に向けて新たな可能性を開拓した.今後,「未知の金属相」への光による相転移メカニズムが解明されることで,様々な物質の性質を光によって自在に制御できるようになることが期待される,としている.

(注)Kozo Okazaki, Yu Ogawa, Takeshi Suzuki, Takashi Yamamoto, Takashi Someya, Shoya Michimae, Mari Watanabe, Yangfan Lu, Minoru Nohara, Hidenori Takagi, Naoyuki Katayama, Hiroshi Sawa, Masami Fujisawa, Teruto Kanai, Nobuhisa Ishii, Jiro Itatani, Takashi Mizokawa, and Shik Shin, "Photo-induced semimetallic states realised in electron-hole coupled insulators", Nature Communications Vol. 9, Article number: 4322 (2018), DOI:10.1038/s41467-018-06801-1; Published 17 October 2018