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半導体量子ビットによるハイブリッド量子計算手法の実証 ~半導体量子コンピュータの主要な課題解決に指針~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研),東京大学,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と独国ルール大学は2018年11月29日,理研 創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの樽茶清悟グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)ら,同 量子システム理論研究チームのダニエル・ロスチームリーダー(バーゼル大学物理学科教授),ルール大学ボーフム校のアンドレアス・ウィック教授らの国際共同研究グループが,半導体量子ドットデバイス中の電子スピンを用いて,異なる2つの方式のスピン量子ビットを結合させることに成功したと共同発表した.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業 CREST他の支援を受けて行われ,成果は英国の科学雑誌Nature Communicationsにオンライン掲載された(注).

 量子力学の原理に基づき,0と1の重合せ状態を利用して超並列計算を実行する量子コンピュータの研究が活発化している.中でも半導体中の電子スピンを用いた量子コンピュータは,既存の集積回路技術と相性が良く,大規模量子コンピュータの実装に適している.半導体量子コンピュータには,2方式がある.単1電子スピンからなる「スピン1/2量子ビット」は,高精度制御に適している.一方,2つの電子スピンからなる「ST量子ビット(1重項-3重項量子ビット)」は,高速読出しに適している.両方式の量子ビットを組合わせれば効率的な量子コンピュータを設計できるが,互換性がないため組合せることは困難だった.

 国際共同研究グループは,GaAs/AlGaAsヘテロ接合基板上に金属微細加工を施し,電子スピン3つからなる「3重量子ドット構造」を作製した.この試料では,左のドットでスピン1/2量子ビット,中央と右の2重量子ドットでST量子ビットが形成される.3重量子ドットの近くに配置した微小磁石が作る局所磁場を利用し,両方式の量子ビット(0と1の重合せ状態)を変化させ操作する.両方式の量子ビットは,交換相互作用によって結合し,その結合は各量子ドットのゲート電極に加えるパルス電圧で高速に制御できる.

 実験では,先ず量子ビット間の結合をオフにして,それぞれの量子ビットの動作確認を行った.続いてスピン1/2量子ビットとST量子ビットを結合させると,スピン1/2量子ビットの向きに応じて,ST量子ビットが1重項と3重項の間で状態が振動して位相が変調される.これは,スピン1/2量子ビットとST量子ビットの状態が相関を持つ「量子もつれ」状態が生成されたことを意味する.この量子もつれが最大化した状態でST量子ビットの位相を測定することで,スピン1/2量子ビットの情報(スピン上向き/下向きの重合せ状態)を間接的に読出し,スピン1/2量子ビットの課題であった読出し時間を1/1,000に短縮できた.

 本成果は,半導体量子コンピュータにおける高精度制御と高速読出しの両立に道筋を示すもので,半導体量子コンピュータの大規模化に向けた開発をさらに加速させる,としている.

(注)A. Noiri, T. Nakajima, J. Yoneda, M. R. Delbecq, P. Stano, T. Otsuka, K. Takeda, S. Amaha, G. Allison, K. Kawasaki, Y. Kojima, A. Ludwig, A. D. Wieck, D. Loss, and S. Tarucha, "A fast quantum interface between different spin qubit encodings", Nature Communications Vol. 9, Article number: 5066 (2018), doi: 10.1038/s41467-018-07522-1; Published 29 November 2018