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ケタ違いに低いX線露光で生体1分子運動計測に成功! ~超高精度装置開発が加速し利用拡大へ~

 東京大学(東大)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2018年11月30日,東大大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授(産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ兼務),及び公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の研究グループが,大型放射光施設SPring-8での単色X線を用いた回折実験において,回折X線強度が標識した金ナノ結晶の運動のために明滅する現象(Blinking X-ray:X線ブリンキングと命名)を世界で初めて確認し,その自己相関解析をすることで,回折X線スポットの運動速度を定量的に評価できることを示し,また,この単色X線を用いた新しい計測手法は,以前佐々木教授が開発し世界で唯一1分子内部運動の測定が可能であったDXT(Diffracted X-ray Tracking)法に比べ,回折X線ブリンキング観察に必要なX線露光量が1/1,700であることを明らかにしたことを発表した.本研究は,東大,産総研,及びSPring-8/JASRIが,科学研究費等の支援のもとに共同で行い,その成果は,電子ジャーナルScientific Reportsでオンライン公開された(注).

 1990年代からバイオ計測において,可視光による超解像顕微鏡や電子顕微鏡を用いた単粒子解析法などの発明により,バイオ分子の平均値を議論してきた従来の分子生物学は,1分子レベルで議論できる1分子生命科学へと一変し,研究者たちは,分子内部運動の測定に挑戦し始めた.しかし,可視光では波長で決まる精度の限界がある.1998年に佐々木教授はDXT法を創出し,この限界を打破した.DXTでは,タンパク質分子の観察目的部位を金ナノ結晶(直径数10nm)で化学標識し,標識ナノ結晶からの回折X線スポットの運動を時分割追跡する.分子内部の回転運動の計測値を並進運動に換算するとpm精度の位置決定が可能で,測定最高速度数100nsの時分割観察が可能であった.現在まで多くの分子内運動計測に成功し,特に巨大膜タンパク質分子のイオンチャンネル開閉運動の1分子計測は他の方法では実現できない成果である.

 しかし,DXTは白色X線を用いてきたが,最近の大型放射光施設では,ビームラインの多くが利用の多い単色X線用に設計されているので,DXTの利用例は限られていた.そこで今回,SPring-8の単色X線を用いて実験したところ,回折X線強度の明確な点滅(Blinking X-ray:X線ブリンキング)を世界で初めて検出した.そして,このX線ブリンキングからの単一分子動態に関する情報の抽出を試み,回折X線スポット強度の自己相関が,1分子の運動速度と高い相関があることを見いだした.次に,X線光源を大型放射光施設SPring-8よりもX線強度で5桁弱い実験室用X線光源(Rigaku FR-D)へ変更し,アセチルコリン結合タンパク質(AChBP)を観察したところ,明確なX線ブリンキングが観察された.また,AChBPにアセチルコリン(ACh)が結合するとAChBPの上部構造が大きく左右に揺らぐことを100msオーダーの時分割性で評価することに成功した.この結果は,本計測技術が,小型で強度の低い実験室レベルの装置で利用でき,この露光量が極めて小さいことから,今後,ダメージレス測定・長時間観察・多種標識ナノ結晶の同時計測(カラー化)等を強みにさまざまな展開が期待できるとしている.

(注)Hiroshi Sekiguchi, Masahiro Kuramochi, Keigo Ikezaki, Yu Okamura, Kazuki Yoshimura, Ken Matsubara, Jae-Won Chang, Noboru Ohta, Tai Kubo, Kazuhiro Mio, Yoshio Suzuki, Leonard M. G. Chavas, and Yuji C. Sasaki, "Diffracted X-ray blinking tracks single protein motions". Scientific Reports Vol. 8, Article number: 17090 (2018), Published 30 November 2018, DOI: 10.1038/s41598-018-35468-3