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温度応答性ナノカプセル ~ペプチド集合体とリポソームのいいとこ取りの機能化~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研)と埼玉大学は2018年12月10日,理研創発物性科学研究センター創発生体工学材料研究チーム伊藤 嘉浩チームリーダーら,埼玉大学工学部 廣瀬 卓司教授らの共同研究チームが両親媒性ポリペプチドとリン脂質を共集合させることで,温度に応じて内包分子を放出できるナノカプセルの開発に成功したと発表した.本研究はJournal of the American Chemical Societyで公開された(注).

 リン脂質は細胞膜の主要成分であり,リン脂質を自己組織化で集合させた二重膜で作られるリポソームは,人工ナノカプセルとして知られている.薬剤を内包させてドラッグデリバリーや,化学反応の効率を高めるナノリアクターへの応用が期待されているが,リポソームには構造的に不安定という問題があった.一方,ナノカプセルの膜を,疎水性部位と親水性部位を併せ持つ両親媒性の合成ポリマーで作ると,膜の安定性を高めることは可能であるが,安定性と天然の細胞膜の持つ複雑な機能性を両立させることは困難であった.

 研究チームは,これまでの研究で,生体の細胞膜にはリン脂質とともに疎水性のαヘリックス構造を持つ膜タンパク質が含まれ,このαヘリックス構造を持つ両親媒性分子が束となって安定な膜を構成することを見出していた.本研究では,αヘリックス構造を持つ両親媒性ポリペプチドと,種々のリン脂質を共集合させ,細胞膜を模した膜を持つ共集合ナノカプセルの調製が試みられた.その結果,両親媒性ポリペプチドと,炭素14個のリン脂質であるDMPC(ジミリストイルホスファチジルコリン)を1:1~1:4の比率で混合すると,直径が75nmの均一な球状カプセル構造が得られることが分かった.蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による分光学的評価や円偏光二色性測定から,共集合ナノカプセルの膜には,ペプチド膜と脂質膜が均一に混和した状態ではなく,相分離状態で存在していることが示された.また,膜の流動性を示すLaurdanテストでも,流動性の低い膜と高い膜が共存する相分離膜であることが確かめられた.共集合ナノカプセルは4℃で30日間保存しても形状や分散状態は変わらず,安定であった.一般的なリポソームではこれほどの安定性は得られず,共集合により,両親媒性ポリペプチドが硬く安定な膜を形成するという特徴が,安定性に反映されたものである.

 示差走査熱量測定でナノカプセル膜のゲル(結晶状)-液晶(液体状)の相転移を調べると,共集合ナノカプセルの相転移は38℃付近であるが,両親媒性ポリペプチドの膜は14~46℃の範囲では相転移せず,DMPCのみで形成される膜の相転移は22℃付近であった.温度で相転移する脂質膜部分からの薬剤放出実験として,内包分子に蛍光分子のFITC(フルオレセインイソチオシアネート)と水溶性ポリマーのPEG2K(分子量2000のポリエチレングリコール)を結合させたFITC-PEG2Kを用い,37℃と42℃での放出量が比較された.共集合ナノカプセルは37℃では放出が抑えられ,42℃では80%近く放出するが,DMPCのみが集合したナノカプセルは37℃,42℃いずれの温度でも70~100%近い放出量となり,共集合ナノカプセルによる温度応答性内包分子の放出制御が確認された.

 研究チームは,本研究の成果である両親媒性ポリペプチドとリン脂質の共集合膜が,生体機能を持つ新たなナノ材料として利用されることを期待している.

(注)Md. Mofizur Rahman, Motoki Ueda, Takuji Hirose, Yoshihiro Ito, "Spontaneous Formation of Gating Lipid-Domain in Uniform-Size Peptide Vesicle for Controlled Release", Journal of the American Chemical Society, Article ASAP, DOI: 10.1021/jacs.8b09362; Publication Date (Web): December 10, 2018