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アミロイドβペプチドはなぜ細胞膜表面で凝集しやすいのか? ~アルツハイマー病の原因物質が形成される仕組みを解明~

 大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所は2018年12月26日,同機構生命創成探究センター/分子科学研究所の加藤晃一教授,奥村久士准教授らの研究グループが,アルツハイマー病発症の原因とされるアミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集が細胞表面で促進され,βヘアピン構造という互いの結合を促進する構造を取っているためであることを,分子動力学シミュレーションと核磁気共鳴分光法実験により,世界で初めて解明したと発表した.本研究は,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金,及び岡崎オリオンプロジェクトの支援を受けて行われ,本成果は,米国化学会刊行Journal of Physical Chemistry Bで公開された(注).

 高齢化社会の進展に伴い,認知症への関心が高まっている.その一つであるアルツハイマー症は,脳内でアミロイドβタンパク質(Aβペプチド)が凝集して蓄積することで発症すると考えられている.一般に,タンパク質は濃度が高くなると凝集し,オリゴマーという球状の物質やアミロイド線維という針状の物質を形成することがあり,タンパク質凝集体は30種類以上の病気の原因とされるので,凝集機構の解明が求められてきた.Aβペプチドの凝集は神経細胞の膜表面のような親水性・疎水性界面で促進されることが知られているが,その理由はまだ解明されていない.

 そこで,研究グループは,運動方程式を数値的に解くことで原子や分子の運動をコンピュータ上で再現する分子動力学シミュレーションと,磁場中の原子核が固有の周波数の電磁波と共鳴する現象により分子の構造などを調べる核磁気共鳴分光法実験により,凝集機構の解明に挑戦した.

 まず,Aβペプチドは40のアミノ酸を構成要素(残基)としているが,親水性アミノ酸残基と疎水性アミノ酸残基の両方を持っていることにより,細胞膜表面のような親水性・疎水性界面に存在する方が安定であるため,細胞表面に集まりやすいことが分かった.

 さらにAβペプチドは疎水性アミノ酸残基の多い範囲が二か所あり,親水性・疎水性界面ではこの領域がまっすぐに伸びて水素結合を作りやすくなる.同一分子内でこの二つの領域同士が水素結合したものをβヘアピン構造と呼ぶが,親水性・疎水性界面では,βヘアピン構造が水中よりも多く存在することを見出した.まっすぐに伸びた部分は近くに来た別のAβペプチドとも分子間水素結合を作りやすく,Aβペプチド同士が強く引き合い,結合して,大きくなるので,凝集が進む.

 すなわち,Aβペプチドは細胞膜表面に集まりやすく,互いに結合しやすい構造を取っているため,凝集が促進されることがわかった.

 本研究により,Aβペプチドが神経細胞の膜表面で凝集する機構を解明できた.今後,アルツハイマー病の原因物質が生成されないようにするための薬剤の開発に応用されることを期待している.

(注)Satoru G. Itoh, Maho Yagi-Utsumi, Koichi Kato, and Hisashi Okumura, "Effects of a Hydrophilic/Hydrophobic Interface on Amyloid-β Peptides Studied by Molecular Dynamics Simulations and NMR Experiments", Journal of Physical Chemistry B, Just Accepted Manuscript, DOI: 10.1021/acs.jpcb.8b11609; Publication Date (Web): December 13, 2018