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貴金属触媒を使わずバイオマスからプラスチック原料を合成 ~最適構造の二酸化マンガン触媒の開発に成功~

 東京工業大学と国立開発研究法人科学技術振興機構(JST)は2019年1月7日,東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の原 亨和教授,鎌田 慶吾准教授,大場 史康教授,および同大学元素戦略研究センターの熊谷 悠特任准教授らが,β-二酸化マンガン(β-MnO2)を触媒に用い,ポリエチレンフラノエート(PEF)の原料「2,5-フランジカルボン酸(FDCA)」を,再生可能なバイオマス由来の5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)から効率的に合成することに成功した,と発表した.本研究は,主にJST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)の支援を受けて行われ,研究成果は米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyのオンライン速報版で公開された(注).

 近年,プラスチックの原料を化石燃料から再生可能なバイオマス由来材料に切り替える動きがみられ,エチレングリコール(EG)とテレフタル酸から合成されるポリマーであるポリエチレンテレフタレート(PET)においても原料のバイオマス化が検討されている.バイオマス由来のEGはすでに実用されているものの,もう一方の原料であるバイオマス由来のテレフタル酸は実用レベルに至っておらず,100%バイオマス由来PETの商用生産は未だ実現されていない.テレフタル酸はベンゼン環の1,4位にカルボキシル基を有する化合物であるが,最近これに代わり,フランの2,5位にカルボキシル基を有するFDCAとEGから合成されるPEFがPETに類似する優れた特性を有することで関心が向けられるようになった.FDCAの原料であるHMFはバイオマスを原料として製造される5員環化合物で,これとバイオマス由来のEGから合成されるPEFは,バイオマス由来のPETに代わる完全なバイオマス由来プラスチック素材として期待される.

 本研究では,FDCAの原料であるHMFを酸化しFDCAを得るための酸化触媒の開発が行われた.これまでのHMF酸化によるFDCAの合成には主に貴金属触媒が使われていたが,この反応は過剰な強塩基が必要で,反応液に金属が溶出したり,触媒活性が低いなどの問題があった.研究グループは,酸化触媒として卑金属酸化物のMnO2に着目し,MnO2がとるさまざまな結晶構造について酸素の空孔生成エネルギーを理論計算で求めた.その結果,β-MnO2の酸素は空孔生成エネルギーが最も低く反応し易いことを見出した.そこで,研究グループが独自に開発した,アモルファス前駆体の低温結晶化法でβ-MnO2ナノ粒子を合成し,HMFの酸化実験を行って良好な触媒活性を確認した.ナノ粒子化したことで,比表面積が従来の熱水法で合成したβ-MnO2の14m2/gから82m2/gに増大し,触媒活性も向上した.β-MnO2/NaHCO3の存在下で水を溶媒としたHMFの酸化反応(酸素分圧1MPa,温度373K,反応時間24h)では,従来法のβ-MnO2触媒を用いると,中間生成物である5-ホルミル-2-フランカルボン酸(FFCA)の収率58%,目的生成物FDCAの収率は28%であったが,β-MnO2ナノ粒子ではFFCAの収率は1%に留まり,FDCAの収率は86%に向上した.

 本研究で開発した最適構造のβ-MnO2触媒の有用性やバイオマス変換反応への利用が確認された.更に,精密な理論計算や構造制御によりMnO2を利用した化学センサや電極材料などへの展開も期待されるという.

(注)Eri Hayashi, Yui Yamaguchi, Keigo Kamata, Naoki Tsunoda, Yu Kumagai, Fumiyasu Oba, and Michikazu Hara, "Effect of MnO2 Crystal Structure on Aerobic Oxidation of 5-Hydroxymethylfurfural to 2,5-Furandicarboxylic Acid", Journal of the American Chemical Society, Article ASAP, DOI: 10.1021/jacs.8b09917; Publication Date (Web): January 7, 2019