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新しいナノチューブ登場:ベンゼンを連結 ~構造の自在設計と特質制御を可能とする周期孔ナノチューブpNTの化学合成~

 東京大学,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)および東北大学は2019年1月11日,東京大学 大学院理学系研究科の磯部 寛之教授(JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクト研究総括)の研究グループが,周期的に孔の空いたカーボンナノチューブ(周期孔ナノチューブpNT)の化学合成に成功したことを発表した.芳香族カップリング反応を,独自の工夫を凝らして活用することで,ベンゼンを40個,筒状につなげることに成功したものである.この成果は,国際科学雑誌Scienceに掲載された(注).また,この成果は,海外のWebサイトのNanowerkでも取り上げられている.なお,この研究は,JST ERATOおよび科学研究費助成事業の一環として進められ,また,X線回折による分子構造決定には,一部,大型放射光施設Spring-8の最先端設備(BL38B1)が活用されている.

 カーボンナノチュ-ブ(CNT)は,新しい炭素材料として期待され,材料科学分野などで活用されはじめてきているが,物理的手法で製造されており,長さや太さが不揃いな混合物として提供されている.最近になり化学的な手法を用いることで,長さと太さが一義的に決まった筒状分子の製造が試みられ始めているが,まだ,ナノメートルにも満たない筒状分子の状態で,長いチューブの製造は実現されていなかった.

 本研究グループは,ナノチューブの化学合成に取り組み,芳香族カップリング反応と呼ばれる化学反応を用いることで,ベンゼン環を40枚,筒状につなぎ,円筒形の炭化水素分子C304H264を平均収率91%で合成出来た.周期的に孔が空いた新しいナノチューブ「周期孔ナノチューブpNT」である.ここで鍵となった芳香族カップリング反応は,ニッケル(Ni)を用いた「山本カップリング反応」,パラジウム(Pd)を用いた「鈴木カップリング反応」および白金(Pt)を用いた「大環状化反応」の3種を使い分け,ベンゼン環とベンゼン環の間に,合計52本の化学結合を行っている.化学反応の順序や反応に用いる基質を工夫することで,筒状構造を設計しているため,長さや太さの異なる周期孔ナノチューブの合成にも容易に発展可能である.今回の合成でつくりだした周期孔ナノチューブpNTのサイズは,筒状構造の長さはベンゼン環に換算して7枚分の1.71nm,太さは1.64nmである.この値は,筒状分子の化学合成分野において,熾烈な競争状態にあるなかで世界最長のナノチューブ分子であるという.

 研究グループは,さらにpNTを結晶化することに成功した.結晶中のpNT分子は,筒を揃えるように並び,「細孔結晶」と呼ばれる隙間の多い結晶となっていた.また,その隙間の中には,炭素分子フラーレンC70が取り込まれているのを発見した.構造解析から,pNT分子1つあたり,フラーレンC70分子が3つ取り込まれることが分かった.CNTにもあるpeapod(サヤエンドウ)という構造で,新しい特性が期待される.更に量子力学計算を活用した検討から,金属的特性のCNTを周期的な孔を持つナノチューブpNTに変換すると,半導体へと変換されることが分かった.今後の炭素材料設計において注目される成果である.

(註)Zhe Sun, Koki Ikemoto, Toshiya M. Fukunaga, Takashi Koretsune, Ryotaro Arita, Sota Sato & Hiroyuki Isobe, "Finite phenine nanotubes with periodic vacancy defects", Science, 11 Jan 2019, Vol. 363, Issue 6423, pp. 151-155, DOI: 10.1126/science.aau5441