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ストロンチウム光格子時計の実効的魔法条件の決定 ~19桁精度の時計の実現に向けて~

 国立研究開発法人 理化学研究所(理研),東京大学,国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2019年1月18日,理研開拓研究本部香取量子計測研究室の香取秀俊主任研究員(東京大学大学院工学系研究科教授)らの研究チームが,ストロンチウム(Sr)原子を用いた「光格子時計」の高精度化に向けて,光格子レーザーによる共鳴周波数のずれ(光シフト)を高次の効果まで含めて精密に評価した結果,光シフトの影響を最小とする光格子の「実効的魔法条件」を導き出したと共同発表した.本研究は,独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金特別推進研究,JST戦略的創造研究推進事業ERATOによる支援を受けて行われた.本成果は,米国物理学会の学術誌Physical Review Lettersに掲載された(注).

 現在の「秒」は,セシウム(Cs)原子が共鳴するマイクロ波周波数を基準とするCs原子時計で定義されており,4×10-16の精度である.一方「光格子時計」は,レーザー光を干渉させて作り出す光格子に原子を閉じ込め,その原子が吸収する光の共鳴周波数を基準とするもので,香取秀俊主任研究員(東京大学大学院工学系研究科助教授(研究当時))が2001年に考案し,2003年に実証した.現在では18桁精度の光格子時計が実現されている.今回の研究は,光格子時計の更なる高精度化を目指すものである.

 本研究チームは,19桁精度領域に踏み込むために,光格子レーザーの「実効的魔法条件」を提案した.一般に電場中の原子は,吸収する光の周波数が変化(光シフト)する.光格子にトラップされた原子では,ニつの電子状態間のシフト量の差分だけ共鳴周波数が変化するが,「魔法周波数」で光トラップすると,二状態の電気分極率が等しくなる結果,光シフトは等しくなり,共鳴周波数の変化をゼロにできる.魔法周波数は17桁の周波数精度では十分良い近似であるが,18桁精度では原子の電気四重極子/磁気双極子や超分極(電界の3乗に比例する分極の成分)により,光シフトはレーザー強度に対して非線形に応答し,原子の振動量子状態にも依存してくる.これら高次効果も含めた光シフトを19桁の精度で低減するレーザー強度,周波数,原子の振動量子状態に,光格子時計の動作点を設定する実効的魔法条件を,Sr原子光格子時計で決定した.

 実験では先ず,光共振器によって光格子のレーザー光強度を従来の約20倍に高め,超分極による非線形な光シフトを計測した.次に光格子中原子の振動量子状態がn=1とn=0のときの光シフトの差を測定し,電気四重極子/磁気双極子効果による光シフトを計測した.これらの結果から,光シフトの影響を最小とするSr光格子時計の実効的魔法条件として,①トラップ深さが光子反跳エネルギーの72倍となる光格子レーザーの強度,②電気双極子相互作用のみを考慮した魔法波長に対し5.3MHz高い周波数,を実験的に決定した.

 光格子光シフトの低減は,光格子時計の高精度化に向けた最重要課題であり,実効的魔法条件の決定は,19桁精度の光格子時計の実現に向けた重要なステップとなる.Cs原子時計の精度を3桁上回る19桁精度の光格子時計の実現は,新しい「秒」の定義へと移行する推進力となる,としている.

(注)Ichiro Ushijima, Masao Takamoto, and Hidetoshi Katori, "Operational Magic Intensity for Sr Optical Lattice Clocks", Physical Review Letters, Vol. 121, p. 263202 - Published 28 December 2018, DOI: 10.1103/PhysRevLett.121.263202.