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金属型/半導体型カーボンナノチューブ(CNT)を分離するメカニズムを解明 ~実用性能をもつ半導体型CNTの量産化への道~

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST)は2019年2月7日,同ナノ材料研究部門CNT機能制御グループの桒原有紀研究員,斎藤毅研究グループ長らが,高純度半導体型CNTの製造基盤技術である電界誘起層形成法(ELF法)について,金属型/半導体型CNTの分離メカニズムを解明し,これにより分離コストを削減し分離時間も短縮できたと発表した.本研究の一部は公益財団法人日本板硝子材料工学助成会の研究助成,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費助成事業,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト」による支援を受けて行われ,成果の詳細は米国化学会の学術誌Journal of Physical Chemistry Cにオンライン掲載された(注).

 フレキシブルで大面積の電子デバイス製作に適し,省エネルギーで省資源技術であるプリンテッドエレクトロニクスが注目され,半導体型の単層CNTが高機能インク材料として有望である.通常のCNTには金属型と半導体型が混在しており,デバイスは半導体型で作られるので.その分離に電界誘起層形成法(ELF法:Electric-field-induced layer formation method)が開発されている.ELF法はCNTを非イオン性界面活性剤で分散した分散液の上下方向に電圧をかけて,金属型と半導体型のCNTを分離する方法である.デバイスの歩留まり向上や性能ばらつきを抑えるため,半導体型CNTのさらなる品質向上と,分離コストの低減や分離時間の短縮が望まれているが,これまでELF法の分離メカニズムの詳細は明かではなかった.

 本研究において,研究グループは,分散されたCNTのゼータ電位測定手法を新たに開発し,CNTのゼータ電位に及ぼす界面活性剤濃度とpHの影響を調べ,ELF法の分離メカニズムを解明し,分離条件を最適化した.半導体型CNT,金属型CNT何れもゼータ電位は負であり,界面活性剤濃度が高いほど電位が高くなる(0Vに近づく).また,pHが高いほどゼータ電位が大きくなる(負電位が大きくなる)が,界面活性剤濃度とpHが同じ条件であれば,金属型CNTのゼータ電位は,常に半導体型CNTの凡そ1/3以下である.ELF法装置の粒子分散液に電界をかけると,負に帯電した粒子は陽極側へ電気泳動するが,無電荷もしくは負に帯電しても帯電量が少ない粒子は,反作用で電気浸透流となって陰極側に移動する.さらに詳細に調べると,非イオン性界面活性剤も半導体型CNTと同程度に負に帯電しており,界面活性剤も電気泳動するため装置内で界面活性剤の濃度勾配が形成されることが分った.また,電極反応により陰極では水酸化物イオンが,陽極では水素イオンが生成するためpH勾配が形成されることも分った.これらの影響を受け,時間とともにELF法装置内の位置によりCNTのゼータ電位が異なることになる.即ち,陰極側はpHが高く界面活性剤濃度が低くCNTはより大きなゼータ電位を持つ.一方,陽極側では界面活性剤濃度が高く,pHが低いためCNTのゼータ電位が小さくなる.このようなメカニズムで金属型と半導体型CNTの分離が促進され,それぞれの電気泳動と電気浸透流の力が釣り合う位置に金属型CNTと半導体型CNTの層が形成される.金属型と半導体型の効率的な分離には,分散能力が高くわずかに負に帯電する非イオン性界面活性剤を用いることが有効であり,従来のELF法と比較して分離コストを9割削減し,分離時間は半減できた.

 研究グループは,今後,CNTデバイス用インクの開発と印刷技術の開発に取り組むとしている.

(注)Yuki Kuwahara , Fusako Sasaki, and Takeshi Saito, "Environment Effects on the Charge States of Metallic and Semiconducting SWCNTs during Their Separation by the Electric-Field Induced Layer Formation Method",  Journal of Physical ChemistryC , Article ASAP, DOI: 10.1021/acs.jpcc.8b10192; Publication Date (Web): February 6, 2019