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スピントロニクス集積回路技術を用いて,高性能・超低消費電力不揮発マイコンを世界で初めて実証

 東北大学および国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2019年2月19日,東北大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンターおよび国際集積エレクトロニクス研究開発センター センター長の遠藤 哲郎教授,同大学 省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンターおよび電気通信研究所の羽生 貴弘教授,夏井 雅典准教授らの研究グループが,内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「無充電で長期間使用できる究極のエコIT機器の実現」の大野社会実装分科会 スピントロニクス集積回路プロジェクトにおいて,STT(スピン移行トルク)型MTJ(磁気トンネル接合)素子とSi-CMOS技術を組み合わせた集積回路技術を用いて高性能(動作周波数200MHz)と超低消費電力(平均電力50μW以下)を両立する不揮発マイコン(マイクロコントローラーユニット:MCU)を世界で初めて実証したと発表した.本成果は2019年2月19日,米国電気電子学会主催の国際固体素子回路会議(ISSCC)で発表された(注).

 これまで情報化社会の進展を支えてきた半導体集積回路では,微細化と低電源電圧化により大規模化,低電力化,高性能化を進めてきたが,待機時のメモリ情報保持電流,論理回路のリーク電流(サブスレショールド電流)増大等によりその進化は鈍り,IoTとAIによる超スマート社会Society 5.0の実現において鍵技術の一つのセンサーノードに適用するには高性能と低電力を両立させる抜本的技術革新を行う必要がある.

 この問題を解決するため,電子が持つ電荷の性質と磁石の性質(スピン)の両方を利用した技術“スピントロニクス”の研究開発が行われている.その代表的な素子のSTT磁気トンネル接合を不揮発性記憶素子としてシリコンのCMOS技術と融合させることで磁気ランダム・アクセス・メモリ(STT-MRAM)が実現し,課題である不揮発性,高速動作,定電圧動作,高速書き換え耐性を同時に解決することが期待される.

 ImPACTのプログラムで,IoT時代への貢献を目指して「環境にあるエネルギーを活用するエナジーハーベスティングで駆動する超低消費電力情報処理集積回路の実現」を目指した研究開発を進めてきた研究グループは,この度,最大動作周波数200MHzで平均消費電力50μW以下の動作を可能とするMCUの開発に成功した.本MCUは,40nm CMOSプロセスと39nm MTJプロセス並びに300mmウエハ集積プロセス技術を採用している.4.7mm角のチップは,不揮発性CPUと周辺回路,STT-MRAM,不揮発性FPGA(Field Programmable Gate Array)で構成されており,メモリおよび演算部は全て不揮発化するとともに,センサーノード応用におけるさまざまな信号処理を高速に実行するための再構成型演算モジュール,および,演算部とメモリのデータ転送ボトルネックを緩和することでシステム全体の高速化を可能とするメモリコントローラを組み込むことで,これまでにない革新的な超低消費電力性と高速動作性を実現した.評価結果,200MHzの高速動作と平均消費電力47.14μW(センサーノード応用における一般的な間欠動作条件)を確認している.これまでに比べて,2倍以上の演算性能の向上と2桁以下の低消費電力化を同時に実現できていることになる.今後,グループは,内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の課題「超低消費電力MTJ/CMOS Hybrid IoTデバイス基盤技術の研究開発」で引き続き研究開発を進展させる.

(注)M. Natsui, D. Suzuki, A. Tamakoshi, T. Watanabe, H. Honjo, H. Koike, T. Nasuno, Y. Ma, T. Tanigawa, Y. Noguchi, M. Yasuhira, H. Sato, S. Ikeda, H. Ohno, T. Endoh, and T. Hanyu, "An FPGA-Accelerated Fully Nonvolatile Microcontroller Unit for Sensor-Node Applications in 40nm CMOS/MTJ-Hybrid Technology Achieving 47.14 μW Operation at 200 MHz", ISSCC, Session 12 Emerging Technologies, No. 12.1(2019).