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物性・原理

ナノ空間に閉じ込められた水の「負の誘電率」を発見 ~高エネルギー密度キャパシタ開発への新たな指針~

 東京大学(東大)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2019年2月21日,東大 大学院工学系研究科の山田 淳夫教授らのグループが,産総研 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター統合シミュレーション実験検証チームの大谷 実研究チーム長らとの共同研究により,MXene(マキシン)と呼ばれる層状化合物の層間ナノ空間にリチウムイオン(Li+)とともに閉じ込められた水分子が「負の誘電率」を持つことを見出した,と発表した.本研究の一部は,独立行政法人 日本学術振興会 科学研究費補助金などの支援を受けて行われ,成果は英国学術誌Nature Communications電子版に掲載された(注).

 電気二重層キャパシタ(EDLC: Electric Double-layer Capacitor)は,繰り返し利用による劣化がほとんどなく,リチウムイオン電池にくらべて高出力,などの特徴から,電力の高効率な利用を可能にする蓄電デバイスとして,応用範囲の拡大が期待されている.EDLCでは,電気が電子とイオンがペアになって蓄えられ,イオンは水分子と結合して微小な空間(ナノ空間)に閉じ込められることが知られていた.しかし,この水分子の特性は不明で,効果的に電子とイオンを閉じ込 める指針も知られていなかった.

 山田教授らは,層状化合物MXene(組成:Ti2C(OH)0.3O0.7F0.6Cl0.4)を電極材料とし,アルカリ金属イオン:ルビジウム(Rb+),カリウム(K+),ナトリウム(Na+),Li+の水溶液を用いたEDLCを作成して,EDLC容量を測定した.Rb+からLi+に向かって水和イオン半径が大きく,イオン-電極間距離が大きくなるので容量は小さくなるとの予想に反して,容量は大きくなり,Li+とRb+では1.7倍程度の差が生じていた.

 そこで大宮チーム長らは,層間ナノ空間にイオンと水分子を閉じ込めた状態について古典溶液論と第一原理計算に基づいた計算シミュレーションを実施し,層間ナノ空間に生じる静電ポテンシャル分布がイオン種に大きく依存することを見出し,閉じ込められた水分子の「負の誘電率」を考慮することによりEDLC容量のイオン-電極間距離依存性を説明できることを示した.

 静電ポテンシャルは電極間で井戸状に低下し,大きいRb+は井戸の底にすっぽりはまってRb+の電位は底に止まる.これに対して小さいLi+は井戸の壁との空間により双極子を作って,Li+の電位は底より高くなる.この異常な電位分布は,層状化合物に閉じ込められた水分子が,電子とLi+との間で生じるサブnmオーダーの変調を持つ外部電場と共鳴して,ナノ空間に外部電場とは逆方向の内部電場を形成したことによっている.この外部電場を打ち消す内部電場の形成が,「負の誘電率」,それに伴うEDLC容量増加をもたらしたと結論づけられた.

 ナノ空間において電子,イオンと共に閉じ込められた水分子が負の誘電率という異常な物性を持つことは,ナノ科学における重要な知見となり,電気二重層キャパシタを高エネルギー密度化する新たな指針を提示したものとしている. 

(注)Akira Sugahara, Yasunobu Ando, Satoshi Kajiyama, Kazuma Gotoh, Koji Yazawa, Minoru Otani, Masashi Okubo, Atsuo Yamada, "Negative dielectric constant of water confined in nanosheets", Nature Communications, Vol. 10, Article number: 850 (2019), doi: 10.1038/s41467-019-08789-8; Published 20 February 2019