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原子3個分の直径しかない極細ナノワイヤーの精密多量合成を実現 ~「ナノ試験管」を用いた鋳造反応~

 首都大学東京と名古屋大学は2019年3月6日,首都大学東京大学院理学研究科の中西 勇介助教,国立研究開発法人産業技術総合研究所無機機能材料研究部門の劉 崢上級主任研究員,同ナノ材料研究部門の末永 和知首席研究員,名古屋大学大学院理学研究科の篠原 久典教授ら,同大学大学院工学研究科の岸田 英夫教授ら,東京大学大学院工学研究科の志賀 拓麿講師らの研究チームが,原子3個分の直径しかないトラス状のナノワイヤー(NW)の合成に世界に先駆けて成功した,と発表した.本研究の一部は,独立行政法人日本学術振興会の科学研究費補助金,および,国立研究開発法人科学技術振興機構次世代人材育成事業の支援を受け,岐阜県立岐阜高校と愛知県立一宮高校の生徒も参加して行われ,研究成果は米国化学会誌Nano Lettersに掲載された(注).

 遷移金属モノカルコゲナイド(Transition Metal Monochalcogenide,TMM)は,酸素族元素と遷移金属元素からなる直径1nmほどの針状一次元物質である.TMMはNWとしてナノスケールデバイスの配線材料への期待があるが,ファンデルワールス力により凝集して束になり易いため,実験的な研究はほとんど進んでいなかった.また,これまでのTMM NWの製法は,TMMの結晶に電子ビームを照射してTMM NWを削り出すことで行われていたが,欠陥が多く,短尺で収率も低いという問題があった.このような課題に対し本研究グループは,TMM NWをカーボンナノチューブ(CNT)の内部に作り出すことを想起した.CNTは直径1~数nmの円筒状の炭素でできたチューブである.本研究では,CNTの内部空間を試験管(反応場)および鋳型として利用し,TMM NWが合成された.CNTを遷移金属であるモリブデン(Mo)原子と,カルコゲナイドであるテルル(Te)原子を含んだ蒸気に接触させると,Mo原子やTe原子がCNTに取り込まれ,CNTの内部で自発的にTMM NWが成長した.このNWは,Mo原子とTe原子で構成された正三角形が,交互に反転しながら0.48nmのピッチで積層したトラス構造を形成している.得られたNWの長さは約1000nmに達し,従来の方法に比べ50倍以上長く高品質であった.電子顕微鏡写真を見ると上下にずれながら横に3個の原子が並び,NWの直径は0.7nm程度であった.研究グループでは,TMM NWが1本ピッタリ収まる直径のCNTを使用してTMM NWの単離にも成功した.単離されたTMM NWは,束になっているときと同様に伸縮振動をしていることがラマン分光法の観察で明らかにされ,密度汎関数法による解析から,この振動がNWの直径方向の伸縮に起因することが分かった.さらに,X線光電子分光法により,TMM NWはCNTとは共有結合を持たず,孤立した状態に近い状態で存在することも分かった.このTMM NWを原子分解能透過型電子顕微鏡の電子ビームで照射すると,敏感に反応してところどころ捩じれる様子が観察された.このような挙動はこれまでの束になったNWでは見られなかった新たな性質であり,今後,発光や電流のON/OFF切り替えなどの応用が期待できるという.

 本研究で得られたTMM NWは極めて安定であり,これまで難しかった実験的な物性評価が可能になる.研究グループでは,さらに詳細な生成機構の解明を進めるとともに,今後は,Mo,Te以外の元素の組合せの探索や,複合材料としての評価にも取り組みたいとしている.

(注)M. Nagata, S. Shukla, Y. Nakanishi, Z. Liu, Y.-C. Lin, T. Shiga, Y. Nakamura, T. Koyama, H. Kishida, T. Inoue, N. Kanda, S. Ohno, Y. Sakagawa, K. Suenaga, and H. Shinohara, "Isolation of Single-Wired Transition-Metal Monochalcogenides by Carbon Nanotubes", Nano Letters, Article ASAP, DOI: 10.1021/acs.nanolett.8b05074; Publication Date (Web): February 24, 2019