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酵母を用いて木材パルプからキシリトールとセルロースファイバーの併産に成功 ~環境にやさしい物質製造プロセスの開発~

 神戸大学は2019年3月18日,同大学大学院科学技術イノベーション研究科のGUIRIMAND-TANAKA Gregory特命助教,近藤昭彦教授,および,同大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授らの研究グループが,細胞表層を加工した新規酵母細胞を用いることで,製紙過程で生成するクラフトパルプ(KP)を汎用化学品(キシリトール)と高純度セルロースファイバーに変換することに成功した,と発表した.本研究は,文部科学省先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム「バイオプロダクション次世代農工連携拠点」により行われ,成果は,英国王立化学会刊行Green Chemistryに掲載され(注),海外科学サイトScienceDailyでも紹介された.

 化石資源を原料とする石油化学に依存する現代社会は,資源枯渇や温室効果ガスの排出による地球温暖化の問題を抱えている.それに対し,再生可能な植物由来のバイオマスを原料とし,環境にやさしい微生物プロセスによるバイオリファイナリーの構築が期待されている.バイオマスを化学製品の原料に利用する際の有力な候補のひとつが,製紙工程の中間生成物として大量に使用され,セルロースとヘミセルロースを多く含むKPである.KPに含まれるセルロースは,微細繊維化や高純度化することで近年付加価値が高まっているが,キシロースの重合体であるキシランを主成分とするヘミセルロースには用途がなく,KPを有効に利用するにはヘミセルロース活用方法の開発が必要であった.

 本研究において,研究グループは,微生物を用い,キシランを医薬品や食品などの産業用原料となるキシリトールに変換する手法の開発に取り組んだ.キシランをキシリトールに変換するには,キシロオリゴ糖からキシロールを経てキシリトールに還元する複数のステップが必要であるが,これを効率的に実現する微生物はこれまで存在しなかった.本研究では,細胞表層にキシラン分解酵素を集積し,細胞の内部にキシロース還元酵素を蓄積する新たな酵母株が開発された.この酵母は,細胞表層に局在するタンパク質に,異種生物由来のタンパク質を融合させる細胞表層工学技術を応用して作られたもので,本研究では,3種類のヘミセルロース分解酵素[キシラナーゼ(XYN),キシロシダーゼ(XYL),β-グルコシダーゼ(BL)]が用いられた.更に,この酵母にはキシロース還元酵素(XR)が細胞内に蓄積された.開発された酵母とKPに2%の市販酵素剤を混ぜて96時間発酵させたところ,転化率44%に相当する培養液1ℓあたり3.7gのキシリトールが得られ,同時に残渣のセルロースの含有率も78%から87%に向上した.電子顕微鏡観察により,1μm以下のセルロースファイバーが形成され,細胞表層の酵素が効率的にヘミセルロースを分解していることが分かった.

 本研究で開発された細胞表層と細胞内代謝を改変した酵母を用いることで,高温や高圧を必要としない環境調和型のプロセスで,バイオマスを原料として汎用化学品であるキシリトールと,ナノファイバーとして注目されているセルロースファイバーの併産が可能になった.研究グループでは,本成果が,バイオマスから汎用化学品の製造や,セルロースナノファイバーの製造プロセス改良につながることを期待している.

(注)G. Guirimand, K. Inokuma, T. Bamba, M. Matsuda, K. Morita, K. Sasaki, C. Ogino, J.-G. Berrin, T. Hasunuma, and A. Kondo, "Cell-surface display technology and metabolic engineering of Saccharomyces cerevisiae for enhancing xylitol production from woody biomass", Green Chemistry, 2019, Advance Article, DOI: 10.1039/C8GC03864C; first published on 04 Mar 2019