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電子と正孔の両方が「波動」性を示す有機半導体pn接合の実証 ~有機半導体エピタキシー技術が新しい有機太陽電池開発の可能性を拓く~

 東京理科大学,自然科学研究機構分子科学研究所(分子研)および公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)は2019年3月25日,東京理科大学理工学部先端化学科 中山泰生講師が,分子研,ならびに千葉大学,JASRI,産業技術総合研究所(産総研)の研究グループとの共同研究により,分子を非常に規則的に整列させた有機半導体pn接合において,電子が素早くスムーズに動くことのできる「波動」的な状態になることを実証したことを発表した.本研究は科学研究費助成金等の支援を受け,成果は,米国化学会刊行The Journal of Physical Chemistry Letters誌にオンライン掲載された(注).

 モノのインターネット(IoT)の時代においては,低コストで設置場所を選ばない自立電源の存在が必要となる.その候補として,有機太陽電池が期待されている.しかし,これまでの有機太陽電池は現在主流のシリコン太陽電池などに比べて光電変換効率が低く,実用化のためにはその向上が望まれていた.

 光電変換効率が低い理由は,普通の半導体太陽電池では,「pn接合」において負の電荷を持った電子と正の電荷を持った正孔とが光エネルギーで分離し,自由に動くキャリアになることによって発電する.有機太陽電池では,電子を受け取りやすいアクセプター分子(n型有機半導体)と,電子を放出しやすいドナー分子(p型有機半導体)の中で,光で発生した励起子が分子中を移動して両分子の界面(pn接合)に到達して電子と正孔のキャリアを発生する.ここで励起子の寿命は0.1ミクロン移動する時間くらいに短いので,早く界面に到達するように両分子を混ぜて0.1ミクロン程度まで入り組ませた複雑な構造にしている.ところが,その複雑構造はできたキャリアの移動を妨げ,有機太陽電池の光電変換効率を落とすことになる.

 キャリアを素早くスムーズに移動させるためには,電子の状態が複数の分子にまで広がった“波”としての性質(波動性)をもっていることが必要である.そのためには,有機半導体材料の分子が規則正しく整列した結晶状態にある必要があり,また,この場合,励起子が移動できる距離も長くなることが知られている.今回の研究では,分子線エピタキシー(MBE)法を有機半導体材料に適用した有機半導体エピタキシー技術により,ドナー分子(ペンタセン)の単結晶の上に直接アクセプター分子(フッ化ペンタセン)を規則的に整列させ,良好なpn接合を形成することに成功した.研究グループは,ベンゼン環が5つ連なったペンタセン(C22H14)単結晶が価電子バンドのエネルギー分散を示すことを既に明らかにしてきたが,フッ化ペンタセン(C22F14,ペンタセン分子のもつ水素原子を全てフッ素原子で置き換えたもの)について,角度分解紫外光電子分光法による計測で,電子が波動的な性質を示す証拠となる価電子バンドの形成を明らかにした.また,大型放射光施設SPring-8を利用した最先端の薄膜X線回折実験により,ペンタセン単結晶の上でフッ化ペンタセンが結晶方位の揃った高品質な結晶薄膜を形成することを明らかにした.

 本研究結果は,電子も正孔も波動的な状態を示す有機半導体pn接合が有機半導体エピタキシー技術によって実現可能であることを,初めて直接的に証明したことになる.

(注)Y. Nakayama, R. Tsuruta, N. Moriya, M. Hikasa, M. Meissner, T. Yamaguchi, Y. Mizuno, T. Suzu-ki, T. Koganezawa, T. Hosokai, T. Ueba, and S. Kera, "Widely Dispersed Intermolecular Valence Bands of Epitaxially Grown Perfluoropentacene on Pentacene Single Crystals", The Journal of Physical Chemistry Letters, Vol. 10, Issue 6, pp. 1312-1318 (2019), DOI:10.1021/acs.jpclett.8b03866; Publication Date (Web): February 15, 2019