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ミノムシの糸の強さの秘密を構造科学的に解明 ~次世代構造材料として期待~

 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と豊田工業大学は2019年4月15日,農研機構 生物機能利用研究部門の亀田恒徳ユニット長,吉岡太陽研究員ら,および豊田工業大学の田代孝二特任教授との共同研究チームが,国立研究開発法人理化学研究所 大型放射光施設(SPring-8)太田昇博士の協力の下,ミノムシの糸の強さの発現要因を構造科学的に解明した,と発表した.本研究の成果は国際科学誌Nature Communicationsにオンライン公開された(注).

 カイコやクモの作り出す天然繊維である「シルク」は,強さと伸びを兼ね備えた次世代の高タフネス材料として期待されている.農研機構は,ミノムシの糸が従来の「シルク」に比べ弾性率,破断強度,タフネスの全てで従来の「シルク」を上回ることを見出し,実用化に取り組んできた.しかし,ミノムシの糸が他の「シルク」に比べ優れた強さを持つ理由は解明されておらず,ミノムシの糸の強度への科学的な裏付けが求められていた.本研究において研究チームは,SPring-8(BL40B2)を利用した放射光X線散乱実験により,ミノムシの糸の階層構造を調べ,さらに,ミノムシの糸の延伸過程における階層構造の変化と力学特性の関係から,ミノムシの糸の強さの理由を明らかにした.

 「シルク」はタンパク質から作られる繊維であり,タンパク質の一次構造(アミノ酸配列),二次構造(コンフォメーション),結晶構造からなる階層構造で構成され,加えて結晶から非晶の凝集状態に至る幅広い構造を持っている.本研究において,X線散乱解析により,ミノムシの糸は,22個のアラニン残基が連結したブロックと,45個の非アラニン残基が連結したブロックからなる長さ23nmのβシート結晶部分と,長さ16nmの非晶部分からなる長さ39nmのユニットの繰り返しで出来た線状のタンパク質が集合し,直径150nmのナノフィブリルとなり,さらにそれらが直径5μmに束ねられた構造であることが分かった.これは他の「シルク」に比べ圧倒的に高い秩序性を有する階層構造であるという.次いで,SPring-8のX線が高強度で高い平行性を持つことを活用し,ミノムシの糸を延伸しながら糸が破断するまでの階層構造の変化が,広角小角同時・時分割X線散乱測定により調べられた.それによると,ミノムシの糸の破断応力は約1.4GPa,破断歪は約23%で,延伸過程においてもその糸の構造は高い秩序性を保ち,試料破断に至るまで結晶部分の弾性的変形が維持され,試料破断時の結晶部分の歪は約1.4%であることが分かった.それに対し,カイコ(家蚕)の糸の破断応力は約0.43GPa,破断歪は約18%であるが,試料の歪みが13%程度のときに結晶領域は1.7%程度まで変形して降伏する.また,野蚕の糸も,破断応力は約0.4GPa,破断伸度は約25%であるが,結晶領域は試料歪みが5%程度のときに1.5%程度まで変形して降伏する.このように,カイコや野蚕の糸は,試料が破断する前に結晶領域が降伏してしまい,結晶領域の糸の強度への寄与が失われることが,ミノムシの糸に比べ強度が低い理由であることが明らかになった.

 本研究の成果は,タンパク質合成や遺伝子組み換え生物などによる人工シルクの設計指針として役立ち,さらには,「生物機能を活用したモノづくり」による持続可能な成長社会実現にも貢献が期待されるという. 

(注)Taiyo YOSHIOKA, Takuya Tsubota, Kohji TASHIRO, Akiya JOURAKU, and Tsunenori KAMEDA, "A study of the extraordinarily strong and tough silk produced by bagworms", Nature Communications (2019) 10: 1469, DOI: 10.1038/s41467-019-09350-3;