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光コヒーレント伝送方式のための新しい受信方式を開発 ~高速集積型受光素子で受信した光の強度情報から位相情報を回復~

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は2019年4月25日,NICTネットワークシステム研究所が独自に開発した高速集積型受光素子と位相回復信号処理アルゴリズムを用いて,新たな光コヒーレント受信方式の実証実験に成功したと発表した.本実験の結果は,米国サンディエゴで3月に開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第42回光ファイバ通信国際会議(OFC2019)で発表され,最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択された(注).

 長距離系光ファイバ通信網では,光の強度と位相に情報を乗せる光コヒーレント伝送により,毎秒100Gビットを超える大容量通信を実現している.光信号の受信に用いられる受光素子は光の強度は検出できるが位相は検出できないため,光コヒーレント方式信号の受信には高精度なローカル光源や複雑で精密な光ハイブリッド回路が必要となる.光アクセス網でも光コヒーレント伝送を導入して100Gビットへの大容量化が期待されるが,受信機の小型化・低コスト化が求められるため,光コヒーレント伝送の導入は実現してない.

 今回NICTは,独自の超小型・高速の二次元集積型受光素子と新たに開発した位相回復信号処理アルゴリズムを組み合わせ,受信機内の光回路を大幅に削減した「位相回復型コヒーレント受信方式」を提案し,その実証実験に成功した.本方式では,①光散乱体により受信した光の位相を二次元的な強度パターンに変換,②散乱体で変換された強度パターンを二次元集積型受光素子で画像的に一括受光,③位相回復信号処理アルゴリズムにより強度パターンから光の位相を逆算,の3ステップでコヒーレント受信する.

 位相回復技術は天文物理学,X線回折や透過型電子顕微鏡の分野では知られているが,計算量の大きさなどから高速光通信へは応用されてなかった.今回,計算量の少ない一般化最急降下法に基づく位相回復アルゴリズムに,最適化手法SOAV(Sum-of-Absolute-Values)を用い,光変調方式に関する事前知識(今回はQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調:4相位相偏移変調)を取り込むことで,頑強かつ低演算量の位相回復アルゴリズムDRAF(Discreteness-aware RAF)を新たに開発した.

 本実験では,毎秒40Gビット相当の偏波多重QPSK信号を伝送し,位相回復型コヒーレント受信に成功した.光散乱体として標準マルチモードファイバ(1.6km)を採用し,ファイバ中の複数の伝搬モード間の干渉及び群速度分散で生じる信号歪みを利用して位相情報を光強度に変換する.二次元集積型受光素子は,NICT開発の10GHz超帯域を持つ32ピクセル高速集積型受光素子を使用(0.35mm四方に32ヶ集積,うち8~12素子のみを利用)した.受信した偏波多重QPSK信号は,位相回復アルゴリズムDRAFを用い位相回復処理を400回以上反復させることで,光通信で許容されるビット誤り率以下で伝送することができた.

 本成果により,光源や複雑で精密な光回路が不要で,超小型でシンプルな光コヒーレント受信機が実現可能となり,受信機の小型化・低コスト化が求められる光アクセス網の大容量化が期待できる,としている.

(注)Yuki Yoshida, Toshimasa Umezawa, Atsushi Kanno, and Naokatsu Yamamoto, "Coherent Detec-tion only by 2-D Photodetector Array: A Discreteness-aware Phase Retrieval Approach",
OFC2019 (Optical Fiber Communication Conference 2019) Postdeadline Papers, paper Th4A.3, doi: 10.1364/OFC.2019.Th4A.3; Presented on March 7, 2019