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生体内で宇宙船の様に核酸医薬とランデブーし,ドッキングしながら脳腫瘍に到達して標的治療を行うナノマシンを開発

 東京大学は2019年4月25日,片岡一則 川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター長/同大学未来ビジョン研究センター特任教授,宮田完二郎同大学大学院工学系研究科准教授,近藤豊 名古屋大学大学院医学系研究科教授らの研究グループが,失活しやすい核酸医薬を血流中で安定に保護し,膵臓がんや脳腫瘍などの難治がんへ送り届けるための技術「核酸医薬搭載ナノマシン」の開発に成功したことを発表した.この研究成果は,学術誌Nature Communicationsで公開された(注).なお,本研究は,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(P-DIRECT)」「次世代がん医療創生研究事業(P-CREATE)」「革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業(ibiomed)」,および独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業の支援によって行われた.

 Small interfering RNA(siRNA)に代表される核酸医薬は,その塩基配列に応じて特定の遺伝子発現を調節できることから,がんやアルツハイマー病などの遺伝子変異に由来する難病に対する新規治療薬として期待されている.しかしながら,核酸医薬は血流中ではすぐに代謝されてしまい,疾患組織への到達効率は低いという問題があった.これに対処するため,核酸医薬のドラッグデリバリーシステム(以下,核酸デリバリーシステム)が広く研究されており,2018年には,siRNAを内包した脂質ナノ粒子が肝臓を標的とする世界初のsiRNA医薬(トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス治療薬)として承認されている.血管から組織側への隙間が非常に大きく,脂質ナノ粒子は血流を通じてがん細胞へのアクセスが容易な肝臓がんでは効果があるが,膵臓がんの場合,血管とがん細胞の間に線維性の間質組織(メッシュ構造)が張り巡らされており,脳腫瘍組織の場合,血管壁の隙間がもともと小さいためにナノ粒子のアクセスは著しく制限される.

 今回,研究グループがこの問題解決のために開発した核酸医薬搭載ナノマシンは,Y字型で,Y字のうち,2本の枝は,生体適合性に優れるポリマー(ポリエチレングリコール),残りの 1 本の枝は,核酸医薬とドッキングするポリマー(ポリリシン)でできている.それぞれの枝の長さを調節することにより,Y字型ポリマーは,血液中でのランデブーによって選択的に核酸医薬にドッキングする.一方で,それ以外の生体成分との相互作用は低く抑えられて,血流中で核酸医薬を安定に保護している.また,このナノマシンは,形と長さが精密に調節されたポリマー1~2分子と核酸医薬1分子から形成されるため,脂質ナノ粒子と比べてサイズが抗体医薬と同等の約20nmと小さく,膵臓がんの間質組織や脳腫瘍の血管壁を潜り抜けることが可能になる.

 モデルマウスを用いた実験で,デリバリーした核酸医薬が膵臓がん組織及び脳腫瘍に効果的に集積する様子,更に,自然発生膵臓がんモデルマウスや脳腫瘍移植モデルマウスに対して,顕著な延命効果が認められた.とりわけ,脳腫瘍モデルマウスに対しては,全例を生存させることに成功した.現在,設立したベンチャー企業において,この核酸医薬搭載ナノマシンを医薬品として実用化するための取り組みが進められている.

(注)S. Watanabe, K. Hayashi, K. Toh, H. J. Kim, X. Liu, H. Chaya, S. Fukushima, K. Katsushima, Y. Kondo, S. Uchida, S. Ogura, T. Nomoto, H. Takemoto, H. Cabral, H. Kinoh, H. Y. Tanaka, M. R. Kano, Y. Matsumoto, H. Fukuhara, S. Uchida, M. Nangaku, K. Osada, N. Nishiyama, K. Miyata & K. Kataoka, "In vivo rendezvous of small nucleic acid drugs with charge-matched block catiomers to target cancers", Nature Communications Vol. 10, Article number: 1894, doi: 10.1038/s41467-019-09856-w; Published: 24 April 2019