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新しい原理のテラヘルツ検出器を開発 ~MEMS技術により室温で高感度・高速動作~

 東京大学は2019年5月7日,同大学生産技術研究所 光物質ナノ科学研究センターの平川 一彦教授,張 亜特任助教(現:東京農工大学準教授)らの研究グループが,MEMSと呼ばれる微小機械共振構造を用いて,室温で,高速・高感度にテラヘルツ電磁波(THz波)を検出する新しい動作原理の素子を開発した,と発表した.本研究は,国立研究開発法人 科学技術振興機構の産学共創基礎基盤研究プログラム「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」,および文部科学省の科学研究費補助金 新学術領域研究「ハイブリッド量子科学」などの支援を受けて行われ,成果はJournal of Applied Physics誌にて発表された(注).

 THz波は,周波数がおおよそ100GHzから10THz(波長30μmから3mm)の電磁波である.さまざまな状態にある物質と相互作用して,化学・創薬・医学に関連する化合物の分光分析の波長領域を拡大し,手荷物X線検査を補う薬物イメージングなどへの応用が期待されている.THz波の検出には,THz波を物質に吸収させて熱に変換し,その温度上昇を電気抵抗の変化から求めるボロメータが多く用いられている.しかし,多くのボロメータ用材料においては,ボロメータの感度を高めるには,温度による抵抗変化の大きい-270℃程度の極低温条件が必要である.室温付近での温度による抵抗変化が大きい材料である酸化バナジウムを用い,冷却が不要なテラヘルツ電磁波検出器も実用されているが,酸化バナジウムボロメータは動作速度が100Hz以下で遅いという問題があり,これまで,室温において高感度で高速に動作するテラヘルツ検出器が存在せず,THz波を利用する計測技術普及のネックとなっていた.

 本研究において研究グループは,半導体の微細加工手法を用いて微細な機械構造を作製するMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術で微細両持ち梁を作製し,この梁構造が持つシャープな共振周波数特性を利用するTHz波の検出器を開発した.THz波が入射して梁の温度が上昇すると梁構造が熱膨張し,それに敏感に応じて低下する共振周波数の変化を読み取るものである.梁は,梁の中央部にNiCrで作られたTHz波の吸収層を持ち,梁の一端はAuからなる検出電極,他端にAuGeNiからなるオーミック電極を有する構造である.梁の材料はガリウムヒ素系半導体,梁の長さは約100μmで,共振スペクトルのQ値は数千程度の非常に高い値を示す.作製された素子の温度検出感度(雑音等価温度差)はおおよそ1μK/√Hzで,数kHzの高速度で読込みが可能である.この読込み速度は,他の非冷却型のTHz検出器より100倍以上速い.また,熱量としての検出感度はおおよそ90pW/√Hzで,これは熱的ゆらぎによるノイズの限界に近いものである.

 このTHz波検出素子は,MEMS製造プロセスがLSIと同様のプロセスのため集積化が可能なので,将来は,室温で動作する高感度なTHz波カメラの実現も期待されるという.

(注)Ya Zhang, Suguru Hosono, Naomi Nagai, Sang-Hun Song, and Kazuhiko Hirakawa, "Fast and sensitive bolometric terahertz detection at room temperature through thermomechanical transduction", Journal of Applied Physics, Vol. 125, p. 151602 (2019), doi: 10.1063/1.5045256; Published Online: 28 March 2019