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物性・原理

最小限の光回路でさまざまな光の量子もつれを効率的に合成 ~「究極の大規模光量子コンピュータ」の心臓部を実現~

 東京大学と国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は2019年5月18日,東京大学大学院工学系研究科の武田俊太郎特任講師,古澤明教授らが,「究極の大規模光量子コンピュータ」方式の心臓部である,さまざまな光の量子もつれを効率的に合成する回路の基本構造を開発し,動作を実証したと発表した.本研究は,JSTの戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「量子の状態制御と機能化」の支援を受け,実験系構築に文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム(PF)事業分子科学研究所分子・物質合成PFの技術支援を得て行われた.本成果は,米国科学オンライン誌のScience Advancesに掲載された(注).

 量子コンピュータは,特定の計算を現代のスーパーコンピュータよりも圧倒的に短時間で解くことができると期待され,世界中で超伝導回路・イオン・光などさまざまなシステムで量子コンピュータの開発が進められている.光を用いた量子コンピュータは,室温・大気中で動作し,巨大な冷却装置や真空装置が不要であるため,実用化に有利である.しかし,実用化レベルの大規模な計算を行おうとすると,光回路の規模が増大し,膨大なスペースと膨大な数の光学部品が必要になるため,大規模化は難しいと考えられていた.

 本研究グループは2017年に,どれほど大規模な計算も最小規模の回路構成で効率よく実行できる「究極の大規模光量子コンピュータ」方式を発明した*.この方式では,時間的に一列に並べた多数の光パルスが,計算の基本単位となる1ブロックの量子テレポーテーション(量子ビットに計算処理を施し,別の場所に移動させる)回路を何度も周回する.ループ内で光パルスを周回させ,1個の量子テレポーテーション回路の機能を切り替えながら繰り返し用いることで,どれほど大規模な計算でも実行でき,その実験的検証が待たれていた.(*https://www.nanonet.go.jp/ntj/topics_ntj/?mode=article&article_no=4032

 今回,本研究グループは,この方式の心臓部である機能切り替えが可能な量子テレポーテーション回路を開発した.本回路に入力光パルスを入力すると,位相シフタを通過後,部分透過ミラーで補助光パルスと混ぜ合わせられ,量子もつれ状態(光子間に量子力学的な相関がある状態)の2つの光パルスを得る.このうち,片方の光パルスを光測定器で測定し,測定結果に応じてもう一方の光パルスの状態を光変調器で変化させると,計算結果の情報を持った出力光パルスが出力される.補助光パルスの種類,部分透過ミラーの透過率,位相シフタのシフト量に応じて,どのような量子もつれ状態にするか制御し,実行する計算の種類(加減乗除のどれを実行するか)を切替える.光の速度で次々とやってくる光パルスのタイミングに合わせて,この回路のミラーの透過率・位相シフタ等の設定を数ナノ秒の時間精度で高速に切替える.これにより,1個の量子テレポーテーション回路を,機能を切替えながら繰返し利用し,次々とやってくる独立な光パルス同士を順次量子もつれに変換することが可能となる.実際に,2~3個の光パルスの量子もつれから,1000個以上の光パルスの量子もつれまで,さまざまな種類の量子もつれの合成を実証した.

 本成果は,日本発のアイデアである「究極の大規模光量子コンピュータ」方式の心臓部の動作を実証したものである.今後,今回開発した光回路を組み込んでの大規模な量子計算が期待される,としている.

(注)Shuntaro Takeda, Kan Takase, and Akira Furusawa, "On-demand photonic entanglement synthe-sizer", Science Advances, 17 May 2019: Vol. 5, no. 5, eaaw4530, DOI: 10.1126/sciadv.aaw4530