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ナノの孔をもつスポンジを利用した自然冷媒で動作する高効率ヒートポンプ ~ナノ空間の変形による気液相転移を利用~

 東北大学,信州大学,岡山大学は2019年6月18日,東北大学の野村 啓太助教,京谷 隆教授ら,日産自動車株式会社,信州大学 田中 秀樹教授,京都大学 宮畑 稔教授,岡山大学 仁科 勇太研究教授らの研究グループが,スポンジ状のナノ多孔体を利用し,自然空冷を用いた新しいヒートポンプの原理を提案した,と発表した.本研究は,国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のさきがけ「超空間制御と革新的機能創成」の支援を受けた萌芽的研究に始まり,独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金の助成や,「物質・デバイス領域共同研究拠点」展開共同研究B,およびJST CRESTなどにおける研究グループ間の連携により進められたもので,本成果の詳細はNature Communications誌にてオンライン掲載された(注).

 熱を移動させるヒートポンプは空調や冷蔵に利用され,現代の生活に欠かせないシステムとなっている.従来のヒートポンプは,冷媒の飽和蒸気を圧縮して凝縮器に送り熱を放出することで飽和液とし,次に,これを減圧して蒸発器で気化させることで冷却を行っている.このため蒸発器と凝縮器が必要で,冷媒にも地球温暖化係数の大きい代替フロンが多く用いられている.また,ヒートポンプを作動させるには,飽和蒸気を圧縮するという仕事が必要で,空調や冷蔵に使用されるエネルギーの大部分がこれに費やされている.

 本研究で研究グループは,以前開発に成功していたグラフェンを利用したナノ多孔体「ナノスポンジ」に着目した.このナノスポンジは,10nm以下のナノ細孔を大量に持つスポンジ状の物質で,従来のナノ多孔体は硬くて変形させるのは困難であったが,ナノスポンジは応力で柔軟に変形できる.ナノ細孔には特殊な吸着機構があり,吸着された気体分子は飽和蒸気圧以下であっても液体に近い密度で細孔内部に取り込まれている.この気体分子は加熱したり減圧することで脱着し,再び気体として取り出される.普通のスポンジを圧縮すると吸収された液体が浸み出て来るが,ナノスポンジでは,吸着されていた液体状態に近い分子は気体として放出され,圧縮を止めて復元すると再び気体を吸着する.研究グループは,ゼオライトを鋳型にして作ったカーボンナノスポンジ用い,メタノールを作動気体とした実験をサーモカメラで観察した.その結果,加圧すると温度が下がり,放圧すると温度が上昇する周期的な温度変動を確認し,ナノスポンジで起こるこの気液相転移が,熱移動を伴うことを今回初めて実験的に検証した.ナノスポンジの圧縮,膨張に伴う潜熱を利用すれば,従来のヒートポンプと同様に熱の移動が可能になると考えられる.

 ナノスポンジを使う熱移動システムに外部から投入されるエネルギーは,「スポンジの変形に必要な仕事」で,柔軟なナノスポンジの開発が高効率化に有効なことを意味する.研究グループは今回の発見が,環境負荷の大きい冷媒を使うことのない,エネルギー効率の高いヒートポンプの開発に繋がることを期待している.

(注)Keita Nomura, Hirotomo Nishihara, Masanori Yamamoto, Atsushi Gabe, Masashi Ito, Masanobu Uchimura, Yuta Nishina, Hideki Tanaka, Minoru T. Miyahara, and Takashi Kyotani, "Force-driven re-versible liquid-gas phase transition mediated by elastic nanosponges", Nature Communications Vol. 10, Article number: 2559 (2019), DOI:10.1038/s41467-019-10511-7; Published: 17 June 2019