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「常識はずれ」な光触媒を開発 ~太陽光と水と酸素でH2O2を合成~

 大阪大学と国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)は2019年7月2日,大阪大学 太陽エネルギー化学研究センターの白石 康浩准教授,平井 隆之教授らの研究グループが,太陽光照射下,水と酸素を原料として,過酸化水素(H2O2)の合成活性を示す新規なレゾルシノール-ホルムアルデヒド光触媒樹脂を開発した,と発表した.本研究は,JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)の支援を受けて行われ,本研究の成果は,英国科学誌Nature Materialsのオンライン版で公開された(注).

 H2O2は漂白剤や消毒薬として日常生活でも使われる重要な化学物質で,酸化剤や特殊な条件下での還元剤として作用させるほか,燃料電池の燃料としての利用も検討されている.現在使われているH2O2の多くは,石油化学工業のエネルギー多消費型プロセスで合成されており,再生可能エネルギーを利用した合成方法の開発が望まれていた.通常の光触媒を利用して水(H2O)と酸素(O2)を反応させH2O2を合成することは原理的に可能であるが,水の四電子化(2H2O → O2 + 4H+ + 4e-)と,O2の選択的な二電子還元(O2 + 2H+ + 2e- → H2O2)を同時に進めることは難しかった.

 研究グループは,レゾルシノール-ホルムアルデヒド(RF)樹脂という塗料や接着剤に使われる汎用樹脂に着目し,約250℃の高温熱水条件で合成した独自開発のRF樹脂粉末が,半導体光触媒として機能することを初めて見出した.従来のRF樹脂は,古くから知られているフェノールとホルムアルデヒドの縮合反応で合成されるフェノール樹脂に類似の樹脂で,通常100℃以下の低温常圧条件で,レゾルシノールとホルマリンから合成されている.本来絶縁体であるこのような材料が,半導体光触媒候補とされるのは「常識はずれ」なことだという.

 高温熱水法で合成したRF樹脂には,レゾルシノールのベンゾノイド体(電子ドナー)とキノイド体(電子アクセプター)が連結したドナー・アクセプター対が形成され,これが積み重なって半導体のバンドギャップ構造が造られる.このバンドギャップは波長700nmまでの赤外域を含む可視光域の光を吸収し,水の酸化(2H2O → O2 + 4H+ + 4e-)と,酸素の還元(O2 + 2H+ + 2e- → H2O2)触媒として作用する.模擬的な太陽光線を照射した実験では,H2O2が安定に生成され,太陽エネルギー変換効率は0.5%以上に達した.変換効率0.5%は,植物の天然光合成の効率約0.1%を大きく上回り,研究の歴史の長い,光触媒を用いた水分解による水素製造(H2O → H2 + 1/2O2)の変換効率に比べても最大の効率である.

 これまでの太陽エネルギーの化学エネルギーへの変換には金属,特に貴金属の使用が不可欠であったが,本研究で開発された触媒樹脂には金属は全く含まれないという特徴がある.さらに,簡便な方法で合成した樹脂の粉末は1μm程度の球状で扱い易く,水に懸濁して太陽光を照射するだけで化学エネルギーに変換できるので,H2O2の製造の他,抗菌塗料などへの用途展開も期待される.

(注)Yasuhiro Shiraishi, Takahiro Takii, Takumi Hagi, Shinnosuke Mori, Yusuke Kofuji, Yasutaka Kit-agawa, Shunsuke Tanaka, Satoshi Ichikawa, and Takayuki Hirai, "Resorcinol-formaldehyde resins as metal-free semiconductor photocatalysts for solar-to-hydrogen peroxide energy conversion", Nature Ma-terials (2019), doi: 10.1038/s41563-019-0398-0; Published: 01 July 2019