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亜鉛空気電池の二次電池化に資する電解質 ~ポストリチウム大容量電池の実現へ一歩~

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は2019年7月4日,産総研・京大エネルギー化学材料オープンイノベーションラボラトリ(ChEM-OIL)において産総研の陳 致堯 研究員,窪田 啓吾 主任研究員らが,国立大学法人 京都大学(京大)エネルギー化学研究科 松本 一彦 准教授らとともに,充放電による劣化を抑制した亜鉛空気二次電池用電解質を開発したことを発表した.この技術の詳細は,Advanced Energy Materialsに掲載された(注).

 最近,軽量で大容量の次世代蓄電池として亜鉛空気電池が注目を集めている.正極活物質に酸素(正極としては,酸素の反応を促進する触媒を用いる),負極に亜鉛金属を用いる電池である.特性としてリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が非常に大きく,またありふれた金属である亜鉛と水溶液電解質を用いることからコストも安価である.この亜鉛の経済性と安全性,空気電池の軽さなどの特徴は,次世代の電池利用機器,例えばモバイル機器やドローンなどの進化に大きく貢献することが期待されている.一次電池としては,亜鉛空気電池は上記利点から補聴器などに使用されている.

 産総研は次世代蓄電池の開発の一環として,亜鉛空気電池を二次電池として利用するための材料開発に,電池の電解質について広い知見を持つ京大による電解質の物性測定の協力を得て取り組んだ.課題は,亜鉛空気電池の電解質は水溶液のため,水の揮発による電解質の劣化,空気極から取り込まれる二酸化炭素(CO2)との反応による酸化亜鉛の発生で起こる電極性能の低下,さらに負極の亜鉛での充電時における樹枝状突起物であるデンドライトの発生,などへの対策であった.

 今回,研究グループは,電解質に高濃度の塩化亜鉛水溶液である塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた.これは酸性なので,CO2と反応しない.また,塩化亜鉛の濃度を室温で液体である限界まで濃くすることで,すべての水分子が亜鉛イオンに配位するので揮発性と加水分解性が抑制された.即ち,通常,水と接した亜鉛金属は水と反応して酸化亜鉛や水酸化亜鉛の被膜を形成して電池過電圧を増大させる要因となるが,この電解質中では加水分解が抑えられ,被膜が形成されにくく作動電圧を向上させることができた.同時にデンドライト形成も抑制することができた.

 亜鉛空気二次電池の充放電効率の充放電回数による劣化の様子を,従来のアルカリ水溶液を用いた場合と塩化亜鉛水和物溶融塩を用いた場合について比較実験を行った結果,アルカリ水溶液では初回から4回までの充放電効率は100%であるが,充放電5回目では急に20%以下に低下した.一方,塩化亜鉛水和物溶融塩では,充放電10回を過ぎても100%を維持し続けているという結果がえられた.また電圧低下もみられなかった.30℃ 100サイクルの可逆容量は1000mAh/g を示した.CO2との反応抑制や,揮発性とデンドライト形成の抑制により電極の劣化を防止できたため,亜鉛空気二次電池が長寿命化したと考えられる.

 今後は,新規空気極触媒の開発により,高エネルギー密度,さらに長寿命な亜鉛空気二次電池の開発を目指すとしている.

(注)Chih‐Yao Chen, Kazuhiko Matsumoto, Keigo Kubota, Rika Hagiwara, and Qiang Xu, "A Room‐Temperature Molten Hydrate Electrolyte for Rechargeable Zinc-Air Batteries", "Development of a high-throughput strategy for discovery of potent analogues of antibiotic lysocin E", Advanced Energy Materi-als, Volume 9, Issue 22; June 12, 2019; First published: 16 April 2019, doi: 10.1002/aenm.201900196