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汎用プラスチックの極細繊維で圧力センシング ~ウェアラブルな生体動作センサーや発電素子の低コスト化と省工程化に貢献~

 京都工芸繊維大学と北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は2019年8月5日,京都工芸繊維大学の石井 佑弥助教,同大学の栗原 慎太郎博士課程前期学生,北山 流星博士課程前期学生,および国士舘大学の酒井 平祐准教授(研究当時JAIST講師),JAISTの仲林 裕司専門技術員らの研究チームが,フィルムでは圧電特性を示すことのない汎用プラスチック(ポリスチレン,PS)が,電界紡糸で極細繊維化することで高度な圧電特性を示すことを見出し,その発現メカニズムも解明した,と発表した.本研究は文部科学省卓越研究員事業,独立行政法人 日本学術振興会の科学研究費,および公益財団法人マツダ財団からの助成を受けて行われ,成果はSmart Materials and Structures誌に発表された(注).

 IoTの活用のひとつに,人体や物体の動きの情報を詳細に収集することが期待されており,そのための動作情報を電気信号に変換する圧電素子の開発が注目されている.従来の圧電素子には,主に,チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのセラミックス系材料が利用されてきたが,今後増加が見込まれる生体のセンシングでは,装着性が良好でフレキシブルかつ軽量な材料が求められている.圧電性を有する繊維も研究されているが,いわゆる圧電プラスチックと呼ばれるフィルム状態でも圧電性を示す材料に関するものが多く,ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリ乳酸(PLLA)などのナノ/マイクロ繊維が報告されている.

 本研究において,研究グループは,フィルムでは圧電特性を示さないPSを電界紡糸法で極細繊維にしたところ,高度の圧電特性(正電圧特性)を示すことを見出した.PSの溶液から電界紡糸で得た繊維の平均径は3.88μmで,これを平均厚み121.6μmの不織布繊維膜にして圧電特性が測定された.この測定には,柔軟な対象物に与える周期的な負荷で生じる電荷量を測定する新規開発の圧電特性評価装置が用いられた.得られた見掛けの圧電定数は,0.05から0.28Nの負荷範囲で1400×10-12から950×10-12C/Nであった.圧電ポリマーとして知られているPVDFやPLLAのフィルムの圧電定数は40×10-12C/N以下であり,本研究のPS極細繊維の圧電定数は,従来の圧電ポリマーに比べて非常に高い値である.また,本研究の圧電性不織布膜のヤング率は6.40×103Paで非常に柔軟である.これに対し,PVDFやPLLAのフィルムはヤング率が1×109Pa以上あり,不織布膜に比べ剛性が高い.

 圧電性発現の機構を調べるための表面電位の測定から,本研究で得られた圧電性不織布膜は,電界紡糸で使用した高電圧と同極性で約439Vの表面電位を持つエレクトレットであることが分かった.不織布膜の上側に正電荷が,下側に負電荷が偏って担持された状態にあり,膜が凹むと,表面電位が上昇することが圧電性の発現理由であることが,多孔性エレクトレットのモデル解析からも確認された.すなわち,この圧電効果は,高電圧を使う電界紡糸の繊維膜が,ポーリング処理無しで分極し,かつ柔軟であることで発現する特異なメカニズムであり,メルトブローのような他の極細繊維紡糸法で得られない特性である.

 研究グループは,今後,汎用ポリマーで作った高感度の圧力センサーや発電素子を衣服に実装し,人体の動作センシングや発電への利用を目指したいとしている.

(注)Yuya Ishii, Shintaro Kurihara, Ryusei Kitayama, Heisuke Sakai, Yuji Nakabayashi, Taiki No-beshima, and Sei Uemura, "High electromechanical response from bipolarly charged as-electrospun polystyrene fibre mat", Smart Materials and Structures, Vol. 28, No. 8, p. 08LT02, 2019, doi: 10.1088/1361-665X/ab2e3a; Published 19 July 2019